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建築設計・防水

外壁風雨荷重 WDR シミュレーター — 建物ファサード設計

風と雨が同時に建物外壁を直撃する「風駆動降雨 (Wind-Driven Rain, WDR)」を Choi (1994) の経験式で評価し、ファサードの水分流束・風圧・吸水量・浸透深さをリアルタイムに計算します。煉瓦・コンクリート・ALC・金属パネル・カーテンウォールごとの吸水挙動を比較し、防水設計と材料選定の最初の当たりをつけられます。

パラメータ設定
時間降雨強度 R
mm/h
水平面に降る雨量。10 mm/h で通常の雨、30 mm/h 以上で豪雨。
風速 U
m/s
地上 10 m 風速。10 m/s で「やや強い風」、20 m/s 以上で台風級。
平均雨滴径 d
mm
霧雨で 0.5、強雨で 2〜4 mm 程度。終端速度に効く。
建物高 H
m
高層になるほど風速プロファイルが大きく、上層階で WDR が集中する。
外壁方位 θ
°
風向と壁面法線の角度。0° で正面、90° で平行 (WDR ゼロ)。
外壁材料
材料ごとに吸水係数 A_w と相対リスクが変わります。
吸水係数 A_w
kg/(m²·√s)
EN ISO 15148 に基づく Karol Ⅰ 期吸水係数。煉瓦 1〜3、コンクリート 0.3〜1。
計算結果
雨滴終端速度 (m/s)
雨滴入射角 (°)
WDR 強度 (kg/m²/h)
ファサード合計荷重 (Pa)
24h 吸水量 (kg/m²)
浸透深さ (mm)
ファサード断面 — 風・雨滴軌跡・浸透

左から風 (青矢印) が吹き、雨滴は終端速度 + 風速で傾いた軌跡を描いて外壁 (右側) に衝突します。浸透深さは外壁内のシアン領域で示しています。

風速感度 — 風速 U に対する WDR 強度
材料別比較 — 24h 吸水量と浸透深さ
理論・主要公式

$$R_{WDR} = 0.222\,R\,U\,\cos\theta,\qquad m(t) = A_w\sqrt{t}$$

R_WDR:ファサード水分流束 [kg/(m²·h)]、R:水平雨量 [mm/h]、U:風速 [m/s]、θ:風向と壁面法線の角度、A_w:吸水係数 [kg/(m²·√s)]、m:単位面積吸水量 [kg/m²]、t:曝露時間 [s]。

$$v_t = 9.65 - 10.3\,e^{-0.6\,d},\qquad \phi = \arctan\!\left(\frac{U}{v_t}\right)$$

Gunn-Kinzer (1949) による雨滴終端速度 v_t [m/s] と入射角 φ。d は雨滴径 [mm]。風速が大きいほど水平成分が増し φ が大きくなる。

