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気候工学・CCUS

直接大気回収 DAC シミュレーター

大気から直接 CO₂ を回収する Negative Emissions Technology(NET)の設計ツールです。液体溶媒・固体アミン・湿度スイング・極低温分離の 4 方式から選び、年間目標捕集量と空気流量・電力単価を変えると、必要空気流量・年間電力・LCOA(CO₂ 回収単価)・大気 CO₂ 濃度低減効果がリアルタイムで分かります。

パラメータ設定
DAC 技術
吸収効率・再生エネルギー・建設費を自動設定
年間目標捕集 (t-CO₂/年)
プラント全体の年間 CO₂ 捕集目標
空気処理量 Q_air
m³/h
1 ユニットあたりのファン送風量(基準値)
吸収剤再生温度
°C
吸収剤から CO₂ を脱着・再生する温度
電力単価
USD/kWh
再エネ込みの実効電力コスト
CO₂ 貯留可否
ON: 地中貯留 CCS(20 USD/t) OFF: CCU 用途(100 USD/t)
計算結果
CO₂ 取込率 (%)
必要空気流量 (m³/h)
年間電力 (MWh)
LCOA (USD/t-CO₂)
総 CAPEX (M USD)
大気 CO₂ 削減 (ppm)
DAC プラント概念図 — 空気→接触器→再生塔→貯留

大型ファンで大気(425 ppm CO₂)を接触器に送り、吸収剤が CO₂ を選択的に取り込みます。再生塔で熱・湿度・減圧により脱着し、高純度 CO₂ を貯留井/利用先へ送ります。下部のメーターは LCOA を示します。

技術別 LCOA 比較
規模 vs 単位コスト(経済規模効果)
理論・主要公式

$$P_{\text{cap}} = Q_{\text{air}} \cdot [\mathrm{CO_2}] \cdot \eta_{\text{cap}}, \qquad LCOA = \frac{CAPEX/N + OPEX_{\text{annual}}}{M_{\mathrm{CO_2},\text{annual}}}$$

$Q_{\text{air}}$:空気流量、$[\mathrm{CO_2}]\approx 8.34\times10^{-4}$ kg/m³(425 ppm、STP)、$\eta_{\text{cap}}$:取込効率、$N$:耐用年数(25年)、$M_{\mathrm{CO_2},\text{annual}}$:年間捕集量。

$$E_{\text{annual}} = M_{\mathrm{CO_2}} \cdot e_{\text{spec}}, \qquad \Delta[\mathrm{CO_2}]_{\text{atm}} \approx \frac{M_{\mathrm{CO_2},\text{annual}}}{7.8 \times 10^{9}\ \text{t/ppm}}$$

$e_{\text{spec}}$:単位捕集量あたり電力(kWh/t-CO₂)。大気 1 ppm を低減するには約 7.8 Gt-CO₂ の固定が必要(IPCC AR6)。

