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音響工学

超音波の減衰シミュレーター

医用超音波のパルスが生体内を進むとき、吸収と散乱でエネルギーをどれだけ失うかを計算するツールです。周波数・伝搬深さ・減衰係数を変えると、片道減衰・往復減衰・半価層・撮像可能深度がリアルタイムで分かり、分解能と到達深度のトレードオフを体感できます。

パラメータ設定
超音波周波数 f
MHz
高いほど分解能は上がるが減衰も増える
伝搬深さ d
cm
観察したい対象までの組織内の距離
減衰係数 α
組織の減衰係数 dB/(cm·MHz)。軟部組織で約0.5
入射音響強度 I₀
mW/cm²
プローブが組織に送り込む音響強度
計算結果
片道減衰 (dB)
往復減衰 (dB)
深さでの音響強度 (mW/cm²)
半価層 HVL (cm)
撮像可能深度(60 dB)(cm)
撮像の判定
超音波ビームと減衰 — 伝搬アニメーション

上のプローブからパルスが組織内へ進み、深さとともにビームの明るさが指数関数的に減衰します。緑線が半価層、橙線が撮像可能深度、白線が現在の測定深さです。

音響強度 vs 深さ
撮像可能深度 vs 周波数
理論・主要公式

$$A_{dB}=\alpha\cdot f\cdot d,\qquad I(d)=I_0\cdot 10^{-A_{dB}/10}$$

減衰量 A_dB と深さでの音響強度 I(d)。α は減衰係数 dB/(cm·MHz)、f は周波数 MHz、d は伝搬距離 cm。減衰は周波数と深さの両方に比例して大きくなる。

$$\mathrm{HVL}=\frac{3}{\alpha\cdot f},\qquad d_{\max}=\frac{60}{2\,\alpha\cdot f}$$

半価層 HVL(強度が半分=3 dB 低下する距離)と撮像可能深度 d_max(往復減衰が 60 dB に達する深さ)。往復のため d_max の分母には係数 2 が入る。

超音波の減衰とは

🙋
お腹のエコー検査って、プローブから音を出して跳ね返りを見るんですよね。あの音って、体の中でどんどん弱くなっていくんですか?
🎓
そう、まさにそこがポイントなんだ。プローブが出す超音波パルスは、組織の中を進むうちに2つの仕組みでエネルギーを失っていく。ひとつは「吸収」——音のエネルギーが組織の中でごくわずかな熱に変わる。もうひとつは「散乱」——細かい構造に当たって波があらゆる方向に逸れていく。この2つを合わせて「減衰」と呼ぶんだ。
🙋
減衰って、深く進むほど大きくなるのは分かるんですけど…左で「周波数」を上げると片道減衰がぐんと増えますね。なんでですか?
🎓
いいところに気づいたね。減衰はデシベルで表すと、距離だけじゃなく「周波数」にもほぼ比例するんだ。式で言うと A_dB = α·f·d。α が組織の減衰係数で、軟部組織だと 0.5 dB/(cm·MHz) くらい。だから周波数を2倍にすると、同じ深さでも減衰が2倍になってエコーが一気に弱くなる。これが超音波で一番大事な事実なんだよ。
🙋
じゃあ周波数を下げれば、減衰が小さくて深くまで見えるってことですか?それなら全部低い周波数でいい気がします。
🎓
そこがトレードオフなんだ。周波数を下げると確かに深部まで届く。でも周波数が低い=波長が長いから、細かいものを見分ける「分解能」が落ちる。逆に高周波は減衰が大きくて深くは届かないけど、波長が短くて分解能が高い。だから甲状腺や血管みたいな浅い部位は10〜15 MHz、お腹や心臓みたいな深い部位は2〜5 MHz、と検査技師がプローブを使い分けるんだ。
🙋
「半価層」っていう結果も出ますね。これは何を表しているんですか?
🎓
半価層 HVL は「音の強さが半分になる距離」のことだ。3 dB 下がると強度は半分になるから、HVL = 3/(α·f) で計算できる。デフォルトの 5 MHz だと HVL はたった1.2 cm。つまり1.2 cm 進むごとに強さが半分、半分、と落ちていく。深さでどれくらい急に弱るかをイメージするのに便利な指標だよ。
🙋
「撮像可能深度(60 dB)」のほうは?なんで 60 dB なんですか?
🎓
超音波装置が扱えるエコーの強弱の幅——ダイナミックレンジ——がだいたい 60 dB なんだ。エコーは往復するから、減衰も2倍効く。だから往復減衰が 60 dB に達する深さ d_max = 60/(2·α·f) が「ここから先は信号が埋もれて見えない」という限界になる。実務では測定したい深さがこの d_max の8割を超えたら「深部は限界付近」と注意するんだよ。

