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流体力学シミュレーター

ストローハル数・渦放出周波数シミュレーター — カルマン渦と共振

円柱周りの流れに現れるカルマン渦の放出周波数を、流速・直径・動粘度から計算。Reynolds 数領域に応じた St を自動で切り替え、構造物固有振動数とのロックオン共振リスクを診断します。

パラメータ設定
流速 U
m/s
円柱直径 D
m
動粘度 ν
m²/s
固有振動数 f_n
Hz

既定値は水(20°C)の円柱周り流れ。動粘度 ν は線形スライダーで、表示は科学記法です。

計算結果
Reynolds 数 Re
ストローハル数 St
渦放出周波数 f
f / f_n(共振比)

ロックオンリスク: 低

円柱周りの流れとカルマン渦列

灰色の円=円柱断面/赤・青の小円=交互に放出されるカルマン渦/左の矢印=上流の流速ベクトル

理論・主要公式

ストローハル数 St は、流体中の物体から放出される渦の周波数を、流速と寸法で無次元化した数です。f は渦放出周波数 [Hz]、D は円柱直径 [m]、U は流速 [m/s]:

$$St = \frac{f\,D}{U}\quad\Longleftrightarrow\quad f = St\,\frac{U}{D}$$

Reynolds 数。ν は動粘度 [m²/s]:

$$Re = \frac{U\,D}{\nu}$$

円柱周りの流れでは、St は Reynolds 数領域でおおむね次のように分類されます(簡略モデル):

$$St(Re) = \begin{cases} 0 & (Re < 47) \\ 0.21\,(1 - 21.2/Re) & (47 \le Re < 250) \\ 0.20 & (250 \le Re < 5\times10^6) \\ 0.27 & (Re \ge 5\times10^6) \end{cases}$$

構造物の固有振動数 f_n に対し、|f − f_n|/f_n < 0.1 のときロックオン共振リスクが高くなります。

ストローハル数・渦放出周波数シミュレーターとは

🙋
煙突や電線が風で「ヒューン」って鳴ったり揺れたりするのって、何が起きてるんですか?風が当たってるだけに見えるんですけど。
🎓
それがまさにカルマン渦の仕業だよ。円柱状のものに横風が当たると、後ろ側で時計回りと反時計回りの渦が交互にポンポンと剥がれていくんだ。剥がれるたびに円柱には左右に押される力が周期的に働くから、揺れたり鳴ったりする。上のシミュレーターで「渦を流す」を押すと、赤と青の渦が千鳥状に流れていく様子が見えるよ。
🙋
渦が剥がれる速さって、どうやって決まるんですか?風が強ければ速く剥がれる、ってだけじゃないですよね。
🎓
いい質問だ。ストローハル数 St っていう無次元数で整理されていて、$St = f\,D/U$ という関係になる。U は流速、D は円柱の直径、f が渦放出の周波数。亜臨界域と呼ばれる広い範囲では St ≈ 0.20 でほぼ一定なんだ。つまり「直径が決まれば、流速に比例して周波数が決まる」というシンプルな世界。例えば直径5cmの円柱に5m/sで風が当たると、$f = 0.20 \times 5/0.05 = 20$ Hz、20回/秒で渦が剥がれる計算になる。
🙋
え、Reynolds 数が変わると St も変わるんですか?スライダーで動粘度や直径を動かすと、結構値が変わりますね。
🎓
そう。Re < 47 では渦は放出されずに後流が定常になる。47 ≤ Re < 250 では Roshko の近似式 $St \approx 0.21(1 - 21.2/Re)$ で増えていって、250 を超えると亜臨界域に入って 0.20 でほぼ一定。さらに Re が $2\times10^5$ を超えると遷移域・超臨界域でまた変化する。実務で扱う風や水の流れはほとんど亜臨界域なので、0.20 を覚えておけばだいたい当たるよ。
🙋
「ロックオンリスク」って表示が出ました。これは何ですか?
🎓
渦放出周波数 f が、構造物自体の固有振動数 f_n に近づくと、流れと構造物の振動が同期して大きく揺れ続ける現象だ。10%以内に近づくと危険信号として警告を出している。タコマ橋の崩壊や、高層ビル・煙突・橋桁・送電線の振動疲労破壊は、多くがこのロックオンが絡んでいる。設計段階で f と f_n を意図的にずらすことが、土木・機械の振動設計の基本なんだ。

