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バイオメカニクス

ウィンドケッセルモデル(動脈循環)シミュレーター

心臓の拍動を、大動脈の弾性が滑らかな血流に変える仕組みを、2要素ウィンドケッセルモデルで再現するツールです。動脈コンプライアンスや末梢血管抵抗を変えると、動脈圧の波形・時定数・平均動脈圧・脈圧がリアルタイムで分かります。

パラメータ設定
動脈コンプライアンス C
mL/mmHg
動脈の伸びやすさ。小さいほど硬い動脈
末梢血管抵抗 R
mmHg·s/mL
細い末梢血管が流出に抵抗する度合い
1回拍出量 SV
mL
1拍ごとに心臓が送り出す血液量
心拍数 HR
bpm
1分あたりの拍動回数
収縮期の割合
1心周期のうち収縮期(駆出期)が占める割合
計算結果
時定数 τ = RC (s)
心周期 T (s)
心拍出量 CO (mL/min)
平均動脈圧 MAP (mmHg)
脈圧 PP (mmHg)
拡張期の圧減衰率 (%)
動脈チャンバーの拍動模式図

心臓が弾性のある動脈チャンバー(コンプライアンス)へ血液を送り、チャンバーは収縮期に膨らみ拡張期に縮んで下流の抵抗へ血液を送り続けます。右側は1心周期分の大動脈圧の波形です。

大動脈圧の波形(1心周期)
脈圧 vs 動脈コンプライアンス
理論・主要公式

$$\tau=R\,C,\qquad \text{MAP}=\dot Q\,R,\qquad \text{PP}\approx\frac{SV}{C}$$

時定数 τ は末梢血管抵抗 R と動脈コンプライアンス C の積。拡張期には動脈圧が時定数 τ = RC で指数関数的に減衰し、動脈が硬い(C が小さい)ほど脈圧 PP は大きくなる。

$$\dot Q=\frac{SV\cdot HR}{60},\qquad T=\frac{60}{HR}$$

平均血流量 Q̇ は1回拍出量 SV と心拍数 HR から、心周期 T は心拍数の逆数から求める。平均動脈圧 MAP は平均流量に抵抗を掛けたオームの法則の循環版で、コンプライアンス C には依存しない。

$$P(t)=P_0\,e^{-t/\tau}\quad(\text{拡張期})$$

拡張期には血液の流入がなく、動脈チャンバーに蓄えられた血液が末梢へ流れ出るため、圧 P は初期値 P₀ から時定数 τ で指数関数的に減衰する。

ウィンドケッセルモデルとは

🙋
「ウィンドケッセルモデル」って初めて聞きました。心臓ってドクン、ドクンって拍動してるのに、指で脈をとると血はわりとなめらかに流れてる感じがします。あれってどういう仕組みなんですか?
🎓
いい質問だね。心臓は確かにポンプとして「ドクン」と一気に血を押し出す。でも毛細血管に届くころには、ほぼ一定の滑らかな流れになっている。この「ガタガタの拍動」を「なめらかな流れ」に変えているのが、大動脈の弾性なんだ。1899年にドイツの生理学者オットー・フランクが、それを「ウィンドケッセル」という名前のモデルにした。ウィンドケッセルはドイツ語で「空気室」という意味だよ。
🙋
空気室?心臓の話なのに、なんで空気が出てくるんですか?
🎓
昔の手押し式の消防ポンプには、空気を詰めた丸いドームが付いていてね。人がレバーをガッコンガッコン動かすと、そのままだと水もガタガタ途切れて出る。でも空気室があると、押した瞬間に空気が圧縮されて水を一時的にためこみ、レバーを戻している間にその空気がふくらんで水を押し出す。結果、ホースの先からは連続した水のジェットが出るんだ。動脈版だと、弾性のある大動脈がその空気室の役割をしている。収縮期に大動脈がふくらんで血をためこみ、拡張期に縮んで送り出す。
🙋
なるほど、大動脈がゴム風船みたいにふくらんで血をためるんですね。このツールだとパラメータが「C」と「R」の2つですけど、これは何ですか?
🎓
2要素モデルでは、複雑な循環をたった2つの数字で表す。ひとつが動脈コンプライアンス C ——動脈がどれだけ伸びやすいか、つまり風船のやわらかさ。もうひとつが末梢血管抵抗 R ——細い血管がどれだけ流れに抵抗するか。このモデルが予測する一番大事なことは、心臓が血を送らない拡張期には、動脈圧が時定数 τ = R·C で指数関数的に下がっていく、ということなんだ。左で C や R を動かすと、上のグラフの圧の落ち方が変わるのが見えるよ。
🙋
τ = RC ……電気回路で習ったコンデンサの式とそっくりですね。じゃあ動脈が硬くなると何が起きるんですか?高齢者の血圧の話とかでよく聞きます。
🎓
まさにそこがこのモデルの真価でね。加齢で動脈が硬くなると、コンプライアンス C が下がる。脈圧 PP ≈ SV/C だから、同じ量の血を送っても C が小さいと脈圧が大きくなる。だから高齢者は収縮期血圧だけがぐっと上がる「孤立性収縮期高血圧」になりやすい。「脈圧 vs 動脈コンプライアンス」のグラフで C を小さい側に動かすと、脈圧がぐんと跳ね上がる急なカーブが見えるはずだ。シンプルなモデルだけど、臨床の現象をちゃんと説明できるんだよ。

