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伝熱工学

サーモサイフォン(自然循環ループ)シミュレーター

ポンプを使わずに流体が回り続ける「サーモサイフォン」を設計するツールです。ループ高さ・管内径・加熱量を変えると、密度差だけで生まれる自然循環の流速・温度上昇・駆動圧力がリアルタイムで分かり、受動的な伝熱回路の挙動を探れます。

パラメータ設定
ループ高さ H
m
加熱部と冷却部の高低差
管内径 D
mm
加熱量 Q̇
W
加熱部でループに加える熱量
ループ全長 L
m
配管を一周した総延長
低温側(冷却部)温度 T_cold
冷却部を出る流体の温度
計算結果
自然循環流速 V (m/s)
質量流量 ṁ (kg/s)
温度上昇 ΔT (K)
高温側温度 (℃)
駆動圧力 ΔP (Pa)
レイノルズ数 Re
サーモサイフォン・ループ — 循環アニメーション

下部のヒーターで温まった流体は軽くなってライザー(橙)を上昇し、上部のクーラーで冷えた流体はダウンカマー(青)を下降します。粒子の速さは循環流速 V に比例します。

循環流速 vs ループ高さ H
循環流速 vs 加熱量 Q̇
理論・主要公式

$$V=\sqrt[3]{\dfrac{2\,\beta g H\,\dot Q}{\rho A\,c_p\,K_{total}}}$$

自然循環流速 V [m/s]。「浮力駆動ヘッド = 摩擦損失」と「温度上昇 = 加熱量」の連成を解くと得られる閉形式。β:体膨張係数、H:ループ高さ、Q̇:加熱量、ρ:密度、A:管断面積、c_p:比熱、K_total:総損失係数。

$$\Delta T=\frac{\dot Q}{\dot m\,c_p},\qquad \Delta P=\rho\,\beta\,\Delta T\,g H$$

温度上昇 ΔT [K](ṁ:質量流量)と駆動圧力 ΔP [Pa]。ループは自己調整的で、加熱量を増やすと循環がそれだけ速くなり、ΔT は緩やかにしか上がりません。

サーモサイフォンとは

🙋
「サーモサイフォン」って初めて聞きました。ポンプもないのに流体が勝手に回るって、ちょっと不思議じゃないですか?
🎓
ざっくり言うと「お風呂のお湯が上だけ熱くなる」のと同じ原理を、配管をぐるっと一周つないで使うんだ。下のヒーターで温められた水は膨張して軽くなる。軽い水は上に行きたがるから、片側の管(ライザー)をスーッと上っていく。上のクーラーで冷やされた水は重くなって、反対側の管(ダウンカマー)を下りてくる。これがずっと続くから、外から動力をかけなくても流れが回り続けるんだよ。
🙋
なるほど、軽い側と重い側ができるんですね。でも、その密度の差って小さそうですけど、それで本当に流れるんですか?
🎓
いい疑問だね。確かに水の密度差は数℃で0.1%くらいしかない。でもそれが「ループ高さ H」の分だけ縦に積み重なるのがミソなんだ。高さ3mのループなら、軽い柱と重い柱の重さの差が圧力差 ΔP になる。左の「ループ高さ H」のスライダーを上げてみて。H を高くするほど循環流速 V がぐんぐん上がるのが分かるはずだ。太陽熱温水器でタンクを屋根の集熱器より高く置くのは、まさにこの H を稼ぐためなんだよ。
🙋
じゃあ加熱量をどんどん増やせば、流れも温度上昇もどんどん大きくなるんですか?
🎓
そこが面白いところでね。「加熱量 Q̇」を増やすと確かに流速 V は上がる。でも下の「循環流速 vs 加熱量」グラフを見ると、立ち上がりが立方根のカーブで、だんだん寝てくるだろう? V は Q̇ の3分の1乗にしか比例しない。しかも流れが速くなった分、温度上昇 ΔT のほうはあまり増えないんだ。これを「自己調整」と呼ぶ。熱を多く入れると、ループが自分で循環を速めて熱をさばいてくれる。ポンプ式にはない、サーモサイフォンの賢いところだよ。
🙋
管を太くするのも効くって聞きましたが、なぜですか?流速って細い管のほうが速くなりそうな気もします。
🎓
それはポンプで無理やり押す場合の話だね。サーモサイフォンの駆動力は密度差で決まっていて固定されている。だから流速は「摩擦にどれだけ食われるか」で決まる。細い管は壁面摩擦が大きくて、せっかくの浮力ヘッドをほとんど食いつぶしてしまう。太い管にすれば摩擦損失係数 K_total が小さくなって、同じ駆動力でも速く回せる。実際の太陽熱温水器や自然循環ボイラーで配管が意外と太いのは、この摩擦を減らすためなんだ。
🙋
こんな受動的な仕組み、実際どこで使われているんですか?
🎓
身近なところだと太陽熱温水器、それから変圧器やエンジンブロックの冷却。さらに重要なのが原子力プラントの安全系で、ポンプが止まっても崩壊熱を自然循環で逃がす「パッシブ冷却」に使われている。動く部品がゼロだから、電源が落ちても止まらないのが最大の強みだ。相変化を加えればCPUクーラーのヒートパイプにもなる。地味だけど、止まってはいけない場所ほどサーモサイフォンが選ばれるんだよ。

