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建築環境

温熱快適性(PMV-PPD)シミュレーター

「暑い・寒い」を数値化するFangerの温熱快適モデル(ISO 7730)のツールです。空気温度・放射温度・気流・湿度・代謝量・着衣量の6要素を変えると、予測平均申告PMVと予測不満足率PPD、作用温度がリアルタイムで分かり、快適なオフィス・住宅の空調を設計できます。

パラメータ設定
空気温度 t_a
居住者周囲の乾球温度
平均放射温度 t_r
壁・窓・天井から受ける放射の平均温度
気流速度 v
m/s
人体まわりの平均風速
相対湿度 RH
%
代謝量 M
met
活動量。座位1.0/デスクワーク1.2/速歩3.0
着衣量 I_cl
clo
服装の断熱性。夏0.5/冬スーツ1.0/厚着1.5
計算結果
予測平均申告 PMV
予測不満足率 PPD (%)
温冷感
着衣表面温度 t_cl (℃)
作用温度 t_op (℃)
快適判定
温熱環境の6要素 — 人体まわりの可視化

中央の人体まわりに、PMVを決める6要素(空気温度・放射温度・気流・湿度・代謝量・着衣量)を表示します。背景バーと人体の色が温冷感(青=寒い/緑=中立/赤=暑い)を表します。

PMV と空気温度 t_a の関係
PPD と PMV の関係
理論・主要公式

$$PMV=\big(0.303\,e^{-0.036M}+0.028\big)\,L$$

予測平均申告 PMV。M:代謝量 [W/m²]、L:人体の熱負荷(産熱と6つの放熱項の差)[W/m²]。係数は感覚の鈍化を表す。

$$PPD=100-95\,e^{-(0.03353\,PMV^{4}+0.2179\,PMV^{2})}$$

予測不満足率 PPD [%]。PMVの偶数次関数で、PMV=0で最小値5%をとる。

$$t_{op}=\frac{t_a+t_r}{2}$$

作用温度 t_op [℃]。空気温度 t_a と平均放射温度 t_r の平均。快適の目安は |PMV| < 0.5(PPD < 10%)。

温熱快適性(PMV)とは

🙋
同じ部屋にいても「暑い」って言う人と「ちょうどいい」って言う人がいますよね。あの感じ方って、計算で予測できるものなんですか?
🎓
いい質問だね。1970年代にデンマークのFanger教授が、まさにそれを数式にしたんだ。それがPMV——Predicted Mean Vote、予測平均申告だよ。たくさんの人を同じ環境に置いたとき、平均的に何と答えるかを−3(寒い)から+3(暑い)の7段階で予測する。0が「中立=ちょうどいい」。考え方の核は「人体の熱収支」。体が作る熱と、体から逃げる熱がつり合っていれば中立、産熱が多すぎれば暑い、逃げすぎれば寒い、というわけだ。
🙋
なるほど。でも、左のスライダーを見ると温度以外にもいっぱいありますね。放射温度とか着衣量とか…温度だけじゃダメなんですか?
🎓
そこがPMVの面白いところでね。快適さは6つの要素で決まるんだ。環境側が4つ——空気温度、平均放射温度、気流速度、湿度。人体側が2つ——代謝量と着衣量。例えば冬の窓際、空気は24℃でも冷たいガラスから体の熱が放射でどんどん逃げる。だから「平均放射温度」が低いと、同じ空気温度でも寒く感じる。エアコンの設定温度だけ見ていても快適にならない理由はここにあるんだ。
🙋
PPDっていうのも結果に出てきますけど、これはPMVと何が違うんですか?
🎓
PPDはPredicted Percentage of Dissatisfied、予測不満足率。その環境を「不満だ」と感じる人が何%いるかだよ。面白いのは、PMVが完璧に0でもPPDは0にならず、最小でも5%残ること。どんなに頑張っても20人に1人は「暑い」か「寒い」と言うんだ。だから空調の目標は「全員満足」じゃなく「|PMV|<0.5、PPD<10%」、つまり不満9割以下に収めることになる。下のグラフでPMVを動かすと、0を底にしたU字カーブが見えるよ。
🙋
じゃあ、暑いときは設定温度を下げる以外に手はあるんですか?グラフだと放射温度や気流も効きそうですけど。
🎓
そのとおり。例えば夏に少し暑いとき、気流速度を0.1から0.6m/sくらいに上げると、対流での放熱が増えてPMVが下がる。扇風機の併用が効くのはこれだね。逆に冬は、窓に断熱を入れて放射温度を上げれば、空気温度を下げても快適を保てて省エネになる。代謝量も大事で、デスクワークの1.2metと立ち仕事の2.0metでは最適温度が3〜4℃違う。同じオフィスでも、動き回る人と座りっぱなしの人で「ちょうどいい」が違うのは、気のせいじゃないんだ。
🙋
最後にひとつ。着衣量を変えるとガラッとPMVが変わりますけど、これって設計でどう使うんですか?
🎓
クールビズ・ウォームビズがまさにそれだよ。着衣量を夏0.5clo・冬1.0cloと想定すれば、夏は28℃・冬は20℃でもPMVを快適域に保てる、という根拠になる。逆に「夏でもスーツ必須」の職場で冷房を弱めると、着衣量が大きいぶんPMVが+側に振れて不満が増える。PMV計算は、空調設定と服装ルールをセットで考えるための共通言語なんだ。このツールで6要素を1つずつ動かして、どれがどれだけ効くか体感してみてほしい。

