パラメータ設定
励起電圧 Vin は 5 V に固定。R1=R2=R3=1000Ω, R4=1010Ω が初期値(ひずみゲージ1個に約1%変化を与えた状態)です。
ブリッジ回路図
ひし形の4抵抗/左右ノードに励起電圧 Vin、上下ノードに出力電圧 Vout 計/緑=平衡 (|Vout|<1mV)、赤=不平衡
理論・主要公式
ホイートストンブリッジの2つの分圧器が、励起電圧 Vin を異なる比で分割します。出力 Vout はその差電圧として現れます。
開放出力電圧(負荷抵抗が十分大きい場合):
$$V_\text{out} = V_\text{in}\left(\frac{R_2}{R_1+R_2} - \frac{R_4}{R_3+R_4}\right) = V_\text{in}\,\frac{R_2 R_3 - R_1 R_4}{(R_1+R_2)(R_3+R_4)}$$
平衡条件(このとき Vout = 0):
$$R_1 R_4 = R_2 R_3 \quad\Longleftrightarrow\quad R_4 = \frac{R_2 R_3}{R_1}$$
ひずみゲージとの関係(GF はゲージ係数、ε はひずみ):
$$\frac{\Delta R}{R} = G_F\,\varepsilon, \quad \frac{V_\text{out}}{V_\text{in}} \approx \frac{G_F}{4}\,\varepsilon \;(\text{1ゲージ構成})$$
平衡近傍では Vout が抵抗変化に対して線形に応答するため、微小な変位・温度・ひずみを高精度に計測できます。これがブリッジ回路が100年以上使われ続ける理由です。
ホイートストンブリッジシミュレーターとは
🙋
「ホイートストンブリッジ」って、教科書ではよく見るんですけど、結局何が便利なんですか?普通の抵抗計じゃダメなんですか?
🎓
ざっくり言うと、ブリッジは「ゼロ点比較」ができるんだ。普通の抵抗計だと、1000Ωが1001Ωに変わっても0.1%の変化を読み取らないといけない。でもブリッジを平衡させた状態から始めれば、ゼロ電圧からの変化を見るだけでいい。1000倍くらい高い精度で微小変化を検出できるんだよ。シミュレーターでR1=R2=R3=R4=1000にしてみて。Voutがピタッと0になるでしょ?
🙋
あ、本当だ!じゃあ初期値だとR4だけ1010Ωになってるけど、これは何ですか?
🎓
それがひずみゲージのモデルだよ。R4にひずみゲージを貼ったと思ってくれ。例えば金属ゲージはひずみε=1%(ΔL/L=0.01)でΔR/R≒2%変化する(ゲージ係数GF≒2)。ここでは説明の単純化でΔR/R=1%、つまりR4が1000→1010になった状態にしてある。Voutを見て。約−12.4 mVになってるはずだ。これがひずみセンサとしての出力だよ。
🙋
−12.4 mV って小さくないですか?こんなのアンプないと読めませんよ。
🎓
そう、だから実機ではアンプ(計装アンプ)でゲイン100〜1000倍に増幅する。ロードセル等の市販センサは「2 mV/V」のような感度仕様で売られていて、Vin=10V励起で最大出力20 mVになる。シミュレーターの「感度」カードがまさにmV/V表示だ。実は感度を上げるには4辺全部にゲージを貼る「フルブリッジ」構成にして、引張側と圧縮側を組み合わせると4倍の感度になる。これが市販センサで圧倒的にフルブリッジが多い理由だ。
🙋
「R4を平衡値に」ボタンを押すと、ピッタリVout=0になりますね。これが「平衡条件」というやつですか?
