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無線電力伝送・WPT

ワイヤレス電力伝送 結合係数 k・Q値シミュレーター

Qi 充電や EV ワイヤレス給電で使われる磁界共鳴方式(Kurs–Soljacic)の 2 コイル結合を設計するツールです。コイル直径・巻数・距離・周波数・Q値を変えると、結合係数 k・kQ 性能指数・Kurs–Soljacic 最大効率がリアルタイムで分かり、目標効率を達成できるリンク設計を探せます。

パラメータ設定
一次側コイル直径 D₁
cm
二次側コイル直径 D₂
cm
一次側巻数 N₁
turns
二次側巻数 N₂
turns
コイル間距離 d
cm
送信/受信コイル中心間の同軸距離
動作周波数 f
kHz
Qi: 100–205 kHz / SAE J2954 EV: 85 kHz / AirFuel: 6780 kHz
一次側 Q 値 Q₁
二次側 Q 値 Q₂
空芯リッツ線 Q≈200–400、フェライト付きは 100–200
計算結果
一次側自己インダクタンス L₁ (μH)
相互インダクタンス M (μH)
結合係数 k
合成 Q 値 √(Q₁Q₂)
kQ 性能指数 FoM
最大効率 η (%)
コイル対と磁束結合 — 共振リンク図

左:一次側(送電)/右:二次側(受電)コイル。磁束線の密度が結合係数 k、ゲージが最大効率を表します。色は kQ 性能指数(緑=高効率/赤=低効率)。

伝送効率 η vs コイル間距離 d
kQ 性能指数 vs 最大効率(Kurs–Soljacic 曲線)
理論・主要公式

$$k = \frac{M}{\sqrt{L_1 L_2}},\qquad \eta_{max} = \frac{(kQ)^{2}}{\left(1+\sqrt{1+(kQ)^{2}}\right)^{2}}$$

結合係数 k と Kurs–Soljacic 最大効率。M:相互インダクタンス、L₁,L₂:自己インダクタンス、Q:合成 Q 値、kQ:性能指数(10 以上が実用域)。

$$Q = \sqrt{Q_1 Q_2},\qquad k_{crit} = \frac{1}{Q}$$

合成 Q 値と臨界結合 k_crit。k < k_crit :Under-coupled(効率低下)、k ≈ k_crit :Critical(最適)、k > 2k_crit :Over-coupled(周波数分割)。

$$\omega L = \frac{1}{\omega C},\qquad C = \frac{1}{\omega^{2} L}$$

共振条件と整合容量 C。ω=2πf。送受とも同一の共振周波数 f に整合する必要がある(不整合は効率を急減させる)。

ワイヤレス電力伝送 結合係数 k・Q値設計

🙋
スマホをパッドに置くだけで充電できる「Qi」とか、最近の EV の「地面パッドから充電」って、どういう仕組みなんですか?電池みたいに線で繋がってないのに電気が流れるのが不思議です。
🎓
あれはトランス(変圧器)を 2 つに分解してエアギャップを大きくしたもの、と思うと分かりやすいよ。送電側にコイルを巻いて高周波で電流を流すと、磁束(磁界)が空間に出る。その磁束を受電側コイルが拾うと、ファラデーの法則で電圧が誘導されるんだ。「磁界共鳴方式」というのは、両コイルを同じ周波数でビリビリ鳴る共振器にして、空気越しでも効率よくエネルギーを橋渡しさせる方式。MITの Kurs と Soljacic が 2007 年に提唱して、Qi や EV WPT の基礎になっている。
🙋
なるほど。でも空気を挟んでいるのに、Qi って 70% とか 80% も効率が出るんですよね?普通のトランスだとコアで磁束を閉じ込めるからこそ高効率というイメージでしたが…
🎓
そう、そこが面白いところ。本ツールに出てくる「結合係数 k」は、普通のトランス(コアあり)だと 0.95〜0.99、Qi(空芯コイル+フェライト)でも 0.5〜0.7。EV WPT で地上と車体下を 15 cm 離すと、k は 0.1〜0.3 まで落ちる。それでも高効率が出る秘密が「kQ 性能指数」だ。Q 値(コイルの品質係数)を 200〜500 まで上げておけば、k が小さくても kQ を 20〜100 にできて、最大効率は (kQ)²/(1+√(1+(kQ)²))² の式で 90% 超まで届く。「k が小さい=低効率」ではなく、「kQ が小さい=低効率」なんだ。
🙋
じゃあ Q 値を上げまくれば、距離を 1m とか 10m とかにできるんですか?
🎓
理論はそうなんだけど、現実は厳しい。Q を上げるには損失抵抗 R を下げるしかなくて、Litz 線(束ね線で表皮効果を抑える)でも空芯コイルの Q は 500 が上限。一方、距離 d を伸ばすと k は急速に落ちる。本ツールの「効率 vs 距離」グラフで分かるけど、d ≈ コイル半径 r の付近に「崖」がある。kQ が 1 を下回ると効率が一気に崩れるんだ。だから 1m 以上の中距離 WPT は「コイルを大きく(r を上げる)」しか手がない。EV WPT が 50cm 角の大型パッドを使うのはそのため。
🙋
左の周波数スライダーを 85 kHz から 6.78 MHz に動かすと、何が変わるんですか?値はあまり変わらない気がしますが…
🎓
いいところに気づいたね。最大効率の式 (kQ)²/(...)² には f が直接出てこないから、k と Q が同じなら効率は同じ。じゃあ何が違うかと言うと、(1) 整合容量 C が ω² に反比例して急減する(85 kHz だと nF オーダー、6.78 MHz だと pF オーダー)、(2) 高周波ほど Q を高くしやすいが寄生容量・人体吸収・規制(FCC, EMC)が厳しい、(3) Qi/EV は 85〜200 kHz、AirFuel は ISM バンドの 6.78 MHz に分かれた、という感じ。本ツールで f を変えたとき右の「整合容量」が変わるのを見ると、コンデンサ選定の厳しさが体感できるよ。
🙋
「Over-coupled」「Critical」「Under-coupled」という判定が出ますが、これは何ですか?Over-coupled って結合が強い方が良さそうなのに、Critical の方が「最適」と書いてあります…
🎓
これが共振 WPT のクセだね。臨界結合 k = 1/Q では効率最大で周波数応答も平坦。k がそれより小さいと kQ が落ちて効率低下(Under)、大きいと共振が 2 つに割れて「周波数分割」が起きる。設計周波数だと谷になって効率が落ちる、という現象だ。Qi や EV WPT は Over-coupled で動かして、共振周波数を動的に追従するか、LCC 補償回路でインピーダンス整合し直す、という工夫をしている。デフォルトの k=0.26, Q=200 だと k_crit=1/200=0.005 で、k は 50 倍以上だから「Over-coupled」。だから理論最大効率 96% を実機で出すには、周波数追従制御がほぼ必須。

