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地盤工学

自立式鋼矢板の根入れ深さシミュレーター

控えもアンカーもない自立式鋼矢板が、地盤に深く打ち込まれるだけで土留めとして立つしくみを体験できるツールです。掘削高さ・土の強さ・上載荷重を変えると、主働土圧と受働土圧のモーメント釣り合いから必要な根入れ深さと矢板全長がリアルタイムで分かります。

パラメータ設定
掘削(背面)高さ H
m
矢板が背面の土を押さえる掘削の深さ
土の単位体積重量 γ
kN/m³
乾燥した砂質地盤の重さの目安
内部摩擦角 φ
°
土のせん断強さを表す角度。大きいほど強い地盤
上載荷重 q
kPa
背面地表に載る建機や資材などの荷重
計算結果
主働土圧係数 Ka
受働土圧係数 Kp
理論根入れ深さ d₀ (m)
設計根入れ深さ ×1.3 (m)
矢板の全長 (m)
根入れ比 d/H
自立式矢板の断面図 — 土圧の釣り合い

背面の主働土圧(赤)が矢板を外側へ押し、掘削線より下の受働土圧(青)がそれを受け止めます。矢板はつま先付近のピボットを中心にわずかに回転します。

設計根入れ深さ vs 掘削高さ
根入れ比 vs 内部摩擦角
理論・主要公式

$$K_a=\tan^2\!\left(45-\tfrac{\varphi}{2}\right),\quad K_p=\tan^2\!\left(45+\tfrac{\varphi}{2}\right)$$

ランキン土圧理論による主働土圧係数 Ka と受働土圧係数 Kp。φ は土の内部摩擦角。受働土圧係数は主働土圧係数の数倍大きくなる。

$$\frac{d}{H+d}=\left(\frac{K_a}{K_p}\right)^{1/3}$$

理論根入れ深さ d₀ はつま先まわりの主働・受働土圧モーメントの釣り合いから決まる。H は掘削高さ。

$$d_{\text{des}}=1.3\,d_0,\qquad L=H+d_{\text{des}}$$

設計根入れ深さ d_des は理論値に約30%の安全余裕を加えたもの。矢板全長 L は掘削高さと設計根入れの合計。

自立式矢板の根入れとは

🙋
工事現場でよく見る、地面に並んで打ち込まれた波形の鉄板って「矢板」っていうんですよね。あれって、なんで横の土に押されても倒れないんですか?
🎓
そう、それが鋼矢板だ。インターロック(継手)でつながった鉄板の壁を地面に連続して打ち込んで、土や水をせき止める土留めだね。一番シンプルなのが「自立式」で、アンカーも切梁も使わない。フェンスの杭と同じで、掘削する面より下の固い地盤に深く打ち込むことだけで自分の力で立っているんだ。
🙋
えっ、下に刺さってるだけで立つんですか?背面の土が上の部分を押したら、てこの原理でパタンと倒れそうな気がするんですけど…。
🎓
いい疑問だ。確かに掘削線より上では、背面の土が「主働土圧」で矢板を外へ押す。これは深くなるほど三角形状に増えていく。でも掘削線より下に刺さった部分は、前面の土に押し付けられて「受働土圧」を発揮するんだ。受働土圧は同じ土でも主働土圧の数倍強い。だから矢板はつま先近くのピボット点を中心にほんの少し回転するだけで、転倒モーメントが受け止められる。
🙋
なるほど、下の土の抵抗で踏みとどまるんですね。じゃあ、どのくらい深く打ち込めばいいかはどう決めるんですか?
🎓
つま先まわりのモーメントの釣り合いで決める。背面の主働土圧三角形が作る転倒モーメントと、前面の受働土圧三角形が作る抵抗モーメントが釣り合う深さが、理論上の必要根入れ深さだ。簡易計算だと d/(H+d) = (Ka/Kp)^(1/3) という式になる。左のスライダーで掘削高さ H を上げてみて。必要な根入れ深さがぐんと深くなるのが分かるはずだ。だいたい掘削高さと同じか、それより少し深いくらい必要になる。
🙋
計算で出た深さをそのまま使えばいいんですか?
🎓
いや、実務ではそうしない。簡易解析はあくまで近似だし、実際の地盤は場所ごとにばらつく。だから理論根入れ深さに約30%の安全余裕を足した値を「設計根入れ深さ」にするのが標準だ。矢板の全長は掘削高さ+設計根入れ深さだから、たいてい掘削の深さの2倍以上になる。ただし自立式が経済的なのは掘削高さ5メートルくらいまで。それより深いとアンカーや切梁で支える控え式に切り替えるのが定石だよ。