$$q = \tfrac{1}{2}\rho_{air}U^{2} + \tfrac{R_{WDR}}{3600}\,U$$

ファサードに作用する合計荷重 q [Pa]。第1項は風による動圧 (Bernoulli)、第2項は雨滴衝突に伴う運動量フラックス。

外壁の風荷重雨水浸透 (Wind-Driven Rain) 設計

🙋
「Wind-Driven Rain」って初めて聞きました。普通の雨と何が違うんですか?
🎓
いい質問。Wind-Driven Rain (WDR) は「風で水平方向に運ばれた雨」のことで、建築外皮にとっては鉛直に落ちる雨より遥かに厄介な水分荷重なんだ。例えば 20 mm/h の雨に 10 m/s の風が加わるだけで、Choi 式 R_WDR = 0.222·R·U·cos θ から、ファサードは約 44 kg/m²/h、つまり毎時 44 mm 相当の水を浴びる計算になる。床に降る雨の 2 倍以上だね。だから煉瓦やコンクリートの外壁は、見た目には「雨に濡れる」程度でも内部にはかなりの水が入っているんだ。
🙋
え、地面に落ちる雨より多いんですか!それだと外壁の中ってずぶ濡れですよね?
🎓
そう、これが WDR 設計が必要な理由。多孔質材料の吸水は Karol Ⅰ 期吸水則 m(t) = A_w·√t に従っていて、煉瓦の A_w は 1〜3 kg/(m²·√s) もある。仮に 24 時間ぶっ続けで吸水を許すと、ツールの計算では数 100 kg/m² の水を吸ってしまう。実際は雨と乾燥が交互に来るからそこまでにはならないけど、欧州の DRI (Driving Rain Index) が年間 500 mm を超える地域では、Rain Screen 構造 (二重壁+通気層) や撥水処理がほぼ必須になるよ。
🙋
高層ビルだと風がもっと強いから、上の階ほど WDR が厳しいってことですか?
🎓
その通り。地表境界層で風速はべき乗則 U(z)=U_ref·(z/z_ref)^α (α≈0.14〜0.3) に従って高さとともに増えるから、地上 100 m では地上 10 m の 1.5〜2 倍の風速になる。さらに建物まわりは流れが回り込んで角部・上層階・パラペット直下で局所的に風速が倍増する。CFD (RANS, k-ε) で建物まわりを解くと、上層角部の Catch Ratio (CR) が 2 を超えることも珍しくない。Blocken と Carmeliet (2005) の研究が古典で、彼らは Eulerian 雨滴フェーズで WDR の建物分布を解いている。
🙋
じゃあ材料側で防水するには、どんな選択肢があるんですか?
🎓
まず形状側で drip edge (水切り)・パラペット笠木・庇で「水を壁から離す」のが第一手。材料側では (1) 撥水含浸材 (シラン・シロキサン系) で A_w を 1/10 以下に下げる、(2) Rain Screen 構造で通気層を作り、外側パネルが濡れても内側構造材は乾いた状態を保つ、(3) Cavity Wall でブリーザブルに乾燥させる、の 3 つが代表的。シミュレーションは WUFI、Delphin、HygIRC のような hygrothermal ソルバーで、年間気象データ・材料の sorption 等温線・蒸気拡散抵抗 μ を入れて熱湿気連成を解くんだ。EN ISO 15927-3 (DRI 評価)、ASTM E 514 (壁体水分透過試験) が代表的な規格だね。
🙋
最近の Net Zero Building や Passive House でも WDR は重要ですか?
🎓
むしろ重要性が増している。外断熱を厚く施した壁では、内部に入った水分が乾きにくくなる。EIFS (外断熱仕上げシステム) や CLT (Cross-Laminated Timber) では、WDR でわずかな水が入っただけでも長期的にカビ・木材腐朽・断熱性能低下を起こすケースがある。Passive House Institute は WUFI シミュレーションで木質構造の含水率を 18 % 以下に保つことを推奨している。逆に金属パネル・カーテンウォールは A_w がほぼ 0 だけど、目地・サッシまわりからの雨漏りリスクが残るから、JIS A 1414 / ASTM E 331 のような水密試験で隙間からの侵入を別途確認することになるよ。

