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構造解析

プレストレスト・コンクリートの応力損失シミュレーター

PC鋼材にジャッキで与えた緊張力は、そのまま残ることはありません。弾性収縮・クリープ・乾燥収縮・鋼材リラクセーションによって少しずつ失われます。初期緊張力や断面寸法を変えると、損失の内訳と最終的に残る有効プレストレスがリアルタイムで分かります。

パラメータ設定
初期緊張力 P0
kN
ジャッキでPC鋼材に与える緊張力
PC鋼材の断面積 A_ps
mm²
コンクリート断面積 A_c
mm²
ヤング係数比 n = E_ps/E_c
鋼材ヤング率をコンクリートヤング率で割った値
クリープ+乾燥収縮による損失
MPa
経時的なコンクリート変形による損失
鋼材リラクセーション損失率
%
初期鋼材応力に対する割合
計算結果
初期鋼材応力 f_p0 (MPa)
弾性収縮損失 (MPa)
クリープ+収縮損失 (MPa)
リラクセーション損失 (MPa)
有効プレストレス力 Pe (kN)
総損失率 (%)
プレストレス力の減衰 — 緊張から長期状態へ

PC鋼材を通したコンクリート梁。緊張力バーが初期値 P0 から有効値 Pe まで縮んでいきます。右側は3つの損失成分の積み上げ内訳です。

損失の内訳(応力ベース)
有効プレストレス力 Pe vs 初期緊張力 P0
理論・主要公式

$$f_{pe}=f_{p0}-\Delta f_{el}-\Delta f_{cs}-\Delta f_{rel}$$

有効プレストレス f_pe は、初期鋼材応力 f_p0 から弾性収縮損失・クリープ+乾燥収縮損失・リラクセーション損失を差し引いた残りの応力。

$$\Delta f_{el}=n\,\sigma_c,\qquad \Delta f_{rel}=r\cdot f_{p0}$$

n はヤング係数比 E_ps/E_c、σ_c は鋼材位置のコンクリート応力、r はリラクセーション損失率(割合)。

$$f_{p0}=\frac{P_0}{A_{ps}},\qquad \sigma_c=\frac{P_0}{A_c},\qquad P_e=\frac{f_{pe}\,A_{ps}}{1000}$$

初期鋼材応力・コンクリート応力(軸力近似)・有効プレストレス力。P0:初期緊張力、A_ps:鋼材断面積、A_c:コンクリート断面積。

プレストレス損失とは

🙋
プレストレスト・コンクリートって、鉄筋じゃなくて鋼材をギュッと引っ張った状態で固めるやつですよね。でも「応力損失」って何ですか?引っ張った力って減るんですか?
🎓
いいところを突いてきたね。プレストレスト・コンクリート(PC)は、ジャッキでPC鋼材を強く引っ張ってからコンクリートに緊張力を伝えて、梁のひび割れを抑える技術なんだ。でもね、ジャッキで「1400 kN かけた」としても、実際に部材に残る力はそれより必ず少ない。この差が「プレストレス損失」だよ。減るのは避けようがなくて、ふつう初期緊張力の15〜25%くらいが消えていく。
🙋
15〜25%も!けっこう大きいですね。何が原因でそんなに減るんですか?
🎓
原因は大きく2グループある。まず「即時損失」——緊張したその瞬間に起きるやつだ。代表が弾性収縮損失で、鋼材を引っ張ってコンクリートに力を移すと、コンクリート自身が弾性的にキュッと縮む。すると一緒に埋まっている鋼材も同じだけ縮むから、引っ張った応力がスッと抜ける。左で「ヤング係数比 n」を上げると、この弾性収縮損失が増えるのが見えるはずだ。もうひとつのグループが「経時損失」——時間をかけてじわじわ進むやつだね。
🙋
経時損失っていうのは、クリープとか乾燥収縮とかですか?言葉は聞いたことあるけど違いがよく分からなくて。
🎓
そう、3つあるよ。クリープは、コンクリートが圧縮荷重を受け続けると何年もかけてじわじわ縮み続ける現象。乾燥収縮は、コンクリート内の水分が抜けて体積が減る現象で、こっちは荷重がなくても進む。どちらもコンクリートが縮めば鋼材も縮むから緊張力が落ちる。3つめがリラクセーション——これは鋼材側の話で、一定のひずみで引っ張りっぱなしの高強度鋼が、時間とともに応力をゆっくり失っていく性質なんだ。このツールではクリープ+乾燥収縮をまとめてMPaで入力し、リラクセーションは初期応力に対する割合で扱っている。
🙋
なるほど。じゃあ全部足した「総損失」を引いた後に残る力が、実際に使える力ってことですか?
🎓
そのとおり。それが「有効プレストレス f_pe」だ。部材の安全照査も、たわみも、ひび割れ判定も、全部この有効プレストレスを使う。ここが実務で一番大事なところでね——損失を小さく見積もると、実際には足りないプレストレスで設計してしまい、橋やスラブが使用中にひび割れる。逆に損失を多く見すぎると、要らないPC鋼材を余計に入れて不経済になる。だから損失の見積もりは「ちょうどよく」当てる必要があるんだ。
🙋
デフォルト値だと総損失率が約15%って出ました。これは「ちょうどいい」範囲なんですか?
🎓
うん、15%なら標準的だね。一般にPC部材の総損失は15〜25%に収まる。このツールでは25%を超えると注意表示が出るようにしてある。25%を超えるのは、断面が小さすぎてコンクリート応力 σ_c が高くなりすぎている、あるいはクリープ・収縮の入力が大きすぎる、といったサインだ。そういうときは断面を見直したり、低リラクセーション鋼材を選んだりして、有効プレストレスをしっかり確保するんだよ。