よくある質問

PMV(Predicted Mean Vote、予測平均申告)は、多数の人が同じ室内環境にいたときの平均的な温冷感を、−3(寒い)〜0(中立)〜+3(暑い)の7段階尺度で予測した値です。PPD(Predicted Percentage of Dissatisfied、予測不満足率)は、その環境を「暑すぎる」「寒すぎる」と感じて不満を持つ人の割合(%)です。PPDはPMVの関数で、PMV=0でも最小5%の人は不満を持ち、|PMV|<0.5でPPD<10%が快適の目安になります。
PMVは6つの要素で決まります。環境側の4要素が空気温度・平均放射温度・気流速度・相対湿度、人体側の2要素が代謝量(met)と着衣量(clo)です。例えば同じ空気温度でも、窓際で放射温度が低ければ寒く感じ、厚着(着衣量が大きい)なら暖かく感じます。Fangerのモデルはこの6要素を1本の熱収支式にまとめ、人体の熱負荷からPMVを算出します。空調設計では温度だけでなく放射・気流・湿度も同時に管理する必要があります。
代謝量はその人の活動量で、安静座位が1.0met、デスクワークが1.2met、立位の軽作業が1.6〜2.0met、速歩で3.0met前後です。1met=58.15W/m²の人体放熱に相当します。着衣量は0clo(裸)、夏の軽装で0.5clo、長袖シャツ+スラックスで0.7clo、冬のスーツで1.0clo、厚手の冬服で1.5clo以上が目安です。1clo=0.155m²·K/Wの断熱性能を表します。同じ部屋でも作業内容と服装でPMVは大きく変わります。
PMV-PPDは定常状態・空調された室内(オフィス等)を前提とした平均値の指標です。次の場合は精度が落ちます。(1) 自然換気で居住者が窓を開閉し服装を調整できる環境、(2) 急に温度が変わる非定常状態、(3) 局所的な不快(足元の冷え、頭上の放射、ドラフトなど)。また個人差は反映されず、PMV=0でも約5%は不満を持ちます。実務ではPMVに加え、ドラフト率(DR)や上下温度差など局所快適性の指標も併用します。

実世界での応用

オフィスビルの空調設計:事務所建築の空調は、PMVが快適域(|PMV|<0.5、PPD<10%)に入るよう設計されます。設計者は代謝量1.2met(デスクワーク)・着衣量を夏0.5clo/冬1.0cloと想定し、空気温度だけでなく窓の断熱性能(放射温度)や吹き出し風速(気流)を調整します。窓際は放射で寒くなりやすいため、ペリメータゾーンに別系統の空調を設けたり、Low-Eガラスで放射温度の落ち込みを抑えたりします。

クールビズ・ウォームビズの根拠:「夏28℃・冬20℃」という設定温度の指針は、着衣量を夏0.5clo・冬1.0cloに調整すればPMVが快適域に収まる、という計算が裏付けになっています。逆に言えば、服装ルールを変えずに設定温度だけ動かすとPMVが快適域から外れ、不満率が跳ね上がります。PMV計算は空調と服装をセットで議論するための共通言語です。