よくある質問

Wind-Driven Rain (風駆動降雨、WDR) とは、風によって水平方向の運動量を持った雨が建物ファサードに直撃して付着する現象を指します。鉛直に落下する降雨だけを見ていると外壁にはほとんど雨が当たらないことになりますが、実際は風速 5〜10 m/s 程度でも雨滴の入射角は 45° を超え、ファサードが受ける水分流束は地面に降る雨量と同等以上になります。Choi (1994) の経験式 R_WDR = 0.222·R·U·cos(θ) が標準的な評価指標で、R は水平雨量 (mm/h)、U は地上 10 m の風速 (m/s)、θ は風向と壁面法線のなす角度です。
WDR がもたらす代表的な劣化は (1) 表面吸水と乾燥の繰り返しによる白華・凍結融解破壊、(2) 毛細管吸水で内部に水分が達することによるカビ・腐朽、(3) シーリング目地からの雨漏り、(4) 断熱層への水分侵入による熱性能低下、(5) 鉄筋コンクリートでは塩化物・CO₂ の浸入によるかぶり鉄筋腐食、です。欧州では Driving Rain Index (DRI) で年間 WDR 量を地域別に評価し、500 mm/年 以上の地域では rain screen 構造や撥水処理が事実上必須とされています。
係数 0.222 は雨滴の終端速度と Marshall-Palmer 分布を仮定したときの体積換算係数で、降雨強度 R [mm/h] と風速 U [m/s] を掛けたものをファサード単位面積あたりの水分流束 [kg/(m²·h)] に変換するための係数です。Choi (1994) は CFD と風洞試験で建物まわりの流れ場と雨滴軌跡を解いて、自由場 (建物影響のない場所) の WDR 強度を上式で近似できるとしました。実際の建物では風が回り込んで上層階・角部に WDR が集中するため、CFD で求めた Catch Ratio (CR) を掛けて補正します。本ツールは自由場での近似値を返します。
本ツールは Karol Ⅰ 期吸水則 m(t) = A_w·√t を用いた一次元の毛細管吸水モデルで、24時間連続曝露・等温・乾燥状態からの吸水を仮定しています。実建物では雨と乾燥が交互に起きるため、長期の正味浸透量はもっと小さくなります。詳細な評価には WUFI・Delphin・HygIRC のような hygrothermal シミュレーター (熱・水分連成解析) を使い、年間気象データ・材料の sorption 等温線・蒸気拡散抵抗 μ などを組み合わせます。本ツールは「材料選定・形状検討段階のスクリーニング」と捉えてください。

実世界での応用

高層オフィスビルの外装設計:東京・大阪・福岡のような海洋性気候帯で 100 m を超えるビルを設計する際は、CFD で風速プロファイルと Catch Ratio を計算し、上層角部・パラペット下に WDR が集中することを前提に二次防水層を強化します。実プロジェクトでは ANSYS Fluent や OpenFOAM の Eulerian 雨滴フェーズで WDR 分布を可視化し、CFD 結果から漏水リスクの高い節を抽出して目地寸法・シーリンググレードを決めます。

歴史的煉瓦建造物の保存修復:欧州の中世煉瓦教会やアメリカ東海岸の煉瓦タウンハウスでは、A_w が 2〜3 kg/(m²·√s) の高吸水材料で建てられているため、WDR で侵入した水が冬季に凍結膨張して凍結融解破壊 (frost decay) を起こします。シラン系撥水含浸材で A_w を 0.1 以下に下げる修復が主流で、本シミュレーターで A_w を 0.1 と 2.0 で比較すると浸透深さが文字通り桁違いになることが確認できます。

Passive House・木造 CLT 建築のリスク評価:外断熱厚 200 mm 以上の高断熱壁では、内部に侵入した水が乾燥するまでに数か月かかります。Passive House Institute は WUFI による湿気移動解析で構造材の含水率を年間平均 18% 以下、Mold Index ≤ 3 に保つことを推奨。本ツールで「金属パネル + 通気層」と「煉瓦 + 直貼り断熱」の WDR 浸透量を比較するだけで、Rain Screen 構造の有用性が定量的に分かります。

沿岸部・台風常襲地域の集合住宅:沖縄・東南アジア・カリブ海岸では 25 m/s 以上の風速 + 50 mm/h クラスの雨が同時発生します。本ツールで風速 25 m/s、降雨 60 mm/h を入力すると WDR は 330 kg/m²/h に達し、サッシ枠から水が押し込まれるリスクが極めて高くなります。JIS A 1517 (水密試験) で 500 Pa 以上の差圧での止水性能を確認し、等圧理論に基づく排水機構を設計するのが通例です。

