パラメータ設定
h2 をスイープ
リセット
既定値は地球(GM=398600 km³/s²、R=6378 km)。h1=400 km は LEO、h2=35800 km は GEO 近辺で、合計 Δv ≈ 3.85 km/s が標準的な打ち上げシナリオに相当します。
遷移軌道の幾何
中央=中心天体/青円=出発軌道 r1/緑円=目的軌道 r2/黄破線=半楕円遷移軌道/黄丸=Δv1 噴射点/緑丸=Δv2 噴射点
ホーマン効率曲線
横軸=半径比 r2/r1(1〜100、対数)/縦軸=合計 Δv/√(μ/r1)。最大値付近(比 15.6)でホーマン効率は約 0.536。黄丸=現在の半径比。
理論・主要公式
ホーマン遷移は、同じ中心天体を周回する半径 $r_1$ と $r_2$ の二つの円軌道を、二インパルスで結ぶ最小エネルギー経路です。出発・目的の両端で接線方向に噴射し、間を半楕円で結びます。
第一噴射 Δv1(出発円軌道 → 遷移楕円の近点):
$$\Delta v_1 = \sqrt{\frac{\mu}{r_1}}\left(\sqrt{\frac{2 r_2}{r_1+r_2}} - 1\right)$$
第二噴射 Δv2(遷移楕円の遠点 → 目的円軌道):
$$\Delta v_2 = \sqrt{\frac{\mu}{r_2}}\left(1 - \sqrt{\frac{2 r_1}{r_1+r_2}}\right)$$
遷移時間は遷移楕円(半長径 $a=(r_1+r_2)/2$)の半周期:
$$t_{\mathrm{tx}} = \pi\sqrt{\frac{(r_1+r_2)^{3}}{8\,\mu}}$$
$\mu = GM$ は中心天体の重力定数 [km³/s²]、$r_i = R + h_i$ は軌道半径 [km]、$\Delta v$ の単位は [km/s]、遷移時間は [s]。地球では $\mu = 398600$ km³/s²、$R = 6378$ km です。
ホーマン遷移軌道 シミュレーターとは
🙋
通信衛星って地表から GEO まで一気に上がるんですよね? どれくらい燃料が必要なんですか?
🎓
いいところに気づいた——実は「一気に」はあげない。普通は LEO(高度 400 km 付近の駐機軌道)まで上げてから、ホーマン遷移という二回の噴射で GEO に運ぶ。本ツールの既定値(h1=400 km, h2=35800 km)でやってみると、合計 Δv ≈ 3.85 km/s と出る。ロケット方程式の感覚だと、これは案外大きい値だ。
🙋
え、二回も噴射するんですか? 一回でできないんですか?
🎓
原理的にはできるけど、Δv が大きくなる。出発円軌道の接線方向に小さい Δv1(2.40 km/s)を加えると、軌道は近点 r1・遠点 r2 の半楕円に変わる。半楕円を半周して遠点に達した瞬間、また接線方向に Δv2(1.46 km/s)を加えると円速度に乗って GEO 入りだ。二回ぶんを足しても、円軌道→楕円→円軌道の段階的アプローチが理論的に最小なんだ(半径比 11.94 まで)。
🎓
ケプラーの第三法則だ。遷移楕円の半長径は a=(r1+r2)/2 で、楕円の完全周期 T=2π√(a³/μ) の半分だけ運動するから、t_tx = π√(a³/μ)。LEO→GEO の既定値で 5.29 時間と出る。火星遷移(地球→火星)だと a が大きくなって約 8.5 か月、太陽近傍→海王星みたいな極端なケースだと数十年単位だ。スライダーで h2 を増やすと、ツールの右下「ホーマン効率曲線」も合わせて見るといい。
🙋
効率曲線がピークを持つって、どういう意味ですか?
