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無線工学

フリスの伝達公式(無線リンク)シミュレーター

自由空間を伝わる電波リンクの受信電力を、フリスの伝達公式で計算するツールです。送信電力・アンテナ利得・周波数・通信距離を変えると、自由空間伝搬損失・受信電力・リンクマージンがリアルタイムで分かり、Wi-Fiから衛星通信までの電波リンクバジェットを設計できます。

パラメータ設定
送信電力 P_tx
W
送信機がアンテナへ送り出す電力
送信アンテナ利得 G_tx
dBi
送信側アンテナが電波を絞る度合い
受信アンテナ利得 G_rx
dBi
受信側アンテナが電波を捉える度合い
周波数 f
MHz
電波の周波数。高いほど伝搬損失が増す
通信距離 d
km
送信アンテナと受信アンテナの距離
計算結果
波長 λ (m)
自由空間伝搬損失 (dB)
送信電力 (dBm)
受信電力 (dBm)
受信電力(実値)(W)
リンクマージン (dB)
無線リンク図 — 電波伝搬アニメーション

左の送信アンテナから球面状の波面が広がり、距離 d を伝わって右の受信アンテナに届きます。波面の明るさが信号強度の減衰を、下のバーがリンクバジェット(送信電力+利得−伝搬損失=受信電力)を表します。

受信電力 vs 通信距離
自由空間伝搬損失 vs 周波数
理論・主要公式

$$P_{rx}=P_{tx}+G_{tx}+G_{rx}-\text{FSPL},\qquad \text{FSPL}=20\log_{10}d+20\log_{10}f+32.44$$

フリスの伝達公式(デシベル形)。すべての量はデシベル(電力は dBm、利得・損失は dB)で扱う。距離 d は km、周波数 f は MHz。自由空間伝搬損失 FSPL は距離・周波数のどちらが増えても大きくなる。

$$\lambda=\frac{c}{f},\qquad P_{tx}[\text{dBm}]=10\log_{10}(P_{tx}[\text{W}]\times1000)$$

波長 λ(c=3×10⁸ m/s は光速)と、送信電力のワットから dBm への変換。

$$P_{rx}[\text{W}]=10^{(P_{rx}[\text{dBm}]-30)/10},\qquad M=P_{rx}-P_{\text{sens}}$$

受信電力 dBm をワットへ戻す式と、リンクマージン M。P_sens は受信機の最低必要感度(本ツールでは代表値 −90 dBm)。

フリスの伝達公式とは

🙋
「フリスの伝達公式」って何ですか?Wi-Fiとか無線の話で出てくるって聞いたんですけど。
🎓
ざっくり言うと「送信機から出した電波のうち、どれだけが受信機に届くか」を計算する式だよ。1946年にハラルド・フリスが発表した。あらゆる無線リンク——スマホ、Wi-Fiルータ、テレビ放送、果ては火星探査機まで——が、結局は同じ「電力の会計問題」を抱えている。送り出した電力のうち、届くのはほんの一部。その「一部」を、障害物も反射も大気吸収もない理想空間(自由空間)について予測するのがフリスの公式なんだ。
🙋
障害物がない理想空間でも、電波は弱くなるんですか?
🎓
そこがこの公式で一番直感に反するところでね。何もなくても、電波は距離とともにどんどん弱くなる。これを「自由空間伝搬損失(FSPL)」と呼ぶ。送信アンテナの電力は風船のように球面状に広がっていく。受信アンテナが捉えられるのは、その膨らんだ球面のごく小さな一区画だけ。球の表面積は距離の2乗で増えるから、受信側の取り分は距離の2乗に反比例して減る。左の「通信距離」スライダーを2倍にしてみて。受信電力がきっちり1/4——つまり−6 dB——下がるはずだよ。
🙋
周波数を上げても伝搬損失が増えますよね。距離と違って、これはなぜですか?
🎓
これも面白い理由でね。周波数が高いほど波長が短くなる。そして利得が一定のアンテナの「電波を受け止める実効開口面積」は、波長の2乗に比例するんだ。つまり高い周波数では、受信アンテナは実質的に小さなバケツになってしまう。同じ利得12 dBiでも、2.4 GHzと24 GHzでは受け取れる面積が桁違いに違う。だからFSPLの式には距離だけでなく周波数の項も入っている。下の「自由空間伝搬損失 vs 周波数」グラフで、その右上がりのカーブが見えるよ。
🙋
送信電力やアンテナ利得を上げれば、その損失を取り返せるんですか?
🎓
そう、そこがリンクバジェットの考え方だ。受信電力 = 送信電力 + 送信利得 + 受信利得 − 伝搬損失。利得は「アンテナがどれだけ電波を狙った方向に絞れるか」の指標で、全方向に無駄に撒くより一点に集中させれば、その分だけ受信側に届く。エンジニアはこれを全部デシベルで計算する。デシベルにすると利得は足し算、損失は引き算になって、リンクバジェットがただの加減算の表になるからね。パラボラアンテナの利得が30 dBi超えなのは、まさにこの「絞り込み」で伝搬損失と戦うためなんだ。
🙋
じゃあ最後に出てくる「リンクマージン」って何を見ているんですか?
🎓
リンクマージンは「受信電力が、受信機が必要とする最低ライン(受信感度)をどれだけ上回っているか」という余裕のことだ。マージンが0未満なら回線は成立しない。でも、ちょうど0だと危ない。実際の電波は雨で減衰したり、フェージングで揺れたり、アンテナの向きが少しずれたりする。だから10 dB以上、衛星リンクのような重要回線なら20 dB以上のマージンを持たせて設計する。健全なマージンこそが、悪天候や微妙なズレがあっても回線を生かし続ける保険なんだよ。

