そこがまさに難しいところでね。鉄心入りのトランスは2つのコイルが「しっかり結合」していて、結合係数 k はほぼ1。ところが空芯コイルを引き離すと「ゆるく結合」した状態になって、k は急激に小さくなる。左の「コイル間距離」を大きくしてみて。k の値も、距離/半径比が大きくなるにつれてストンと落ちていくのが見えるはずだ。距離が半径の何倍にもなると、磁界の輪のほとんどが受電コイルを素通りしてしまうんだ。
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結合がゆるいと効率も悪くなりそうですが…それでもQi充電って実用になっていますよね?
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いい疑問だね。実は「結合がゆるい=効率が悪い」と決めつけるのは間違いなんだ。本当に効率を決めるのは k 単独じゃなくて、k と Q値の積、つまり「性能指数 kQ」なんだよ。Q値はコイルがどれだけ良い共振器かを表す数字で、よく作った空芯コイルなら100〜数百になる。たとえ k が0.5でも、Q が100あれば kQ は50になる。kQ が1より十分大きければ効率は1に近づく。これが「共振WPT」のブレイクスルーなんだ。
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k が小さくても Q で挽回できる、ということですか。下の「伝送効率 vs kQ」グラフを見ると、kQ が1あたりから急に効率が上がってますね。
まったく同じ kQ の世界だよ。電気自動車では地面側の大きな送電コイルから、車体下面の受電コイルへ数kWを送る。コイルが大きいぶん距離があっても k が確保できる。医療用のペースメーカーや人工内耳は、皮膚を切らずに体外から体内のコイルへ給電する——磁界は生体組織をほぼそのまま通り抜けるから可能なんだ。スケールはバラバラでも、設計者が見ているのは結局「kQ をいかに大きく保つか」という同じ一点なんだよ。
よくある質問
同軸に置いた2つのコイルでは、コイル間距離 d とコイル半径 r の比 ratio = 2d/r を使い、k = 1/(1+ratio²)^1.5 で近似します。k は 0〜1 の無次元数で、距離が近いほど、またコイルが大きいほど k は1に近づきます。本ツールはこの k を距離・半径から計算し、性能指数 kQ や伝送効率の起点として使います。距離が半径より大きくなると k は急激に小さくなる点が、ワイヤレス給電の難しさの本質です。
鍵は性能指数 kQ(figure of merit)です。空芯コイルを離すと結合係数 k は小さくなりますが、達成できる効率を決めるのは k 単独ではなく k と Q値(コイルの品質係数)の積です。各コイルを高Qの共振器にし、同じ周波数に同調させれば、小さな k でも大きな Q を掛けて kQ を1より十分大きくできます。最大伝送効率は η_max = (kQ)² / (1+√(1+(kQ)²))² で表され、kQ が大きいほど1(100%)に近づきます。これが共振WPTの基本原理です。
結合係数 k は距離 d の増加とともに 1/(1+(2d/r)²)^1.5 で減衰するため、効率も距離に対して急に下がります。例えば距離がコイル半径と同程度になると k は大きく低下し、kQ が1を下回るあたりから効率が崩れ始めます。本ツールの「伝送効率 vs コイル間距離」グラフを見ると、近距離ではほぼ平坦で、ある距離を超えると一気に落ちる「崖」のような特性が分かります。コイルを大きくすると同じ距離でも k が大きくなり、この崖を遠くへ押しやれます。
スマートフォン・小型機器の充電:Qi規格に代表される置くだけ充電は、ワイヤレス電力伝送の最も身近な応用です。充電パッド側に送電コイル、スマホ側に受電コイルを置き、数mmの空隙を越えて数Wを伝送します。距離が短くコイルも近いため結合係数 k が比較的高く、さらに高Qコイルで kQ を稼ぐことで、ケーブルを挿す手間なく実用的な効率を実現しています。イヤホンケースや電動歯ブラシも同じ原理です。
電気自動車の非接触充電:地面に埋め込んだ大型の送電コイルから、車体下面の受電コイルへ数kW〜数十kWを送ります。コイルが大きいぶん、十数cmの空隙があっても結合係数 k を確保でき、共振動作で高い kQ を保てます。駐車するだけで充電が始まるため、ケーブルの抜き差しが不要で、悪天候時や自動運転車との相性も良い方式として開発が進んでいます。
医療用インプラントへの給電:ペースメーカー、人工内耳、神経刺激装置などの体内埋め込み機器に、皮膚を切らずに体外から電力を送ります。磁界は生体組織をほぼ減衰せずに透過するため、経皮的なエネルギー伝送(TET)が可能です。電池交換のための再手術を減らせる利点があり、結合が弱くなりがちな配置でも kQ を高めて安定給電する設計が求められます。
産業機器・ロボット・センサ:回転体や可動部、密閉容器の中など、配線を引き回せない箇所への給電にWPTが使われます。回転テーブル上のセンサ、水中ロボット、防爆環境の機器など、コネクタの摩耗や火花を避けたい用途で有効です。これらでは配置の自由度を保ちつつ、距離・位置ずれに対しても kQ が崩れにくいコイル設計が重要になります。
よくある誤解と注意点
まず最大の誤解が、「結合係数 k が小さいから効率も悪いに決まっている」という思い込みです。確かに k が小さいと変圧器としては「ゆるい結合」ですが、共振WPTで効率を決めるのは k 単独ではなく性能指数 kQ です。k が0.1しかなくても、Q が200あれば kQ は20となり、η_max は95%を超えます。逆に k が0.5あっても Q が低ければ kQ は伸びず効率は出ません。「k を上げる」だけでなく「Q を上げる」ことが同じ価値を持つ——この視点を欠くと、無理にコイルを近づける設計に偏ってしまいます。