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建築音響

二重壁 透過損失 TL シミュレーター — 質量-空気-質量共振

二重サッシ窓、防音室の間仕切り、スピーカー筐体などの「2枚の壁+空気層」構造の音響透過損失 (TL) を計算します。面密度・空気層厚・吸音減衰・解析周波数を変えると、質量-空気-質量 (MAM) 共振による低周波ディップと、高周波での大幅な改善量がリアルタイムで確認できます。

パラメータ設定
第1壁面密度 m₁
kg/m²
外側の壁の面密度(石膏ボード12mm≈10、ガラス6mm≈15)
第2壁面密度 m₂
kg/m²
内側の壁の面密度。m₁ と異なる値で共振周波数を分散できる
空気層厚 d
mm
広いほど fMAM が下がり、低周波遮音性能が向上
キャビティ減衰
%
グラスウール等の吸音材充填率。MAMディップを浅くする
解析周波数 f
Hz
単一周波数での TL を評価する解析点
構造架橋係数
スタッド・ボルトによる剛体接続。0=独立スタッド、1=直結
計算結果
第1壁単独TL (dB)
第2壁単独TL (dB)
MAM共振周波数 (Hz)
二重壁 TL (dB)
STC 推定値 (dB)
単壁比改善 (dB)
二重壁断面 — 音波伝搬の可視化

左から入射した音波が外壁→空気層→内壁を通過し、右へ大幅に減衰して透過します。空気層の縞は MAM 共振時の壁振動を示します。

周波数別 TL — 単壁 vs 二重壁
空気層厚別 MAM 共振周波数
理論・主要公式

$$TL_{single} = 20\log_{10}(mf) - 47.4,\quad f_{MAM} = \frac{1}{2\pi}\sqrt{\frac{\rho c^2}{d}\left(\frac{1}{m_1}+\frac{1}{m_2}\right)}$$

m=面密度 (kg/m²)、f=周波数 (Hz)、d=空気層厚 (m)、ρ=空気密度、c=音速。MAM 以上で +12 dB/oct の高速増加。

$$TL_{double} \approx TL_1 + TL_2 + 20\log_{10}(d/d_{ref})\quad (f \gg f_{MAM})$$

MAM 共振より十分高い周波数域では、2枚の単壁 TL と空気層効果が加算され、単壁単独に比べ大幅な改善が得られる。

二重壁の透過損失と質量-空気-質量共振

🙋
防音室をDIYしようと壁を二重にしたんですが、ご近所さんから「低音だけ妙によく聞こえる」と言われました。二重にすれば全部良くなる訳じゃないんですか?
🎓
それはまさに「質量-空気-質量共振 (MAM)」に当たってるね。二重壁って、物理的には「重り (壁1) - バネ (空気) - 重り (壁2)」のばね質量系そのものなんだ。バネ質量系には必ず固有振動数があって、その周波数では2枚の壁が逆相で大きく揺れて、空気層がポンプみたいに音を増幅しちゃう。だからその周波数だけ単壁より遮音性能が悪化する「ディップ」が出るんだよ。
🙋
えっ、二重にしたのに単壁より悪くなる周波数があるってことですか?!その共振周波数はどう計算するんですか?
🎓
公式は fMAM = (1/2π)·sqrt((ρc²/d)·(1/m₁+1/m₂))。ρ=1.225 kg/m³、c=343 m/s、d は空気層厚 (m)、m₁・m₂ は両壁の面密度。例えば石膏ボード 12mm (約10 kg/m²) 二重、空気層 50mm だと fMAM ≈ 100 Hz 付近。ベースの「ドン」がちょうど刺さる帯域だね。デフォルト設定の m=15、d=100mm だと fMAM ≈ 70 Hz と低めで、可聴域の主要部からは外せている。
🙋
じゃあ低周波の MAM ディップを下げるにはどうすればいいんですか?空気層を厚くするのが効きそうですが…
🎓
そう、有効な手は3つ。(1) 空気層 d を厚くする (fMAM ∝ 1/√d なので、d を 4 倍にすると fMAM が半分)。(2) 面密度 m₁, m₂ を大きくする (重い石膏ボードを 2 枚重ねや、鉛シートをサンドイッチ)。(3) キャビティ内にグラスウール等の吸音材を入れる。スライダー「キャビティ減衰」を 0% から 70% に上げると、MAM ディップが浅くなるのが分かると思う。実務では (1)+(3) の組み合わせが最も費用対効果が高いね。
🙋
「構造架橋係数」というスライダーもありますが、これは何ですか?
🎓
これが「flanking」、つまり迂回伝搬の影響をモデル化したもの。二重壁って、両側の壁を支える木製スタッドや金属スタッドで物理的につながってるよね。音はその柱を通って迂回するんだ。計算上は 55 dB 出る壁が実測 40 dB しか出ない、というのはほぼ全てこの flanking が原因。プロの防音室では「独立スタッド (千鳥配置)」や「サウンドアイソレーションクリップ」でこの剛体接続を切る。係数 0 が理想、係数 0.5 が安物 DIY って感じだね。
🙋
よく聞く「STC」って何ですか?このツールでも出てきますが…
🎓
STC (Sound Transmission Class) は、125〜4000 Hz の TL カーブを ISO の参照カーブに当てはめて出す単一数値の遮音等級だよ。住宅の間仕切りで 30〜40、防音室で 50〜60 が目安。本ツールでは簡易的に 125〜2000 Hz の質量則 TL の平均で近似してるけど、実測 STC は MAM ディップやコインシデンス効果で 5〜10 dB 低く出ることが多い。「設計目標 STC +5 dB」で見積もるのが安全だね。

