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構造解析

塑性断面係数シミュレーター

梁の断面が「最初に降伏する瞬間」から「断面全体が降伏して塑性ヒンジになる瞬間」まで、どれだけ余力を持つかを調べるツールです。矩形・中実円形・I形の寸法を変えると、弾性断面係数 S・塑性断面係数 Z・形状係数 f・降伏モーメント My・全塑性モーメント Mp がリアルタイムで分かります。

パラメータ設定
断面形状
曲げは強軸(水平軸)まわり
幅 b(円形は直径)
mm
矩形・I形では断面幅、円形では直径 d
高さ h
mm
断面の全せい(円形では使用しない)
フランジ厚 tf(I形のみ)
mm
ウェブ厚 tw(I形のみ)
mm
降伏応力 σy
MPa
SS400 で約235、SM490 で約325 が目安
計算結果
弾性断面係数 S (cm³)
塑性断面係数 Z (cm³)
形状係数 f = Z/S
降伏モーメント My (kN·m)
全塑性モーメント Mp (kN·m)
予備強度比 Mp/My
断面と曲げ応力分布 — 弾性→全塑性

左が選択した断面、右が曲げ応力分布。弾性状態(最遠縁だけ σy の三角形分布)から全塑性状態(断面全体が ±σy の矩形ブロック)まで連続的に変化します。塗りつぶしは降伏した領域です。

モーメント-曲率関係
弾性断面係数 S と塑性断面係数 Z の比較
理論・主要公式

$$\text{矩形: }S=\frac{bh^2}{6},\quad Z=\frac{bh^2}{4},\quad f=\frac{Z}{S}=1.5$$

矩形断面の弾性断面係数 S と塑性断面係数 Z。両者の比が形状係数 f で、矩形ではちょうど 1.5 になる。b:幅、h:高さ。

$$M_y=S\,\sigma_y,\qquad M_p=Z\,\sigma_y$$

降伏モーメント My(最遠縁が初降伏する曲げモーメント)と全塑性モーメント Mp(断面全体が降伏する曲げモーメント)。σy:降伏応力。

形状係数 f は、初降伏してから全塑性ヒンジになるまでに断面がもう一段引き受けられるモーメントの大きさを表す指標です。

塑性断面係数と形状係数とは

🙋
「断面係数」って、梁の曲げ強さを表すあの値ですよね。でも「弾性」と「塑性」で2つあるって、どう違うんですか?
🎓
いい質問だね。梁を曲げていくと、まず断面の一番外側の繊維(最遠縁)が降伏応力に届く。この瞬間を支配するのが弾性断面係数 S だ。S=I/c で、I は断面二次モーメント、c は中立軸から縁までの距離。一方、さらに曲げ続けると降伏した領域が外側から内側へ広がって、最後は断面まるごとが降伏する。この「全塑性」の瞬間を支配するのが塑性断面係数 Z なんだ。
🙋
なるほど。じゃあ、その2つの比の「形状係数 f」って何を意味しているんですか?
🎓
ざっくり言うと「初降伏してからの伸びしろ」だよ。f=Z/S で、初降伏のモーメント My に対して、全塑性モーメント Mp が何倍まで上がれるかを表す。左の断面形状を「矩形」にしてみて。f はちょうど 1.5 と出るはずだ。これは数学的に厳密な値で、矩形なら 3/2 ちょうど。中実円形なら 16/(3π)≈1.698 になる。
🙋
え、形状を「I形」にしたら f が 1.1 ちょっとまで下がりました。なんで断面の形でこんなに変わるんですか?
🎓
そこが形状係数のいちばん面白いところだ。理由は「材料がどこに分布しているか」。I形は断面積の大半が上下のフランジ、つまり最遠縁の近くに集まっている。だから最遠縁が初降伏した時点で、もうほとんどの材料が降伏寸前まで来ている。残った余力が小さいから f が小さい。逆に矩形は中立軸のすぐ近くにも材料がたっぷりあって、それらはまだ全然降伏していない。その分の「伸びしろ」が大きいんだ。
🙋
じゃあ My と Mp は、設計のときにどう使い分けるんですか?
🎓
My=S·σy は最遠縁が初めて降伏するモーメントで、許容応力設計(弾性設計)の上限の目安だ。Mp=Z·σy は断面が完全に塑性化して曲げ剛性を失い、塑性ヒンジになるモーメント。鋼構造の保有耐力計算や塑性設計では Mp を基準にする。実務では「弾性設計だと f の分の余力を捨てている」とよく言われる。下のモーメント-曲率グラフを見ると、My を超えてからカーブが寝て、Mp の手前で水平に近づくのが分かるよ。
🙋
最後にひとつ。I形でフランジを厚くしすぎたら計算がおかしくなりませんか?
🎓
鋭い指摘だ。I形は全高 h からフランジ厚 tf を上下ぶん引いた hw=h−2tf がウェブの内のり高さになる。フランジを厚くしすぎて hw が 0 以下になると、断面として成立しない。このツールは hw>0 をガードしていて、成立しない入力では警告を出すようにしてある。実際の H形鋼でも tf はせいぜい全高の10%程度。極端な寸法を入れたときの挙動を確かめるのも、こういうツールの使い方のひとつだよ。