よくある質問

プレストレス損失とは、ジャッキでPC鋼材に与えた初期緊張力が、時間とともに(あるいは緊張定着の瞬間に)減少していく現象です。原因は大きく即時損失と経時損失に分かれます。即時損失は、プレストレスを与えた瞬間にコンクリートが弾性的に縮むことで鋼材も一緒に縮む弾性収縮損失、定着具のセット量、シース内摩擦などです。経時損失は、コンクリートのクリープ(持続荷重による変形)と乾燥収縮、そして高強度鋼材のリラクセーション(一定ひずみ下での応力低下)です。これらは避けられず、合計で初期緊張力の15〜25%程度を奪います。
弾性収縮損失は Δf_el = n·σ_c で求めます。n はヤング係数比 E_ps/E_c(鋼材ヤング率をコンクリートヤング率で割った値、おおむね5〜7)、σ_c は鋼材位置でのコンクリート圧縮応力です。プレストレスを与えるとコンクリートが弾性的に縮み、その同じひずみだけPC鋼材も縮むため、鋼材応力が n·σ_c だけ低下します。プレテンション方式では全量が損失になり、ポストテンション方式で複数本を順に緊張する場合は平均的に約半分になります。本ツールでは簡易的に軸力を仮定し、σ_c = P0/A_c で評価しています。
いずれも経時損失(時間依存損失)ですが、メカニズムが異なります。クリープはコンクリートが持続的な圧縮荷重を受け続けることで、時間とともにじわじわ縮み続ける現象です。乾燥収縮はコンクリート中の水分が逃げて体積が減る現象で、荷重の有無に関係なく進みます。どちらもコンクリートが縮めばPC鋼材も縮むため緊張力が落ちます。リラクセーションは鋼材側の現象で、一定のひずみで保持された高強度鋼が、時間とともに応力をゆっくり失っていくことです。本ツールではクリープ+乾燥収縮を合算したMPa値を直接入力し、リラクセーションは初期応力に対する割合で扱います。
有効プレストレス f_pe は、すべての損失を差し引いた後に実際にPC鋼材に残っている応力です(f_pe = f_p0 − 総損失)。部材の安全性照査、たわみ計算、ひび割れ判定はこの有効プレストレスを使って行わなければなりません。損失を小さく見積もると、実際には不足したプレストレスで設計してしまい、使用時にひび割れが発生します。逆に損失を過大に見積もると、必要以上に多くのPC鋼材を入れることになり不経済です。総損失率はおおむね15〜25%が目安で、本ツールではこの範囲を超えると注意表示を出します。