よくある質問

二重壁は「2枚の質量がバネ(空気層)でつながった振動系」と見ることができ、その固有振動数を質量-空気-質量共振 (Mass-Air-Mass resonance, MAM) と呼びます。fMAM = (1/2π)·sqrt((ρc²/d)(1/m₁+1/m₂)) で計算され、典型的な石膏ボード二重壁では 80〜250 Hz 付近に現れます。この周波数では2枚の壁が逆相で大きく振動し、TL が単壁よりむしろ低くなる「ディップ」を作るため、低周波の遮音性能を決める最重要因子です。
MAM共振周波数より十分高い周波数(おおむね 2·fMAM 以上)では、二重壁の TL は単壁の TL に「2枚分の質量効果+空気層効果」が加わり、+12 dB/oct の急峻な増加を示します。例えば 15 kg/m² の石膏ボード 2 枚(合計面密度同じ)で 500 Hz では、単壁約30 dB に対し二重壁では約55 dB と 25 dB 程度高くなります。ただし MAM 共振近傍では逆に 10〜15 dB 低下するディップが出るため、低周波重視の用途では空気層を厚く取って fMAM を下げる設計が必要です。
flanking(迂回伝搬)とは、本来の二重壁経路ではなく、両側のスタッド(柱)・ボルト・配管・天井・床などの構造的な架橋を介して音が回り込む現象です。本ツールの「構造架橋係数」を上げるとこの影響をモデル化しており、係数 0.3 で約9%、0.5 で15% の TL 低下になります。実際の現場では、独立スタッド(千鳥配置)、サウンドアイソレーションクリップ、防振パッキンで剛体接続を断つことで flanking を最小化します。これを怠ると計算上 55 dB の壁が実測 40 dB しか出ない、ということも普通に起こります。
ダクト(マフラー)の透過損失は管路内を伝わる音波が断面急変部で反射する音響インピーダンスの不整合による損失で、(S₂/S₁) のような幾何比に依存します。一方、本ツールが扱う二重壁の透過損失は、空気中の音波が固体壁を振動させ反対側に放射する際の質量則(インピーダンス整合)に基づきます。前者は流体配管・排気系、後者は建築の間仕切り・窓・スピーカー筐体・防音室と用途が異なります。同じ「TL」という用語でも物理的背景が全く別であることに注意してください。

実世界での応用

二重サッシ窓・防音窓:マンションや幹線道路沿いの住宅で、外側既存サッシ+内側内窓の構成が普及しています。ガラス厚 3〜6mm × 2 枚+空気層 50〜100mm で、500 Hz以上では単板比 +15〜20 dB 改善し、騒音感は半分以下に。ただし空気層 50mm 程度では fMAM が 100〜200 Hz に出るため、低音域の遮音は限定的。樹脂サッシ+複層ガラス+空気層 100mm 以上で fMAM を 80 Hz 以下に追いやる設計が高性能品の定番です。

防音室・録音スタジオの間仕切り:「ルーム・イン・ルーム」と呼ばれる完全独立構造で、外壁+空気層 100〜200mm+内壁の二重構造を取ります。両壁のスタッドを物理的に分離する「独立スタッド (double-stud)」や、「弾性クリップ+レジリエントチャンネル」で flanking を断つのが必須。グラスウール 100mm をキャビティに充填することで MAM ディップを 5〜8 dB 浅くできます。一流のレコーディングスタジオでは STC 60〜70 を狙います。

