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電気・通信

マイクロストリップパッチアンテナ シミュレーター

プリント基板の上に銅箔の四角形をエッチングしただけの平面アンテナ、マイクロストリップパッチアンテナを設計するツールです。共振周波数・基板の比誘電率・厚さを変えると、必要なパッチ幅とパッチ長、実効誘電率、フリンジング補正がリアルタイムで分かります。

パラメータ設定
共振周波数 f
GHz
アンテナを動作させたい目標周波数
基板の比誘電率 ε_r
FR-4で約4.4、低損失基板で2〜3程度
基板の厚さ h
mm
パッチと地板の間の誘電体の厚み
計算結果
パッチ幅 W (mm)
パッチ長 L (mm)
実効誘電率 ε_eff
長さ補正 ΔL (mm)
検証共振周波数 (GHz)
アンテナの判定
パッチアンテナ構造図 — フリンジング電界アニメーション

上から銅パッチ(幅 W・長さ L)、誘電体基板(厚さ h)、地板の3層構造。放射する二つのエッジで電界が外側へはみ出す様子(フリンジング)が脈動します。

パッチ長 L vs 共振周波数 f
パッチ寸法 vs 基板の比誘電率 ε_r
理論・主要公式

$$W=\frac{c}{2f}\sqrt{\frac{2}{\varepsilon_r+1}},\qquad L=\frac{c}{2f\sqrt{\varepsilon_{eff}}}-2\Delta L$$

パッチ幅 W は放射効率から、パッチ長 L は誘電体内の半波長から決める。c:光速、f:共振周波数。

$$\varepsilon_{eff}=\frac{\varepsilon_r+1}{2}+\frac{\varepsilon_r-1}{2}\left(1+12\frac{h}{W}\right)^{-1/2}$$

実効誘電率 ε_eff。電界が基板と空気の両方を通るため、必ず 1 と ε_r の間の値になる。h:基板厚さ。

$$\Delta L=0.412\,h\,\frac{(\varepsilon_{eff}+0.3)\left(\frac{W}{h}+0.264\right)}{(\varepsilon_{eff}-0.258)\left(\frac{W}{h}+0.8\right)}$$

フリンジングによる長さ補正 ΔL。電界のはみ出しによりパッチは電気的に少し長く振る舞う。

マイクロストリップパッチアンテナとは

🙋
「マイクロストリップパッチアンテナ」って名前は難しそうですけど、要するにどんなアンテナなんですか?
🎓
名前ほど大層なものじゃないよ。ざっくり言うと、プリント基板の表面に「銅の四角形」をエッチングしただけのアンテナなんだ。基板の裏側は全面が地板(グラウンド)になっている。つまり「銅の板/誘電体/銅の地板」のサンドイッチ構造。平らで薄くて軽くて安い。だからスマホ、WiFiやBluetoothのモジュール、GPS受信機、衛星端末──身の回りのほぼ全部にこのパッチアンテナが入っているんだ。
🙋
ただの四角い銅板で、どうやって電波を出したり受けたりするんですか?
🎓
カギは「共振」だ。パッチの長さ L が、誘電体の中での波長のちょうど半分になると、パッチ上に電界の定在波が立って強く共振する。だから L が動作周波数を決める。左の「共振周波数」を上げてみて。下の「パッチ長 vs 周波数」グラフで、周波数が高いほど必要な L がぐっと短くなるのが見えるはずだ。2.4 GHz だと L は 3 cm 弱、ちょうど親指くらいのサイズだよ。
🙋
なるほど。でも結果に出てくる「実効誘電率」って何ですか?基板の比誘電率 ε_r とは別物なんですか?
🎓
いい質問だ。パッチと地板の間の電界は、全部がきれいに基板の中だけを通るわけじゃない。一部はパッチの端から空気中へはみ出す。だから電波が「感じる」誘電率は、基板の ε_r と空気の 1 の中間値になるんだ。それが実効誘電率 ε_eff で、必ず 1 < ε_eff < ε_r になる。波長は ε_eff で決まるから、パッチ長の計算には ε_r じゃなく ε_eff を使う。基板を厚くすると空気にはみ出す割合が増えて、ε_eff は 1 寄りに下がっていくよ。
🙋
公式に出てくる ΔL という「長さ補正」も、その電界のはみ出しと関係あるんですか?
🎓
まさにそれだ。放射する二つのエッジでは、電界がパッチの端でスパッと切れずに、外へ弧を描いてはみ出す。これがフリンジング電界。その結果、アンテナは物理的な長さよりも電気的にちょっと長く振る舞うんだ。その「電気的な伸び」が各エッジで ΔL。だから設計では、目標周波数に対応する電気的長さから 2ΔL を引いて、実際に作る物理長 L を決める。面白いのは、電波を実際に放射しているのはパッチの真ん中じゃなくて、このフリンジングが起きている二つのエッジなんだよ。
🙋
じゃあパッチ幅 W は何のためにあるんですか?周波数は L で決まるんですよね?
🎓
そう、周波数は L が主役で、W は脇役だ。幅 W は主に放射効率と帯域幅、入力インピーダンスを決める。幅を広くすると放射効率が上がって帯域もちょっと広がる。ただし広すぎると変なモードが立ちやすくなる。パッチアンテナの弱点は帯域が狭いこと──数%しかないことも多い。それを広げたいときは「基板を厚く、誘電率を低く」するのが定石だよ。下の「パッチ寸法 vs ε_r」グラフを見ると、誘電率を上げると W も L も両方小さくなる。小型化したいなら高誘電率基板、帯域がほしいなら低誘電率基板、というトレードオフなんだ。

