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塑性加工シミュレーター

スプリングバック シミュレーター — 板金曲げの弾性回復

板金純曲げ後のスプリングバック比 K = 4X³ - 3X + 1(弾性パラメータ X = σ_y·R_i/(E·t))に基づき、除荷後の内側半径 R_f = R_i/K、90° 曲げ時の戻り角 Δθ = 90·(1-K)、および弾性パラメータ X を、降伏応力 σ_y、ヤング率 E、内側曲げ半径 R_i、板厚 t から実時間に計算します。曲げ後(青)と除荷後(赤)の板形状を重ね描きし、K-X 曲線で現在の動作点を可視化することで、スプリングバックのスケーリングを直感的に理解できます。

パラメータ設定
降伏応力 σ_y
MPa
ヤング率 E
GPa
内側曲げ半径 R_i
mm
板厚 t
mm

既定値は σ_y = 300 MPa、E = 210 GPa(軟鋼相当)、R_i = 50 mm、t = 2.0 mm。X が大きいほど(σ_y や R_i 増、E や t 減)K が小さくなり、スプリングバックが大きくなります。X が小さい厚板領域では K ≈ 1 で戻りはほぼゼロ。

計算結果
スプリングバック比 K
復元後半径 R_f
90° 戻り角 Δθ
弾性パラメータ X
板曲げの模式図(曲げ後 → 除荷後)

上部=パンチ(黄)と下部ダイ(灰)の間で板が曲げられる様子。青線=荷重下の板(R_i)、赤線=除荷後にスプリングバックで戻った板(R_f = R_i/K)。赤の方が常に開きが大きく、半径が大きくなります。

K-X 曲線(弾性パラメータと戻り比)

横軸=X = σ_y·R_i/(E·t)、縦軸=K = 4X³ - 3X + 1。X = 0 で K = 1(戻りなし)、X 増加とともに K 単調減少。黄色マーカー=現在の動作点。K = 0.9, 0.7, 0.5 の補助線で「戻り量」をスケール感覚で確認できます。

理論・主要公式

板材の純曲げ後のスプリングバック比は、Boothroyd/Marciniak の簡略式で次式で与えられます:

$$K = \frac{R_i}{R_f} = 4X^3 - 3X + 1, \quad X = \frac{\sigma_y\, R_i}{E\, t}$$

$K$ は除荷後と除荷前の曲率比、$X$ は弾性パラメータ(無次元)、$\sigma_y$ は降伏応力、$R_i$ は内側曲げ半径、$E$ はヤング率、$t$ は板厚。X が小さいほど(厚板・剛性高・降伏応力低)K は 1 に近づき、スプリングバックは小さくなります。

$$R_f = \frac{R_i}{K}, \quad \Delta\theta_{90} = 90^\circ\,(1 - K)$$

除荷後の内側半径 $R_f$ は K の逆数倍に拡大、90° 曲げ時の戻り角 $\Delta\theta$ は K による線形関係で予測できます。実機補正では曲げ角を $\theta/K$ 倍にオーバーベンドします。

$$\sigma = E\,\varepsilon \;(\varepsilon \le \varepsilon_y),\quad \sigma = \sigma_y \;(\varepsilon > \varepsilon_y)$$

仮定した完全弾塑性応力−ひずみ関係:降伏ひずみ $\varepsilon_y = \sigma_y/E$ まで線形、それ以上は塑性流動。実材料では加工硬化があり K は本式より 1 に近づく傾向です。

