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水処理・生物処理

散水濾床(バイオフィルタ)設計シミュレーター

石材やプラスチック媒体の表面に育つバイオフィルムで BOD を分解する伝統的な生物処理プロセスを、NRC 式と Velz 温度補正で設計するツールです。流入濃度・流量・還流比・濾床高さを動かすと、必要な濾床容積・面積・水力負荷・有機物負荷がリアルタイムに更新され、活性汚泥法と比べた敷地規模感がつかめます。

パラメータ設定
流入 BOD
mg/L
目標流出 BOD
mg/L
日本では下水放流基準 BOD 20 mg/L 程度が目安
流量 Q
m³/day
濾床媒体
石材は伝統的・低コスト、プラスチックは高負荷・薄敷地
濾床高さ
m
石材は ≤2m、プラスチックなら 6〜12m まで設計可能
還流比 R
流出水の何倍を再分配器へ戻すか
動作温度
°C
Velz 補正 k_T = k_20·1.035^(T-20)
計算結果
BOD 負荷 (kg/day)
必要濾床容積 (m³)
必要濾床面積 (m²)
水力負荷 (m³/m²/day)
有機物負荷 (kg/m³/day)
BOD 除去率 (%)
散水濾床 断面イメージ(流入 → 分配器 → 媒体 → 流出ピット)

上部の回転式分配器(spray arm)から汚水を撒き、媒体表面のバイオフィルムが BOD を分解します。色は局所の有機物濃度(青→緑→黄)を表しています。

効率 vs BOD 負荷
還流比 R vs 除去効率
理論・主要公式

$$E = \frac{100}{1 + 0.4423\sqrt{\dfrac{W}{V\,F}}},\qquad F = \frac{1+R}{(1+R/10)^{2}}$$

NRC(US Army 1946)式による単段除去効率 E(%)。W:流入 BOD 負荷 (kg/day)、V:濾床容積 (m³)、F:還流補正、R:還流比。

$$W = \frac{S_0\,Q}{1000},\qquad \eta_T = 1.035^{(T-20)}$$

BOD 負荷 W(kg/day)、Velz 温度補正係数 η_T。S₀:流入 BOD (mg/L)、Q:流量 (m³/day)、T:水温 (°C)。

$$\text{HL} = \frac{Q}{A},\qquad \text{OL} = \frac{W}{V}$$

水力負荷 HL (m³/m²/day) と有機物負荷 OL (kg/m³/day)。HL>40 で高負荷塔、OL>1.6 で高負荷運転に分類されます。

散水濾床 (Trickling Filter) によるBOD除去設計

🙋
「散水濾床」って、上から汚水をシャワーみたいに撒いてるあれですよね?石の山に水をかけるだけで本当に下水がきれいになるんですか?
🎓
そう、田舎の下水処理場や食品工場の裏でよく見る、回転アームから水を撒いてる円筒タンクだよ。実は石の山に見えるのが「濾床媒体」で、その表面に数 mm の厚さでバイオフィルム(好気性微生物の膜)が育っているんだ。汚水が薄く流れ落ちる間に、空気中の酸素を取り込んだ微生物が BOD(有機物)を CO₂ と水に分解する。1893 年にイギリスの Salford プラントで世界初の散水濾床が運転を始めて以来、130 年以上使われ続けている古典的なプロセスだね。
🙋
130 年も使われてるってすごい!じゃあ設計はもう完璧で、誰がやっても同じ結果になるんですか?
🎓
いや、そこが面白いところで、設計式は今も流派があるんだ。一番有名なのが NRC 式で、第二次世界大戦中に米陸軍が世界中の駐屯地で大量に石材濾床を造ったときのデータから経験的に整理された E=100/(1+0.4423√(W/(V·F))) という式。F=(1+R)/(1+R/10)² が還流補正で、これが大きいほど効率が上がる。左のスライダーで R を 0 から 4 まで動かしてみて。除去率がじわじわ上がって、必要容積が小さくなるはずだよ。
🙋
本当だ、R=2 にすると容積が半分くらいになりますね。じゃあ R はとにかく大きい方が得じゃないですか?
🎓
それは半分だけ正解。還流は流出水をポンプで上に戻すから、R を上げるほどポンプ動力が R 倍に増えていく。R=4 だと汚水量の 5 倍を循環させていることになる。実務ではポンプ電気代と濾床建設費のトレードオフで R=0.5〜2.0 に落ち着くんだ。あと、媒体の種類でも様子が変わる。「石材」だと深さ 2m が限界だけど、Surfpac とか Flocor みたいなプラスチック媒体だと深さ 6〜12m まで積めて、同じ処理量で 1/3 の敷地で済む。スライダーで媒体と高さを変えてみて。
🙋
なるほど!じゃあ活性汚泥法より良いとこ取りに見えますけど、なんで日本の都市部では活性汚泥が主流なんですか?
🎓
いい質問だね。散水濾床は「省エネ・運転簡単・低コスト」だけど、欠点もはっきりしている。(1) 同じ水質を出すのに敷地が 3〜5 倍要る、(2) 冬場(水温 5°C)に効率が半分以下に落ちる(Velz 補正で 1.035^(5-20)≈0.59)、(3) 悪臭とフィルタフライというハエが大量発生、(4) 窒素・リン除去ができない。だから人口密集の都市では活性汚泥が選ばれ、土地が広く下水道密度が低い小規模自治体や、食品工場の前処理段では散水濾床が今でも現役なんだ。

