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化学工学

多重効用缶(多重効用蒸発)シミュレーター

蒸発缶を直列につなぎ、各缶で出た蒸気を次の缶の加熱に再利用する「多重効用缶」を設計するツールです。効用数・供給液量・濃度を変えると、蒸発水量・必要蒸気量・蒸気経済・省エネ効果がリアルタイムで分かり、生蒸気を大幅に節約する蒸発装置のしくみを学べます。

パラメータ設定
効用数(缶の段数)n
直列につなぐ蒸発缶の数。多いほど蒸気経済が向上
供給液量 ṁ_feed
kg/h
第1効用に入る希薄溶液の流量
供給濃度 x_feed
wt%
供給液に含まれる溶質(固形分)の質量分率
製品濃度 x_prod
wt%
最終効用から出る濃縮液の目標濃度
蒸気の潜熱 λ
kJ/kg
蒸発・凝縮に伴う水の蒸発潜熱
蒸気単価
円/トン
ボイラ生蒸気のコスト。年間削減額の試算に使用
計算結果
蒸発水量 (kg/h)
製品量 (kg/h)
必要蒸気量 (kg/h)
蒸気経済 (kg/kg)
単一効用比の蒸気節約 (%)
年間蒸気コスト削減 (万円/年)
多重効用缶フロー図 — 蒸気・蒸発アニメーション

左端の缶に生蒸気が入り、各缶で発生した蒸気が次の缶を加熱します。供給液は缶を進むごとに濃縮(色が濃く)され、最終缶から製品が出ます。

蒸気経済 vs 効用数
必要蒸気量 vs 効用数
理論・主要公式

$$\dot m_{prod}=\dot m_{feed}\frac{x_{feed}}{x_{prod}},\qquad W=\dot m_{feed}-\dot m_{prod}$$

固形分収支から求める製品量 ṁ_prod と蒸発水量 W。ṁ_feed:供給液量、x_feed:供給濃度、x_prod:製品濃度。溶質は供給液と製品の間で保存される。

$$\text{economy}\approx n,\qquad \dot m_{steam}=\frac{W}{\text{economy}}$$

蒸気経済は理想的には効用数 n に等しく、必要な生蒸気量 ṁ_steam は蒸発水量 W を蒸気経済で割って求める。蒸気経済とは「生蒸気1kgあたりに蒸発させられる水の質量(kg)」のこと。

多重効用缶とは

🙋
「多重効用缶」って、なんだか難しそうな名前ですけど、要するに何をする装置なんですか?
🎓
ざっくり言うと「液体を煮詰めて濃くする装置」だよ。たとえばサトウキビのしぼり汁を煮詰めて砂糖を作ったり、海水から水を飛ばして淡水を取ったりするときに使う。問題は、水を蒸発させるには大量の熱がいること。やかんでお湯を沸かし続けるのを工場規模でやるわけだから、蒸気代がものすごくかかる。そこで「効用」という蒸発缶を何台も直列につないで、一度使った蒸気をもう一度、もう一度…と使い回すんだ。
🙋
蒸気を使い回す?一回使った蒸気って、もう熱を出しきってるんじゃないんですか?
🎓
いいところを突くね。第1効用でボイラの生蒸気が液を沸かすと、その液から「新しい蒸気」が出てくる。この蒸気はまだ100℃近い熱を持っている。そこで第2効用を第1効用より低い圧力で運転すれば、沸点が下がるから、その蒸気でも第2効用の液を沸かせるんだ。第2効用から出た蒸気で第3効用を…と繰り返す。圧力を段階的に下げていくのがミソだよ。左のスライダーで「効用数」を増やしてみて。蒸気経済がぐんと上がるはずだ。
🙋
本当だ、効用数を3にすると蒸気経済が3になりました。これって「生蒸気1kgで水を3kg飛ばせる」という意味ですか?
🎓
そのとおり。蒸気経済はまさに「生蒸気1kgあたり何kgの水を蒸発させたか」だ。単一効用缶なら水1kgを飛ばすのに蒸気1kg、つまり蒸気経済は1。3重効用なら理想で3になるから、同じ仕事を蒸気1/3で済ませられる。下の「必要蒸気量 vs 効用数」グラフを見ると、効用数を増やすほど蒸気消費が 1/n でストンと落ちるのがわかるよ。
🙋
じゃあ効用数をどんどん増やせば、蒸気代がほぼゼロになりますね!
🎓
そう単純じゃないんだ。まず缶の台数が増えれば設備費が増える。それに、使える全体の温度差は決まっている——最初の加熱蒸気と最終缶の温度の差だね。これを効用数で山分けするから、効用が増えるほど1缶あたりの温度差が小さくなる。温度差が小さいと熱が伝わりにくくなって、同じ量を蒸発させるのに伝熱面積をうんと大きくしないといけない。だから現場では「蒸気代の節約額」と「設備投資」の綱引きで、3〜6重効用くらいに落ち着くことが多いんだ。
🙋
なるほど。じゃあ蒸気経済が「理想では n」と書いてあるのは、実際はそうならないってことですか?
🎓
そう、実機では n より少し低くなる。理由は2つ。1つは「沸点上昇」——砂糖水や黒液のように溶質が濃いと、純水より沸点が上がってしまい、缶ごとに使える有効温度差を食ってしまう。もう1つは缶や配管からの放熱損失だ。この2つで、実際の蒸気経済は理想 n より10〜20%ほど下がるのが普通。本ツールは理想の n で計算しているから、実機を見積もるときは少し割り引いて考えてね。

