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石油タンク・大気環境

浮屋根タンク リムシール VOC 排出量推定 — API 2517

石油精製・備蓄基地で使われる浮屋根タンク(EFRT/IFRT)から漏れる炭化水素 VOC を、API 2517 のリムシール損失式で年間排出量に換算するツールです。タンク径・シール種別・蒸気圧・風速を変えると排出量と規制適合がリアルタイムで分かり、シール改修や規制対応の事前検討に使えます。

パラメータ設定
タンク径 D
m
屋根形式
外部浮屋根は風の影響を直接受ける
リムシール
機械式一次のみ→液面マウントの順に漏れが減る
蒸気圧 P
kPa
夏季ガソリン RVP は 60〜90 kPa 相当
平均分子量 M_v
g/mol
スループット Q
bbl/年
年間出荷量。引抜き損失に直結する
風速 v
m/s
使用状況
代表流体のプリセット(参考表示)
計算結果
タンク周長 (ft)
リムシール排出 (kg/yr)
引抜き排出 (kg/yr)
総 VOC 排出 (t/yr)
1バレル当 g/bbl
規制適合
浮屋根タンク断面 — リムシール拡散

浮屋根は液面に乗ったまま昇降し、側板との隙間をリムシールが埋めます。風が強いとシールに圧力差が生じ、VOC が大気側へ逃げます。

風速感度 — リムシール排出量 vs 風速
シール種別比較 — 同条件でのリムシール排出
理論・主要公式

$$L_{\text{rs}} = (K_{ra} + K_{rb}\,v^{n})\cdot \frac{P}{P_{\text{atm}}}\cdot \frac{M_v}{100}\quad\text{[lb/ft·yr]}$$

API 2517 のリムシール損失式。K_ra と K_rb はシール種別ごとの係数、v は風速、n=1.5、P は蒸気圧、M_v は分子量。

$$E_{\text{rim}} = L_{\text{rs}}\cdot \pi D\cdot 3.281\cdot 0.4536\quad\text{[kg/yr]}$$

リムシール周長 πD(m→ft 換算 3.281)と単位質量換算 0.4536 をかけ年間 kg に変換。

$$E_{\text{wd}} = 0.0001\,Q\cdot \frac{P}{35},\qquad E_{\text{tot}} = E_{\text{rim}} + E_{\text{stand}} + E_{\text{wd}}$$

引抜き損失 E_wd(Q はバレル/年)と全損失 E_tot。E_stand は EFRT で 0、内部浮屋根・ドームで定数 50 kg/yr。

浮屋根タンク リムシール VOC 排出量推定とは

🙋
石油タンクって、屋根がぷかぷか浮いてるやつがありますよね。あれって、なんでわざわざ屋根を浮かせてるんですか?
🎓
いいところに気づいたね。あれは「浮屋根(フローティングルーフ)」っていって、ガソリンや原油みたいに揮発しやすい液体をためる大型タンクで使う仕組みだよ。固定屋根のタンクだと、液面の上に大きな気相空間があって、昼間あったまるとそこから VOC(揮発性有機化合物)が呼吸のようにスーッと外へ抜ける。これを breathing loss って呼ぶんだ。屋根を液面に乗せちゃえばその気相がなくなるから、損失を 10 分の 1 以下に減らせる。
🙋
なるほど!じゃあ浮屋根にすればもう VOC は出ないってこと?でも左の「リムシール」のスライダーを変えると排出量がガッと変わりますよね?
🎓
そう、ゼロにはならないんだ。浮屋根は側板との間に必ず数 cm の隙間ができるから、そこを「リムシール」で塞ぐ。一次シールだけの古いタンクだと、風で側板側の圧力が下がった瞬間にシールの隙間から VOC が拡散していく。API 2517 の式だと、機械式一次シールは K_ra=6.7 lb/ft·yr もあるのに、液面マウント+二次シールにすると 0.4 まで下がる。風速の指数 v^1.5 もまた効いてくるから、海沿いの基地では風速 8〜10 m/s で排出量が一気に何倍にもなる。
🙋
スループット(年間出荷量)も入力にありますね。あれは何の損失に効くんですか?
🎓
「引抜き損失(withdrawal loss)」だね。製品を払い出すたびに液面が下がると、濡れた側板の内面が大気に露出する。そこに残った薄膜の油が蒸発する分が、年間スループット 1 バレルあたり数十 g 単位で積み上がっていく。蒸気圧が高いガソリンほど、また回転率の高いタンクほど引抜き損失は大きくなる。本ツールでは E_wd = 0.0001Q·(P/35) という線形近似で見積もって、リムシール損失と合算しているよ。
🙋
右上に「規制適合」って出ますけど、25 t/yr って数字はどこから来てるんですか?
🎓
これはあくまで本ツールの目安値で、米国 EPA NESHAP の大規模タンク区分や日本の VOC 排出抑制対象の目安をざっくり 25 t/yr に丸めた数字だよ。実プロジェクトでは、地域条例(カリフォルニア SCAQMD は隙間そのものを制限)、敷地全体の総量規制、季節係数なんかで判定が大きく変わる。だからこのツールは「シールを二次併用にすると排出が何分の一になるか」「風の強い立地だと何倍になるか」という感度を掴むのに使って、最終判断は地域規制と実測で決める、というのが正しい使い方だね。

