Clohessy-Wiltshire ランデブー軌道シミュレーター 戻る
宇宙工学・軌道力学

Clohessy-Wiltshire ランデブー軌道シミュレーター

追跡機(チェイサー)が目標衛星(ターゲット)にランデブー・ドッキングするための軌道を設計するツールです。目標高度・初期相対位置・移動時間を変えると、CW 方程式の閉解析解から2インパルス機動の Δv 予算がリアルタイムで分かり、燃料に見合う接近経路を探せます。

パラメータ設定
目標軌道高度
km
ターゲット衛星の円軌道高度(地表からの距離)
初期相対位置 X (radial)
km
地心-ターゲット方向。+で外側(高い軌道)
初期相対位置 Y (along-track)
km
ターゲット速度方向。+で前方
初期相対位置 Z (cross-track)
km
軌道面外方向。独立振動として解く
移動時間
min
第1インパルスから第2インパルスまでの飛行時間
機動タイプ
接近方向の選択(参考表示)
計算結果
目標軌道周期 (min)
平均運動 n (rad/s)
初期距離 (km)
第1機動 Δv₁ (m/s)
第2機動 Δv₂ (m/s)
総 Δv (m/s)
LVLH 座標系 — チェイサー相対軌跡

x = radial(外向き)、y = along-track(速度方向)。黄●が初期位置、緑●がターゲット (原点)、赤線が接近軌跡、青矢印が Δv 方向。

相対距離 vs 時間
Δv vs 移動時間(最適化曲線)
理論・主要公式

$$\ddot{x} - 3n^2 x - 2n\dot{y} = a_x,\quad \ddot{y} + 2n\dot{x} = a_y,\quad \ddot{z} + n^2 z = a_z$$

Clohessy-Wiltshire 方程式。n=ターゲット軌道平均運動 (rad/s)、x=radial、y=along-track、z=cross-track。in-plane (x,y) は coupled、out-of-plane (z) は独立振動。

$$n = \sqrt{\frac{\mu}{a^3}},\quad a = R_\oplus + h,\quad T = \frac{2\pi}{n}$$

μ=398600.4418 km³/s²(地球重力定数)、R_⊕=6378.137 km、h=軌道高度。これから軌道周期 T と n が決まる。

$$\Delta v_1 = -\Phi_{rv}^{-1}\,\Phi_{rr}\,\mathbf{r}_0,\qquad \Delta v_{\text{total}} = |\Delta v_1| + |\Delta v_2|$$

状態遷移行列の閉解析解による2インパルス・ランデブー。第1機動 Δv₁ で初期位置 r₀ から目標 r_f=0 への軌道に乗せ、到達時の残存速度を第2機動 Δv₂ で打ち消す。

Clohessy-Wiltshire 方程式 — 宇宙機ランデブー軌道

🙋
「ランデブー」って、宇宙船が ISS にドッキングするときのあれですよね?あれって、追いつくだけならエンジンふかせばいいんじゃないんですか?
🎓
それがね、軌道力学の一番不思議なところなんだ。地上の感覚で「前を走ってる相手に追いつくならアクセル踏む」と思うけど、宇宙ではアクセル=前方への加速をやると、エネルギーが増えて軌道が膨らみ、結果として遅くなって相手から離れていく。逆に減速すると軌道が下がってスピードが上がる。だから直感だけで操縦するとあっという間に迷子になる。これを線形化して「ちゃんと計算で接近する」ためにできたのが Clohessy-Wiltshire 方程式、略して CW 方程式なんだよ。
🙋
うわ、地上の感覚が全然通じないんですね…。じゃあターゲットを基準にした座標系を作って、その中で相対的に動きを考えるってことですか?
🎓
そう、それが「LVLH 座標系」だ。Local-Vertical/Local-Horizontal の略で、ターゲットに張り付いて一緒に回る座標系。x が地心-ターゲット方向(radial、外向きが正)、y が速度方向(along-track、前方が正)、z が軌道面に垂直(cross-track)。この座標で線形化した運動方程式が、左の式 x''-3n²x-2ny'=ax... なんだ。n はターゲットの軌道平均運動で、地球低軌道なら 0.001 rad/s 前後、軌道周期 90 分のスケールが見える数字だね。
🙋
「2インパルス・ランデブー」って何ですか?スライダーを動かすと第1Δvと第2Δvが別々に出てきますけど…
🎓
いちばん基本的なランデブー戦略だよ。まず第1インパルスで「初期位置から目標位置に届くような軌道」に乗せる。あとは無推力で漂流し、目標位置に着いた瞬間に第2インパルスで残った相対速度をゼロにする。CW 方程式は線形なので、状態遷移行列 Φ(t) を使って Δv₁ = -Φ_rv⁻¹·Φ_rr·r₀ という綺麗な閉解析解になる。これが軌道力学の美しいところで、コンピュータがない時代の Clohessy と Wiltshire (1960) が手計算でこの式を作って、ジェミニ計画のランデブー設計の基礎になったんだ。
🙋
移動時間を変えると総 Δv がぐっと変わりますね。下のグラフで谷がいくつもある…どこで切ればいいんですか?
🎓
いいところに気づいた!実は τ = n·t がπの倍数に近づくと、状態遷移行列が特異(det≈0)になって Δv が発散するんだ。だから「速く着きたい→Δv 大」「ゆっくり着く→Δv 小」だけじゃなく、谷と山が交互に来る。実務では「目標軌道周期の半分〜1周期」付近の安定した谷を選ぶことが多くて、ISS への接近だと典型的に 1〜2 軌道(90〜180 分)かけてフェーズアップ→V-bar 接近→最終ホールド、という多段階で組む。SpaceX Dragon もこのパターンだよ。
🙋
V-bar、R-bar、Natural Drift って何が違うんですか?選ぶ基準が分からないです。
🎓
接近する方向と意図の違いだね。V-bar Hop は along-track(前後)から接近する標準パターン。姿勢が安定して制御しやすい。R-bar Hop は radial(下方)から登っていく接近で、もしエンジン故障で停止しても重力で自然に離れる「フェイルセーフ」性があって、ISS では安全要件として R-bar 接近が指定される機もある。Natural Drift は CW の自由解で楕円を描く「フットボール軌道」を使い、推力ほぼゼロで位相をズラしていく。燃料は最安だけど時間がかかる。HTV のような大型補給機は燃料節約のため Natural Drift と V-bar を組み合わせるのが定石だよ。

