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水文・環境工学

SCS-CN 法 降雨流出量推定シミュレーター

USDA NRCS が開発した SCS-CN(Curve Number)法で、24時間降雨量から流域の直接流出深・流出率・ピーク流量を推定します。CN・先行降水条件 AMC・流域面積・初期損失比 λ を変えて、雨水排水設計や洪水ハザード評価、グリーンインフラの効果検証に使えます。

パラメータ設定
24時間降雨量 P
mm
設計対象の 24時間積算降雨量。日本の都市排水設計では 50〜200mm が一般的
Curve Number CN
森林 30〜60、農地 60〜80、市街地 80〜95、舗装 98
先行降水条件 AMC
直前 5日間の累積降水量による土壌湿潤度クラス
流域面積 A
km²
SCS-CN 法は小〜中流域(<100km²)に適している
初期損失比 λ
Ia = λ·S。標準 0.20、近年研究では 0.05 も推奨
ストレージ補正係数
S を直接調整する補正係数。地域校正に使用
計算結果
調整後 CN
最大保留量 S (mm)
初期損失 Ia (mm)
直接流出深 Q (mm)
流出率 (%)
ピーク流量推定 (m³/s)
流域断面 — 降雨・初期損失・直接流出

青の雨滴が降り、初期損失(植生・土壌吸収)として一部が地中に取り込まれ、残りが地表流出(青色の流れ)として河道に集まります。CN が高いほど流出が増え、CN が低いほど浸透が増えます。

Q vs P カーブ(CN パラメータ群)
損失内訳 — 初期損失 / 浸透 / 直接流出
理論・主要公式

$$Q = \frac{(P - I_a)^2}{P - I_a + S},\quad S = \frac{25400}{CN} - 254,\quad I_a = \lambda S$$

P=24時間降雨量(mm)、Q=直接流出深(mm)、I_a=初期損失(mm)、S=最大保留量(mm)、CN=Curve Number(30〜100)、λ=初期損失比(標準 0.20)。P ≤ I_a のとき Q=0。

$$CN_I = \frac{4.2\,CN}{10 - 0.058\,CN},\quad CN_{III} = \frac{23\,CN}{10 + 0.13\,CN}$$

先行降水条件 AMC I/III への変換式(Hawkins 1985)。テーブル値は AMC II 基準で与えられ、乾燥/湿潤状態に応じてこの式で補正します。

$$V = Q \cdot 10^{-3} \cdot A \cdot 10^{6}\;[\mathrm{m^3}],\quad Q_{peak} \approx 3 \cdot \frac{V}{86400}\;[\mathrm{m^3/s}]$$

流出体積 V と 24時間平均流量を仮の三角形ハイドログラフに変換したピーク流量の概算(実際の単位ハイドログラフ法ではより精緻に決定)。

SCS-CN法による降雨流出量推定

🙋
「SCS-CN 法」って雨水排水の設計でよく聞くんですけど、これって何が便利なんですか?普通に「降った雨×流出係数」じゃダメなんですか?
🎓
いい質問だね。実は単純な「降雨量×流出係数」は、雨が少ないと流出ゼロになるはずなのに常に一定割合が流れる、という現実に合わない予測をする。SCS-CN 法はここを直してて、「小雨ではほとんど流れず、土壌が飽和してくると一気に流出率が上がる」という非線形性を、Q = (P − Ia)² / (P − Ia + S) という1本の式で表現できる。流域パラメータは Curve Number ひとつだから、土地利用図と土壌図さえあれば誰でも計算できる、というのが最大の強み。USDA NRCS が 1950年代に開発して、いま世界中の都市排水・河川計画で標準的に使われているよ。
🙋
Curve Number ってどうやって決まるんですか?地図と表だけでホントに決まるんですか?
🎓
そう、土地利用と「水文土壌群(A〜D)」の組み合わせで一意に決まる表が NEH-4 という USDA の本に載ってる。例えば芝地で土壌群 B なら CN=69、住宅地(屋根60%)で C なら CN=90、というふうに引いていく。流域の中に複数の土地利用があれば面積加重平均する。日本の都市排水設計では、市街地の住宅密集地で CN=85〜90、商業地で 92〜95、公園・グリーンインフラを増やして 70〜80 に下げる、みたいな設計検討が普通だね。
🙋
AMC(先行降水条件)の I・II・III って、設計のときどれを選べばいいんですか?スライダー動かすと結果がけっこう変わりますね。
🎓
実務では用途で使い分けるよ。雨水排水管や調整池の規模を決める「設計洪水」では安全側を取って AMC III(湿潤)で評価することが多い。逆に年平均水収支や植生による流出抑制効果の評価では AMC II(平均)でやる。AMC I(乾燥)は乾燥地や農業灌漑計画で使うことがある。Hawkins (1985) の換算式を使うと、CN=75 が AMC III では CN=88(流出ほぼ倍)、AMC I では CN=57(流出ほぼゼロ)に変わる。設計時にどの条件を選ぶかは、安全側と過大設計のバランスで決める判断ポイントだよ。
🙋
「初期損失 Ia」って具体的に何が消えてるんですか?λ=0.2 ってどこから来た数字?
🎓
Ia は「流出が始まる前に消費される雨量」で、内訳は (1) 植生による遮断(葉や枝に付着して蒸発)、(2) 地表のくぼ地に溜まる水、(3) 流出開始直前の初期浸透、の合計。これらが Ia = λ·S だけ消費されないと地表流出が始まらない、というモデル化になってる。標準値の λ=0.2 は 1954年に USDA がアメリカ中西部の流域データから経験的に求めた値で、長く使われてきた。ただし近年、Hawkins らは「実測データを集め直すと λ=0.05 のほうがフィットがいい」と主張していて、特に都市流域では小さい λ を使う動きが広がっているよ。安全側にいきたいなら 0.05、伝統的に 0.20、というのが今の状況。
🙋
最後の「ピーク流量推定」って、ハイドログラフのピークを 3倍した数字ですよね。これ、実務でそのまま使っていいんですか?
🎓
いい指摘だね。本格的な設計では「SCS 三角形単位ハイドログラフ法」や「合理式(Rational Method)」、または流出モデル(HEC-HMS、RRI、SWMM 等)でちゃんと時間応答を解く。本ツールの「平均流量 × 3」はあくまでオーダー感覚をつかむための概算で、実流域では到達時間(time of concentration)に応じてピーク係数が 2〜5 倍と変動する。ただ、コンセプト検討の段階で「この流域に 100mm 降ったらおおよそ何 m³/s 出るのか」を即座に見積もるには十分実用的だよ。詳細設計の前に方向性を決めるサニティチェックとして使うのがおすすめ。

