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構造力学シミュレーター

チモシェンコ梁シミュレーター — せん断変形を考慮した先端撓み

片持梁の先端撓みを、オイラー・ベルヌーイ理論とチモシェンコ理論で比較。梁長さ・断面高さ・荷重・ヤング率を変えて、短く太い梁でせん断変形が無視できなくなる仕組みを学べます。

パラメータ設定
梁長さ L
m
断面高さ h
mm
先端荷重 P
kN
ヤング率 E
GPa

固定パラメータ: 矩形断面(幅 b = 高さ h の正方形)、ポアソン比 ν = 0.3、せん断補正係数 κ = 5/6。

計算結果
Euler-Bernoulli 撓み δ_EB
Timoshenko 撓み δ_T
せん断寄与率
スレンダネス比 L/h
片持梁の撓み形状

青=Euler-Bernoulli の撓み形状 / 赤=Timoshenko の撓み形状(誇張表示)/左:固定端ハッチ、右:先端荷重 P

理論・主要公式

長さ $L$ の片持梁の先端に集中荷重 $P$ が作用するとき、先端撓みは曲げ寄与とせん断寄与の和で表されます。

オイラー・ベルヌーイ梁の先端撓み(曲げ寄与のみ):

$$\delta_\text{EB} = \frac{P L^3}{3 E I}$$

チモシェンコ梁の先端撓み(曲げ+せん断):

$$\delta_\text{T} = \frac{P L^3}{3 E I} + \frac{P L}{\kappa G A}$$

せん断弾性係数 $G$(ポアソン比 $\nu$):

$$G = \frac{E}{2(1+\nu)}$$

矩形断面 $b \times h$ では $A = bh$、$I = bh^3/12$。せん断補正係数は矩形で $\kappa = 5/6$。スレンダネス比 $L/h$ が小さいほど、せん断寄与率 $\delta_\text{shear}/\delta_\text{T}$ が大きくなります。

チモシェンコ梁シミュレーターとは

🙋
梁の撓みって、教科書だと $\delta = PL^3/(3EI)$ って公式が出てきますよね。でもチモシェンコ梁って別の理論があるんですか?
🎓
それはオイラー・ベルヌーイ理論っていう、曲げ変形だけを考えたモデルだよ。実は梁が変形するときには、曲げに加えて「せん断によるずれ」も起きている。チモシェンコ理論はそのせん断変形まで含めた、より精密な理論なんだ。シミュレーターで青のEBと赤のTimoshenkoを見比べると、後者がほんの少し下に出るのが分かるはず。
🙋
でも、デフォルト設定だとせん断寄与率は0.77%って、めちゃくちゃ小さいですよ?無視しちゃダメなんですか?
🎓
いい質問だ。デフォルトのスレンダネス比 L/h=10 はそこそこ細長い梁だからね。試しに梁長さを 0.20 m くらいに短くして、断面高さを 200 mm くらいに大きくしてごらん。L/h が1を切るような「ずんぐりした梁」になると、せん断寄与率が一気に跳ね上がる。短い梁・太い梁ではせん断が支配的になるんだ。
🙋
あ、本当だ!スレンダネス比が3を切ると寄与率が10%超えますね。実務ではどう判断するんですか?
🎓
経験則として L/h が10より小さい場合はチモシェンコ理論を使うのが安全だ。例えば自動車のサスペンションアームや、橋桁の補剛材、複合材サンドイッチパネル、I形鋼の局所部材なんかは要注意。FEM では「Beam188(ANSYS)」「B31(Abaqus)」みたいに、せん断変形を含む要素を使うのが標準だよ。
🙋
なるほど。「重い短梁: 要 Timoshenko」って黄色の警告も出ますもんね。せん断補正係数 κ ってのは何ですか?
🎓
これは断面内のせん断応力分布が一様でないことを補正する係数だ。本当のせん断応力は中立軸で最大、上下端でゼロの放物線分布なんだけど、平均値で扱うために係数を入れる。矩形なら 5/6、円形なら 9/10、I形は0.4くらい。このシミュレーターは矩形断面に固定して κ = 5/6 を使っているから、まずは「断面形状で値が変わる」とだけ覚えておけば OK。