よくある質問

多重効用缶は、蒸発缶(効用)を直列に並べ、ある効用で水を沸騰させて出た蒸気を、次の効用の加熱蒸気として再利用する省エネ蒸発装置です。各効用は前の効用より低い圧力・低い沸点で運転されるため、1つ前の蒸気でも次の液を沸騰させられます。これにより、生蒸気(ボイラからの蒸気)1kgでおよそ効用数 n kg の水を蒸発させられ、単一効用缶に比べて蒸気消費量を大幅に削減できます。
蒸気経済(スチームエコノミー)は「生蒸気1kgあたり何kgの水を蒸発させられるか」を表す指標です。理想的には効用数 n に等しく、3重効用なら蒸気経済は約3、5重効用なら約5になります。実際には、各効用で溶質による沸点上昇が起きて有効な温度差が減ること、放熱損失があることから、理想値より10〜20%程度低くなるのが普通です。本ツールは理想値 n を用いて計算するため、実機では少し控えめに見積もってください。
蒸気消費量という観点では、効用数を増やすほど蒸気経済が上がり、必要蒸気量は 1/n で減っていきます。しかし効用数を増やすと缶(蒸発缶)の台数が増えて設備コストが上がります。さらに、利用できる全体の温度差(最初の加熱蒸気温度と最終効用の温度差)は決まっているため、それを効用数で割り当てることになり、1缶あたりの温度差が小さくなって伝熱が遅くなり、より大きな伝熱面積が必要になります。実務では蒸気コストの削減額と設備投資のバランスで、3〜6重効用あたりが選ばれることが多いです。
固形分(溶質)は供給液と製品の間で保存されるため、供給液量×供給濃度=製品量×製品濃度 が成り立ちます。ここから製品量=供給液量×供給濃度÷製品濃度 で求まります。蒸発水量は 供給液量−製品量 です。例えば供給5000kg/h・供給濃度10wt%・製品濃度45wt%なら、製品量=5000×10÷45≒1111kg/h、蒸発水量=5000−1111≒3889kg/h。製品濃度が供給濃度より高いことが前提で、本ツールはこの条件を満たさない入力を自動補正します。

実世界での応用

製糖工場:サトウキビやビートのしぼり汁は固形分が10〜15%程度の希薄な液で、これを65%前後まで濃縮してから結晶化させます。蒸発させる水の量が膨大なため、多重効用缶は製糖プロセスの心臓部です。多くの工場で4〜5重効用が使われ、第1効用の蒸気の一部を加熱用に抜き出す「蒸気抽出」と組み合わせて、工場全体の熱を巧みにやりくりしています。

製紙工場の黒液濃縮:クラフトパルプ製造で出る「黒液」は、木材の有機分と薬品を含む廃液です。これを多重効用缶で固形分70%以上まで濃縮し、回収ボイラで燃やして薬品を回収しつつ蒸気を作ります。黒液は粘度が高く沸点上昇も大きいため、6重効用以上の大規模な蒸発缶列が組まれることもあります。