よくある質問

フリスの伝達公式は、自由空間(障害物・反射・大気吸収のない理想空間)で電波リンクの受信電力を予測する基本式です。1946年にハラルド・フリスが発表しました。デシベルで書くと P_rx = P_tx + G_tx + G_rx − FSPL となり、送信電力・送信アンテナ利得・受信アンテナ利得を足し、自由空間伝搬損失 FSPL を引くだけで受信電力が求まります。Wi-Fiルータから深宇宙探査機まで、あらゆる無線リンクの設計の出発点になります。
送信アンテナの電力は球面状に広がるため、受信アンテナが捉えるのはその球面のごく一部です。球面の表面積は距離の2乗で増えるので、受信電力は距離の2乗に反比例して減ります(距離が2倍で受信電力は1/4)。また周波数が高いほど波長が短く、利得一定のアンテナの実効開口面積は波長の2乗に比例するため、高周波ほど受信アンテナは小さなバケツになります。標準的なデシベル形(距離km・周波数MHz)では FSPL = 20·log10(d) + 20·log10(f) + 32.44 [dB] です。
リンクマージンは、受信電力が受信機の最低必要感度をどれだけ上回っているかを表す余裕です。本ツールでは代表的な感度 −90 dBm を基準に linkMargin = P_rx −(−90) [dB] で計算します。マージンが0未満なら回線は成立しません。雨・フェージング・アンテナの向きずれ・温度変化などを考えると、実務では10 dB以上、衛星リンクや重要回線では20 dB以上のマージンを目標にするのが一般的です。
電力の比は桁が大きく変わるため、線形のワット値で扱うと掛け算・割り算が煩雑になります。デシベル(対数)に変換すると、利得はすべて足し算、損失はすべて引き算になり、リンクバジェットが単純な加減算の表になります。送信電力40 dBm、アンテナ利得を足し、伝搬損失120 dBを引く、といった暗算に近い計算で受信電力が求まるのがデシベルの強みです。受信電力をワットに戻すには P[W] = 10^((P_dBm − 30)/10) を使います。

実世界での応用

Wi-Fi・無線LANの設計:オフィスや家庭のアクセスポイント配置は、まさにフリスの公式の世界です。2.4 GHzと5 GHzでは同じ距離でも伝搬損失が約6 dB違い、5 GHzのほうが減衰が大きいぶん到達距離が短くなります。アクセスポイントの送信電力は法律で上限が決まっているため、設計者はアンテナ利得と設置位置、そして「壁の遮蔽損」を加味してカバレッジを決めます。本ツールの自由空間計算は障害物のない理想値で、実際の屋内では壁1枚で数dB〜十数dBの追加損失が乗ることを前提に使います。

衛星通信・GPS:静止衛星までの距離は約36,000 km。フリスの公式に入れると伝搬損失は200 dBを優に超えます。これを成立させるために、地上局は直径数mの高利得パラボラアンテナを使い、衛星側も指向性の高いアンテナで地球を照らします。GPS信号が地上で −130 dBm前後という極めて微弱なレベルでも受信できるのは、受信機が拡散符号で処理利得を稼いでいるからで、リンクバジェットの考え方そのものは本ツールの計算がベースになっています。