よくある質問

k = M/√(L1·L2) は 2 つのコイルがどれだけ磁束で結ばれているかの幾何的な指標で 0〜1 の無次元数です。Q = ωL/R は各コイル単体の損失逆数で、共振の鋭さ・蓄積エネルギーと放散エネルギーの比を表します。kQ はその積で、磁界共鳴方式WPTの「達成できる最大効率」を支配する最重要パラメータです。空芯コイルを離すと k は小さくなりますが、高 Q なら kQ を大きく保てるため、結合が弱くても高効率の伝送ができます。本ツールは k・Q・kQ の3つを同時に表示します。
これは Kurs と Soljacic(MIT, 2007)が示した磁界共鳴WPTの効率上限式で、受電側を最適負荷に整合させたときの理論最大効率です。kQ=1 で η≈38%、kQ=3 で 75%、kQ=10 で 90%、kQ=100 で 96% を超えます。実用ラインは kQ≥10 で、Qi 充電(85〜205 kHz)や SAE J2954(EV WPT, 85 kHz)の市販システムは kQ=20〜100 程度を狙って設計されます。kQ が 1 を下回ると効率が急落するため、距離を伸ばしたいときは kQ をいかに下回らせないかが設計課題になります。
Qi はスマホ用の近接結合(k≈0.5〜0.7、距離≪コイル径)で、Q が低くても kQ が十分大きくとれるため、低 Q のフェライト+平面コイルで成立します。一方 EV WPT は車体下と地面パッドの距離が 100〜250 mm あり、k は 0.1〜0.3 まで下がります。これを補うため、Litz 線で Q を 200〜500 まで上げ、85 kHz の磁界共鳴を厳密に整合させて kQ≈30〜60 を確保します。本ツールの「効率 vs 距離」グラフを見ると、近距離域はほぼ平坦で、ある距離を境に効率が崖のように落ちる Qi 型と、ゆるく落ちる EV 型の差が見えます。
Critical(臨界結合)は k = 1/Q_combined を満たす状態で、伝送効率が最大かつ周波数応答が平坦になります。これより k が小さい Under-coupled では効率が急落し(kQ<1 領域)、k が大きい Over-coupled では共振が 2 つに分裂して周波数分割(frequency splitting)が起きます。Over 領域では設計周波数で効率が落ちることがあるため、周波数追従制御や LCC 補償回路で対応します。本ツールは現在の k と k_crit=1/Q_c から自動判定し、判定欄に regime を表示します。Qi や EV WPT は通常 Over-coupled 側で設計し、共振周波数調整で最適点を追います。

実世界での応用

スマホ・ウェアラブルの Qi 充電:WPC(Wireless Power Consortium)が策定した Qi 規格は 100〜205 kHz、5〜15 W で動作し、ほぼ全てのスマホとスマートウォッチに搭載されています。距離はわずか 2〜5 mm で k≈0.5〜0.7 と高く、低 Q のフェライト裏打ち平面コイルでも 70〜80% の効率が出ます。最近の Qi v2 と Apple MagSafe はマグネットで位置合わせを行い、k のばらつきを抑えて整合精度を上げる工夫が入っています。

