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防災・トンネル火災

トンネル火災 換気・臨界風速シミュレーター

道路トンネル火災で煙の逆流(backlayering)を防ぐ最低風速「臨界風速 V_c」を Heselden-Thomas / Kennedy 式で計算し、ジェットファン推力と本数から得られる実現気流速度と比較します。火災シナリオ(乗用車・バス・HGV・タンク車)や断面寸法を変えて、縦流換気の煙制御性能を即時に評価できます。

パラメータ設定
トンネル長
m
高さ H
m
幅 W
m
火災規模 HRR
代表的なヒートリリースレート (NFPA 502)
ジェットファン推力 F
N
ファン本数 n
ファン間隔
m
外気温 T_amb
°C
計算結果
等価径 D_eq (m)
HRR (MW)
臨界風速 V_c (m/s)
ファン気流速度 (m/s)
速度比 V_fan/V_c
視認距離 (m)
トンネル断面・煙拡散アニメーション

火源(赤)から上昇する煙はジェットファン(青矢印)で下流側へ押し流されます。風速が V_c を下回ると上流側へ煙が逆流(backlayering)し、避難者の視認が失われます。

臨界風速 V_c vs HRR
火災シナリオ別 V_c 比較
理論・主要公式

$$V_c = K_1\left[\frac{g\,H\,Q}{\rho\,c_p\,T\,A}\right]^{1/3},\qquad V_{fan} = \sqrt{\frac{2\,F_{total}}{\rho\,A\,(1+f\,L/D)}}$$

V_c:臨界風速(K₁=0.61〜0.85、本ツールは 0.85)、H:トンネル高さ、Q:火災 HRR (W)、A:断面積、F_total:合計ファン推力。

$$D_{eq} = \frac{4A}{P_{wet}} = \frac{4HW}{2(H+W)},\qquad f\,L/D \approx 0.02\,L/D_{eq}$$

等価径 D_eq とトンネル全長の摩擦損失係数。L:トンネル長、f:Moody 摩擦係数(≒0.02、コンクリート粗面)。

トンネル火災 換気・避難 — 臨界風速・煙制御

🙋
「トンネル火災」って、実際そんなに危険なんですか?火が出ても外に逃げればいいだけのような…
🎓
それが甘いんだ。1999 年の Mont Blanc トンネル(仏伊国境)では HGV のエンジンルームから出た火が一気に拡大して 39 人が亡くなった。2001 年の St. Gotthard(スイス)も 11 人、Tauern 1999(オーストリア)が 12 人。共通して言えるのは、「燃え死んだ」のではなく「煙に巻かれて窒息・視認喪失で動けなくなった」ことなんだ。だから現代のトンネル防災は「火そのもの」より「煙の制御」が主役なんだよ。
🙋
なるほど…じゃあ、その煙制御の核心が「臨界風速 V_c」なんですね。デフォルト設定だと 3.47 m/s と出てます。これって速い?遅い?
🎓
人が立っていて「ちょっと強い風」を感じるくらいだね。秒速 3.5 m はだいたい時速 12 km。これを下回ると、火源から立ち上る高温の煙塊が浮力で逆流を始めて、上流の避難経路を覆ってしまう。これが backlayering(逆流層)。 Heselden-Thomas 1977 や Kennedy 1996 の式 V_c = 0.85·(gHQ/(ρcₚTA))^(1/3) は、煙浮力と慣性力のバランスから来てる経験式で、世界中の規格(NFPA 502、PIARC C3.3)が今もこの式をベースにしてるんだ。
🙋
面白いのは、HRR を 30 MW のバスから 300 MW のタンク車に変えても V_c がそんなに増えないことです。3 乗根の効果ですか?
🎓
そう、Q^(1/3) で頭打ちするからね。30 MW → 300 MW で 10 倍にしても V_c は 10^(1/3)≈2.15 倍にしかならない。これがトンネル換気設計のラッキーな性質で、「最悪 HRR(HGV 100〜300 MW)に対しても 3〜4 m/s 確保しておけば実用上 OK」と割り切れる。ただし注意点があって、HRR が大きいと煙そのものの抵抗が増えて(throttling effect)ファン効率が落ちる。本ツールでは簡易化してるけど、実機 CFD(FDS や ANSYS Fluent)ではこの抵抗増を陽に解いてるんだ。
🙋
ジェットファンって、推力 1000 N を 12 本も付けて、ようやく 4.35 m/s ですよね。意外に効率悪い…?
🎓
いいところに気づいたね。実は推力の大半は「トンネル長手方向の壁面摩擦」に食われてる。デフォルト 5 km・等価径 8.84 m だと f·L/D ≒ 11.3 で、無摩擦の場合に比べて速度が 1/√12 ≒ 0.29 倍にしかならない。だから長大トンネル(10 km 超)では中間に立坑を作って、上流・下流で換気区画を分離するんだ。Eurotunnel(英仏海峡)や青函トンネルがその典型例だね。
🙋
最後にひとつ。設計者が一番ハマる落とし穴ってなんですか?
🎓
「定常状態の V_c だけ見て安心する」ことだね。実際の火災では、HRR が 0 → ピークに到達するまで 5〜15 分かかる。この立ち上がり期間中に「煙が成層化したまま天井近くを流れる時間帯」があって、これは V_c 未満でも比較的安全。ところがファンを早めに全開にすると、成層を破壊して煙を床面まで撹拌してしまい、かえって視認が悪化する。これが「煙の成層破壊問題」で、Mont Blanc 以降の研究の最大テーマ。最近は「火災検知 → 段階的にファン起動」の制御ロジック(control philosophy)を CFD で事前検証するのが標準になってるよ。

