ワイヤレス電力伝送シミュレーター 戻る
電気工学

ワイヤレス電力伝送シミュレーター

2つのコイルの間に生じる磁界を使って、配線なしで空隙を越えて電力を送るワイヤレス電力伝送(WPT)を設計するツールです。コイル間距離・半径・周波数・Q値を変えると、結合係数 k と性能指数 kQ、そして実際の伝送効率がリアルタイムで分かります。

パラメータ設定
コイル間距離 d
mm
送電コイルと受電コイルの空隙
コイル半径 r
mm
送受電コイルの半径(同一とする)
動作周波数 f
kHz
共振動作させる周波数
コイルのQ値
コイル共振器の品質係数(送受電とも同一)
負荷整合度
受電側負荷の整合具合。1.0で最適整合
計算結果
結合係数 k
性能指数 kQ
最大伝送効率 η_max (%)
実効伝送効率 (%)
距離/半径比
伝送の判定
WPTリンク模式図 — 磁界結合アニメーション

左の送電コイルから出た磁界の輪が、空隙 d を越えて右の受電コイルを貫きます。受電コイルを通る磁界線の割合が結合係数 k に対応します。

伝送効率 vs コイル間距離 d
伝送効率 vs 性能指数 kQ
理論・主要公式

$$k=\frac{1}{\big(1+(2d/r)^2\big)^{3/2}},\qquad \eta_{max}=\frac{(kQ)^2}{\big(1+\sqrt{1+(kQ)^2}\big)^2}$$

同軸2コイルの結合係数 k(d:コイル間距離、r:コイル半径)と、共振WPTリンクの最大伝送効率 η_max。達成できる効率を決めるのは結合係数 k 単独ではなく、k と Q値の積である性能指数 kQ である。

$$\text{FOM}=kQ,\qquad \eta_{actual}=\eta_{max}\cdot m$$

性能指数 FOM = kQ(送受電コイルのQ値は同一と仮定)。実効伝送効率 η_actual は、最大効率 η_max に負荷整合度 m(0.3〜1.0)を掛けたもの。整合度が1なら η_max がそのまま得られる。

ワイヤレス電力伝送とは

🙋
スマホを充電パッドに「置くだけ」で充電できますよね。あれって、配線がないのにどうやって電気が伝わってるんですか?
🎓
ざっくり言うと「変圧器(トランス)の鉄心を空気に置き換えたもの」だよ。充電パッドの中には送電コイルが、スマホの中には受電コイルが入っている。送電コイルに交流を流すと磁界が生まれて、その磁界が受電コイルを貫く。すると受電コイルに電圧が誘導される——電磁誘導だね。コイル同士が物理的につながっていなくても、磁界という「見えない橋」を通して電力が渡るんだ。
🙋
なるほど、トランスと同じ原理なんですね。でも普通のトランスって鉄心がしっかり巻いてあるじゃないですか。空気だとうまく伝わるんですか?
🎓
そこがまさに難しいところでね。鉄心入りのトランスは2つのコイルが「しっかり結合」していて、結合係数 k はほぼ1。ところが空芯コイルを引き離すと「ゆるく結合」した状態になって、k は急激に小さくなる。左の「コイル間距離」を大きくしてみて。k の値も、距離/半径比が大きくなるにつれてストンと落ちていくのが見えるはずだ。距離が半径の何倍にもなると、磁界の輪のほとんどが受電コイルを素通りしてしまうんだ。
🙋
結合がゆるいと効率も悪くなりそうですが…それでもQi充電って実用になっていますよね?
🎓
いい疑問だね。実は「結合がゆるい=効率が悪い」と決めつけるのは間違いなんだ。本当に効率を決めるのは k 単独じゃなくて、k と Q値の積、つまり「性能指数 kQ」なんだよ。Q値はコイルがどれだけ良い共振器かを表す数字で、よく作った空芯コイルなら100〜数百になる。たとえ k が0.5でも、Q が100あれば kQ は50になる。kQ が1より十分大きければ効率は1に近づく。これが「共振WPT」のブレイクスルーなんだ。
🙋
k が小さくても Q で挽回できる、ということですか。下の「伝送効率 vs kQ」グラフを見ると、kQ が1あたりから急に効率が上がってますね。
🎓
その通り。η_max = (kQ)²/(1+√(1+(kQ)²))² という式で、kQ が1以下だと効率は50%を切るけど、kQ が10を超えるあたりから90%台に乗ってくる。だからWPTの設計は「k を上げる」か「Q を上げる」か、どちらかで kQ を稼ぐ勝負になる。実際、スマホをQiパッドから1cmほど浮かせても効率よく充電できるのは、kQ がしっかり1を超えているからなんだ。
🙋
電気自動車の充電パッドとか、体内の医療機器に給電する話も聞きますが、あれも同じ仕組みなんですか?
🎓
まったく同じ kQ の世界だよ。電気自動車では地面側の大きな送電コイルから、車体下面の受電コイルへ数kWを送る。コイルが大きいぶん距離があっても k が確保できる。医療用のペースメーカーや人工内耳は、皮膚を切らずに体外から体内のコイルへ給電する——磁界は生体組織をほぼそのまま通り抜けるから可能なんだ。スケールはバラバラでも、設計者が見ているのは結局「kQ をいかに大きく保つか」という同じ一点なんだよ。