よくある質問

Clohessy-Wiltshire (CW) 方程式 (1960年) は、円軌道のターゲット衛星まわりで追跡機の相対運動を線形化した連立微分方程式系です。ターゲットに固定した LVLH 座標系 (x=radial, y=along-track, z=cross-track) で、x'' - 3n²x - 2ny' = ax、y'' + 2nx' = ay、z'' + n²z = az の3式で表されます。短距離(数百 km 以内)でほぼ円軌道なら閉解析解が得られ、ランデブー Δv 予算の高速設計に使われます。ソユーズ-ISS、SpaceX Dragon、JAXA HTV など全てのドッキング機の最終接近フェーズで標準的に採用されています。
状態遷移行列を Φ(t) = [Φ_rr Φ_rv; Φ_vr Φ_vv] と書くと、初期相対位置 r0 から時刻 t_f で目標相対位置 r_f=0 へ到達するための第1インパルスは Δv1 = -Φ_rv^(-1)·Φ_rr·r0 で求まります。到達時の残存速度を第2インパルス Δv2 で打ち消し、総 Δv = |Δv1| + |Δv2| が燃料予算になります。本ツールは τ = n·t_f の関数として行列要素を計算し、in-plane (x,y) は連立2元、out-of-plane (z) は独立に解いて Δv を返します。
V-bar Hop は along-track 方向(y軸、ターゲット速度ベクトル方向)に沿った接近、R-bar Hop は radial 方向(x軸、地心-衛星方向)からの接近です。V-bar は最終接近で標準的に使われ、姿勢が安定し相対速度が制御しやすい一方、ISS のような大型ターゲットでは安全のため R-bar が選ばれることもあります(プルームが船体に当たりにくい)。Natural Drift は推力を使わずターゲット軌道の自由運動で位相差を解消するモードで、燃料節約に最適ですが時間がかかります。
CW 方程式は (1) ターゲット軌道がほぼ円軌道(離心率 e<0.01 程度)、(2) 相対距離が軌道半径より十分小さい(典型的に数百 km 以内)、(3) 短時間(数周回以内)、(4) J2 摂動や大気抗力が無視できる範囲、で有効です。離心率が大きい場合は Tschauner-Hempel 方程式、長距離・長時間では Hill-Clohessy-Wiltshire の高次項や数値積分、低軌道で空気抗力が効く場合は LEO 補正項が必要です。本ツールは LEO の標準ランデブー設計を想定し、200〜2000 km の高度範囲でカバーします。

実世界での応用

ISS への補給ミッション:SpaceX Dragon、Northrop Grumman Cygnus、JAXA HTV/HTV-X、Roscosmos Progress、ESA ATV はいずれも CW 方程式に基づく最終接近フェーズを持ちます。地上で軌道高度と位相差から Δv 予算を立て、ホールドポイント(数 km 手前)まで V-bar または R-bar 接近、その後 200m / 30m / 10m と段階的に距離を詰めながら姿勢・速度を確認します。本ツールが計算する Δv 予算は、ミッション計画段階の最初の感触として実務でも同じ式で求められます。