よくある質問

臨界風速 V_c は、トンネル内火災で発生する高温煙が上流側へ逆流する現象(バックレイヤリング backlayering)を完全に防ぐために必要な、火災上流の最小換気風速です。Heselden-Thomas 1977 や Kennedy 1996 の半経験式では V_c = K₁·[g·H·Q / (ρ·c_p·T·A)]^(1/3) で計算します。典型値は道路トンネルで 2.5〜3.5 m/s。これより遅いと煙が上流の避難経路を覆い、視認・呼吸条件が一気に悪化します。NFPA 502 や PIARC C3.3 でも縦流換気の設計指標として採用されています。
1 本あたりの推力 F(500〜3000 N が一般的)と必要な合計推力 F_total から、F_total = ρ·A·V²·(1 + f·L/D) を逆算して本数 n = F_total/F を決めます。V には V_c に余裕係数 1.2〜1.3 を掛けた値を用います。さらにファン同士の干渉損失(pitch effect、約 10〜15% 効率低下)、トンネル開口部の風圧、火災時の煙塊抵抗(throttling effect、HRR が大きいほど顕著)を上乗せして本数を割り増します。実トンネルでは 100〜150 m 間隔で配置されるのが標準です。
縦流換気(Longitudinal)はジェットファンで一方向に空気を流し、煙を一方へ押し出す方式で、車両が一方通行の都市トンネルや短い道路トンネルに最適です。横流換気(Transverse)は専用の給排気ダクトでトンネル全長にわたり均一に給排気し、対面通行の長大トンネル(5 km 以上)で採用されます。半横流(Semi-Transverse)はその中間で、給気のみ均一・排気は端部から行う方式です。建設コストは縦流 < 半横流 < 横流。Mont Blanc 1999 事故以降、長大トンネルでは横流+火源直下の集中排気が主流になっています。
tenability(避難可能性)の限界は ISO 13571 と PIARC で示されており、視認距離 10 m 以上・CO 濃度 300 ppm 以下・温度 60℃ 以下・放射熱 2.5 kW/m² 以下が目安です。視認距離が 5 m を切ると進行方向が分からなくなり、パニックや方向喪失のリスクが急増します。避難時間は walking speed 5 km/h(緊急時の平均値)を仮定し、最寄りの cross-passage(350 m 間隔が標準)までの距離で評価します。本ツールでは煙密度を簡易的に HRR 比例で扱い、限界に達した時点を「危険」と表示しています。

実世界での応用

長大山岳道路トンネルの換気設計:関越トンネル(11 km)、東京湾アクアトンネル(9.5 km)、新長崎トンネル(6.2 km)など 5 km 級以上の道路トンネルでは、本ツールの式と同じ Heselden-Thomas/Kennedy をベースに換気設計が行われます。日本では NEXCO の「道路トンネル技術基準(換気編)」が、欧州では PIARC Report 05.16.B、米国では NFPA 502 が標準。火災 HRR は「設計火災規模 design fire size」として 30 MW(バス)または 100 MW(HGV)を採用し、これに対する V_c を確保できるファン構成を決めます。

地下鉄・鉄道トンネルの避難計画:新幹線トンネル、地下鉄、青函トンネル、ユーロトンネル(英仏海峡 50 km)などの鉄道トンネルでも縦流換気が用いられます。Daegu Subway Fire 2003(韓国、192 人死亡)以降は、車両の難燃化と並行してトンネル換気と非常停車場(safe haven)整備が国際的な必須要件になりました。Eurotunnel の Service Tunnel(中央避難通路)方式は、避難ゾーンを与圧して常に「煙より高圧」に保つことで煙の侵入を完全に防ぐ先進例です。