よくある質問

減衰の大きさは A_dB = α·f·d で表します。α は組織の減衰係数 [dB/(cm·MHz)]、f は超音波の周波数 [MHz]、d は伝搬距離 [cm] です。これは「減衰がデシベルで表すと周波数と距離の積にほぼ比例する」という経験則で、軟部組織では α はおよそ 0.5 dB/(cm·MHz) です。深さでの音響強度は I(d) = I₀·10^(−A_dB/10) で求まり、本ツールはこの片道減衰と、エコーが往復するパルスエコー減衰の両方を表示します。
半価層 HVL は、音響強度が半分(3 dB 低下)になる距離です。減衰式から HVL = 3/(α·f) [cm] で求まります。例えば α=0.5 dB/(cm·MHz)・f=5 MHz なら HVL=1.2 cm で、わずか1.2 cm 進むごとに強度が半分になります。周波数を上げると HVL は短くなり、深いところまで超音波が届かなくなる——これが高周波プローブが浅い部位専用になる理由です。
減衰 A_dB = α·f·d は周波数 f に比例します。周波数を2倍にすると同じ距離での減衰も2倍になり、エコーが急速に弱まって深部の信号がノイズに埋もれます。一方で高周波は波長が短く空間分解能が高いため、甲状腺や血管のような浅い部位は10〜15 MHz、腹部や心臓のような深部は2〜5 MHz、と使い分けます。これが超音波画像の「分解能と到達深度のトレードオフ」です。
撮像可能深度は、往復(パルスエコー)の減衰がシステムのダイナミックレンジの目安である 60 dB に達する深さで、d_max = 60/(2·α·f) [cm] と表せます。往復なので係数に 2 が入ります。α=0.5・f=5 MHz なら d_max=12 cm。実際の伝搬深さがこの値の 0.8 倍を超えると深部が限界付近となり、超えると減衰が大きすぎて撮像困難になります。

実世界での応用

診断用超音波(エコー検査)のプローブ選択:腹部・心臓・産科のような深部の検査では、減衰を抑えて十分な深さまでエコーを届かせるために2〜5 MHz の低周波コンベックス・セクタプローブを使います。甲状腺、乳腺、表在血管、運動器のような浅い部位では、減衰は大きくても波長が短く高分解能が得られる10〜15 MHz のリニアプローブを選びます。減衰係数 α と周波数から撮像可能深度を見積もることが、プローブと周波数を決める出発点になります。

STC/TGC(深さゲイン補正)の設計:深部のエコーほど減衰で弱くなるため、超音波装置は受信信号を深さに応じて増幅する Time/Sensitivity Gain Compensation を備えています。どれだけ増幅すべきかは、まさに本ツールが計算する片道・往復減衰量で決まります。減衰の深さ依存を理解しておくと、画像の輝度ムラを TGC スライダーで適切に補正できます。

超音波の安全性評価(熱・MI):吸収された音響エネルギーは組織内で熱に変わります。入射音響強度 I₀ と減衰から、各深さで組織が受け取るエネルギーを見積もることは、温度上昇指標(TI)の理解につながります。減衰が大きい骨の近くでは局所的な発熱に注意が必要で、特に胎児の骨や眼球の検査では音響出力の管理が重要です。