よくある質問

使えますが、代表寸法 D の取り方と St の値そのものが形状に依存します。円柱では亜臨界域で St ≈ 0.20、角柱(流れに垂直な辺長を D とする)で約 0.12〜0.13、流線形断面ではより小さくなり場合によっては渦放出が抑制されます。形状ごとに実験データから St の値を引用する必要があります。
St 自体は無次元なので空気でも水でも同じ式が使えます。違いは Reynolds 数の出方で、同じ直径・速度でも空気(ν ≈ 1.5×10⁻⁵ m²/s)の方が水(ν ≈ 1.0×10⁻⁶)より Re が一桁ほど小さくなります。家庭サイズの実験では、空気は層流渦列〜亜臨界、水は亜臨界域に入りやすい傾向があります。
主な対策は3つあります。① 構造物の固有振動数 f_n を設計風速での渦放出周波数 f から十分離す。② ヘリカルストレーキ(らせん状のひれ)を煙突表面に付け、渦放出のスパン方向のコヒーレンスを乱す。③ 制振装置(ダンパー)で減衰を増やす。最も基本は周波数を離すことですが、改修ではストレーキの追加がよく採用されます。
D/U が「流体粒子が物体を通り過ぎる代表時間」を表すからです。渦放出の時間スケール 1/f を D/U で割ったものが St で、これは物体周りの流れ場が幾何相似なら同じ値を取るべき無次元量です。実際、円柱まわりでは広い Reynolds 数範囲で St がほぼ一定になり、これが「相似則」の典型例として扱われます。

実世界での応用

長大煙突・高層ビルの耐風設計:RC造の高い煙突や超高層ビルの円形塔は、設計風速域でカルマン渦による横風振動が問題になります。設計段階で固有振動数 f_n と各風速での渦放出周波数 f を比較し、ロックオンが起きる風速で発散しないか評価します。必要に応じてヘリカルストレーキやチューンドマスダンパーを追加します。

送電線・吊り橋ケーブルの自励振動:送電線の「ギャロッピング」や吊り橋ケーブルの振動には、カルマン渦励振が関与します。タコマ橋(1940)の崩壊は厳密にはねじれフラッタですが、それ以来、橋梁設計では断面形状を風洞試験で評価し、St と f_n の関係から渦励振リスクを定量化する手法が標準化されました。

流量計(渦流量計):配管内に円柱状の渦発生体(ブラフボディ)を置き、放出される渦の周波数 f を圧電センサで計測すると、$U = f\,D/St$ から流速が求まります。亜臨界域では St ≈ 0.2 でほぼ一定なため、ν やρ にあまり依存しない流量計として工業計測で広く使われます。

熱交換器・原子炉燃料棒:多数の円管が並ぶ熱交換器のチューブバンクや、原子炉の燃料集合体では、横流による渦放出が振動・摩耗・疲労破壊の主要因です。設計コードでは管配列ごとに修正された St を用いて渦放出周波数を計算し、管の固有振動数と十分離れていることを確認します。

よくある誤解と注意点

最も多い誤解は、「ストローハル数は常に 0.2 の定数だ」と思い込むことです。確かに広い亜臨界域(おおむね $250 \le Re < 2\times10^5$)では St ≈ 0.20 でほぼ一定ですが、Re < 47 では渦は放出されず、47〜250 では Re とともに上昇し、$2\times10^5$ を超える遷移域でははく離点が後退して St が一時的に大きく揺らぎます。超臨界域で再び 0.27 程度に落ち着くまで、領域ごとの値を意識する必要があります。シミュレーターで動粘度や直径を極端に変えてみると、St の表示が領域ごとに切り替わるのが確認できます。

次に多いのが、「f が f_n と完全に一致しないと共振しない」と考えてしまうことです。ロックオン現象では、ある幅(一般に 10〜30% 程度)の周波数範囲で渦放出が構造物の振動に同期し、風速が変わってもしばらく周波数が固定されたまま大振幅が持続します。本ツールでは |f − f_n|/f_n < 0.1 を警告閾値としていますが、これはあくまで簡易判定で、実機ではより広い範囲を危険視するのが普通です。

最後に、「ロックオン共振の対策=強くすればよい」という発想は危険です。剛性を上げて f_n を高めても、より高い風速で同じ問題が再発するだけです。本質的な対策は ① 設計風速域で f と f_n を十分離す、② ヘリカルストレーキで渦放出のコヒーレンスを乱す、③ ダンパーで減衰比を増やす、の3点です。本シミュレーターの簡易判定はあくまで一次評価であり、実構造物の設計には風洞試験や CFD 解析、振動応答解析を併用する必要があります。