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電力工学シミュレーター

対称分シミュレーター — 三相不平衡の正相・逆相・零相分解

不平衡な三相電圧を、フォーテスキュー法で平衡した3つの対称分(正相・逆相・零相)に分解します。V_a, V_b, V_c の振幅と V_b の位相を変えると、各分の大きさと電圧不平衡率VUFがリアルタイムに更新されます。

三相電圧パラメータ
|V_a| 相a振幅
V
位相は0°固定(基準)
|V_b| 相b振幅
V
|V_c| 相c振幅
V
位相は+120°固定
V_b 位相角
deg
平衡時 -120°
計算式の定数
a = ej120° = -0.5 + j0.866
a² = ej240° = -0.5 - j0.866
a³ = 1, 1+a+a² = 0
計算結果
|V_0| 零相
|V_1| 正相
|V_2| 逆相
VUF 不平衡率
三相電圧フェーザ図 V_a, V_b, V_c
対称分の分解 V_0 / V_1 / V_2
理論・主要公式

零相成分:$$V_0 = \frac{V_a + V_b + V_c}{3}$$

正相成分:$$V_1 = \frac{V_a + a\,V_b + a^2 V_c}{3}$$

逆相成分:$$V_2 = \frac{V_a + a^2 V_b + a\,V_c}{3}$$

電圧不平衡率(NEMA):$$\mathrm{VUF}=\frac{|V_2|}{|V_1|}\times 100\,\%$$

$a=e^{j120^\circ}$(120°回転演算子)、$a^2=e^{j240^\circ}$。平衡時 $V_0=V_2=0$、$V_1$ のみが残ります。

対称分シミュレーターとは

🙋
「対称分」とか「対称座標法」って言葉、電気の教科書でよく見るんですけど、何のために変換するんですか? 直接 V_a、V_b、V_c を扱えばいいような気が…。
🎓
いい質問だ!ざっくり言うと、不平衡な三相系を「平衡した3つの系」の重ね合わせに分解して解く工夫だよ。1918年にC.L.フォーテスキューが導入した方法で、特に故障解析(1線地絡や2線短絡)が一気に楽になる。このシミュレーターで V_c を 200V から 180V に下げてみて。元の3相は不平衡だけど、右側の3つの図を見ると「正相 V_1」「逆相 V_2」「零相 V_0」という3つの平衡分の和になっているのがわかるよ。
🙋
正相と逆相の違いって何ですか? どちらも 120° ずつ離れた3つの矢印に見えるけど…。
🎓
回転の向きが逆なんだ。正相は a→b→c の順で回転する系(通常の電源と同じ)、逆相は a→c→b の逆順で回転する。これがモータにとって致命的で、逆相分が誘導モータに入ると逆向きの磁界が生まれて、制動トルクと過剰発熱の原因になる。だからNEMAでは VUF(=|V_2|/|V_1|)を2%以下に抑える、というガイドラインがあるんだ。1%増えるごとに損失がほぼ倍増する厳しい指標だよ。
🙋
零相は3本とも同じ向きなんですね。これは現場でどう関係するんですか?
🎓
そう、零相は3相が同位相で振れる成分で、和がゼロにならない不平衡を表す。三線式(中性線なし)の配電では零相電流の戻り道がないから、零相分はほぼゼロに保たれる。でも、中性点接地系で1線地絡が起きると大きな零相電流が地絡経路を流れ、これが地絡継電器(OCGR)の動作信号になるんだ。シミュレーターで V_b の振幅だけ下げてみると、V_0 が大きくなって VUF が悪化していくのが見えるよ。

物理モデルと主要な数式

三相不平衡電圧(V_a, V_b, V_c)をフォーテスキューの方法で変換すると、零相 $V_0$、正相 $V_1$、逆相 $V_2$ の3つの対称分が得られます。120° 回転演算子 $a = e^{j120^\circ} = -0.5 + j0.866$、および $a^2 = e^{j240^\circ}$ を用いて以下のように定義されます:

$$V_0 = \tfrac{1}{3}(V_a + V_b + V_c),\quad V_1 = \tfrac{1}{3}(V_a + aV_b + a^2 V_c),\quad V_2 = \tfrac{1}{3}(V_a + a^2 V_b + a V_c)$$