よくある質問

Balanisの伝送線路モデルが標準です。パッチ幅は W = (c/2f)·√(2/(ε_r+1)) で求め、放射効率が良くなる幅を選びます。パッチ長は、まず実効誘電率 ε_eff を計算し、L = c/(2f·√ε_eff) − 2ΔL で求めます。ΔL は放射する二つのエッジでのフリンジング(電界のはみ出し)による長さ補正です。本ツールはこの式どおりに W・L・ε_eff・ΔL を計算し、逆算した検証共振周波数で設計式の整合をチェックします。
パッチと地板の間の電界は、すべてが誘電体基板の中を通るわけではなく、一部は基板の外(空気中)にはみ出します。つまり波が感じる誘電率は「基板の ε_r」と「空気の 1」の中間値になります。これを実効誘電率 ε_eff と呼び、必ず 1 < ε_eff < ε_r の範囲に入ります。基板が薄いほど電界は基板内に集中して ε_eff は ε_r に近づき、厚いほど 1 に近づきます。波長 λ も ε_eff で決まるため、パッチ長の計算には ε_r ではなく ε_eff を使います。
パッチの放射する二つのエッジでは、電界がパッチの端で急に途切れず、外側へ弧を描いてはみ出します。これがフリンジング電界です。その結果、アンテナは物理的な長さ L よりも電気的に少し長く振る舞います。この「電気的な伸び」を各エッジで ΔL として表し、実効的な長さは Leff = L + 2ΔL になります。設計では逆に、目標周波数に対応する Leff から 2ΔL を引いて物理長 L を決めます。ΔL を無視すると、できあがったパッチの共振周波数は設計値より数%高くずれます。
パッチ長 L が共振周波数を決めます。パッチは誘電体内での約半波長で共振するため、L を短くすると周波数は上がり、長くすると下がります。一方パッチ幅 W は主に放射効率と帯域幅、入力インピーダンスに影響します。幅が広いほど放射効率は上がり帯域もやや広がりますが、広すぎると高次モードが励起されやすくなります。実務では W は半波長より少し小さい程度に選び、L で正確に周波数を合わせます。帯域を広げたいときは厚く・低誘電率の基板を選ぶのが定石です。

実世界での応用

スマートフォン・無線モジュール:WiFi(2.4 / 5 GHz)、Bluetooth、GPS(1.575 GHz)、セルラー(Sub-6 5G)など、現代の通信機器に入っているアンテナの多くがパッチアンテナか、その変形です。平面で薄く、プリント基板にそのまま作り込めるため、筐体内のわずかな空間に収まります。複数バンドに対応するため、1枚のパッチにスロットを切ったり、複数のパッチを積層したりする設計が広く使われます。