よくある質問

同軸に置いた2つのコイルでは、コイル間距離 d とコイル半径 r の比 ratio = 2d/r を使い、k = 1/(1+ratio²)^1.5 で近似します。k は 0〜1 の無次元数で、距離が近いほど、またコイルが大きいほど k は1に近づきます。本ツールはこの k を距離・半径から計算し、性能指数 kQ や伝送効率の起点として使います。距離が半径より大きくなると k は急激に小さくなる点が、ワイヤレス給電の難しさの本質です。
鍵は性能指数 kQ(figure of merit)です。空芯コイルを離すと結合係数 k は小さくなりますが、達成できる効率を決めるのは k 単独ではなく k と Q値(コイルの品質係数)の積です。各コイルを高Qの共振器にし、同じ周波数に同調させれば、小さな k でも大きな Q を掛けて kQ を1より十分大きくできます。最大伝送効率は η_max = (kQ)² / (1+√(1+(kQ)²))² で表され、kQ が大きいほど1(100%)に近づきます。これが共振WPTの基本原理です。
結合係数 k は距離 d の増加とともに 1/(1+(2d/r)²)^1.5 で減衰するため、効率も距離に対して急に下がります。例えば距離がコイル半径と同程度になると k は大きく低下し、kQ が1を下回るあたりから効率が崩れ始めます。本ツールの「伝送効率 vs コイル間距離」グラフを見ると、近距離ではほぼ平坦で、ある距離を超えると一気に落ちる「崖」のような特性が分かります。コイルを大きくすると同じ距離でも k が大きくなり、この崖を遠くへ押しやれます。
最大伝送効率 η_max は、受電側の負荷を最適値に整合させたときに得られる理論上限です。実際の機器では負荷インピーダンスが最適値からずれることがあり、本ツールでは負荷整合度(0.3〜1.0)でその影響を表します。実効伝送効率は η_actual = η_max × 負荷整合度 で計算され、整合度が1.0なら η_max がそのまま得られ、ずれるほど効率が低下します。実機ではインピーダンス整合回路や動的な負荷追従制御で、この整合度を1に近づける工夫が行われます。

実世界での応用

スマートフォン・小型機器の充電:Qi規格に代表される置くだけ充電は、ワイヤレス電力伝送の最も身近な応用です。充電パッド側に送電コイル、スマホ側に受電コイルを置き、数mmの空隙を越えて数Wを伝送します。距離が短くコイルも近いため結合係数 k が比較的高く、さらに高Qコイルで kQ を稼ぐことで、ケーブルを挿す手間なく実用的な効率を実現しています。イヤホンケースや電動歯ブラシも同じ原理です。