よくある質問

弾性断面係数 S は、断面の一番外側の繊維がちょうど降伏応力に達する瞬間(初降伏)を支配します。S=I/c で、I は断面二次モーメント、c は中立軸から最遠縁までの距離です。塑性断面係数 Z は、断面全体が降伏して全塑性ヒンジになる状態を支配します。Z は中立軸まわりの上下半断面の面積モーメントの和です。S は降伏モーメント My=S·σy を、Z は全塑性モーメント Mp=Z·σy を与えます。
形状係数 f=Z/S は、初降伏から全塑性ヒンジまでに断面がもう一段引き受けられるモーメントの比です。矩形では f=1.5(ちょうど 3/2)、中実円形では f=16/(3π)≈1.698、典型的なI形では f≈1.10〜1.18 です。差が出るのは材料の分布の違いです。I形は断面積の大半がすでに最遠縁の近くにあり、初降伏の時点でほとんどの材料が降伏寸前なので予備が小さい。逆に矩形や円形は中立軸付近にまだ降伏していない材料が多く残るため、その分の予備が大きくなります。
降伏モーメント My=S·σy は、最遠縁が初めて降伏する曲げモーメントで、許容応力設計(弾性設計)の上限の目安になります。全塑性モーメント Mp=Z·σy は、断面が完全に塑性化して曲げ剛性を失い、塑性ヒンジが形成される曲げモーメントです。塑性設計(極限設計)や鋼構造の保有耐力計算では Mp を基準にします。My と Mp の比がそのまま形状係数 f であり、設計法を弾性から塑性へ切り替えると、この f の分だけ見かけの耐力が増えることになります。
対称I形断面(フランジ幅 b、フランジ厚 tf、全高 h、ウェブ厚 tw)の強軸まわりの塑性断面係数は Z = b·tf·(h−tf) + tw·hw²/4 で計算します。hw=h−2tf はウェブの内のり高さです。第1項は2枚のフランジの寄与、第2項はウェブの寄与で、それぞれを中立軸まわりの面積モーメントとして足し合わせています。フランジが厚い場合は hw>0 となるよう寸法を確認してください。hw が負になる入力は物理的に成立しません。

実世界での応用

鋼構造の塑性設計・保有耐力設計:鉄骨ラーメン構造の梁や柱では、断面の耐力を全塑性モーメント Mp で評価します。地震時に梁端が塑性ヒンジを形成し、エネルギーを吸収して建物を守る「梁降伏型」の設計では、各部材の Mp が設計の出発点になります。H形鋼の断面表に並ぶ「塑性断面係数 Zx」は、まさにこのツールで計算している Z のことです。

許容応力設計と塑性設計の比較検討:同じ梁でも、弾性(許容応力)設計では My を、塑性設計では Mp を耐力の基準にします。その差が形状係数 f です。設計法を切り替えると、矩形断面なら1.5倍、I形なら1.1倍ほど見かけの耐力が変わります。どちらの設計法を採るか、また断面形状の選択が耐力にどう効くかを、このツールで定量的に確認できます。

機械部品・シャフト・アーム類:クレーンのブーム、建設機械のアーム、回転シャフトなどでも、過負荷時にどこまで塑性変形に耐えられるかが安全設計の鍵になります。中実丸棒(円形断面)は形状係数が約1.7と大きく、初降伏を超えても急には壊れない「ねばり」を持ちます。このねばりの大小を断面形状ごとに比較するのに役立ちます。