よくある質問

CN は土地利用と土壌タイプ(水文土壌群 A〜D)の組み合わせで決まります。森林・芝生で 30〜60、芝地・農地で 60〜80、市街地で 80〜95、コンクリート舗装路で 98 が目安です。実務では USDA NEH-4 や日本の都市排水設計指針の CN テーブルから値を読み取り、流域内の土地利用面積で加重平均します。例えば住宅地(CN=85)が 60% と公園緑地(CN=55)が 40% の流域なら、加重平均 CN ≈ 73 となります。
AMC(Antecedent Moisture Condition)は降雨直前 5日間の累積降水量で決まります。AMC II が平均的な湿潤状態で、テーブル値の CN をそのまま使います。AMC I は乾燥(5日間累積 13mm 未満)で CN が下がり浸透が増えます。AMC III は湿潤(28mm 以上)で CN が上がり流出が増えます。本ツールは Hawkins (1985) の換算式 CN_I = 4.2·CN/(10−0.058·CN)、CN_III = 23·CN/(10+0.13·CN) を使用しています。設計洪水の計算では安全側の AMC III、平均的な水収支評価では AMC II を使うのが一般的です。
初期損失 Ia は、流出が始まる前に植生による遮断・くぼ地貯留・初期浸透で吸収される雨量で、Ia = λ·S と仮定されます。SCS の元データから λ = 0.2 が標準値として広く使われています。ただし近年の研究(Hawkins ほか)では、λ = 0.05 のほうが多くの流域で実測に合うとされ、都市流域や乾燥地では小さめの値、森林流域では大きめの値が推奨されることがあります。本ツールでは 0.05〜0.30 の範囲で調整でき、感度解析が可能です。
SCS-CN 法は 24時間積算降雨量から日単位の直接流出を求める方法で、(1) 数分〜数時間の短時間集中豪雨でピーク強度が重要な場合、(2) 流域面積が 100km² を大きく超える大流域、(3) 融雪や凍土地表など特殊条件、(4) 雪解け期や冬期、では精度が落ちます。これらの場合はキネマティック・ウェーブや水文応答ユニット(HRU)型分布モデル、レーダ降雨と連携した分布型流出モデル(RRI、SWAT 等)を使うべきです。本ツールは流域水文の初期検討・概略設計には十分有効です。

実世界での応用

都市雨水排水・調整池の設計:住宅地・商業地の開発許可や雨水排水管の口径決定、調整池の容量算定で SCS-CN 法は世界標準です。例えば 10ha の宅地開発で開発前 CN=65(草地)→ 開発後 CN=88(住宅地)に変わると、100mm 降雨での直接流出量が 30mm→70mm と倍以上に増えます。この差分を吸収するための調整池容量を算定するのが排水計画の基本で、本ツールで「開発前」「開発後」を切り替えて流出体積差を即座に確認できます。