直接大気回収 DAC — CO₂ 除去技術と LCOA 評価

🙋
最近「DAC」って言葉をニュースで見るんですけど、これって大気から CO₂ を吸い込む機械なんですか?煙突に付ける CO₂ 回収装置と何が違うんでしょう?
🎓
いい質問だ。DAC(Direct Air Capture)はまさに「大気そのもの」を相手にする装置だ。煙突から取るのは PCC と呼ばれて、排ガスの CO₂ 濃度は 5〜15% もある。一方の DAC が相手にする大気は 425 ppm、つまり 0.0425% しかない。同じ 1 トン CO₂ を集めるのに、PCC の 1,000 倍以上の空気を処理しないといけない。だから巨大なファンと吸収剤の塔が並ぶプラントになるんだ。Climeworks の Mammoth(2024、アイスランド)や Occidental の Stratos(2026、米テキサス)が代表例だよ。
🙋
そんなに薄い CO₂ を本当に取り出せるんですか?技術にも種類があるってツールに書いてありましたが、何がどう違うんでしょう?
🎓
大きく 4 方式ある。(1) 液体溶媒(KOH や Ca(OH)₂)— Carbon Engineering 系。吸収効率 70% と高いけど、再生に 800°C 級の熱が必要で電力は 1,500 kWh/t。(2) 固体アミン — Climeworks Orca/Mammoth がこれ。80〜100°C の低温で再生でき、地熱・廃熱と相性が抜群。(3) 湿度スイング — 乾湿だけで脱着するので 800 kWh/t と省エネ。ただし効率は 60% と低め。(4) 極低温分離 — -78°C 以下で CO₂ を凝固させる。純度 99% 以上だが電力は 3,500 kWh/t と一番食う。スライダーで切り替えてみて。LCOA が全然違うのがわかるよ。
🙋
本当だ、液体だと 237 USD/t なのに、極低温にすると一気に LCOA が跳ね上がりますね…。この LCOA っていうのは、要するに CO₂ 1 トン回収するのにいくらかかるか、ってことですか?
🎓
そう、LCOA は Levelized Cost of CO₂ Avoided(CO₂ 回避コスト)で、CAPEX を耐用年数で割って年間 OPEX を足し、年間捕集量で割った値だ。今は世界平均で 400〜600 USD/t、最良で 200 USD/t くらい。これを下げる切り札が 3 つある。第一に再生可能電力を使って電力単価を 0.05 USD/kWh 以下にすること。第二に米国 IRA の 45Q 税控除(CCS なら 180 USD/t、CCU なら 130 USD/t)や EU ETS(90 USD/t 前後)といったクレジット。第三に Mt 規模化による経済規模効果だ。下のグラフ「規模 vs 単位コスト」がそれを示している。
🙋
「CO₂ 貯留可否」のチェックを外すと判定が黄色になるんですけど、これはどういう意味ですか?
🎓
貯留可否は CCS(Carbon Capture and Storage)と CCU(Utilization)のどちらに使うかの分岐だ。CCS は深部塩水層や枯渇油田に圧入して半永久的に固定する。コスト 20 USD/t-CO₂ 程度で、本当の Negative Emissions になる。一方の CCU は CO₂ を合成燃料・コンクリート・ポリマーに使うが、燃料用途だと再放出されるので「カーボンニュートラル」止まりで NET にはならない。しかも分離・輸送・反応器のコストで 100 USD/t-CO₂ かかる。チェックを外すと判定が warn になるのは「CCU だけだと気候緩和効果が限定的」という警告だ。
🙋
最後に素朴な疑問ですけど、年間 1 万トン捕集しても大気 CO₂ は 1.28×10⁻⁶ ppm しか減らないんですね。これで意味あるんですか?
🎓
鋭い。実は IPCC AR6 が示す 1.5°C 経路では年 5〜10 Gt-CO₂ の Negative Emissions が必要で、今の DAC 全体容量はその 100 万分の 1 程度しかない。だから個別プラントは小さくても、世界中で Gt スケールへスケールアップするのが勝負どころなんだ。スライダーで年間捕集量を 1,000,000 t(1 Mt)に上げてみて。必要な空気流量・電力・CAPEX が一気に増えるのが分かる。地球規模で 1 ppm 下げるには 7.8 Gt-CO₂ の固定が必要で、これが気候工学の本当の難しさだよ。