🎓
面白いポイントだ。Δv_total/√(μ/r1) は半径比 R=r2/r1 に対して単調増加ではなく、R≈15.58 で 0.536 のピークを持って、その後ゆっくり下がる。これは「半径比がある値を超えると、双楕円遷移(三回噴射)の方が安くなる」という有名な結果と関係している(双楕円が勝つのは R≈11.94 以上で、中間軌道の取り方次第)。月や火星クラスではホーマンで十分だけど、もっと遠い目的地では別戦略を検討する価値が出てくる。
🙋
中心天体を太陽にしたら、惑星間遷移も計算できますか?
🎓
できる。スライダーで GM を太陽値 1.327×10¹¹ km³/s² にして、R を 0(太陽中心の場合は中心天体半径は使わない物理的便宜上、惑星半径より大きい値にしてもよい)、h1 を地球の太陽距離 1 AU = 1.496×10⁸ km、h2 を火星 2.279×10⁸ km にすると、惑星間ホーマン遷移の Δv が概算できる。ただし実際の惑星間ミッションでは地球・火星それぞれの重力圏脱出/捕獲の Δv も別途必要だから、ここでの値は「太陽中心の遷移ぶん」だけ。本ツールでは GM の上限を 1.5×10⁶ km³/s²(地球の約 4 倍程度、月クラスまで)にして、地球周回ユースケースに最適化している。
よくある質問
ホーマンの「二インパルス」を実機で再現するにはどうしますか?
理想のホーマン遷移は瞬間的なインパルス(無限大推力で時間 0)を仮定しますが、実際のエンジンは有限燃焼時間を持ちます。化学推進ロケットの場合、Δv が数 km/s でも燃焼は数分以下で済むため、軌道周期(数時間〜数日)に対しては「ほぼインパルス」と近似でき、ホーマンの式に補正を入れる形で実用に堪えます。一方、電気推進(イオンエンジン)のように Δv が小さく燃焼が数か月続くケースは低推力連続噴射軌道で扱い、ホーマンとは別の最適化問題になります。本シミュレーターはあくまで化学推進・インパルス近似の標準教程として使うのが適切です。
なぜ半径比 11.94 を超えると双楕円遷移が有利になるのですか?
双楕円遷移は三回の噴射を使い、出発軌道 → 大きい遠点を持つ第一楕円 → 小さい近点を持つ第二楕円 → 目的軌道、という経路です。「大きい遠点」では円軌道速度が小さくなり、軌道変更に必要な Δv が減ります。解析的計算により、目的軌道半径が出発軌道の約 11.94 倍を超えると、双楕円のほうが合計 Δv が小さくなることが示されます(中間遠点を無限遠に取った場合の漸近値)。ただし双楕円は遷移時間が圧倒的に長くなる(ホーマンの倍以上)デメリットがあるため、実運用ではミッション制約を踏まえてトレードオフされます。
出発と目的が同じ平面でない場合(軌道傾斜変更)はどう扱いますか?
ホーマン遷移は二つの円軌道が同一平面(共面)にあることを前提としています。傾斜が異なる場合、別途「平面変更」の Δv が必要で、一般には sin(Δi/2)·2v で見積もります(Δi は傾斜変更角、v はその点の速度)。実用的には Δv1 や Δv2 と組み合わせて「ベクトル的に同時に行う」と燃料節約になり、これを Combined Maneuver と呼びます。GEO 衛星打ち上げでは、赤道に近い射場(ESA のクールー、JAXA の種子島)が傾斜変更ぶんの Δv を節約できるため有利です。本シミュレーターは共面ケース専用で、傾斜変更は対象外です。
月・火星・木星への遷移時間はどれくらいですか?