よくある質問

サーモサイフォンは閉ループ配管で、下部の加熱部で温められた流体は膨張して軽くなり、ライザー(上昇管)を上っていきます。上部の冷却部で冷やされた流体は重くなり、ダウンカマー(下降管)を下っていきます。この上昇側と下降側の密度差が、ループ高さ H にわたって積み重なって「浮力ヘッド」となり、これがポンプの代わりに流れを駆動します。動く部品がないため、外部動力なしで伝熱が成立します。
循環流速は「浮力駆動ヘッド = 配管摩擦損失」と「温度上昇 = 加熱量で決まる熱バランス」の2つの式を同時に満たす点で決まります。流速が分かれば温度上昇 ΔT が決まり、ΔT が分かれば密度差と駆動力が決まる、という相互依存があるため、本ツールは V の初期値から30回ほど反復してこの連成系を解きます。最終的に V = ³√(2βgH·Q̇ / (ρA·cp·K_total)) の形に収束します。
ループ高さ H を高くすると、密度差が作用する距離が伸びて浮力駆動ヘッドが増えるため、循環流速が上がります。管内径 D を大きくすると、流路断面が広がって摩擦損失係数 K_total が小さくなり、やはり流速が上がります。逆に細い管や全長の長いループは摩擦が大きく、流れは遅くなります。太陽熱温水器でタンクを集熱器より高く置くのは、この H を稼ぐためです。
本ツールが扱うのは単相(液体のまま)のサーモサイフォンで、密度差で液体が循環します。ヒートパイプは相変化を伴うサーモサイフォンの一種で、加熱部で液が蒸発し、冷却部で蒸気が凝縮します。蒸発潜熱を運ぶため、同じ寸法でも単相ループよりはるかに大きな熱を低い温度差で輸送できます。CPUクーラーのヒートパイプはこの相変化型の代表例です。

実世界での応用

太陽熱温水器・ソーラーシステム:屋根の集熱器で温まった水が軽くなって上昇し、その上に置いた貯湯タンクへ自然に流れ込みます。タンクを集熱器より高く設置するのは、ループ高さ H を稼いで浮力ヘッドを確保するためです。ポンプも制御もいらない「自然循環式」は、配管が単純で故障要素が少なく、電源のない地域でも使えるため、世界中で広く普及しています。

電気機器・エンジンの冷却:配電用変圧器は、鉄心とコイルで発生した熱を絶縁油の自然循環で外周のラジエータへ運びます(ONAN方式)。古い自動車のエンジン冷却も、ウォーターポンプを持たずシリンダ周りの冷却水の密度差だけで循環させる「サーモサイフォン式」が使われていました。動く部品がないため信頼性が高いのが利点です。

原子力安全系のパッシブ冷却:原子炉では、ポンプや電源が失われても炉心の崩壊熱を逃がし続ける必要があります。最新の受動的安全炉は、炉心とその上方の熱交換器を結ぶ自然循環ループを備え、密度差だけで冷却材を回して崩壊熱を除去します。電源喪失でも止まらないことが、サーモサイフォンが安全系に選ばれる決定的な理由です。