スプリングバック シミュレーターとは

🙋
プレスブレーキで板金を 90° に曲げたつもりが、工具を離したら 88° くらいに戻っていることがよくあるんですけど、これってなんでですか? 材料が「記憶」してるんでしょうか?
🎓
いい観察だ。それがまさにスプリングバック現象だね。板を曲げると、板厚方向の中立面より外側は引張、内側は圧縮の応力が発生する。塑性変形した部分は永久ひずみとして残るが、表面から中立面に近づくにつれて応力は弾性範囲のままで、工具を離すとその弾性ひずみが解放されて、曲げが少し戻る。本ツール既定値(σ_y=300 MPa、E=210 GPa、R_i=50 mm、t=2.0 mm の軟鋼)では K=0.893、つまり約 11% 戻り、90° 曲げが 80.4° 程度になる計算だ。
🙋
X = σ_y·R_i/(E·t) って書いてあるパラメータが本ツールでは「弾性パラメータ」と呼ばれていますね。これって何を表してるんですか?
🎓
X は「最外層繊維の弾性ひずみ / 板の総ひずみ」のような無次元量だと思えばいい。板厚 t の板を半径 R_i に曲げると、最外層の全ひずみは ε ≈ t/(2R_i+t) ≈ t/(2R_i)、降伏ひずみは ε_y = σ_y/E。X = σ_y·R_i/(E·t) は、これらの比に近い量で、X が大きいほど「弾性領域が広い」=戻りが大きい、X が小さいほど「ほぼ完全に塑性化」=戻りが小さい、ということを示している。例えば本ツールで t を 2 → 8 mm に変えてみると、X が 1/4 になって K が 0.99 に近づき、戻り角がほぼ消えるのが分かるよ。
🙋
高張力鋼板(HSS)はスプリングバックが大きいって聞きますが、なぜですか?
🎓
高張力鋼は降伏応力 σ_y が大きく(590 MPa、780 MPa、1180 MPa など)、ヤング率 E は普通鋼とほぼ同じ(210 GPa)だから、X が普通鋼の 2〜4 倍に跳ね上がる。本ツールで σ_y を 300 → 780 MPa に変えてみると、X=0.0929、K=0.722、Δθ=25° と戻り角が一気に大きくなる。これがあるから、自動車車体の高張力鋼プレスでは「過剰曲げ+金型補正」を細かく計算しないといけない。逆にアルミ合金は σ_y は中程度(250 MPa 程度)でも E が鋼の 1/3(70 GPa)しかないので、これも X が大きくなり戻りが鋼の 3 倍になる傾向がある。
🙋
じゃあ現場ではどう補正するんですか? 何度過剰に曲げればいいのかを毎回計算するんですか?
🎓
実務では大きく分けて 3 つのアプローチがある。(1) 角度補正:目標 90° で K=0.893 なら、パンチ角を 90/0.893 ≈ 100.8° に設定する。本ツールで K を見ればすぐ計算できる。(2) 半径補正:内側半径も R_punch = R_target × K と縮めて加工する。(3) ボトミング/コイニング:パンチをダイ底まで強く押し込み、塑性域を板厚全体に広げてスプリングバックを物理的に抑え込む(圧力 3〜10 倍必要)。本ツールは(1)(2) の理論計算用で、ボトミングの効果は別途モデル化が必要。それでも初期金型設計や、ロット切り替え時の試打ち打数を減らすのには十分役立つよ。

よくある質問

この式は、純曲げを受ける線形弾塑性板に対するモーメント−曲率関係から導かれます。板厚 t、中立面まわりに弾性塑性応力分布があるとき、断面のモーメントは弾性核 c の幅で M = σ_y·b·(t²/4 - c²/3)/2 となり、c = E·t/(2·σ_y·R_i) で決まります。除荷で弾性歪みが戻るとき、曲率変化 Δκ は M·6/(E·b·t³) と等価で、整理するとスプリングバック比 K = R_i/R_f = 4·(σ_y·R_i/(E·t))³ - 3·(σ_y·R_i/(E·t)) + 1 が得られます。Boothroyd や Marciniak らのテキストブックで詳述されています。
理論上、純曲げ・線形弾塑性・加工硬化なしという理想化条件では K ≤ 1(K=1 で戻りゼロ)が成り立ちます。K > 1 になるのは X が負の場合だけで、現実の材料パラメータ(σ_y > 0、E > 0、R_i > 0、t > 0)では起きません。本ツールでは数値安定性のため表示上 K を [0.01, 1] にクランプしています。実際に「曲げ過ぎ戻り(K の見かけ増加)」が報告されるのは、加工硬化や Bauschinger 効果が無視できない場合、または曲げと引張が併用される深絞り工程です。これらは本式の前提を逸脱するため、別途モデル化が必要です。
K = R_i/R_f は曲げ角に依存しない比率なので、任意の曲げ角で使えます。角度の戻り Δθ は曲げ角 θ に比例し、Δθ = θ·(1-K) で計算します。例えば本ツール既定値の K=0.893 で 30° 曲げなら Δθ = 30·0.107 = 3.2°、120° 曲げなら 12.8° の戻りです。本ツールの統計欄では 90° 基準の Δθ を表示していますが、他の角度に換算する場合は Δθ_target = θ_target·(1-K) で計算してください。極端な小角(10°以下)や大角(170°以上)では、純曲げ仮定が崩れて摩擦・接触幾何の影響が大きくなることに注意。
理論値が実測より大きい(K_calc > K_real、つまり計算が戻りを過小評価)パターンが多く、原因は (1) 加工硬化(σ_y が変形中に増加)→ 実 K は理論より小さくなる、(2) Bauschinger 効果(圧縮側に降伏応力が低下)→ 同じく実 K は小さい、(3) ダイ肩部での摩擦が引張モーメントを与え K を 1 に近づける、(4) 板厚が曲げで変化(薄くなる)、(5) 弾性係数の異方性、などです。逆に厚板の薄板曲げでは平面歪みから外れて理論より K が大きいこともあります。実機補正は本ツールの値を初期値として、試打ちで微調整するのが定石です。