住宅・店舗の快適性評価:住宅では床暖房や輻射パネルが放射温度を直接上げるため、空気温度が低めでも快適になり省エネにつながります。逆に夏の店舗で冷房を効かせすぎると、軽装の客にはPMVがマイナス側に振れて「寒い」という不満が出ます。客と従業員で着衣量・代謝量が異なる空間では、PMVを両方の条件で確認するのが実務的です。

建築シミュレーション・BEMSとの連携:熱負荷計算ソフトやCFD(数値流体解析)で求めた室内の温度・放射・風速分布を入力すれば、空間内の各点でPMV・PPDを評価できます。建物エネルギー管理システム(BEMS)にPMV制御を組み込み、温度ではなくPMVを目標値にして空調を自動制御する事例も増えています。本ツールは、その基礎となる単点のPMV計算を直感的に確かめるのに使えます。

よくある誤解と注意点

まず多いのが、「空気温度さえ管理すれば快適になる」という誤解です。PMVを決める6要素のうち、空気温度はあくまで1つにすぎません。冬の窓際では空気が24℃でも、冷えたガラス面への放射で体の熱が逃げ、平均放射温度が下がって「寒い」と感じます。逆に夏は、日射を受けた壁や天井からの放射で、設定温度を下げても暑く感じることがあります。エアコンの温度計の数字だけを信じず、放射・気流・湿度も含めて環境を見ることが大切です。

次に、「PMV=0なら全員が満足する」という思い込み。PPDの式が示すとおり、PMVがちょうど0の最適点でもPPDは5%——20人に1人は不満を持ちます。これは個人差(基礎代謝、順応、好み)によるもので、設計でゼロにはできません。だから空調の目標は「全員満足」ではなく「不満を10%以下に抑える(|PMV|<0.5)」になります。「クレームがゼロにならない」のは設計ミスではなく、温熱環境の原理的な限界だと理解してください。

最後に、「PMVはどんな空間でも使える万能指標」ではないという点。PMV-PPDは、定常状態で空調された一様な室内(オフィスなど)を前提に作られたモデルです。自然換気で居住者が窓を開け服装を変えられる環境では、人は能動的に順応するため、PMVは実際より不満を過大評価します(この場合はAdaptiveモデルが使われます)。また、足元だけ冷たい・頭上だけ放射が強いといった局所的な不快はPMVに表れません。実務ではドラフト率(DR)や上下温度差など局所快適性の指標を併用し、PMVを「全身平均の目安」として位置づけることが重要です。

使い方ガイド

  1. 空気温度(℃)、放射温度(℃)、気流速度(m/s)、相対湿度(%)を現場計測値または設計想定値で入力します。例えば、オフィス室内で気温22℃、放射温度20℃、気流0.15m/s、湿度50%の場合を設定します
  2. 代謝率(W/m²)と着衣量(clo)を作業内容に応じて設定します。デスクワークは代謝1.2Met(約70W/m²)、夏季軽装0.5clo、冬季標準装1.0cloが目安です
  3. リアルタイム計算結果からPMV値(-3~+3スケール)とPPD不満足率(%)を確認し、PMVが±0.5以内、PPD10%未満を快適域の目標とします

具体的な計算例

病院手術室設計では、気温22℃、放射温度21℃、気流0.2m/s、湿度45%、医療スタッフ代謝1.3Met、着衣1.2clo(手術着)を入力した場合、PMV=-0.15、PPD=5.2%、作用温度21.5℃が算出されます。この結果は快適域内となり、術者の集中力維持に適した環境です。同じ気温でも気流を0.4m/sに増加させるとPMV=+0.3、PPD=6.8%へ変化し、冷感が若干増します

実務での注意点

  1. 工場の溶炉近傍など放射温度が高い環境では、気温が低くても放射熱の影響でPMVが上昇するため、遮熱板設置により放射温度を低下させることが有効です
  2. 相対湿度が30%以下または70%以上の場合、皮膚の蒸発冷却特性が変化し、PMV計算精度が低下するため、加湿・除湿装置の導入を検討してください
  3. 高齢者施設では代謝が低下(0.9Met程度)し冷感を感じやすいため、若年労働者より0.5~1℃気温を高めに設定する必要があります