衛星通信・GPS受信機:カーナビやドローンのGPSアンテナ、衛星放送・衛星インターネットの平面端末では、円偏波を出すパッチアンテナが定番です。角を切り欠いたり給電点を2か所にしたりして、右旋・左旋の円偏波を作ります。空を向く平らな面に多数のパッチを並べたフェーズドアレイは、機械的に動かさずビームを電子的に振れます。

レーダー・車載センサ:車の前方を監視する77 GHz帯のミリ波レーダーは、多数の微小なパッチを格子状に並べたアレイアンテナです。各パッチへの給電位相を制御してビームを走査し、前走車との距離や相対速度を測ります。基板厚さと誘電率の選定が、放射効率と帯域、加工精度を大きく左右します。

電磁界CAE解析の事前検討:HFSSやCST、OpenEMSのような3次元電磁界シミュレータで詳細解析を行う前に、本ツールのような伝送線路モデルの概算で初期寸法を決めます。良い初期値から始めると、3次元解析での最適化ループが大幅に短くなります。逆に、3次元解析の共振周波数がこの概算と大きくずれる場合は、給電構造や基板パラメータの設定ミスを疑うサニティチェックにも使えます。

よくある誤解と注意点

まず最大の落とし穴が、「フリンジングを無視して L = 半波長そのものでパッチを設計する」ことです。電界はパッチの放射エッジで外側へはみ出すため、アンテナは物理長より電気的に長く振る舞います。ΔL を引かずに作ると、できあがったパッチの共振周波数は設計値より数%高い側にずれます。たとえば2.4 GHz狙いが2.5 GHz付近で共振してしまう、というのはこのミスの典型です。本ツールが計算する ΔL(デフォルト条件で約0.74 mm、両エッジで1.5 mm弱)は決して無視できない量で、必ず L から差し引いてください。

次に、「比誘電率 ε_r をデータシートの一つの値だと思い込む」こと。FR-4 の ε_r は「約4.4」とよく書かれますが、実際はメーカー・ガラス/樹脂比・周波数・温度によって 4.1〜4.7 程度ばらつきます。さらに損失正接 tanδ が大きい基板(FR-4 で 0.02 前後)では放射効率が下がり、利得が稼げません。狭帯域なパッチアンテナでは、ε_r が数%ずれるだけで共振周波数が帯域外へ出てしまうこともあります。量産では基板ロットのばらつきを見込み、給電点位置やパッチ寸法に調整代を残すのが定石です。

最後に、「パッチアンテナは狭帯域なのが当たり前」と諦めてしまうこと。確かに薄い高誘電率基板のシンプルなパッチは帯域が数%しかありません。しかしこれは基板の選び方とアンテナ構造で大きく改善できます。基板を厚くし誘電率を下げると帯域は広がり、さらにスタックパッチ(パッチを上下2枚重ねる)、E形・U形スロット、寄生素子の付加といった技法で10%以上の帯域も実現できます。「帯域が足りない」と感じたら、まず基板の厚さと誘電率を見直すのが第一歩です。本ツールで h と ε_r を動かし、寸法と ε_eff がどう変わるかを掴んでから、構造の工夫に進んでください。

使い方ガイド

  1. 共振周波数(2.4~5.8 GHz)、基板誘電率(εr = 2.2~10.2)、厚さ(h = 0.8~3.2 mm)を入力
  2. マイアメリカ式とシェング補正を組み合わせた計算により、パッチ幅 W および長さ L(mm単位)を自動算出
  3. 実効誘電率εeff、長さ補正量ΔL、検証用共振周波数をリアルタイム表示して設計値を確認

具体的な計算例

FR-4基板(εr = 4.3、厚さ h = 1.6 mm)で2.45 GHz帯パッチアンテナを設計する場合:パッチ幅 W ≈ 37.8 mm、パッチ長 L ≈ 30.2 mm、実効誘電率εeff ≈ 3.68、長さ補正 ΔL ≈ 0.82 mm。フリンジング効果を考慮した検証共振周波数は2.447 GHz となり、設計目標との誤差は0.1%以下。

実務での注意点