携帯電話・5Gネットワーク:基地局のセル設計では、エリア端で受信電力が受信感度を下回らないようにセル半径を決めます。5Gで使うミリ波(28 GHz帯など)は周波数が高く、フリスの公式どおり自由空間伝搬損失が非常に大きいため、セルが小さくなり基地局を密に置く必要があります。逆に低い周波数帯(700 MHz帯など)は損失が小さく広いエリアをカバーできます。周波数帯ごとの「飛び」の違いは、まさにFSPLの周波数項で説明できます。

レーダー・宇宙探査:火星探査機からのテレメトリは、距離が数億kmに達するため伝搬損失は天文学的な値になります。NASAのディープスペースネットワークが直径70 mの巨大アンテナを使うのは、フリスの公式で示される桁外れの損失を、受信側の利得で少しでも取り返すためです。レーダー方程式もフリスの公式を往復(送信→目標→受信)に拡張したもので、リンクバジェットの基礎として本ツールの考え方が直結します。

よくある誤解と注意点

まず最大の誤解が、「フリスの公式の値がそのまま実際の受信電力だと思い込む」ことです。フリスの伝達公式はあくまで自由空間——障害物も反射も大気もない理想空間——の値です。実際の環境では、建物・地面・樹木による遮蔽損や回折損、地面反射によるマルチパスフェージング、雨や大気ガスによる吸収(特に10 GHz以上で顕著)が加わります。屋内では壁1枚で数dB、コンクリート壁なら十数dBの追加損失が乗ります。本ツールの計算は「これより悪くなることはあっても、良くなることはまずない」上限の目安として使い、実環境ではさらにマージンを積むのが鉄則です。

次に、「dBmとdBiとdBを混同する」こと。これは初学者が最も間違えるポイントです。dBmは電力の絶対値(1 mWを基準にした絶対量)、dBiは等方性アンテナを基準にしたアンテナ利得、dBは純粋な比(損失や差)です。フリスの公式 P_rx[dBm] = P_tx[dBm] + G_tx[dBi] + G_rx[dBi] − FSPL[dB] は、絶対量に相対量を足し引きして絶対量を得る、という構造になっています。単位を取り違えると桁が合わなくなります。また送信電力をワットからdBmに直す式 10·log10(P[W]×1000) で、×1000(W→mW)を忘れる事故も非常に多いので注意してください。

最後に、「周波数を上げれば常に不利」だと早合点すること。確かにフリスの公式の周波数項を見ると、高周波ほどFSPLが増えて不利に見えます。しかしこれは「利得が一定」という前提での話です。物理的な開口面積が一定のアンテナ(パラボラなど)では、周波数が高いほど利得が上がるため、両端を同じ口径のアンテナにすると、周波数の不利は利得の有利で打ち消され、むしろ高周波が有利になることもあります。フリスの公式を使うときは「利得一定で比べているのか、開口一定で比べているのか」を常に意識する必要があります。本ツールは利得を独立した入力として扱っているため、利得一定の比較が基本になります。

使い方ガイド

  1. 送信電力(txPowerNum)を0~30 dBmの範囲で設定します。例えば20 dBm(100 mW)を入力してください。
  2. 送信アンテナ利得(txGainNum)と受信アンテナ利得(rxGainNum)を0~20 dBiの範囲で指定します。ダイポールアンテナは約2.15 dBi、パラボラアンテナは15~25 dBiが標準値です。
  3. 周波数(frequencyNum)を100 MHz~6 GHz範囲で入力すると、フリスの伝達公式により自由空間伝搬損失と波長λが自動計算されます。
  4. 距離を設定してシミュレートを実行すると、受信電力(dBm)と実値(W)、リンクマージンが算出されます。

具体的な計算例

2.4 GHz帯LoRa無線リンク:送信電力20 dBm、送信アンテナ利得2 dBi(ホイップアンテナ)、受信アンテナ利得5 dBi、距離1 kmの場合。波長λ=125 mm、自由空間伝搬損失=100.4 dB。受信電力=20+2+5-100.4=-73.4 dBm(約4.6 μW)。受信機感度が-100 dBm設定時、リンクマージン=26.6 dBで安全な通信余裕があります。

実務での注意点

  1. 5 GHz帯WiFi設計では経路損失が2.4 GHz比で約7 dB増加するため、送信電力またはアンテナ利得の補正が必須です。屋内通信は壁損失10~15 dBを追加で考慮してください。
  2. MIMO多重化による利得向上は伝搬公式に未含有です。実装時は空間多様性による3~6 dB改善を別途評価してください。
  3. リンクマージンは最低5 dB以上確保し、フェージング・降雨減衰の影響に対応させます。衛星通信は15 dB以上の余裕設計が標準です。