EV ワイヤレス給電(SAE J2954):BMW 530e iPerformance、Mercedes-Benz、Tesla 等が実車試験中の EV WPT は、85 kHz・3.7〜11 kW(将来 22〜50 kW)の磁界共鳴方式。地面側 GA(Ground Assembly)と車体側 VA(Vehicle Assembly)の間が 100〜250 mm 離れるため、k は 0.1〜0.3 まで落ちます。これを Litz 線の高 Q コイルと LCC compensation network で補い、グリッドからバッテリまで 90% 級の効率を目指しています。WiTricity, InductEV(旧 Momentum Dynamics), Plugless 等が技術提供しています。

医療用体内デバイス・産業ロボット:ペースメーカーや人工心臓の補助ポンプ(LVAD)への経皮電力伝送(TET)は、皮膚を介した数 cm の WPT で電池交換手術を不要にします。低周波(〜200 kHz)で組織加熱を抑え、Q=100 程度でも十分な kQ を確保します。工場の AGV・産業ロボットへの給電(Powermat, Yank Technology)でも、コネクタ摩耗とアーク放電を避けるため WPT が採用が広がっています。

マルチコイル・動的給電(DWPT)の事前検討:韓国 KAIST の OLEV バスや、欧州 ELECTREON が試験する走行中給電(Dynamic WPT)は、道路に埋設したコイル列の上を車両が通過する間、連続的に給電します。コイルの切替・k の時間変動・複数受電を扱うため、本ツールのような単一ペア計算で k と kQ の基本特性を確認した上で、Spice や FEM(COMSOL, ANSYS Maxwell)で詳細解析する流れになります。

よくある誤解と注意点

まず多いのが、「結合係数 k さえ大きければ高効率」という誤解です。本ツールでも分かる通り、効率を支配するのは k 単独ではなく kQ 性能指数です。k=0.5 でも Q=20 だと kQ=10 で効率 90%、k=0.05 でも Q=400 だと kQ=20 で効率 95%。実際 EV WPT は k≈0.2 程度なのに 90% 級を達成しています。「コイルを近づければ済む」発想で Q を疎かにすると、距離が少し変わっただけで効率が崖から落ちます。Litz 線(細素線多数撚り)でいかに Q を稼ぐかが共振 WPT の本質です。

次に、「共振周波数は一度合わせれば固定でよい」という思い込み。実は L と C は温度、コイル変形、金属異物の有無、車体高さ(EV では乗員数で 1〜2 cm 変動)で変化し、共振周波数は ±数 % ずれます。本ツールが示す Over-coupled 領域では周波数分割で 2 つのピークができ、固定周波数だとその谷に当たって効率が大幅低下します。実機では PWM 周波数を自動追従させるか、PLL でロックする、または LCC 補償回路でインピーダンスを能動的に整合させる必要があります。「kQ=51 で 96% 出る」のはあくまで最適負荷・完全整合下の理論上限です。

最後に、「周波数を上げれば全て良くなる」という単純化。確かに高周波だと小型コイルでも Q を稼ぎやすく整合容量も小さくできますが、(1) 表皮効果と近接効果で抵抗が増えて Q 向上が頭打ち、(2) 周辺金属での渦電流損が急増、(3) 人体 SAR(比吸収率)規制が厳しくなる、(4) ICNIRP/総務省/FCC の電波法規制で使えるバンドが限られる(ISM の 6.78 MHz, 13.56 MHz 等)、という壁があります。Qi/EV WPT が 85〜205 kHz に集中しているのはこれらのバランスから決まった結論であり、本ツールで自由に f を変えても、実機ではこの規制内に収めて設計します。

使い方ガイド

  1. 一次コイル径(1~50cm)と二次コイル径を入力。Qi充電器は一次10cm・二次8cm、EV給電は一次30cm・二次28cmが標準値
  2. 各コイルの巻数(5~100ターン)を設定。磁界共鳴方式では両者を同値に近づけると結合係数kが0.3~0.5に向上
  3. シミュレータが自己インダクタンスL₁、相互インダクタンスM、結合係数k、合成Q値を自動計算。効率η=(kQ)²×100%で表示

具体的な計算例

Qi充電パッド設計:一次コイル径12cm・巻数30ターン、二次コイル径10cm・巻数30ターン、間隔5mmの場合、L₁≈150μH、M≈45μH、k≈0.30、Q値≈180が目標。kQ=54でFoM性能指数2916、最大効率84%を達成。EV非接触給電(一次35cm・巻数40T、二次32cm・巻数40T、間隔200mm)ではk≈0.15、Q値≈120でkQ=18、効率32%程度となり、効率向上には二次側の金属シールド配置調整が必須

実務での注意点