よくある質問

DAC(Direct Air Capture)は大気そのものから化学吸収や物理吸着で CO₂ を取り出す Negative Emissions Technology(NET)です。煙突回収(PCC:Post-combustion Capture)は燃焼排ガスの 5〜15% という濃い CO₂ を対象にしますが、DAC は 425 ppm(0.0425%)という極めて薄い CO₂ を相手にするため、同じ 1 トンを捕集するのに処理しなければならない空気量が 1,000 倍以上になります。そのぶんエネルギー消費が大きく、LCOA(CO₂ 回収単価)も 100〜600 USD/t と高くなります。一方で、過去の累積排出を巻き戻せる、海運・航空・農業など発生源が分散した排出を一括処理できる、という排ガス回収にない強みがあります。
LCOA = (CAPEX/N + 年間 OPEX) / 年間 CO₂ 捕集量 です。CAPEX はプラント建設費、N はプラント耐用年数(一般に 20〜25 年)、OPEX には電力・熱・吸収剤補充・人件費・貯留費が含まれます。本ツールでは耐用年数 25 年、O&M 費は CAPEX の 10%/年、CO₂ 貯留(CCS)の場合 20 USD/t、利用(CCU)の場合 100 USD/t を仮定しています。電力単価とプラント規模で LCOA が大きく変わり、再生可能電力 0.05 USD/kWh で固体アミン方式なら 200〜300 USD/t、米 IRA の 45Q 税控除 180 USD/t を受けると実質コストが大幅に下がります。
(1) 液体溶媒(KOH/Ca(OH)₂、Carbon Engineering 方式)は吸収効率 70% と高いが、再生に 800°C 程度の熱が必要で電力 1,500 kWh/t-CO₂。(2) 固体アミン(Climeworks Orca・Mammoth)は 80〜100°C と低温再生でき低温廃熱が使え、効率 80%。商用化先行で現状最も実用的。(3) 湿度スイング(Lackner、Global Thermostat)は乾湿の切替だけで脱着でき電力 800 kWh/t と省エネだが効率 60% と低い。(4) 極低温分離は CO₂ を昇華点 -78°C 以下で凝固分離し純度 99% 以上、ただし電力 3,500 kWh/t と高い。地熱・産業廃熱が安価な立地(アイスランド・米テキサス)では固体アミン、CO₂ 純度を求める食品・燃料合成用途では極低温、と立地と用途で選びます。
IPCC AR6 によれば、1.5°C 目標と整合する経路では 2050 年までに年間 5〜10 Gt-CO₂、2100 年までに累積 100〜1000 Gt-CO₂ の Negative Emissions が必要で、その大部分を DAC+CCS(DACCS)と BECCS(バイオエネルギー+CCS)で賄うと想定されています。現在の DAC 設備の合計能力は約 10,000 t-CO₂/年と Gt スケールの 100 万分の 1 にすぎず、Climeworks Mammoth(2024、アイスランド、36,000 t/y)、Stratos(2026、米テキサス、500,000 t/y)など Mt スケールへの拡大が進んでいます。本ツールで Gt スケールに必要な空気流量と電力を入力すると、地球規模で必要となるインフラの大きさを実感できます。

実世界での応用

商用 DAC プラント(Climeworks Mammoth・Occidental Stratos):アイスランドの Hellisheidi 地熱地帯に建設された Climeworks Mammoth(2024 年稼働、36,000 t-CO₂/y)は、固体アミン吸着剤と地熱を組み合わせ、回収した CO₂ を玄武岩層に CarbFix 工法で鉱物固定します。米テキサスの Stratos(2026 年稼働予定、500,000 t-CO₂/y)は Carbon Engineering の液体溶媒方式で、Occidental が EOR(石油増進回収)と CCS の両方に活用予定です。本ツールで年間 36,000 / 500,000 t を入力すると、必要な空気流量・電力消費・プラント規模を実機相当でシミュレーションできます。

合成燃料(e-fuel/SAF)の原料:DAC で回収した CO₂ と再生可能水素を Fischer-Tropsch 合成や逆水性ガスシフト反応に通すと、ジェット燃料(SAF:Sustainable Aviation Fuel)やメタノール、e-メタンを作れます。航空業界は ICAO CORSIA 規制下で 2050 年までに SAF 比率引き上げを目指しており、Twelve(米)、Norsk e-Fuel(ノルウェー)、HIF Global(チリ)などが DAC+電解水素の e-fuel パイロットを稼働させています。

炭素クレジット市場(Voluntary Carbon Market):Microsoft、Stripe、Frontier、JPMorgan などのテック・金融大手が DAC ベースの除去クレジットを 1 トン 400〜1,200 USD で前払い購入しています。森林吸収クレジット(10〜30 USD/t)に比べ桁違いに高いものの、永続性(1,000 年以上)と検証可能性が高いため、ネットゼロ宣言を本気で達成したい企業に選ばれています。本ツールの LCOA はこれら市場価格との比較に直接使えます。

温室効果ガスインベントリと統合評価モデル(IAM):IPCC AR6 の 1.5°C 経路(C1〜C3)はすべて何らかの CDR(Carbon Dioxide Removal)に依存しており、IAM(IMAGE、GCAM、MESSAGE など)では DAC を Gt スケールで導入する想定です。本ツールで年間 1,000,000 t(1 Mt)や 100,000,000 t(0.1 Gt)を入力すると、必要な土地・電力・水・CAPEX が現実離れしてくることが分かり、政策議論で「DAC さえあれば」という楽観論への有用な反例になります。