よくある質問

浮屋根は液面に直接乗っているため、固定屋根タンクのような呼吸損失(breathing loss)はほぼ発生しません。代わりに、屋根と側板の間にある「リムシール」のわずかな隙間からの拡散と、風で生じる差圧によるリムシール損失(rim seal loss)が支配的になります。さらに払出のたびに濡れたタンク壁から蒸発する引抜き損失(withdrawal loss)が加わり、内部浮屋根(IFRT)ではデッキフィッティングからの漏れも上乗せされます。
API 2517 / AP-42 では、リムシール損失を L_rs = (K_ra + K_rb · v^n) · P* · M_v / D で表します。K_ra はシール種別ごとの「無風時係数」、K_rb は「風依存係数」で、機械式一次シールは K_ra=6.7(lb/ft·yr)と大きく、液面マウントでは 0.4 まで下がります。P* は蒸気圧関数(≈P/P_atm)、M_v は分子量、v は周辺の風速(mph または m/s)です。本ツールは kPa と m/s をそのまま代入する簡易形を採用し、API 値と概ね一致する近似解を返します。
EFRT(External Floating Roof Tank)は屋根が大気に直接触れるため、太陽熱と風の影響を強く受けます。一方 IFRT(Internal Floating Roof Tank)は固定屋根の中に浮屋根を入れたもので、デッキレッグ・スプリッタ等のフィッティングが追加損失源になりますが、風の影響は小さくなります。本ツールでは EFRT の「立ち上がり損失(standing loss)」を 0 とし、IFRT とジオデシックドーム型でフィッティング由来の定数 50 kg/yr を加算しています。実機ではフィッティング数で 100〜500 kg/yr 程度変動します。
本ツールに置いた 25 t/yr は、米国 EPA NESHAP Subpart CC や日本の大気汚染防止法における「大規模タンク」の届出・常時測定の目安として一般的に使われる水準を、簡易判定用に丸めた値です。実際には地域条例・州規制・敷地全体のキャップ&トレードで異なります。例えば SCAQMD(カリフォルニア)では Rule 463 でリムシール隙間そのものを ≤3.8 cm²/m 円周長に制限し、東京・神奈川では VOC 総量規制(年間排出量×濃度×時間)で個別に算定します。判定は参考値として運用し、実プロジェクトでは現地規制を必ず確認してください。

実世界での応用

製油所・石油備蓄基地のシール更新検討:直径 40〜80 m の原油・ガソリンタンクが数十基並ぶサイトでは、機械式一次シールから液面マウント+二次シールへの改修で 1 基あたり年間 5〜15 t の VOC を削減できます。本ツールでシール種別を切り替えると、改修前後の比率と経済損失額がリアルタイムで分かるため、改修工事の優先順位付け(高蒸気圧ガソリン → 原油 → ディーゼル)の根拠資料に使えます。