洪水ハザード評価とリスクマップ:市町村のハザードマップ作成では、100年確率降雨(例: 300mm/24h)に対する流域の直接流出量を SCS-CN 法で算定し、それを河道流量に変換して浸水想定区域を求めます。流域内の土地利用変化(森林伐採、農地転用、都市化)が将来洪水を何 % 増やすかの予測にも使われ、東京都市圏や名古屋濃尾平野などで都市計画の根拠資料として活用されています。

グリーンインフラの効果検証:レインガーデン、透水性舗装、屋上緑化、バイオスウェイル等のグリーンインフラ施設は CN を下げる効果として定量化できます。例えば 1ha の駐車場(CN=98)を透水性舗装(CN=80)に置換すると、100mm 降雨で流出深が 84mm→47mm に減少。これに面積を掛けて削減体積を算定し、CO2 排出削減量や下水処理コスト低減と組み合わせて投資対効果を示すのが近年の流れです。

農業流域の水収支・侵食解析:SCS-CN 法は SWAT(Soil and Water Assessment Tool)や HEC-HMS 等の分布型水文モデルの基本要素として組み込まれており、農業流域の長期水収支(蒸発散・流出・土壌水分)の解析、農地からの土砂・栄養塩流出のシミュレーションに使われます。流域内の作付け体系を変えたときの流出パターン変化を予測し、ベストマネジメントプラクティス(BMP)の効果を定量化します。

よくある誤解と注意点

まず最大の落とし穴が、「CN 値を単純面積平均してしまう」こと。流域内に CN=98(舗装)と CN=30(森林)が半々あったとき、単純平均すると CN=64 ですが、これは物理的に正しくありません。本来は各地で個別に Q を計算してから流出量を面積加重平均すべき(S は CN に対して非線形なため)。実用上は加重平均 CN で近似することが多いものの、CN 差が 20 以上ある不均一流域では、土地利用ごとに分割して計算するほうが精度が上がります。透水性舗装と従来舗装、農地と森林が混在する流域は要注意です。

次に、「ピーク流量と直接流出深を混同する」こと。SCS-CN 法が出すのは Q(直接流出深、mm)で、これは 24時間で流域から流れ出た水の総量を面積で割った値です。これは時間応答を含まないため、河道のピーク流量(m³/s)を出すには別途、時間分布を仮定するか単位ハイドログラフを使う必要があります。本ツールのピーク流量は「平均流量 × 3」という非常に粗い概算であり、堤防設計や橋梁設計などの実務では必ず HEC-HMS や合理式、SCS 単位ハイドログラフ法等で時間応答を解いてください。

最後に、「CN テーブル値をそのまま信じる」こと。NEH-4 の CN 値は 1950〜60 年代のアメリカ中西部の試験流域データに基づいており、日本の梅雨型・台風型降雨、火山灰土壌(黒ボク土)、伐採跡地、棚田など、地域特有の条件には必ずしも合いません。可能なら過去の流出記録から CN を逆算(流域校正)するのが望ましく、それができないときは複数の AMC・λ で感度解析を行い、結果の幅を提示するのが誠実なアプローチです。本ツールの「ストレージ補正係数」はこの地域校正の代用として使えます。

使い方ガイド

  1. 流域の土地利用・土壌条件から Curve Number(CN)を決定します。例えば、不透水性舗装地は CN=98、草地(良好管理)は CN=58 など、USDA NRCS 基準表を参照してください。
  2. 先行降水条件(AMC)を選択します。過去5日間の降雨が少ない場合は AMC-I(乾燥)、中程度は AMC-II(平常)、多い場合は AMC-III(湿潤)となり、CN値が自動調整されます。
  3. 24時間降雨量(mm)、流域面積(ha または km²)、初期損失比 λ(通常0.2、湿潤地0.1)を入力すると、最大保留量 S、初期損失 Ia、直接流出深 Q、流出率、ピーク流量が即座に算出されます。

具体的な計算例

都市河川上流域(流域面積 50ha、CN=75、AMC-II)に降雨量 100mm が 24時間で降った場合:調整後 CN=75、最大保留量 S=84.7mm、初期損失 Ia=16.9mm、直接流出深 Q=49.2mm、流出率 49.2%、初期損失比 λ=0.2 を適用。流出体積は 49.2mm×50ha=246万 m³ となり、ピーク流量を Snyder 法で推定すると約 180~220 m³/s に達します。設計調整池容量の算定に使用できます。

実務での注意点

  1. AMC-III(湿潤状態)では CN値が 10~15 程度上昇するため、同一降雨でも流出量が 30~50% 増加します。洪水ハザード評価では最悪ケースを想定し AMC-III で計算してください。
  2. グリーンインフラ設計では、透水性舗装・雨庭・浸透槽により CN値を 5~15 低下させた場合のシミュレーションを実施し、流出削減効果を定量評価します。
  3. 初期損失比 λ=0.2 は標準値ですが、砂質土壌では 0.1、粘性土では 0.3 に調整。降雨が Ia 未満の場合、直接流出は発生しません(Q=0)。