海水淡水化(MED方式):多重効用蒸発(Multi-Effect Distillation, MED)は海水から淡水を作る代表的な方式の一つです。各効用で海水を蒸発させ、その蒸気を凝縮させて真水を取り出します。低温・低圧で運転できるためスケール(缶石)が付きにくく、中東などの淡水化プラントで広く使われています。

乳製品・食品濃縮:牛乳を粉ミルクにする前の濃縮、果汁・コーヒーエキス・調味液の濃縮にも多重効用缶が使われます。食品は熱で品質が劣化しやすいため、後段の効用を低温(真空)で運転して、製品をなるべく低い温度で短時間に濃縮する工夫がなされます。

よくある誤解と注意点

まず多いのが、「効用数を増やせば蒸気経済はいくらでも上がる」という誤解です。確かに理想計算では蒸気経済=効用数 n ですが、現実には沸点上昇と放熱損失で n より10〜20%低くなります。さらに重要なのは、効用数を増やしても処理量が増えるわけではない点。利用できる全体の温度差は一定なので、効用を増やすほど1缶あたりの温度差が痩せ細り、同じ蒸発量を得るのに伝熱面積をどんどん増やさなければなりません。蒸気代の節約は伝熱面積(=設備費)の増加と引き換えであり、最適な効用数は経済性で決まります。

次に、「沸点上昇を無視してよい」という思い込み。本ツールは入門用に固形分収支と理想の蒸気経済だけを扱っていますが、実機設計では各効用での沸点上昇(Boiling Point Elevation, BPE)を必ず考慮します。濃い砂糖液や黒液では沸点上昇が10℃以上になることもあり、その分だけ各効用で使える有効温度差(加熱蒸気温度−沸点)が減ります。沸点上昇を見落とすと、計算上は蒸発するはずなのに実機では能力不足、というトラブルになります。

最後に、「給液の流し方(フロー方式)はどれでも同じ」という誤解。本ツールでは触れていませんが、供給液と蒸気を同じ向きに流す「並流」、逆向きに流す「向流」、途中から入れる「混合流」で、必要な伝熱面積・ポンプ動力・製品の熱履歴が変わります。並流は最終効用の濃い液が低温になり粘度トラブルが少ない反面、各効用にポンプが要らず簡素。向流は濃い液が高温側に来るので粘度が下がって伝熱が良い反面、各段にポンプが必要です。液の性質(粘度・熱劣化のしやすさ)に応じてフロー方式を選ぶのが実務の腕の見せどころです。

使い方ガイド

  1. 効用数を2~5段階で選択します。例えば砂糖濃縮プロセスで3効用を選ぶと、1段目で飽和蒸気を供給し、2段目・3段目では前段の蒸発潜熱を再利用します
  2. 供給液流量を100~500 kg/hの範囲で設定し、初期濃度(例:10 wt%)と目標製品濃度(例:50 wt%)を入力します
  3. シミュレーション実行後、蒸気経済(蒸発水量/必要蒸気量)と年間蒸気コスト削減額を確認し、効用数追加の投資対効果を判定します

具体的な計算例

濃塩酸製造で供給液300 kg/h(濃度20 wt%)を65 wt%に濃縮する場合:単一効用では蒸気125 kg/h消費(経済1.0)、3効用で蒸気42 kg/hに削減(経済2.86)。蒸気単価2.5万円/tとすると年間削減額は約660万円。4効用追加では年間80万円削減が見込めるため、熱交換器追加費用500万円の回収期間は6年強です

実務での注意点

  1. 後段の蒸発器内圧を低下させるため、真空ポンプ購入費(200~400万円)と運転電力が後効用数の経済性を圧迫します
  2. 高粘度液体(蜂蜜、漆など)では後段で熱伝達係数が低下し、理論値より蒸気経済が10~20%悪化するため、スチーム温度を155℃以上確保してください
  3. スケール付着性物質(濃硫酸、尿素液)では3効用以上で蒸発器洗浄頻度が月1回から週2回に増加し、維持費が年120万円増加します