よくある質問

オイラー・ベルヌーイ理論は「断面は変形後も中立軸に直交し続ける」と仮定するため、せん断応力に対して断面が無限剛性であるとみなしています。実際には断面はせん断によって平行四辺形のようにずれ、その分だけ余分な変位が発生します。この余分な変位がせん断寄与であり、片持梁の場合 PL/(κGA) という形で曲げ寄与に加算されます。短い梁ほどせん断応力が支配的になるため、寄与が大きくなります。
一般的な目安として L/h < 10 ではせん断変形が無視できなくなり、L/h < 5 では支配的な寄与となります。L/h ≥ 20 ならオイラー・ベルヌーイ理論で実用上十分です。ただしヤング率に対するせん断弾性係数の比 E/G が大きい複合材料梁では、より細長い梁でもチモシェンコ理論が必要になります。サンドイッチパネルや積層複合材では特に注意が必要です。
商用 FEM ソフト(ANSYS、Abaqus、Nastran)では、せん断変形を含むチモシェンコ型梁要素が標準です。ANSYS の BEAM188、Abaqus の B31、Nastran の CBEAM はいずれも Timoshenko ベースで、細長い梁から短い梁まで同じ要素で扱えます。逆に古典的なオイラー・ベルヌーイ要素は、明示的に細長梁と分かっている場合のみ使われます。汎用性を考えれば Timoshenko 系を選ぶのが無難です。
非常に重要です。せん断変形を無視するオイラー・ベルヌーイ理論では、特に高次モードの固有振動数を実際より高く予測してしまいます。1次モードでも短い梁では数%の誤差が出ますが、2次・3次モードでは10〜30%の過大評価になることがあります。さらに回転慣性も含めた「Timoshenko 梁理論(完全版)」では、両方の補正を加えることで実験値とよく一致します。タービンブレードや高層建物の振動解析では標準的に Timoshenko 理論が使われます。

実世界での応用

サンドイッチパネル・複合材構造:航空機の翼や船舶のデッキで使われるサンドイッチパネルは、薄い面板で軽量コア材を挟んだ構造です。面板に対しコアのせん断剛性が低いため、見かけは細長くてもせん断変形の寄与が大きくなります。設計時には Timoshenko 理論または高次せん断変形理論で撓みと固有振動数を評価する必要があります。

橋梁・橋桁の設計:I形鋼やボックスガーダーを使った橋桁では、ウェブのせん断変形が長スパン橋でも無視できないことがあります。特に支点近傍の局所応力評価や、活荷重による撓みの正確な予測には、せん断変形を含むモデルが用いられます。鋼橋示方書でも、深さ/スパン比が大きい場合の補正項として明記されています。

機械要素の振動解析:タービンブレード、クランクシャフト、工作機械の主軸など、回転機械の動的解析では Timoshenko 理論が標準です。特に固有振動数の高次モードを正確に求める必要があり、せん断変形と回転慣性の両方を考慮した定式化が使われます。共振回避設計の精度に直結する重要な要素です。

地震応答解析:RC造の柱・梁部材は、短スパン部材では曲げ・せん断連成挙動が顕著です。耐震設計では、せん断変形を含む弾塑性梁要素(多軸ばねモデルなど)を使って、地震時の層間変位や塑性ヒンジの形成を評価します。古典的なオイラー・ベルヌーイ要素では危険側の評価になる恐れがあります。

よくある誤解と注意点

最も多い誤解は、「Timoshenko 理論はマイナーで、実務では Euler-Bernoulli で十分」と思い込むことです。実際には商用 FEM ソフトの梁要素(BEAM188・B31・CBEAM など)は標準で Timoshenko ベースであり、現代の梁解析の主流です。Euler-Bernoulli は細長い梁に限った特殊なケースであり、短い梁・複合材・振動解析では誤った結果を出すため、汎用性を考えれば Timoshenko を選ぶのが正解です。シミュレーターでスレンダネス比を変えながら寄与率を見れば、Timoshenko を「特殊な理論」ではなく「より一般的な理論」と捉え直せるはずです。

次に多いのが、せん断補正係数 κ を「常に 5/6」だと思い込むことです。κ は断面形状に強く依存します。矩形は 5/6 ≈ 0.833、円形は 9/10 = 0.9、薄肉円管は約 0.5、I形断面はウェブ寸法に依存して 0.3〜0.5 程度です。このシミュレーターは矩形断面に固定していますが、実機が I形鋼やパイプ形状の場合は適切な κ を使わないと、せん断寄与を過大または過小に評価してしまいます。断面形状ごとに κ の計算式(Cowper 1966 など)が文献にまとまっているので、設計時には必ず確認してください。

最後に、「曲げ寄与とせん断寄与は完全に独立して加算できる」と単純化しすぎないことです。本シミュレーターでは線形・小変形・等方性材料・矩形断面という理想条件で両寄与を加算していますが、実構造では曲げモーメントとせん断力が連成した二次効果、断面変形(そり)、材料非線形、座屈などが絡んできます。特に短い RC 柱や鋼板せん断破壊では、せん断と曲げの相互作用が破壊形態を決めるため、本シミュレーターの結果はあくまで弾性・線形範囲の「Timoshenko 一次理論」の入口として理解してください。