よくある質問

ウィンドケッセルモデルは、心臓が拍動的に送り出す血液を、動脈系が「弾性をもつコンプライアンス C」と「末梢血管抵抗 R」の組み合わせで滑らかな流れに変える仕組みを表した循環モデルです。1899年にドイツの生理学者オットー・フランクが提唱しました。2要素モデルでは、心臓が血液を送らない拡張期に動脈圧が指数関数的に減衰し、その時定数は τ = R·C で与えられます。
時定数 τ は、心臓が血液を送り出さない拡張期に動脈圧がどれくらいゆっくり下がるかを表す指標です。末梢血管抵抗 R と動脈コンプライアンス C の積で決まり、τ が大きいほど圧の落ち方が緩やかになります。一般的な値は約1.5秒で、これは心周期(約0.86秒)より長いため、次の拍動が来る前に圧がゼロまで落ちきらず、拡張期にも一定以上の圧が保たれます。
脈圧 PP は収縮期血圧と拡張期血圧の差で、2要素モデルでは PP ≈ SV/C で近似できます。SV は1回拍出量、C は動脈コンプライアンスです。つまり同じ量の血液を送り出しても、動脈が硬く C が小さいほど脈圧は大きくなります。加齢で動脈が硬化すると C が低下し、収縮期血圧だけが上がる「孤立性収縮期高血圧」が高齢者に多いのはこのためです。
平均動脈圧 MAP は、1心周期にわたって平均した血流量に末梢血管抵抗を掛けたもので、MAP = (SV·HR/60)·R で計算できます。SV·HR/60 は平均血流量(心拍出量を秒あたりに換算した値)です。これはオームの法則(電圧=電流×抵抗)の循環版で、平均圧は心臓が送る平均流量と末梢の抵抗だけで決まり、動脈コンプライアンス C には依存しません。C が効くのは脈圧(圧の振れ幅)の方です。

実世界での応用

動脈硬化と高血圧の理解:ウィンドケッセルモデルは、加齢や動脈硬化によって動脈コンプライアンス C が低下すると脈圧が増大することを直接説明します。臨床で問題になる「孤立性収縮期高血圧」——収縮期血圧だけが高く拡張期血圧はむしろ低い高齢者の血圧パターン——は、平均圧(MAP=Q̇R)はほぼ一定のまま、振れ幅である脈圧(PP≈SV/C)だけが C の低下で拡大した結果として理解できます。脈圧は心血管リスクの独立した指標としても重視されています。

心拍出量の推定:動脈圧の波形が測れれば、その拡張期の減衰カーブから時定数 τ を読み取り、推定したコンプライアンス C と組み合わせて末梢血管抵抗 R を求め、平均圧から心拍出量を逆算できます。動脈圧波形解析(パルス・コンター法)による心拍出量モニタリングは、ウィンドケッセルモデルやその発展形を理論的な土台にしています。集中治療室や手術室で、肺動脈カテーテルを使わずに循環状態を連続監視する手法として使われています。