スピーカー筐体・楽器の遮音:密閉型エンクロージャや低音用バスレフ箱の壁を、MDF 二重張り+制振シート+空気層充填材で構成することで、内部音が外側に漏れることを抑え、同時に箱鳴り(パネル共振)を低減します。サブウーファーでは fMAM を可聴域下限の 20 Hz 以下に追いやるため、極厚 MDF(30〜40mm)と狭い空気層の組み合わせを取ります。

マンション床・天井の遮音改修:上階の足音や生活音対策として、既存の RC スラブ+空気層+二重天井(吊り天井)の構成で軽量床衝撃音 LL を改善します。空気層は 100〜250mm が一般的で、内部にグラスウールやロックウールを充填。注意点は「太鼓現象 (drumming)」で、二重天井がかえって低音を増幅することがあり、これも本質的には MAM 共振の現れです。重い石膏ボード 2 枚張り+十分な吸音材+振動絶縁ハンガーが正解。

よくある誤解と注意点

まず最大の落とし穴が、「面密度を 2 倍にすれば遮音性能が 2 倍になる」と誤解すること。質量則 TL = 20·log10(mf) − 47.4 から分かるとおり、面密度を 2 倍にしても TL は +6 dB 上がるだけで、これは「音の強度が半分」に対応します。「2 倍」ではない。さらに、単に重くするだけでは MAM 共振周波数は m と d の関数なので、面密度を上げると fMAM もわずかに下がります(√(1/m) で)。低周波重視なら「重くする」より「空気層を厚くする」のが圧倒的に効きます。費用対効果でも空気層拡大が勝ります。

次に、「グラスウールを入れれば吸音されて遮音性能が上がる」と考えること。グラスウールは部屋内の残響時間を減らす「吸音材」であって、それ自体は壁の遮音性能を直接的に大きく改善するわけではありません。本ツールでも「キャビティ減衰」を 0→100% に変えても TL の絶対値は数 dB しか動きません。グラスウールの役割は MAM 共振やキャビティモードでのディップを浅くすることであり、質量則域の遮音性能はあくまで壁の質量と空気層厚で決まります。グラスウールだけ大量に入れても薄い壁は薄いままです。

最後に、「TL の計算値と実測値が一致する」と信じること。本ツールは理想的な無限平面壁を仮定した質量則・MAM 共振モデルで、実際の壁が持つコインシデンス効果(壁の曲げ波と音波の同期で TL がディップ)、有限サイズ効果、壁の不完全性、そして最大の要因 flanking(迂回伝搬)は厳密にはモデル化できません。実験室測定でも理論値より 3〜5 dB 低く、現場施工では 10〜15 dB 低い事例が普通です。設計目標は「理論値 −10 dB」または「実測 STC +5 dB マージン」で見積もるのが実務的に安全です。

使い方ガイド

  1. 第1壁の面密度(kg/m²)を入力します。例:石膏ボード12mm=10kg/m²、レンガ100mm=190kg/m²
  2. 第2壁の面密度を設定し、空気層厚(mm)を指定します。一般的な防音構造は50~150mm
  3. 空気層の減衰係数(0~1)を調整します。グラスウール50mmで約0.3~0.5が目安
  4. シミュレーターが100Hz~5kHz帯域の透過損失(TL)曲線を計算し、質量-空気-質量(MAM)共振周波数をリアルタイム表示
  5. 各パラメータ変更時に、STC推定値と単壁比改善(dB)が自動更新される

具体的な計算例

鋼製ドア枠の防音改修案:第1壁=鋼板1.5mm(12kg/m²)、空気層100mm、第2壁=石膏ボード12.5mm(10kg/m²)、減衰0.4の場合、MAM共振周波数≈63Hz、共振付近で約3dB低下するが、500Hz以上では単壁比約10dB改善。同条件でグラスウール吸音を減衰0.8に強化すると、共振ディップが2dBに抑制され、全帯域STC推定値が48dBから52dBへ向上。機械室の1250Hz騒音(95dB)に対し、本二重壁構造なら室内側は約43dBに低減

実務での注意点

  1. MAM共振周波数より低い領域(100Hz以下)では透過損失が急落するため、超低周波振動対策が必要な場合は吊り構造との併用を検討
  2. 面密度比が1:1に近いほどMAM共振が顕著になり、1:2以上の非対称設計で共振ディップ深度を緩和できる
  3. 実測値は理論値より3~5dB低くなる傾向(施工品質・漏気の影響)があるため、設計時は安全係数を見込む
  4. 100mm超の厚い空気層は構造コスト増加の割に改善効果が飽和(200mm以上でも効果±1dB)するため、給排気貫通部の気密処理を優先