環境影響評価(EIA)の事前検討:新規タンク基地の建設許可申請では、年間 VOC 排出量を AP-42 や API 2517 の式で先に推定し、近隣のオゾン形成寄与や悪臭規制との関係を環境アセスメント報告書に記載します。本ツールはタンク径・屋根形式・流体種別を変えながら最悪条件(夏季蒸気圧上昇+強風)と通常運転条件の差を一画面で比較でき、設計段階の概略評価に向きます。

EPA NESHAP / SCAQMD 対応の社内資料:米国法人を持つ石油元売・トレーダーでは、EPA NESHAP Subpart CC の届出やカリフォルニア SCAQMD Rule 463 の隙間検査結果を毎年提出する必要があります。本ツールで風速感度グラフを生成し、現地測定の風況データと組み合わせれば、規制違反リスクの定量化と是正コスト見積もりが社内 ESG 報告にそのまま使えます。

CFD 詳細解析の事前あたりづけ:大規模タンクでは ANSYS Fluent や OpenFOAM でリムシール周りの拡散・対流場を CFD で解くこともあります。本ツールの解析的推定値は、CFD の質量保存チェック(流入流出バランスが API 式と桁違いになっていないか)と、現実的なメッシュサイズの決定に使えます。CFD が本ツールの 5 倍以上の値を返す場合は、境界条件の風速・拡散係数を疑うサニティチェックになります。

よくある誤解と注意点

まず最大の落とし穴が、「浮屋根にすれば VOC 排出はゼロ」という思い込みです。確かに浮屋根は固定屋根に比べて呼吸損失をほぼゼロにしますが、リムシールと引抜き損失は必ず残ります。特に古い機械式一次シール(K_ra=6.7)のままで、直径 60 m・夏季 RVP 80 kPa のガソリンタンクを運用すると、本ツールでも年間 20 t を超えることがあります。「浮屋根だから大丈夫」は規制対応では通用しません。シール種別と劣化状態を含めた個別評価が必要です。

次に、「風速を年平均値だけで評価する」こと。リムシール損失は v^1.5 の非線形依存があるため、年平均風速 4 m/s で計算しても、強風日(10 m/s)の寄与が実排出量の半分を占めることがあります。AERMET 等のメソ気象データから 1 時間値ヒストグラムを取り、本ツールで離散的に積分するのが望ましい運用です。本ツールの風速感度グラフが急激な右肩上がりになっていることを目視で確認し、暴露条件の幅を社内で共有してください。

最後に、「API 2517 はそのまま全ての流体に使える」と思うこと。API 式は基本的にガソリン・ナフサのような単一・近似的に純物質として扱える炭化水素を念頭に開発されており、混合原油やケミカル品(メタノール・MTBE)に対しては係数補正が必要です。特に MTBE のような高揮発・親水性化合物では、水分凝縮による有効蒸気圧低下を見込まないと過大評価になります。本ツールの「使用状況」セレクトは表示用のラベルだけで、係数自体は固定値です。プロジェクト用途では、流体組成に応じて K_ra / K_rb を補正してください。

使い方ガイド

  1. タンク径(メートル)を入力します。例えば石油備蓄タンクの標準規格40m径を選択すると、周長は約125.7mに換算されます。
  2. 製品の真蒸気圧(kPa)と分子量(g/mol)を設定します。ガソリン(蒸気圧60kPa、MW=100)、軽油(蒸気圧3kPa、MW=280)など石油製品の物性を入力してください。
  3. 年間スループット(bbl/yr)を設定後、API 2517計算式により、リムシール損失と引抜き排出を自動計算します。結果からVOC年間排出量(t/yr)と1バレル当g/bblの数値が得られ、VOC規制基準との適合判定が表示されます。

具体的な計算例

タンク径45m、年間スループット100,000bbl/yr、ガソリン貯蔵を想定します。蒸気圧62kPa、MW=95g/molを入力したとき、API 2517式で計算すると、リムシール周長での排出は約8,500kg/yr、引抜き排出3,200kg/yrが推定されます。総VOC排出は約11.7t/yrとなり、バレル当たり117g/bblです。日本の石油製品運送貯蔵事業における規制基準150g/bbl以下に適合します。

実務での注意点