逆変換は $V_a = V_0 + V_1 + V_2$ などで、3 つの対称分の重ね合わせで元の不平衡相電圧を厳密に再構成できます。NEMA電圧不平衡率は $\mathrm{VUF}=|V_2|/|V_1|\times 100\,\%$ で定義されます。

実世界での応用

誘導モータの過熱保護:逆相分 $V_2$ はモータ内部に逆向きトルクと過剰電流を生じさせます。NEMA MG-1 では VUF が 1% を超えると出力を約 90% にディレーティングし、5% 超では運転禁止が推奨されます。本ツールで VUF を実時間で確認できます。

系統故障解析:1線地絡・2線短絡・3線短絡など、不平衡な故障状態を「正相系・逆相系・零相系」の3つの等価回路として独立に解析できるのが対称座標法の威力です。本ツールは電圧の分解部分を可視化します。

保護リレーの設定:地絡継電器(OCGR)や逆相過電流継電器(NSOCR)は零相・逆相電流を整定値として使います。電圧側でも零相過電圧(OVGR)・逆相過電圧で異常検知をします。

三相整流器・インバータの解析:パワーエレクトロニクス機器の入力電流に含まれる高調波・不平衡成分を、対称分で分離して評価します。逆相分は系統側ロスや変圧器の余分な励磁損失の原因になります。

よくある誤解と注意点

第一に、「対称分は実在の電圧ではない」という点。正相・逆相・零相は数学的な分解成分であり、実機の配線をテスタで測っても直接は出てきません。あくまで V_a, V_b, V_c から計算で得られる「等価な3つの平衡系」です。本ツールでもベースになるのは物理的な V_a, V_b, V_c です。

第二に、NEMA VUFとIEEE LVUR・PVURの違い。本ツールでは厳密な対称分基準の VUF=|V_2|/|V_1| を使っていますが、現場では計算が簡単な「最大偏差/平均」(IEEEの LVUR や NEMAの PVUR)も使われます。両者は VUF が小さいときはほぼ同値ですが、大きな不平衡では数倍ずれることがあります。

第三に、零相分の流れる経路を理解すること。Δ結線変圧器の二次側には零相電流は基本的に通せません(環流するため)。Y結線(中性点接地)でないと零相電流が外部回路に出ない、という回路トポロジーの制約があり、保護方式の設計はこれを前提に行います。

よくある質問

はい。V_a=200V∠0°, V_b=200V∠−120°, V_c=180V∠+120° では、V_0=V_2≈6.67V、V_1≈193.3V となり、VUF=6.67/193.3×100≈3.45% です。NEMA MG-1 ではモータの連続運転で 2% 以下が推奨ですので、3.45% はディレーティングが必要なレベルです。
3相が完全に平衡(同振幅・120°ずつ離れている)なら、V_0 と V_2 はゼロになり、V_1 だけが残ります。本ツールで V_a=V_b=V_c=200V、位相 V_b=−120° に設定すると、V_1=200V、V_0=V_2=0、VUF=0% になります。
はい、電流についても同じフォーテスキュー変換が使えます。$I_0=(I_a+I_b+I_c)/3$、$I_1$ と $I_2$ も同様に定義されます。3線式では $I_a+I_b+I_c=0$ なので $I_0=0$ になります。本ツールは電圧の可視化に特化していますが、計算式は電流でも同形です。
三相のうち1相だけ振幅が下がる、あるいは 1 相の位相がずれると、元の系には a→c→b の逆順成分が混入します。これが逆相 V_2 として現れ、モータ内部で逆向き磁界を生じさせます。本ツールで V_b の位相を −120° から −110° にずらすと、V_2 が増えるのが観察できます。