よくある誤解と注意点

まず最大の誤解が、「DAC があれば化石燃料を使い続けてよい」という Moral Hazard 議論です。DAC で 1 トン CO₂ を回収するのに 1,500〜3,500 kWh の電力が必要で、これを石炭火力(800 g-CO₂/kWh)で賄うと 1.2〜2.8 トンの CO₂ を新たに排出してしまい、Negative Emissions どころか Net Positive になります。DAC は必ず追加的な再エネ・地熱・原子力で運用する必要があり、化石燃料削減の代替ではなく補完です。IPCC AR6 も「DAC は削減困難分野(航空・農業・セメント)の残余排出と過去排出のオフセットに限るべき」と明言しています。

次に、「LCOA だけで技術評価できる」という思い込み。LCOA は経済指標ですが、ライフサイクル全体の GHG 収支(LCA:Life Cycle Assessment)が伴わないと無意味です。固体アミンは吸収剤製造時に NOx を放出し、液体 KOH は腐食性で頻繁な配管交換が必要、極低温は冷媒の漏れリスクなど、技術ごとに副次的な環境負荷があります。Net CDR(Net Carbon Dioxide Removal)=総回収量 − ライフサイクル排出量で評価し、Climeworks 公開データでは固体アミン方式の Net CDR 効率は 0.85〜0.90 です。本ツールの値はゴール側の「総回収量」であり、ライフサイクル排出量を引いた実効量はその 85% 程度と見るのが安全です。

最後に、「DAC は Mt スケールへすぐ拡大できる」という楽観。CAPEX は規模効果で 20〜40% 下がりますが、(1) CO₂ 貯留井の許認可(米国 Class VI well)が 6〜10 年かかる、(2) 安定した再エネ電力 100 MW 級が常時必要、(3) アミン吸収剤の世界供給量自体が限られている、という非経済的制約があります。Stratos 500,000 t/y でも 1 ppm を下げる量の 15,000 倍が必要、という現実を本ツールの「大気 CO₂ 削減 ppm」欄で確認してください。気候緩和の柱は依然として「排出削減」であり、DAC はその最後の 10〜20% を埋めるピース、というのが現実的な位置づけです。

使い方ガイド

  1. DAC方式を4種類から選択します。液体溶媒方式(吸収塔、再生温度80-120°C)、固体アミン方式(吸着塔、再生温度60-100°C)、湿度スイング方式(吸着、再生温度40-60°C)、極低温方式(液化分離、再生温度-180°C以下)から用途に応じて選びます
  2. 目標CO₂回収量をkg/年単位で入力します。例えば1000t/年の場合は1,000,000kg/yearと設定します
  3. 吸着材再生温度(°C)とエネルギー単価(USD/kWh)を入力し、シミュレーション実行ボタンをクリックします。必要空気流量・年間電力消費量・LCOA・総CAPEXが自動計算されます

具体的な計算例

年間500t-CO₂回収を目標とする固体アミン方式DAC施設の場合:再生温度80°C、エネルギー単価0.08USD/kWh設定時、必要空気流量は約45,000m³/hとなります。年間電力消費量は約2,400MWh、LCOA(CO₂回収コスト)は約180USD/t-CO₂、総CAPEX投資額は約15M USDと見積もられます。液体溶媒方式で同規模の場合、再生温度100°C時は年間電力3,100MWh、LCOA約220USD/t-CO₂となり、固体アミンより15%高コストです

実務での注意点

  1. 大規模DAC施設(年間1,000t以上)では固体アミン方式が再生温度60-90°C範囲で最適となり、LCOAは150-200USD/t-CO₂に収束します
  2. 極低温方式は再生温度-180°C以下が必須のため液化天然ガス冷熱が必要で、電力原単位が25-35MWh/t-CO₂と高くなります
  3. 湿度スイング方式は砂漠地域(相対湿度20%以下)での運用で効果的ですが、熱帯地域では性能が50%低下するため事前調査が必須です
  4. エネルギー単価が大幅に変動する場合、再生温度を±5°C調整することで年間電力を3-5%削減できます