🎓
その通り!平衡条件は R1·R4 = R2·R3。シミュレーターで「平衡時のR4」カードを見ると、R2·R3/R1 の値が表示されてる。これにR4を合わせるとVoutがゼロになる。19世紀のホイートストン自身は、未知抵抗を可変抵抗で平衡させて目盛りから読み取る「ゼロ法」で抵抗値を測っていた。今はデジタル化で直接Voutを読むのが主流だけど、原理は同じだよ。
よくある質問
2つの抵抗で分圧器を作ると、抵抗変化は中点電圧の変化として現れますが、その電圧は「絶対値」を読まないといけません。励起電圧Vinが揺らぐと出力も揺らぎ、温度ドリフトも直接出力に乗ります。一方、ブリッジは2つの分圧器の「差」を取るため、Vinの変動は両側に同じく影響して打ち消され、温度補償も隣接辺で実現できます。これが4抵抗構成の本質的なメリットです。
出力VoutはVinに比例するので、Vinを2倍にすれば感度は2倍になります。ただし抵抗での発熱(P = Vin²/(R1+R2))も4倍になり、ひずみゲージは温度上昇で抵抗が変わるため自己加熱誤差を生みます。実用ではゲージ消費電力を25 mW以下に抑えるよう、120Ωゲージで5V、350Ωゲージで10V程度のVinが標準的です。むやみに上げると精度が逆に落ちる典型例です。
Vout = Vin·(R2/(R1+R2) − R4/(R3+R4)) の括弧内をゼロにする条件を整理すると、R2·(R3+R4) = R4·(R1+R2)、展開して R2·R3 + R2·R4 = R4·R1 + R4·R2、両辺の R2·R4 を消すと R2·R3 = R1·R4 になります。「向かい合う抵抗の積が等しい」という対称的な美しい関係で、ホイートストンが1843年にこの形を世に広めた所以です。
厳密には Vout = Vin·(R2·R3 − R1·R4)/((R1+R2)(R3+R4)) は分母にR4を含むため、ΔR/Rが大きいと非線形誤差が出ます。1ゲージ構成でΔR/R=1%なら誤差約0.5%、5%なら約2.5%程度。フルブリッジ構成(4辺対称にΔR)だと分母も対称的にキャンセルし完全線形になります。これも市販ロードセルがフルブリッジを採用する理由のひとつです。
実世界での応用
ひずみゲージとロードセル:飛行機の翼に貼られたひずみゲージから、トラックスケール、電子はかり、握力計まで、力・荷重・トルクを電気信号に変換する装置のほぼ全てがブリッジ回路を内蔵しています。フルブリッジ構成のロードセルは温度補償と高線形性を両立でき、産業計量の標準となっています。
白金測温抵抗体(RTD)と温度計測:Pt100センサ(0°Cで100Ω)は温度に対する抵抗変化を利用しますが、リード線の抵抗誤差を打ち消すために3線式・4線式のブリッジ接続が標準です。0.01°C精度の精密温度計の核となる技術で、半導体製造の温度制御や標準計測機器に必須です。
圧力センサと圧力トランスデューサ:シリコンダイヤフラムにピエゾ抵抗を拡散したMEMS圧力センサは、ダイヤフラムのひずみをフルブリッジで読み出します。スマートフォンの気圧計、自動車のタイヤ空気圧センサ(TPMS)、医療用血圧計まで、現代の圧力計測のほとんどがこの原理です。
ガス検出と化学センサ:触媒燃焼式可燃性ガス検知器は、可燃ガスが触媒で燃焼すると検知素子が加熱されて抵抗が増える性質を利用し、ダミー素子と組んだブリッジで微量のメタンや水素を検出します。鉱山・化学プラント・ガス供給所の安全装置として広く使われています。
よくある誤解と注意点
最も多い誤解は、「ブリッジ回路は古い技術で、現代のADCがあれば不要」と考えることです。確かに24ビットΔΣ ADCを直接ゲージに繋ぐ研究もありますが、産業計測の現場では今もブリッジが圧倒的多数派です。理由は単純で、励起電圧の変動・温度ドリフト・コモンモードノイズを物理的に打ち消す仕組みは、いまだにブリッジ回路の方が低コストで高性能だからです。シミュレーターでR1〜R4を全て同じ温度係数で同じ方向に変化させてみると、Voutがほぼ変わらないことが確認できます。これがブリッジの「自己補償」能力です。
次によくある誤りが、「Vinをできるだけ高くした方が感度が上がる」と思い込むことです。確かにVoutはVinに比例しますが、ゲージでの消費電力はVin²に比例して急増し、ゲージ自身の温度上昇でΔRが余分に発生してしまいます。例えば120Ωゲージに10V掛けると消費電力80 mWで自己加熱が数°Cに達し、温度由来のドリフトが信号に紛れ込みます。実機では「励起電圧の最適化」が重要で、ゲージ仕様書の最大励起電圧を必ず確認すること。シミュレーターの感度カードはmV/V表示なので、Vinに依存しない「センサ固有の感度」が読み取れます。
最後に、「ブリッジを平衡させればすべて解決する」と過信するのも危険です。実機では、リード線の抵抗(接続ケーブルの抵抗)がR1〜R4の片側に直列に入って疑似的なΔRを作る、温度勾配でブリッジ4辺の温度が異なり打ち消しが不完全になる、ゲージ接着剤のクリープで時間とともにオフセットがドリフトする、など多数の誤差要因があります。シミュレーターは理想的な4抵抗だけのモデルですが、実機設計では3線式・4線式・シールド・センス線・キャリブレーション抵抗(CAL)など、ブリッジ回路を取り巻く周辺技術こそが計測精度を決めることを覚えておいてください。