よくある質問

NRC 式(National Research Council、US Army 1946)は単段散水濾床の BOD 除去効率を予測する経験式で、E = 100 / (1 + 0.4423·√(W/(V·F))) で表されます。E は除去率(%)、W は流入 BOD 負荷(kg/day)、V は濾床容積(m³)、F は還流補正係数 (1+R)/(1+R/10)² です。第二次世界大戦中に米軍駐屯地で大量に建設された石材媒体トリックリングフィルタのデータから整理されたもので、現在も AWWA・Metcalf&Eddy 等の標準教科書で設計式として採用されています。
石材(直径 50-100 mm)は表面積が約 45 m²/m³、空隙率 50% 程度で、伝統的に使われてきましたが重量が大きく深さ 2 m 以下に制限されます。プラスチック媒体(Surfpac、Flocor 等のクロスフロー構造体)は表面積 90-150 m²/m³、空隙率 95% 以上で、深さ 6-12 m の高負荷塔として設計でき、同じ処理量で 1/3 以下の敷地で済みます。NRC 式は石材媒体ベースのため、プラスチック媒体ではより楽観的な効率になり、Eckenfelder 式や Velz 式の補正が必要です。
還流補正係数 F = (1+R)/(1+R/10)² は R=0 で 1、R=1 で 1.653、R=2 で 2.08、R=4 で 2.86 と単調増加します。物理的には、流出水の一部を再分配器に戻すことで (1) 微生物が同じ汚水を複数回処理するチャンスが増え、(2) 水力負荷が均一化して乾燥・短絡を防ぎ、(3) 寒冷時に流入水温を平均化し、結果として効率が上がります。ただし還流ポンプ動力が増えるため、実務では R=0.5〜2.0 を選定するのが一般的です。
メリット:(1) 機械設備が少なく省エネ(曝気不要)、(2) 運転が単純で熟練不要、(3) 流入負荷変動に強い、(4) 余剰汚泥量が少なく濃度が高いため脱水しやすい、(5) 建設費が安い。デメリット:(1) 同じ処理水質を得るのに 3〜5 倍の敷地が必要、(2) 寒冷時に効率が大きく低下、(3) 悪臭・ハエ(フィルタフライ)の発生、(4) 高度処理(窒素・リン除去)には不向き。発展途上国、小規模自治体(人口 5,000 以下)、食品工場の前処理で多く採用されます。

実世界での応用

小規模自治体の下水処理場:人口 5,000〜30,000 の郊外・農村部の処理場では、活性汚泥のような曝気ブロワが要らない散水濾床が選ばれることが多いです。ヨーロッパでは特にアイルランド・スコットランド・北欧の小都市で標準的に採用されており、25-50 mm の石材か Flocor のプラスチック媒体で 2 段直列構成(roughing + polishing)にして BOD 90% 以上の除去を達成しています。冬場の効率低下を見越して容積に 30-50% の余裕を取るのが定石です。