電気自動車の非接触充電:地面に埋め込んだ大型の送電コイルから、車体下面の受電コイルへ数kW〜数十kWを送ります。コイルが大きいぶん、十数cmの空隙があっても結合係数 k を確保でき、共振動作で高い kQ を保てます。駐車するだけで充電が始まるため、ケーブルの抜き差しが不要で、悪天候時や自動運転車との相性も良い方式として開発が進んでいます。

医療用インプラントへの給電:ペースメーカー、人工内耳、神経刺激装置などの体内埋め込み機器に、皮膚を切らずに体外から電力を送ります。磁界は生体組織をほぼ減衰せずに透過するため、経皮的なエネルギー伝送(TET)が可能です。電池交換のための再手術を減らせる利点があり、結合が弱くなりがちな配置でも kQ を高めて安定給電する設計が求められます。

産業機器・ロボット・センサ:回転体や可動部、密閉容器の中など、配線を引き回せない箇所への給電にWPTが使われます。回転テーブル上のセンサ、水中ロボット、防爆環境の機器など、コネクタの摩耗や火花を避けたい用途で有効です。これらでは配置の自由度を保ちつつ、距離・位置ずれに対しても kQ が崩れにくいコイル設計が重要になります。

よくある誤解と注意点

まず最大の誤解が、「結合係数 k が小さいから効率も悪いに決まっている」という思い込みです。確かに k が小さいと変圧器としては「ゆるい結合」ですが、共振WPTで効率を決めるのは k 単独ではなく性能指数 kQ です。k が0.1しかなくても、Q が200あれば kQ は20となり、η_max は95%を超えます。逆に k が0.5あっても Q が低ければ kQ は伸びず効率は出ません。「k を上げる」だけでなく「Q を上げる」ことが同じ価値を持つ——この視点を欠くと、無理にコイルを近づける設計に偏ってしまいます。

次に、「伝送効率が高ければシステム全体の効率も高い」という早合点です。本ツールが計算する η_max・η_actual は、あくまで送電コイルから受電コイルへの「コイル間の」効率です。実際のシステムでは、送電側のインバータ(直流→交流変換)の損失、整流回路の損失、コイル以外の配線損失などが上乗せされます。コイル間効率が95%でも、これらを含めた壁コンセントから機器までの総合効率はそれより低くなります。WPTの省エネ性を語るときは、どの区間の効率かを明確にする必要があります。

最後に、「周波数を上げれば何でも良くなる」という誤解。動作周波数を上げると小型のコイルでも高い Q を得やすくなる一方、表皮効果や近接効果で導体損失が増え、放射やEMC(電磁両立性)の問題、人体ばく露の規制も厳しくなります。Qi充電が100〜200kHz帯、一部の方式が数MHz帯を使うのは、これらのトレードオフのバランス点です。本ツールでは周波数は共振動作の前提として扱っていますが、実機では「Q が上がる」効果と「損失・規制が増える」効果を両天秤にかけて周波数を選ぶ必要があります。

使い方ガイド

  1. 送信・受信コイルの間隔(mm単位)と各コイルの半径(mm単位)を入力します。例えば一次コイル半径25mm、二次コイル半径25mm、間隔15mmの場合、距離/半径比=0.3となります
  2. 動作周波数(kHz~MHz)とコイルのQ値(無損失性指標、通常50~200)を設定し、「計算実行」をクリックして磁界結合解析を開始します
  3. 結合係数k、性能指数kQ、最大伝送効率η_max、実効伝送効率を確認し、設計仕様を満たしているかジャッジします。kQ値が30以上で実用的なWPT設計と判定されます

具体的な計算例

スマートフォン充電器設計例:送受信コイル半径20mm、間隔8mm、周波数165kHz、Q値120の場合。距離/半径比=0.2、結合係数k≈0.85、kQ≈102、最大伝送効率≈89%、実効伝送効率≈78%が得られます。一方、医療埋込デバイス用で間隔30mm、周波数13.56MHz、Q値80の場合、k≈0.35、kQ≈28、実効伝送効率≈65%となり、より強い磁界集中が必要になります

実務での注意点