循環器系の教育とCAEの入門:2要素ウィンドケッセルモデルは、抵抗 R とコンプライアンス C を電気回路の抵抗とコンデンサに対応させる「集中定数モデル」の典型例です。生理学・生体工学の教育で、複雑な循環を最小限の要素で捉える考え方を学ぶ題材として広く使われます。3要素・4要素モデルへの拡張や、1次元の血流CFDモデルの「流出境界条件」としても使われ、本格的な心血管シミュレーションへの入り口になります。

人工心臓・補助循環の設計:人工心臓や体外循環装置(人工心肺)の試験では、患者の動脈系を模擬する「模擬循環回路(mock circulation loop)」が使われます。この回路はまさにウィンドケッセルモデルそのもので、コンプライアンスチャンバーと可変抵抗を組み合わせて、健常者から動脈硬化患者までさまざまな循環条件を物理的に再現します。デバイスが拍動流をどう扱うかを評価するのに不可欠です。

よくある誤解と注意点

まず多いのが、「2要素ウィンドケッセルモデルで実際の血圧波形が再現できる」という誤解です。2要素モデルは拡張期の指数関数的な圧減衰をよく表しますが、収縮期の波形の細部、特に大動脈弁が閉じる瞬間に現れる「ダイクロティック・ノッチ(重複切痕)」や、末梢で反射して戻ってくる反射波は表現できません。これらを扱うには、大動脈の特性インピーダンスを加えた3要素モデルや、慣性を加えた4要素モデルが必要です。本ツールの圧波形は、あくまで2要素モデルの枠組みでの近似だと理解してください。

次に、「平均動脈圧 MAP は動脈コンプライアンス C で変わる」という思い込み。MAP = Q̇·R が示すとおり、平均圧は平均流量と末梢抵抗だけで決まり、C には依存しません。C が変えるのは脈圧(圧の振れ幅)であって、平均レベルではありません。動脈が硬くなっても MAP が変わらず収縮期圧だけ上がるのはこのためです。一方、本当に MAP を動かしたいなら、効くのは末梢血管抵抗 R か心拍出量です。「血管を柔らかくすれば平均血圧が下がる」と単純化しないよう注意が必要です。

最後に、「R と C は独立して自由に決まる定数だ」という誤解。実際の循環では、末梢血管抵抗 R は交感神経や血管作動物質によって秒〜分の単位で能動的に調節され、動脈コンプライアンス C も血圧レベルそのものに依存して非線形に変化します(圧が高いほど動脈は硬くなる)。本ツールでは説明をわかりやすくするため R と C を独立した固定パラメータとして扱っていますが、生体では両者が相互に、かつ動的に変化していることを念頭に置いてください。集中定数モデルはあくまで現象を理解するための単純化です。

使い方ガイド

  1. 動脈コンプライアンス(C)を0.5~2.0 mL/mmHgの範囲で設定。大動脈近位部は高コンプライアンス、末梢動脈は低コンプライアンスです
  2. 末梢血管抵抗(R)を0.5~2.0 mmHg·min/mLで入力。血管収縮薬投与時は抵抗が増加、血管拡張時は低下します
  3. 1回拍出量(SV)を50~100 mLで、心拍数(HR)を50~120 bpmで設定してシミュレーション開始
  4. リアルタイムで時定数τ、平均動脈圧MAP、脈圧PPが計算され、拡張期の圧減衰曲線が表示されます

具体的な計算例

健常成人での設定例:C=1.2 mL/mmHg、R=1.0 mmHg·min/mL、SV=70 mL、HR=70 bpmの場合、時定数τ=1.2秒、心周期T=0.857秒となります。この条件下でCO=4,900 mL/minと算出され、平均動脈圧MAP=93 mmHg、脈圧PP=40 mmHgが得られます。拡張期0.5秒後の圧減衰率は約61%です

実務での注意点

  1. 高血圧患者では動脈スティフネスによりCが低下(≒0.6 mL/mmHg)し、脈圧が異常増大します。CAVIスコア計測と併用してください
  2. 敗血症では末梢血管抵抗が急激に低下(R≒0.4 mmHg·min/mL)してMAPが危険域に低下。カテコールアミン投与で抵抗を回復させる判断材料になります
  3. τ値が心周期Tの0.5倍未満の場合、拡張期圧が過剰低下し、冠動脈灌流が悪化する可能性があります