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構造解析シミュレーター

焼嵌め応力シミュレーター — 厚肉円筒の Lamé 解

中実軸と外側スリーブの焼嵌めで生じる接触圧・スリーブ内のフープ応力・軸内圧縮応力・摩擦伝達トルクをラメの厚肉円筒解で可視化。締代と寸法を変えて応力の余裕を直感的に確認できます。

パラメータ設定
接触界面径 D_b
mm
スリーブ外径 D_o
mm
締代 δ(直径ベース)
mm
ヤング率 E
GPa

中実軸(r_i = 0)、嵌合長 L = 50 mm、摩擦係数 μ = 0.15(鋼-鋼 乾燥)を仮定しています。軸とスリーブは同一材質(同じ E と ν)です。

計算結果
界面接触圧 p
スリーブ内面最大 σ_θ (引張)
軸内応力 σ_r=σ_θ (圧縮)
最大伝達トルク T (μ=0.15)
焼嵌め断面と半径方向応力分布

左半=焼嵌めの断面(青=軸、橙=スリーブ)/右半=σ_r(r)(橙)と σ_θ(r)(青)の半径方向分布、界面 r=r_b で σ_θ がジャンプ

理論・主要公式

同一材質(同じ E と ν)の中実軸(半径 r_i=0 〜 r_b)と外側スリーブ(r_b 〜 r_o)の焼嵌めをラメ(Lamé)の厚肉円筒解で扱います。δ は直径ベースの締代です。

界面接触圧 p(中実軸の場合):

$$p = \frac{E\,\delta}{2\,r_b}\cdot\frac{r_o^2 - r_b^2}{2\,r_o^2}$$

スリーブ内(r_b ≤ r ≤ r_o)の半径応力と円周応力:

$$\sigma_r(r) = \frac{p\,r_b^2}{r_o^2 - r_b^2}\left(1 - \frac{r_o^2}{r^2}\right),\quad \sigma_\theta(r) = \frac{p\,r_b^2}{r_o^2 - r_b^2}\left(1 + \frac{r_o^2}{r^2}\right)$$

スリーブ内面(r=r_b)の最大フープ応力(引張)と中実軸内の一様応力:

$$\sigma_{\theta,\max} = p\,\frac{r_o^2 + r_b^2}{r_o^2 - r_b^2},\qquad \sigma_r = \sigma_\theta = -p\ (\text{shaft})$$

摩擦による最大伝達トルク(μ は摩擦係数、L は嵌合長):

$$T = 2\pi\,\mu\,p\,r_b^2\,L$$

既定値(D_b=100, D_o=150, δ=0.1 mm, E=210 GPa, L=50 mm, μ=0.15)で p ≈ 58.3 MPa、σ_θ,max ≈ 151.7 MPa(引張)、軸内 −58.3 MPa(圧縮)、T ≈ 6.87 kN·m となります。

焼嵌め応力シミュレーターとは

🙋
「焼嵌め」って、要するに軸に外輪を熱で膨らませて被せるだけですよね? なぜ冷えるとそんなに強く固定できるんですか?
🎓
ざっくり言うと、スリーブが冷えて縮もうとするのを軸が止めるんだ。その「縮みたいけど縮めない」量が締代 δ で、これがそっくり界面の弾性ひずみに変わる。結果として界面に接触圧 p が立ち上がる。シミュレーターで「締代 δ」を 0.05 から 0.20 mm に動かしてみて。p のカードがほぼ比例して跳ね上がるだろう? ラメ(Lamé)の厚肉円筒解では p は δ に一次で効くんだ。
🙋
じゃあ締代を大きくすればするほどトルクを伝えられるんですか?
🎓
原理的にはそう。伝達トルクは $T = 2\pi\mu p r_b^2 L$ で、p に比例する。でも見てほしいのは右のグラフの青い線——スリーブ内面のフープ応力 σ_θ だ。締代を上げると p が上がり、σ_θ も同じ比率で跳ね上がる。既定値で σ_θ ≈ 152 MPa だけど、δ を倍の 0.20 mm にすれば σ_θ ≈ 300 MPa を超える。鋼材の許容応力(例えば S45C で 200〜250 MPa 程度)を超えるとスリーブが塑性変形し、最悪は割れる。「伝達トルクとスリーブの破壊」のせめぎ合いなんだ。
🙋
スリーブを厚くすれば応力は下がりますか? 外径 D_o のスライダーを大きくしてみるとどうなりますか?
🎓
いい着眼点。D_o を 150 から 300 mm に動かしてみて。確かに σ_θ が下がるのが見える。でも上昇する量はだんだん鈍くなる。式 $\sigma_{\theta,\max} = p\frac{r_o^2+r_b^2}{r_o^2-r_b^2}$ を見ると、r_o → ∞ で σ_θ,max → p に漸近する。つまりどんなにスリーブを厚くしても、内面のフープ応力は接触圧 p より小さくはならない。実機では D_o ≈ 1.5〜2.0×D_b くらいが「重さと応力のバランスの良いところ」とされる。シミュレーターの既定値 D_o/D_b = 1.5 はその目安なんだ。
🙋
最後に、ヤング率 E を上げ下げするとどうなるんですか? 例えば真鍮(E≈100 GPa)と鋼(E≈210 GPa)の違いとか。
🎓
E は p に比例で効く。同じ締代でも真鍮スリーブなら接触圧は半分、伝達トルクも半分になる。でも実は応力の比 σ_θ/p は形状(r_o, r_b)だけで決まるから、E を変えても「材料の余裕率」の評価は変わらないんだ。だから設計では「同じトルクを伝えるのに必要な締代」が材料で大きく変わると覚えておけばいい。E が小さい材料ほど締代を多めに取らないと p が出ない、というわけだね。