ヒートパイプとエレクトロニクス冷却:相変化を伴うサーモサイフォン(ヒートパイプ)は、加熱部で作動液が蒸発し冷却部で凝縮することで、蒸発潜熱を使って大量の熱を運びます。CPUやGPUのクーラー、ノートPCの薄型ヒートパイプ、人工衛星の熱制御など、小さな温度差で確実に熱を移したい場面で広く使われています。

よくある誤解と注意点

まず多い誤解が、「加熱量を増やせば温度上昇もそのまま増える」というものです。本ツールで加熱量 Q̇ のスライダーを動かすと分かるとおり、Q̇ を2倍にしても温度上昇 ΔT はほとんど増えません。これは循環流速 V が Q̇ の3分の1乗で増えるため、ΔT = Q̇/(ṁ·cp) の分母(質量流量)も一緒に増えて、両者が打ち消し合うからです。サーモサイフォンは「熱を多く入れると自分で循環を速めてさばく」自己調整系であり、ポンプ式の単純な比例関係とは挙動が異なります。

次に、「ループ高さは高ければ高いほど良い」という思い込みです。確かに高さ H を増やすと駆動力が増えて流速は上がりますが、設置スペースや配管コスト、立ち上がり時の安定性とのトレードオフがあります。また、ループ内に空気だまりや非凝縮性ガスが溜まると、その気泡が浮力で上部に居座って流れを止めてしまう「ベイパーロック」が起きます。実機では最高点にエア抜き弁を設け、配管が逆勾配にならないよう連続的に上昇・下降させることが、計算上の H を実際に活かすうえで欠かせません。

最後に、「自然循環は弱いから細かい設計は不要」という油断です。サーモサイフォンの駆動圧力は本ツールの計算でもせいぜい数十〜数百Pa程度と小さく、ポンプ揚程に比べると桁違いに小さいのが実情です。だからこそ、わずかな摩擦損失や局所抵抗(曲がり・弁・継手)が流れを大きく左右します。エルボを減らす、急縮小・急拡大を避ける、管径を十分太くとる、といった配慮が、ポンプ式以上にシビアに効いてきます。本ツールの K_total に含めた最小損失(K≈3)も、実機ではレイアウト次第で容易に増減することを念頭に置いてください。

使い方ガイド

  1. 加熱区間高さ(hNum)を0.5~3.0m範囲で設定し、ヒーターからの熱上昇長さを決定します
  2. 加熱熱量(qNum)を500~50000W範囲で入力し、ループ内の密度差駆動源となる加熱パワーを指定します
  3. 配管直径(dNum)を10~100mm範囲で設定し、流路抵抗と流速に直結する管径を決めます
  4. 総ループ長(lNum)を1.0~10.0m範囲で入力し、摩擦損失計算の基準となる配管全長を定義します
  5. シミュレーション実行後、自然循環流速V、質量流量ṁ、駆動圧力ΔPの値を確認します

具体的な計算例

水冷式太陽熱温水器システムの設計例:加熱区間2.0m、加熱熱量15000W、配管直径32mm、総ループ長6.0mの場合、水の密度差(60℃-20℃間で約23kg/m³)により駆動圧力ΔP≈1.35Paが発生し、自然循環流速V≈0.18m/s、質量流量ṁ≈1.45kg/sが得られます。温度上昇ΔT≈10.3Kとなり、高温側温度は約30.3℃に達します。レイノルズ数Re≈1850となり、層流領域での安定流動が確認されます。

実務での注意点

  1. 配管直径を過度に小さく設定(φ10mm以下)するとレイノルズ数が低下し、実装置の乱流域Re>4000と乖離するため、φ25mm以上を推奨します
  2. 加熱区間高さは冷却区間高さより高く配置することが必須で、高さ差が0.3m未満だと駆動圧力が0.1Pa以下となり実用性が失われます
  3. 銅配管(λ=400W/m・K)では放熱損失が鋼配管(λ=50W/m・K)より大きいため、保温材厚50mm以上の施工が必要です
  4. 氷点下地域ではプロピレングリコール20%混合液(ρ=1040kg/m³)を使用し、計算値から密度を補正する必要があります