よくある誤解と注意点

まず注意したいのが、「Choi の式で出る WDR がそのまま建物にあたる」と誤解すること。R_WDR = 0.222·R·U·cos θ は「建物がない自由場」での WDR 強度で、実建物では流れが歪んで上層角部に集中・低層中央部で減衰します。Blocken らの CFD 研究 (2005, 2007) では Catch Ratio (CR) が高層角部で 1.5〜2.5、低層中央で 0.3〜0.7 と桁単位でばらつきます。本ツールの結果はあくまで「平均的な自由場」とし、重要プロジェクトでは別途 CFD か実測 (Pluviometer 付きパネル) で CR を確認してください。

次に、「吸水係数 A_w が小さい材料 = 安全」という思い込み。確かに金属パネル・ガラスは表面吸水しませんが、雨水は目地・パッキン・サッシ枠の隙間から「キャピラリー」「重力」「運動量」「圧力差」の 4 メカニズムで侵入します。等圧理論 (Pressure Equalized Rain Screen, PER) は「外装パネルと躯体間の通気層を外気圧と等圧にして、隙間を通り抜けようとする圧力差自体をなくす」設計思想で、これがないと A_w=0 の素材でも漏水します。形状設計と材料選定はセットで考えてください。

最後に、「吸水量が即漏水量に等しい」と誤解すること。本ツールの 24 時間吸水量は「材料表面が外部から吸い込んだ水の総量」で、室内側まで漏れた水ではありません。多孔質壁では吸い込んだ水は次の乾燥期間で蒸発し、長期的には吸水と蒸発の収支 (Moisture Balance) で決まります。実際の漏水量を推定するには 1 年分の気象データを与えた hygrothermal 解析 (WUFI Plus、Delphin) が必要で、本ツールはその「上限値の目安」として使うのが妥当です。Sd 値 (拡散等価厚さ) と通気量も併せて評価しましょう。

使い方ガイド

  1. 降雨強度(mm/h)・風速(m/s)・雨滴径(mm)・建物高さ(m)を入力欄に設定します。例えば時間雨量60mm/h、風速15m/s、雨滴径4mm、高さ25mの条件を想定します。
  2. 各パラメータ変更時に雨滴終端速度・入射角・WDR強度が自動計算されます。雨滴径の増加に伴い終端速度は上昇し、同時に入射角は増加して鉛直からの乖離が大きくなります。
  3. 建物材料(煉瓦・普通コンクリート・ALC・ガルバリウム鋼板)を選択すると、24時間吸水量と浸透深さが材料の吸収係数に基づいて算出され、防水設計の適否判定が可能になります。

具体的な計算例

時間雨量80mm/h、風速18m/s、雨滴径5.5mm、建物高さ30m、南西面という設定の場合:雨滴終端速度は9.2m/s、入射角は約52°となり、WDR強度は165kg/m²/hに達します。この条件下で焼成煉瓦(吸収係数0.14)に24時間暴露すると吸水量は3.95kg/m²となり、浸透深さは約18mmです。一方、ALC板(吸収係数0.45)では浸透深さが58mmに及ぶため、シーリング補強が必須となります。

実務での注意点

  1. 雨滴径は降雨強度に応じて変動します。弱雨(5mm/h)では1.5mm程度、強雨(100mm/h以上)では6mm超となるため、設計時は地域別最大時間雨量に対応した径を想定してください。
  2. 建物高さ20m以上では風速が地面との摩擦の影響を受けにくくなり、WDR強度が約40%増加する傾向があります。高層建物の下層部よりも上層部の防水性能を強化してください。
  3. ファサード合計荷重がコンクリート外壁で500Paを超える場合、既存の目地シーリング材(耐圧力200Pa)では不十分なため、タイト構法への変更やスクリーン壁の設置を検討してください。