実世界での応用

自動車車体パネルのプレス成形:近年の車体には軽量化のため 590〜1180 MPa 級の高張力鋼板や 6000 系アルミが多用されますが、これらは普通鋼に比べてスプリングバックが 2〜5 倍大きく、ボディサイドアウター・センターピラーなどの形状精度が出にくいのが現場の悩みです。本ツールで σ_y を 590 MPa に上げると K=0.79 程度、Δθ=18.5° と一気に補正量が増えるのが分かります。Audi A8 や Tesla Model 3 のセンターピラーでは、ボトミングと多段曲げを組み合わせて最終的に ±0.5° 以内の精度を出しています。

プレスブレーキ折り曲げ加工:板金加工屋の日常作業である V 字曲げや L 字曲げで、目標角と仕上がり角のズレは品質クレームの主要因です。鋼板 t=1.0 mm、σ_y=250 MPa、R_i=1.0 mm の薄板 V 曲げを本ツールで計算すると X=0.00119、K=0.996 でほぼ戻りなし。ところが t=3.0 mm、R_i=8 mm(典型的なエアベンド条件)に変えると X=0.00317、K=0.9905 で 0.85° 程度の戻り。さらに高張力 σ_y=780 MPa にすると K=0.973、戻りは 2.4° と大きくなり、CNC プレスブレーキの角度補正テーブルにこの値を入れて使います。

ロールフォーミングの形状管理:鋼コイルを連続的に折り曲げて成形する太陽光パネルフレームや建材リップ溝形鋼では、各ロールスタンドでの曲げ角が累積した最終断面精度がカギです。各スタンドの曲げ角からスプリングバック比 K を計算し、ロールの曲げ角を 1/K 倍に設計します。本ツールで σ_y=350 MPa(建材一般構造用)、t=2.3 mm、R_i=5 mm の場合 K=0.978、戻り 2° なので、各ロールで 92° 曲げて最終 90° 仕上げ、というオーバーベンド設計をします。

航空機部品の精密曲げ:アルミ合金(2024-T3、7075-T6)の航空機外板リブやストリンガは、E=70 GPa と低弾性かつ σ_y=300〜500 MPa と中程度なので X が大きく、本ツールで σ_y=400 MPa、E=70 GPa、R_i=10 mm、t=1.6 mm にすると X=0.0357(軟鋼の同条件と同じオーダー!)、K=0.893。これに加えて熱処理状態の保持・残留応力管理のため、ストレッチフォーミング(張力を加えながら曲げる)で K を 0.95 以上に追い込みます。本ツールでは張力併用までは扱えませんが、純曲げの限界として参考になります。

よくある誤解と注意点

最も多い誤解は、「K は材料特性で一意に決まる」という思い込みです。本式を見ると分かるとおり、K は σ_y, E, R_i, t の組み合わせ X に依存しており、同じ材料でも曲げ半径や板厚が変われば K は大きく変わります。例えば SPHC 鋼(σ_y=300 MPa、E=210 GPa)でも、R_i=10 mm × t=4 mm の厚板曲げでは X=0.00357 で K=0.989、ほぼ戻りなしですが、R_i=100 mm × t=1 mm の薄板大半径曲げでは X=0.143、K=0.583 と劇的に戻ります。本ツールでスライダーを動かして「材料が同じでも形状で K が全然違う」ことを体感してください。データシートのスプリングバック値はあくまで標準条件下の一例です。

次に多いのが、「オーバーベンドだけで補正できる」という単純化です。実機では (a) パンチ角度を 1/K 倍にする「角度補正」、(b) 内側半径を K 倍にする「半径補正」、(c) パンチをダイ底まで強く押し込む「ボトミング」、の 3 つを使い分けます。角度だけ補正しても半径がズレていれば、最終的に内側 R が目標より大きくなって品質不合格になります。本ツールの R_f 値も参考にして、R_punch = R_target × K で金型半径を設計する習慣をつけてください。また、ボトミング条件ではこの理論式は適用外で、有限要素解析(PAM-STAMP、AutoForm、LS-DYNA)が必要です。

最後に、「平面歪み板の式を 3 次元曲げに流用できる」という拡張ミスです。本ツールは平板の純曲げ(無限長で板幅方向にひずみゼロ)を前提にしているため、絞り深さが板厚に比べて十分小さい場合や、長尺フランジの折り曲げに限って成立します。深絞り(ドローイング)、フランジング、ヘミングなどでは、板面内の引張・圧縮が複雑に組み合わさり、K の理論値からは大きくズレます。本ツールは「プレスブレーキ V 字曲げの角度補正」「ロールフォーミングのスタンド設計」のような単純な純曲げ系で第一近似として使うべきです。複雑成形は必ず実機トライアウトと CAE で詰めましょう。