よくある質問

自立式矢板は、掘削線より下の地盤に十分な深さまで打ち込まれることで、フェンスの杭のように単独で立ちます。背面の土は掘削線より上で主働土圧として矢板を外側へ押しますが、掘削線より下に打ち込まれた部分が前面の土に押し付けられて受働土圧を発揮し、これが転倒モーメントを受け止めます。受働土圧は同じ土でも主働土圧の数倍強いため、十分な根入れがあれば矢板はつま先付近を中心にわずかに回転するだけで安定します。
矢板のつま先まわりのモーメントを取り、主働土圧三角形と受働土圧三角形の釣り合いから求めます。簡易理論では Kp·d³ = Ka·(H+d)³ が成り立ち、d/(H+d) = (Ka/Kp)^(1/3) となります。ここから理論根入れ深さ d₀ が決まり、土の不確かさや簡易解析の近似を補うため、実務ではこれを約30%増しした値を設計根入れ深さとします。矢板の全長は掘削高さ H と設計根入れ深さの合計です。
自立式矢板は構造が単純で施工が速い反面、根入れ深さも矢板に生じる曲げモーメントも掘削高さとともに急激に増えます。一般に実用的なのは掘削高さ5メートル程度までで、それを超えると矢板断面が過大になり不経済です。掘削高さが大きい場合は、アンカーや切梁(ストラット)で支える控え式の土留めに切り替えるのが原則です。
内部摩擦角 φ が大きい強い砂質地盤ほど、主働土圧係数 Ka は小さく受働土圧係数 Kp は大きくなります。両者の比 Ka/Kp が小さくなるため、(Ka/Kp)^(1/3) も小さくなり、必要な根入れ深さは減少します。本ツールの「根入れ比 vs 内部摩擦角」グラフは、φ が増えるにつれて根入れ比 d/H が下がる右下がりの曲線として、この関係を可視化しています。

実世界での応用

建築工事の根切り山留め:ビルの地下や基礎を造るための浅い掘削では、自立式の鋼矢板やシートパイルが土留めとして広く使われます。掘削高さが3〜5メートル程度であれば、切梁を入れずに自立式で済ませることで掘削空間を広く確保でき、重機の作業効率が上がります。掘削が深くなる段階で、必要に応じて切梁式や地盤アンカー式に切り替えます。

河川・海岸の護岸と岸壁:川岸や港湾の護岸、小規模な岸壁では、鋼矢板を連続して打ち込み、背面の土を留めると同時に水の浸入も防ぎます。比較的低い護岸であれば自立式で成立しますが、岸壁のように水深が大きく上載荷重も大きい場合は、控え矢板とタイロッドを併用した控え式が一般的です。

仮設の締切り(コファダム):橋脚の基礎や水中構造物を造るとき、矢板で囲って内部の水を排除する「締切り」を設けます。水位差が小さい締切りであれば自立式で対応でき、施工後は矢板を引き抜いて再利用します。本ツールのような根入れの概算は、必要な矢板長さと施工機械の選定の出発点になります。

地盤工学の学習と概算検討:詳細な弾塑性解析(梁−ばねモデルや有限要素法)を行う前に、本ツールのようなランキン土圧とモーメント釣り合いの古典解で、必要根入れの当たりをつけます。概算と詳細解析が桁違いであれば、土質定数や水位、解析モデルの設定ミスを疑うサニティチェックとしても役立ちます。

よくある誤解と注意点

まず大きな落とし穴が、「地下水を無視した土圧計算」です。本ツールは乾燥した砂質地盤を前提にしていますが、現実の掘削では地下水位が掘削線より高いことがよくあります。水があると、矢板には土圧に加えて静水圧(深さに比例して増える水の圧力)が直接かかり、これは無視できない大きさになります。さらに掘削底面では、背面の高い水位から前面へ水が回り込み、ボイリングやパイピングといった地盤の破壊を引き起こすことがあります。地下水がある現場では、必ず水圧と浸透の検討を別途行ってください。

次に、「ランキン土圧をどんな土にも使える」という思い込みです。ランキン理論は壁面摩擦を無視した単純なモデルで、本ツールも粘着力ゼロの砂質地盤を前提にしています。粘性土(粘土)では粘着力 c が土圧を大きく変え、しかも掘削直後の短期と時間が経った長期で挙動が異なります。軟弱な粘土地盤では、自立式矢板が想定外に大きく変形したり、ヒービング(掘削底面の盛り上がり)を起こしたりします。土質に応じた適切な土圧理論と強度定数を選ぶことが不可欠です。

最後に、「根入れさえ足りていれば安全」ではないという点です。本ツールが扱うのは転倒に対するモーメント釣り合い、つまり根入れ深さの決定だけです。実際の設計では、矢板自体に生じる最大曲げモーメントから断面(矢板の型番)を選び、矢板の許容応力を確認しなければなりません。自立式矢板は掘削高さが増えると曲げモーメントが急激に大きくなり、根入れは足りていても矢板断面が持たない、という状況になりがちです。根入れの安定と矢板の断面強度は、必ずセットで検討してください。

使い方ガイド

  1. 掘削高さH(m)を入力。一般的な山留め工は3~8m。
  2. 地盤の単位体積重量γ(kN/m³)と内部摩擦角φ(度)を設定。砂地盤はφ=35°、粘性土はφ=20°が目安。
  3. 上載荷重q(kPa)を指定。建設機械の荷重は通常10~30kPa。
  4. シミュレーターが主働土圧係数Ka、受働土圧係数Kpを自動計算し、モーメント釣り合いから必要根入れ深さd₀を算出。
  5. 設計根入れ深さ(安全係数1.3倍)と矢板全長を確認して山留め設計に反映。

具体的な計算例

掘削高さH=6m、γ=18kN/m³、φ=32°、q=15kPaの場合:Ka=0.307、Kp=3.255。掘削底面でのモーメント釣り合いからd₀≈3.2m。設計根入れ深さ=3.2×1.3≈4.2m。矢板全長=6+4.2=10.2m、根入れ比d/H=0.70。鋼矢板SS400の曲げ応力度に対する必要断面係数も同時に検証すると、LX400(W=523cm³)で対応可能。

実務での注意点