食品工場・乳業・ビール工場の前処理:高 BOD(1,000-5,000 mg/L)を含む工場排水を、公共下水道に放流する前の前処理として散水濾床で BOD を 70-80% 削減し、後段の活性汚泥への負荷を下げる用途です。プラスチック媒体の高負荷塔(深さ 8-10 m、BOD 負荷 2-4 kg/m³/day)でコンパクトに設計でき、敷地節約と運転簡素化の両方を狙えます。デンマークの Carlsberg、アメリカの Anheuser-Busch 等で採用例があります。

窒素硝化(ニトリフィケーション)用後段塔:活性汚泥の二次処理水に対して、アンモニア性窒素を硝酸性窒素に酸化する硝化菌(Nitrosomonas、Nitrobacter)専用の散水濾床を後段に置く構成。BOD が既に低いため有機栄養細菌に追われず硝化菌が定着でき、滞留時間と表面積を確保しやすいプラスチック媒体(150 m²/m³)が好まれます。寒冷地では床覆い(cover)と還流加温を併用して水温を 12°C 以上に保つ設計をします。

発展途上国の分散型処理:大規模下水道インフラを敷けない地域では、コンクリート槽に砂利を詰めただけのシンプルな散水濾床が、ポンプも省略した重力給水で運転されています。インド・東アフリカ・東南アジアの NGO プロジェクトで多数の事例があり、本ツールで概算した「必要敷地と濾床高さ」がそのまま現地施工の見積もりに使われることも多いです。

よくある誤解と注意点

まず最大の落とし穴が、「NRC 式の結果をそのまま信じる」こと。NRC 式は 1946 年に米軍が世界中の駐屯地で集めたデータから経験的に整理した式で、(1) 石材媒体、(2) 国内ドメスティック下水(BOD 200-300 mg/L、易分解性)、(3) 温帯気候、を前提にしています。プラスチック媒体や工業排水(油・界面活性剤・抗菌剤含む)には適用範囲外で、効率が 20-40% も外れることがあります。プラスチック媒体には Eckenfelder 式(k·D^x で表面積補正)や Velz 式(k₂₀·1.035^(T-20) で温度補正)を併用し、最終的には pilot plant でのキャリブレーションが必須です。本ツールはあくまで「初期サイジングの当たりづけ」と思ってください。

次に、「水力負荷を上げても容積を変えれば OK」という誤解。NRC 式上は HL(水力負荷)と OL(有機物負荷)が独立に効くように見えますが、実際には水力負荷 40 m³/m²/day を超えるとバイオフィルムが剥がれる「sloughing」が常時発生し、見かけの除去効率が大きく低下します。逆に水力負荷 2 m³/m²/day を下回ると媒体が乾燥して短絡(チャネリング)が起き、これも効率を下げます。本ツールでは HL>100 で警告を出していますが、実際は 1-40 m³/m²/day の窓の中で選ぶのが安全です。

最後に、「散水濾床は窒素除去もできる」と勘違いするケース。標準的な散水濾床はあくまで「炭素源 BOD の好気酸化」を目的に設計されており、アンモニア性窒素はそのまま流出するか、せいぜい硝化されて硝酸性窒素になるだけです。脱窒(硝酸→窒素ガス)には嫌気環境が必要で、別途無酸素槽(anoxic zone)か嫌気消化を併設しなければなりません。BOD/NH₄ 比が 5 を下回る低 BOD 段では、専用の硝化塔(nitrifying filter)として設計し直す必要があります。「散水濾床=なんでも除去」ではないことを覚えておいてください。

使い方ガイド

  1. 流入BOD濃度(mg/L)と目標放流BOD濃度(mg/L)を入力します。例えば流入250mg/L、目標30mg/Lの場合を設定します。
  2. 処理流量(m³/day)と濾床深さ(m)を指定します。日処理水量100m³/day、深さ2mが標準的な設定です。
  3. シミュレーターはNRC式とVelz温度補正式を用いてBOD除去率と必要濾床容積・面積を自動演算し、水力負荷と有機物負荷を表示します。

具体的な計算例

流入BOD濃度250mg/L、目標放流BOD濃度30mg/L、処理流量120m³/day、濾床深さ2.0mの条件下では、BOD負荷は30kg/dayとなります。NRC式により除去率は87.5%が達成され、必要濾床容積は約13.7m³(濾床面積6.85m²)と算出されます。水力負荷は17.5m³/m²/dayで、有機物負荷は2.19kg/m³/dayとなり、標準的な散水濾床の設計基準範囲内に収まります。

実務での注意点