クルードラゴン/ソユーズの有人ドッキング:NASA Crew Dragon と Roscosmos ソユーズは、自動ランデブー(KURS / DragonEye + LIDAR)で CW 解を実行しつつ、最終 200m 以内はクルーが介入できる「Manual Mode」を持ちます。CW 方程式の予測軌跡と実際の RVD(Rendezvous & Docking)センサ値の差をリアルタイム監視し、許容範囲を超えたら自動 Hold します。設計段階ではこの「逃げる余裕」を含んだ Δv マージンを最終 Δv 予算の 20〜30% 上乗せして確保します。

衛星サービシング・デブリ除去:軌道上の故障衛星の燃料補給や、宇宙ゴミの捕獲・除去(Active Debris Removal)でも CW 方程式が中核です。ターゲットが非協力的(センサや反射器なし)でも、地上レーダで軌道要素を把握すれば CW 解で接近経路を立てられます。Northrop Grumman MEV (Mission Extension Vehicle) は商用衛星 Intelsat へのドッキングをすでに実証済みで、その軌道計算には CW 派生の Yamanaka-Ankersen 解(離心軌道対応)が使われています。

大学・小型衛星のフォーメーション飛行:NASA MMS(4機編隊)、CanX-4/5、PRISMA など、複数衛星が緩い相対距離を保って飛ぶフォーメーション・フライトでも CW 方程式が運用設計の基礎です。CW の自由解(ホモジニアス解)は周期的な楕円(フットボール軌道)を描き、Natural Drift モードでは推力ほぼゼロでこの軌道に乗ることで、燃料を使わずに編隊を維持できます。本ツールの Natural Drift オプションがその挙動を示します。

よくある誤解と注意点

まず最大の落とし穴が、「ターゲット軌道が円軌道」という前提を忘れることです。CW 方程式は離心率 e≈0 を仮定して導出されており、ISS や太陽同期軌道のように e<0.001 のほぼ完全な円軌道では正確ですが、楕円軌道のターゲット(軌道遷移途中の上段ロケットや、深宇宙の周期彗星など)には使えません。e>0.01 で誤差が顕著になり、e>0.1 では Δv 予測が 10〜50% ズレることもあります。離心軌道へのランデブーには Tschauner-Hempel 方程式や Yamanaka-Ankersen 解析解、または数値積分による高精度モデルを使ってください。本ツールは LEO のほぼ円軌道を想定しています。

次に、「移動時間を長くすれば Δv が必ず下がる」と思い込むこと。下の Δv vs 移動時間グラフを見ると分かりますが、τ = n·t が π, 2π, 3π... の近辺で状態遷移行列の行列式 det が 0 に近づき、第1インパルスの大きさが発散します。これは「ちょうど半周・1周・1.5周経つと、初期位置と目標位置の幾何学的関係が特異になる」物理的理由によるもので、CW 解析解の限界ではなく実機でも起こる現象です。Gemini や Apollo の時代から、ランデブー軌道設計者はこの「Δv が爆発する時間」を避けるテーブルを用意していました。実機では複数の谷から最小 Δv の点を選びます。

最後に、「Δv 予算 = 燃料量」と単純に等式にしないこと。本ツールが計算する Δv は理想的な瞬間インパルス(impulsive maneuver)の合計で、実機では (1) 有限燃焼時間によるグラビティロス、(2) 姿勢制御用 RCS の独立消費、(3) ナビゲーション誤差を吸収するリザーブ(典型 20〜30%)、(4) アボート(Approach Abort)用の Δv、を全て加算した「設計 Δv 予算」が真の燃料量になります。さらに比推力 Isp が低い hypergolic スラスタ(Dragon、ATV 等の典型 280 s)と高い電気推進では同じ Δv でも燃料質量が大きく違うため、Tsiolkovsky 式 Δm/m = 1-exp(-Δv/(Isp·g)) で実際の質量予算を立て直してください。

使い方ガイド

  1. 目標軌道高度を300~2000km範囲で設定します。国際宇宙ステーション(ISS)は約408km、静止軌道は約35786kmです。
  2. 初期相対位置(X,Y,Z成分)を入力します。追従機が目標機から距離何km離れた状態から接近開始するかを定義します。
  3. 所要ランデブー時間(分)を指定すると、2インパルス機動の第1Δv・第2Δvがリアルタイム計算されます。
  4. 総Δv予算を確認し、搭載燃料の妥当性を検証します。通常のチェイサー衛星は50~200m/s程度の推進剤を積みます。

具体的な計算例

ISS軌道(高度408km)で初期相対位置X=50km,Y=10km,Z=5kmから120分間で接近する場合:目標軌道周期は92.68分、平均運動n=0.001107rad/sとなります。第1機動Δv₁=8.3m/s、第2機動Δv₂=7.9m/sで総Δv=16.2m/sが必要です。静止軌道(35786km)でのランデブーはn=7.29×10⁻⁵rad/sとなり、同距離では第1Δv₁=0.58m/s程度になります。

実務での注意点