非破壊検査(NDT)への応用:金属・コンクリート・複合材の超音波探傷でも同じ減衰の物理が働きます。粗い結晶粒や気孔の多い材料では散乱による減衰が大きく、深い欠陥を検出するには低周波の探触子が必要になります。減衰係数を測定して周波数を選定する流れは、医用も工業用も共通の考え方です。

よくある誤解と注意点

まず多い誤解が、「減衰係数 α は一定値」という思い込みです。本ツールの既定値 0.5 dB/(cm·MHz) は軟部組織の代表値ですが、実際の α は組織で大きく異なります。水や血液はほとんど減衰せず(0.1 前後)、肝臓や筋肉は 0.5〜1.0、骨や腱はさらに大きく、肺のように気体を含む組織は超音波をほぼ通しません。さらに α の周波数依存も組織によっては厳密には線形でなく、べき指数が 1 からずれます。本ツールの A_dB = α·f·d は軟部組織で実用上十分な一次近似であることを理解して使ってください。

次に、「減衰=吸収だと思い込む」こと。減衰は吸収と散乱の和です。吸収はエネルギーが熱に変わる成分で、安全性(発熱)に直結します。散乱はエネルギーが向きを変える成分で、実は画像のもとになるエコーそのものです——組織からの後方散乱がなければ B モード画像は作れません。減衰として一括りにすると、「画像を作る散乱」と「ただ失われる吸収」を混同しがちですが、両者は役割がまったく異なります。

最後に、「往復減衰を片道減衰と取り違える」点。パルスエコー法ではプローブが出した音が対象で反射し、また戻ってきます。つまり信号は対象までの距離を2回——行きと帰りで——通るので、装置が受け取るエコーの減衰は片道減衰のちょうど2倍です。撮像可能深度を見積もるときに片道減衰で 60 dB を割り当ててしまうと、到達深度を2倍に過大評価してしまいます。撮像限界は必ず往復減衰で考えること。本ツールが片道と往復を別々に表示しているのは、この取り違えを防ぐためです。

使い方ガイド

  1. 超音波周波数(freqNum)を2.5~15 MHzの範囲で設定します。医用超音波では腹部診断は3.5 MHz、心臓は2.5 MHz、表在臓器は7.5~12 MHzが標準です
  2. 組織の減衰係数(attenNum)を入力します。軟部組織は約0.5~1.0 dB/cm/MHz、脂肪は0.6 dB/cm/MHz、血液は0.2 dB/cm/MHzが目安です
  3. 初期音響強度I0(i0Num)と調査深度(depthNum)を設定し、片道減衰・往復減衰・半価層HVLを自動計算します。撮像判定は往復減衰が60 dBを超えると実用限界となります

具体的な計算例

腹部B超音波で周波数3.5 MHz、減衰係数0.7 dB/cm/MHz、初期強度100 mW/cm²の条件とします。深度15 cmでの片道減衰は3.5×0.7×15=36.75 dB、往復減衰は73.5 dBです。半価層HVL=6.93/周波数/減衰係数=2.8 cmで、最初の強度は2.8 cm毎に50%低下します。深度20 cmでは往復減衰が98 dBに達し、受信信号はノイズレベルに埋没して画質低下が著しくなります

実務での注意点

  1. 周波数を上げると分解能は向上(0.2 mmレベル)しますが、減衰が周波数の1乗に比例するため、15 MHzでは深度5 cm程度に制限されます
  2. 脂肪肝症例では減衰が増加し、同じ周波数でも到達深度が25~30%短縮されるため、3.5 MHzへの切り替えが必要です
  3. ゲイン調整でSNR改善できますが、-60 dB以下の信号増幅はアーチファクト増加につながり、診断精度を損なうため注意が必要です