よくある質問

最終的な接触圧と締代の計算はどちらも同じラメの厚肉円筒解で行いますが、組立方法が異なります。圧入は軸方向に油圧プレスで押し込むため、表面に擦り傷が出やすく、締代が大きいと圧入力が膨大になります。焼嵌めはスリーブを 150〜300 °C 程度に加熱して膨張させ、隙間嵌めの状態で軸に通してから冷却するため、組立力ほぼゼロで大きな締代が実現できます。大径・大トルクの伝達には焼嵌めが選ばれます。
必要な熱膨張量は「締代 δ + 組付け余裕(0.05〜0.10 mm 程度)」です。鋼の線膨張係数 α ≈ 12×10⁻⁶ /K から、ΔT = (δ + 余裕)/(α·D_b) で求まります。例えば D_b = 100 mm、δ = 0.10 mm、余裕 0.05 mm なら ΔT ≈ 125 K、つまりスリーブを 150 °C 程度まで加熱します。ただし焼戻し処理材は加熱温度を焼戻し温度より十分低く抑える必要があり、目安として 200 °C を超えないようにします。
本シミュレーターは中実軸(r_i=0)を想定しています。中空軸では一般化されたラメの式 p = (E·δ)/(2·r_b) · (r_o²−r_b²)(r_b²−r_i²)/(2·r_b²·(r_o²−r_i²)) で接触圧を求めます。中空にすると軸側の弾性が増し、同じ締代でも接触圧は下がります。さらに軸内面(r=r_i)に追加のフープ応力(圧縮)が立つため、応力チェックは軸とスリーブの両方で行う必要があります。
高速回転するスリーブ(例:タービンロータ、フライホイール)では遠心力でスリーブが外側へ膨らもうとし、有効締代が減少します。回転数 ω での緩み量は ρω²r_b² のオーダーで増えるため、高速機械では静的な締代を多めに取るか、回転速度に応じて接触圧が消失する「離脱速度」を設計許容回転数より十分高く設定する必要があります。本シミュレーターは静止時の値を計算するため、高速回転を扱う場合は別途遠心力補正が必要です。

実世界での応用

鉄道車輪と車軸:焼嵌めの代表例は鉄道車両の車輪です。車軸に車輪を直接焼嵌めし、キーや溶接なしで巨大な駆動トルクと制動トルクを伝達します。長年の使用で締代がわずかに減少する「クリープ」が課題で、定期的に超音波探傷や圧痕測定で接触状態を確認します。新幹線級の高速車両ではさらに強い締代と精密な公差管理が要求されます。

大型歯車・カップリングの軸取付:製鉄圧延機や船舶推進軸の大歯車は、キー溝による応力集中を避けるためキーレス焼嵌めが多用されます。シミュレーターで計算した最大伝達トルクに 1.5〜2.0 倍の安全率を見込み、必要なら油圧拡張式継手(SKF オイル膜継手など)で組立分解を容易にします。

タービン・ロータの組立:蒸気タービンやガスタービンのディスクを軸に焼嵌めする際は、運転中の遠心力と熱膨張を考慮して設計します。常温で大きな締代を取りすぎると、起動時の熱応力でディスクが割れることがあります。逆に小さすぎると高回転で離脱し、振動が増大します。本シミュレーターの静的応力評価は、こうした設計の出発点です。

軸受外輪のハウジング取付:転がり軸受の外輪をハウジングに焼嵌めする「しまり嵌め」では、接触圧でハウジングが内側に締め付けられ、軸受外輪に余分なフープ応力が立ちます。これが過大だと軸受の内部すきまが減って早期摩耗を招くため、JIS で嵌め合い等級ごとに許容締代が定められています。

よくある誤解と注意点

最も多い誤解は、「焼嵌めは接着のように一様に密着する」と考えてしまうことです。実際には界面の接触圧は理想的には一様ですが、嵌合長 L の端部では「端効果」と呼ばれる応力集中が起こります。スリーブのエッジで σ_θ が中央部の 1.3〜2.0 倍になることがあり、疲労破壊はほぼ必ずこの端部から始まります。設計ではスリーブ端を面取りしたり、応力集中を分散するために嵌合長の端を細くテーパさせる工夫が行われます。シミュレーターはあくまで「中央断面」の応力を示しているとご理解ください。

次に多いのが、締代を直径ベースと半径ベースで取り違えることです。本シミュレーターおよび JIS の公差表記は「直径ベース δ = D_shaft − D_hole」を使います。一方、教科書によっては「半径ベース δ_r = δ/2」で式を立てているものもあり、混在させると 2 倍の見積もり違いになります。図面公差から計算する際は必ず「直径差」を入力し、参考書の式を確認してください。シミュレーターの式は直径ベースで一貫しています。

最後に、「接触圧が降伏応力以下なら安全」とする単純判定の危険性です。フープ応力 σ_θ は引張で、最大は接触圧 p の数倍にもなります。既定値(D_o/D_b = 1.5)では σ_θ,max ≈ 2.6×p になり、p = 100 MPa でも σ_θ,max = 260 MPa に達します。チェックすべきは接触圧そのものではなく、スリーブ内面の σ_θ,max が許容引張応力以下であることです。さらに脆性材料(鋳鉄など)では引張に弱いため、フォン・ミーゼス応力ではなく最大主応力で判定するのが安全側になります。