非線形FEM解析の事前検討と検算:弾塑性FEM解析を行う前に、本ツールで断面の Mp を概算しておくと、解析結果の妥当性チェックに使えます。FEMで得られた梁の終局曲げ耐力が Z·σy と大きく食い違えば、材料モデルや断面定義のミスを疑えます。逆に概算と一致していれば、解析が正しく塑性化を捉えている証拠になります。

よくある誤解と注意点

まず最大の誤解が、「全塑性モーメント Mp まで安全に使える」という思い込みです。Mp はあくまで断面が完全に塑性化して塑性ヒンジになるモーメントであって、設計で常用してよい値ではありません。Mp に達した断面は曲げ剛性をほぼ失い、わずかな荷重増で大きくたわみます。実際の設計では Mp に安全率を見込んで使うか、塑性ヒンジを許容する場合でも変形量や塑性ヒンジの位置・数を別途検討します。「Mp = 使ってよい上限」ではなく「Mp = 断面が持ちうる理論上の最大曲げ耐力」と理解してください。

次に、「形状係数 f が大きい断面ほど優れている」という誤解。f が大きい(円形 1.7、矩形 1.5)のは「初降伏してからの伸びしろ」が大きいという意味で、それ自体は破壊に対する安全余裕につながります。しかし f が大きい断面は、同じ材料量で得られる弾性断面係数 S が小さく、たわみや初降伏に対しては不利です。I形は f こそ小さい(約1.1)ものの、材料を最遠縁に集めることで S・Z とも大きくなり、重量あたりの曲げ効率は最も高い。f だけを見て断面を選ぶのは誤りで、必要な剛性・耐力・重量のバランスで判断します。

最後に、「この計算は局部座屈や横座屈を考慮している」という誤解です。本ツールの Mp=Z·σy は、断面が座屈せず素直に全塑性に達することを前提にした理論値です。実際の薄肉断面では、フランジやウェブが Mp に達する前に局部座屈を起こしたり、梁全体が横倒れ(横座屈)したりして、Mp より低いモーメントで耐力が決まることが多くあります。鋼構造設計では断面を幅厚比(コンパクト断面か否か)で分類し、座屈で耐力が決まる断面には Mp を使えません。本ツールはあくまで断面そのものの塑性耐力を扱うもので、座屈照査は別途必要です。

使い方ガイド

  1. 断面形状を選択します。矩形断面の場合は幅b(mm)と高さh(mm)を入力、I形断面の場合はフランジ厚tf、ウェブ厚tw、全高hを指定してください
  2. 鋼材の降伏点(通常SS400は235 MPa、SM490は355 MPa)を設定し、シミュレーターが弾性断面係数S、塑性断面係数Z、形状係数f=Z/Sを自動計算します
  3. 出力される降伏モーメントMy、全塑性モーメントMp、予備強度比Mp/Myから、初降伏時点の安全性と塑性ヒンジ形成までの余裕度を判定します

具体的な計算例

H形鋼 H-200×100×5.5×8(フランジ幅100mm、フランジ厚8mm、ウェブ厚5.5mm、全高200mm)の場合:弾性断面係数S≈214 cm³、塑性断面係数Z≈274 cm³となり形状係数f≈1.28です。SS400鋼(Fy=235 MPa)では降伏モーメントMy=50.3 kN·mに対し、全塑性モーメントMp=64.4 kN·mで、予備強度比Mp/My≈1.28となり、初降伏後も約28%の追加耐力を有します

実務での注意点

  1. 矩形断面とI形断面で形状係数が異なります。矩形はf≈1.5、I形はf≈1.1~1.3程度が目安で、肉厚が薄いほどfが小さくなり局部座屈リスクが高まります
  2. 塑性設計では全塑性モーメントMpを基準に照査しますが、座屈長Lbが長い場合は横座屈により実際の耐力がMpより低下するため、横座屈限界をLb/(ry)で確認してください
  3. 接合部がボルト摩擦接合の場合、すべり係数の低下により塑性ヒンジの発達が阻害されるため、全塑性モーメント発揮にはM16以上の高力ボルト2列以上の配置が必須です