実世界での応用

PC橋梁の桁設計:プレストレスト・コンクリートが最も多用されるのが橋梁の主桁です。ポストテンション方式のPC箱桁橋やプレテンション方式のT桁では、桁が長く曲げモーメントが大きいため、有効プレストレスを正確に押さえないと供用後にひび割れやたわみ過大が生じます。設計では緊張直後の即時損失と、数十年スパンの経時損失を別々に評価し、長期の有効プレストレスで応力照査を行います。

PCスラブ・PC床版:建築の大スパン無梁スラブや、立体駐車場のPC床版では、自重によるたわみを抑えるためにプレストレスを導入します。床は薄く断面積が小さいぶんコンクリート応力 σ_c が高くなりやすく、クリープ損失が大きく出ます。損失を見誤ると、長期にわたってスラブが垂れ下がり、間仕切りや設備に支障が出ます。

PCタンク・LNG貯槽・原子炉格納容器:液体や気体を貯める円筒構造物には、円周方向にプレストレスを与えて内圧による引張をキャンセルします。これらは漏えいが許されない重要構造物のため、リラクセーションの小さい低リラクセーション鋼材を使い、長期の有効プレストレスがゼロを下回らないよう余裕をもって設計します。

緊張管理とCAE照査:現場ではジャッキ圧力(緊張力)と鋼材の伸び量を両方測り、設計の初期緊張力どおりに導入できたかを確認します。さらに詳細な時間依存解析(クリープ・収縮の段階施工解析)をFEMで行う前に、本ツールのような簡易計算で「総損失率がだいたい何%か」を当たりづけしておくと、FEM結果が桁違いになったときのサニティチェックに使えます。

よくある誤解と注意点

まず最大の誤解が、「ジャッキでかけた力がそのまま部材に残る」という思い込みです。初期緊張力 P0 と有効プレストレス力 Pe は別物で、その差が損失です。設計のたわみ・ひび割れ照査に使うのは必ず有効プレストレス Pe のほうで、P0 を使うとプレストレスを過大評価し、実際には不足した設計になってしまいます。本ツールの即時損失(弾性収縮)と経時損失(クリープ・収縮・リラクセーション)を合わせた総損失を、必ず差し引いてから照査してください。

次に、「即時損失と経時損失をひとまとめにしてよい」という誤解です。両者は発生する時期が違います。即時損失は緊張・定着の瞬間に終わるため、施工時の応力照査では即時損失だけを引いた状態を使います。一方、経時損失は数年〜数十年かけて進むため、長期の供用状態では即時+経時の全損失を引きます。同じ部材でも「緊張直後」と「長期」で有効プレストレスが違うことを忘れると、施工時に上縁がひび割れる、あるいは長期でたわみが想定を超える、といったトラブルになります。

最後に、「コンクリート断面を小さくすれば軽くて経済的」という誤解です。断面積 A_c を小さくすると、同じ P0 でもコンクリート応力 σ_c = P0/A_c が上がります。すると弾性収縮損失 n·σ_c が増え、さらに応力が高いほどクリープも進みやすくなり、結果として総損失率が跳ね上がります。本ツールで A_c を最小付近まで下げると、総損失率が急増して注意表示に変わるのが分かります。断面を絞りすぎるとプレストレスの「目減り」が大きく、かえって多くのPC鋼材が必要になることがあるのです。

使い方ガイド

  1. 初期鋼材応力f_p0を1400~1600 MPa範囲で入力(PC鋼材の種類により異なる)
  2. コンクリート圧縮強度f'cを30~60 MPa、ヤング係数Ecを30~40 GPa範囲で設定
  3. 環境条件として相対湿度を40~80%、材齢を28日~1年で指定してシミュレーション実行
  4. 弾性収縮・クリープ・乾燥収縮・リラクセーションによる各段階の応力損失を確認
  5. 有効プレストレス力Peと総損失率(%)から最終設計応力を判定

具体的な計算例

初期鋼材応力1500 MPa、コンクリート強度40 MPa、ヤング係数35 GPa、相対湿度60%、鋼材本数12本(φ15.2 mm)の箱桁橋の場合:弾性収縮損失90 MPa、クリープ+乾燥収縮損失120 MPa、リラクセーション損失60 MPa、総損失270 MPaとなり、有効プレストレス力は初期値1900 kNから1630 kNへ低下(損失率18%)。設計時は有効値1630 kNで断面設計を実施し、長期的なたわみ増加量を予測。

実務での注意点