概算は次の通りです。地球周回 LEO→月(地球中心、r2≈384400 km)は約 5 日。地球→火星(太陽中心、r1=1.0 AU, r2=1.524 AU)は約 8.5 か月、地球→木星は約 2.7 年、地球→海王星は約 30 年です。本シミュレーターは地球周回専用設定(GM=398600 km³/s²)に最適化されていますが、太陽中心ミッションは別途上記の手計算で対応するか、GM を太陽値に変更して半径を AU 単位の km に変換すれば概算が出ます。実際のミッションはスイングバイ(重力アシスト)で遷移時間を短縮することが多く、Voyager や Cassini が典型例です。
実世界での応用
静止衛星打ち上げ(LEO→GTO→GEO): 通信衛星・気象衛星はホーマン遷移で GEO(高度 35786 km)に投入されます。実際は射場から直接 LEO(高度 400 km 前後の駐機軌道)に投入し、そこから Δv1 ≈ 2.4 km/s で GTO(Geostationary Transfer Orbit, 遷移楕円)に乗せ、5.3 時間後の遠点で Δv2 ≈ 1.46 km/s を加えて GEO 入りする手順が標準です。SpaceX Falcon 9、Ariane 5、H-IIA・H3、ULA Vulcan などほぼ全ての商業打ち上げがこのパターンを使います。
惑星間探査機の軌道設計: 地球→火星、地球→金星、地球→木星といった主要惑星間ミッションは、太陽を中心とするホーマン遷移を基本骨格として設計されます。例えば NASA Mars 探査(Mariner〜Perseverance)、ESA Mars Express、ISRO Mangalyaan、JAXA のぞみ・あかつき・はやぶさ2 などは、地球軌道と目標惑星軌道を結ぶホーマン半楕円から出発し、出発時期(打ち上げウィンドウ)と到着姿勢を最適化します。実機では中間に微調整(TCM, Trajectory Correction Maneuver)が入りますが、設計の中核はホーマンの計算です。
ISS 補給・有人ランデブー: SpaceX Dragon、Cygnus、Soyuz、Shenzhou といった ISS 補給機・乗員機は、打ち上げ後に ISS の軌道(高度 ≈ 400 km、ほぼ円軌道)に近づくためにホーマン類似の機動を複数組み合わせます。位相合わせのため遷移時間と相対位置を厳密に計算し、本ツールのような Δv 解析が運用判断の出発点になります。
宇宙望遠鏡・科学衛星の軌道変更: HST のサービスミッション、JWST の L2 ハロー軌道投入、ESA Gaia の L2 投入なども、それぞれの中継軌道間でホーマン類似の二インパルス操作が使われます。L2 のような半安定点への投入では、ホーマンの近似解を出発点として「リアプノフ軌道接近 + 微調整」を組み合わせる設計が標準で、本シミュレーターはその第一段階を学ぶのに適しています。
よくある誤解と注意点
最も多い誤解は、「ホーマン遷移は常に最適」 と思い込むことです。ホーマンは「二インパルス・共面・円軌道間」の枠組みで最小 Δv ですが、半径比が 11.94 を超えると三インパルスの双楕円遷移の方が Δv が少なくて済みます。また平面変更が必要な場合(軌道傾斜が異なるケース)、出発タイミング制約(打ち上げウィンドウ)、スイングバイ(重力アシスト)の利用、エンジンの推力制約など、実機ではホーマン以外の戦略が選ばれることが多々あります。本ツールの出力はあくまで「理想化された Δv 下限の参考値」として扱ってください。
次に多いのが、「インパルス近似が常に正しい」 と考えることです。化学推進では Δv 数 km/s でも燃焼時間が数分以下で、軌道周期に対しては瞬間とみなせます。しかし電気推進(イオンエンジン、ホールスラスタ)のように推力が 100 mN クラスで、Δv 達成に数か月かかるケースでは、軌道全体が螺旋状に変化するため「二点での瞬間噴射」モデルは破綻します。電気推進ミッション(はやぶさ、Dawn、BepiColombo)はホーマン値より大きな Δv が必要ですが、比推力 Isp が一桁高いため燃料は少なく済むという別のトレードオフがあります。
最後に、「中心天体の重力場が完全な点質量」 と仮定するのは限定的です。地球は完全な球ではなく、赤道周辺の膨らみ(J2 摂動)が長期的に軌道平面を歳差させ、太陽光圧・大気抵抗・第三体重力(月・太陽)が無視できない補正を加えます。GEO 衛星の軌道保持(station-keeping)には年間 50 m/s 程度の Δv が必要で、これは本ツールが扱う「投入時の Δv」とは別枠の運用コストです。設計初期の概算には本シミュレーター、詳細解析には STK・GMAT・Orekit のようなプロ用ソフトウェアを使うのが標準です。