都市部の地下道路・トンネル:東京の山手トンネル(18.2 km、世界最長の都市道路トンネル)、首都高速中央環状線、ボストン Big Dig、ストックホルム Northern Link などの都市トンネルでは、立坑(ベンチレーション・シャフト)と区画化換気が組み合わされます。火災発生時はその区画内のジェットファンを一斉起動し、煙を最寄りの立坑から地上に排出する制御が組まれます。CFD ツール(FDS、ANSYS Fluent、STAR-CCM+)で事前に数百ケースのシミュレーションを行い、「火源位置 × 風向 × ファン故障パターン」の組み合わせ全てで V_c が確保できることを検証するのが現代の設計手法です。

地下駐車場・地下街の煙制御:同じ原理は地下駐車場や地下街の「煙制御排煙設備」にも応用されます。NFPA 92 では床面積あたりの排煙風量と煙下面高さ(smoke layer interface height)から V_c 相当の値を逆算し、排煙機の容量を決めます。トンネル設計の知見が、もっと身近な建築防災に直接生きている分野です。

よくある誤解と注意点

最も多い落とし穴が、「V_c を満たせば安全」と思い込むことです。V_c は「上流方向への煙逆流を防ぐ」ための条件であって、下流側に逃げる避難者の安全を保証するものではありません。下流側では煙が高速で押し流されてくるため、火源より下流に取り残された人は煙で視認を失い、避難が非常に困難になります。Mont Blanc 1999 の犠牲者の多くも、下流側の車内に閉じ込められた人たちでした。だから現代の設計では、「火源上流に多くの避難者を集める制御」と「下流側の車を入口で止めるシステム(CCTV+遮断機)」がセットで設計されます。

次の落とし穴が、「煙の成層を破壊する強すぎる風」です。実は V_c のちょうど 1.0 倍が理論上の最適点で、それ以上強くするとかえって悪い場合があります。Vantelon et al. 1991 の風洞実験で、風速が V_c の 1.3〜1.5 倍を超えると、火源直上で天井に成層していた高温煙層が下方に巻き込まれ、避難者の頭の高さまで降りてくる「煙の倒壊(smoke plunging)」が起きることが報告されました。本ツールの verdict が「v_ratio ≥ 1.2 で ok、それ以下で warn」としているのは、過剰な余裕も問題視されるからです。

三つ目が、「定常解析だけで判断する危うさ」。本ツールも教科書的な定常 V_c 計算ですが、実際の火災は HRR が時間とともに t² 比例で立ち上がる過渡現象です。火災発生からファン全力運転までには①検知(30 秒〜数分)②運転員判断③ファン起動シーケンス(順次起動、全機到達まで 60〜120 秒)の遅延があり、この間に煙はすでに上流へ広がっています。よって、設計には「過渡 CFD(transient FDS)」で起動シーケンスを最適化することが NFPA 502 でも推奨されています。さらに、ファン 1 本の故障(n-1 設計)、停電(バックアップ電源 30 分)、煙塊の抵抗増(throttling)などの不確実性も Monte Carlo で評価するのが先進設計の流れです。

使い方ガイド

  1. トンネル寸法を入力:長さ(m)、高さ(m)、幅(m)から断面積と等価径 D_eq を算出
  2. 火災熱放出率 HRR(MW)とジェットファン推力(N)・本数を設定し、Heselden-Thomas 式で臨界風速 V_c = 0.4√(Q/ρc_p T_0 D_eq) を計算
  3. 実現気流速度(ファン推力と断面積から V_fan = F/(ρA))を求め、速度比 V_fan/V_c ≥1.0 で逆流防止、逆流危険ゾーンを判定

具体的な計算例

往復4車線トンネル(長さ2000m、高さ5m、幅15m、断面積75m²、D_eq≈9.8m)で積載可燃物火災 HRR=50MW 想定時、臨界風速 V_c≈3.2m/s。ジェットファン(推力5000N)8台設置で合計推力40000N、気流速度 V_fan=40000/(1.2×75)≈4.4m/s。速度比1.38で逆流防止、視認距離は煙濃度光学濃度 K=0.15 m⁻¹ 時に約30m確保可能。

実務での注意点

  1. 坑口付近では外気温度・気圧差による自然対流が発生するため、特に冬季・山越えトンネルでは追加ファン容量 10~20% 上乗せを検討
  2. 火災規模未知時は ASET (煙層到達時間) モデルと組合わせ、HRR 段階的シナリオ(10MW→30MW→50MW)で ファン点灯シーケンス・最悪ケース逆流距離を評価
  3. ファン吸込側ダクト配置で局所抵抗が増加(λ係数 0.02~0.05)し実効推力低下するため、CFD 詳細検証または 15% 余裕係数を適用
  4. 煤煙沈降・濃度勾配により下層風速不足時は、対向流トンネルと判定されても実際に上流側への煙蔓延が発生する可能性