水中音響解析

カテゴリ: 連成解析・音響連成 | 2026-10-01 改稿

理論:海の中の音の速さと弱まり方

概要

🙋

水の中では、音は空気中よりずっと遠くまで届くと聞きました。どうしてですか?

🎓

水は光や電波をすぐに吸収してしまうが、音、とくに低い周波数の音はほとんど吸収しない。だから海の中で遠くと情報をやり取りする手段は音になる。音が弱まる理由は、広がって薄まることと、水に吸収されることの2つだ。吸収は周波数の2乗にほぼ比例して増えるので、低い音ほど遠くまで届く。さらに海の音速は水温・塩分・深さで変わり、音は音速の遅い方へ曲がる。深さ1,000 m前後には音速が最も遅い層があり、そこに閉じ込められた音は数千kmも届くことがある。水中音響の解析は、この音速の分布と吸収を入れて、音がどこへどれだけ届くかを計算する。

音速の式(メドウィン)

$$ c = 1449.2 + 4.6T - 0.055T^2 + 0.00029T^3 + (1.34 - 0.01T)(S - 35) + 0.016\,z $$

T は水温(℃)、S は塩分(実用塩分)、z は深さ(m)。

吸収と伝搬損失(トープの式)

$$ \alpha = \frac{0.11f^2}{1 + f^2} + \frac{44f^2}{4100 + f^2} + 2.75\times10^{-4}f^2 + 0.003\ \ [\mathrm{dB/km},\ f\ \mathrm{in\ kHz}],\qquad TL = 20\log_{10}\frac{r}{1\,\mathrm{m}} + \alpha\,r $$

最初の式はトープの吸収係数(数十kHzまでの近似)。伝搬損失は球面状の広がりと吸収の和で、浅い海などでは途中から円筒状の広がり(距離10倍で10 dB)になる。

Coffee Break よもやま話

タイタニック号とソナー

1912年のタイタニック号の沈没をきっかけに、氷山を音で見つける研究が始まり、第一次世界大戦中にランジュバンが水晶の圧電振動子を使った超音波の送受信器を作った。第二次世界大戦中には、海の音速の分布で音が曲がり、潜水艦が音の届かない影の領域に隠れられることが分かり、海の音速の研究が進んだ。深いところにある音速の極小の層(SOFARチャネル)では、小さな爆発の音が数千km先で聞こえることも確かめられた。

計算例

例1:水温と深さによる音速(塩分35)

水温表面深さ1,000 m
5 ℃1,470.9 m/s1,486.9 m/s
15 ℃1,506.8 m/s1,522.8 m/s
25 ℃1,534.4 m/s1,550.4 m/s

15℃の淡水(塩分0)では1,465.2 m/s。実際の海では深くなるほど水温が下がるので、ある深さで音速が最も遅くなる。

例2:周波数と距離による伝搬損失(球面状の広がり+吸収)

周波数波長吸収1 km10 km50 km
1 kHz1.5 m0.069 dB/km60 dB81 dB97 dB
10 kHz0.15 m1.19 dB/km61 dB92 dB153 dB
50 kHz0.03 m17.5 dB/km77 dB(実用範囲外)(実用範囲外)

浅い海で1 kmより先を円筒状の広がりとすると、10 kmでの損失は1 kHzで71 dB、10 kHzで82 dBになる。

🙋

1 kmまでは周波数による差が小さいのに、遠くなるほど高い周波数が大きく不利になるんですね。

🎓

広がりによる損失は周波数によらず、距離の対数で増える。一方、吸収は距離に比例して増え、その係数が周波数で大きく違う。だから近くでは広がりの損失が大部分を占め、周波数の差は小さいが、遠くでは吸収が効いてくる。10 kHzの吸収は1 kmで1.2 dBだが、50 kmでは60 dB近くになる。高い周波数は波長が短いので小さな物を見分けられ、装置も小さくできるが、遠くへは届かない。だからソナーは、目的の距離と見分けたい大きさから周波数を選ぶ。また実際の海では、音速の分布で音が曲がって届かない領域(影)ができたり、海面や海底で反射したりするので、音線法や放物型方程式で伝わり方を計算する。

解析の進め方

  1. 海域の水温・塩分・深さの分布から音速の深さ分布を作る。
  2. 周波数と距離から、音線法・ノーマルモード・放物型方程式のどれを使うか決める。
  3. 海面・海底の反射と吸収、海底の地質を入れる。
  4. 送受波器の近くは、構造と音場の連成(振動子・ドーム)を有限要素法で解く。
  5. 実測の伝搬損失と比べて、海底の特性などを合わせる。
Coffee Break よもやま話

「夏になると届かなくなった音」

ある湾の水中通信装置で、冬は数km先まで安定してつながっていたのに、夏になると同じ距離で通信が途切れがちになった。夏は表面の水温が上がり、深くなるほど水温が下がる層ができて、音速も深くなるほど遅くなった。音は音速の遅い下の方へ曲がり、表面近くの受信機は音の届かない影の領域に入っていた。音線法で計算するとこの影が再現でき、受信機を深い位置に移すと通信は安定した。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
音速を一定にする影の領域を見逃す深さ分布を入れる
吸収を周波数によらず一定高周波の到達距離を過大評価周波数ごとに吸収
浅海で球面の広がり遠方の損失を過大評価円筒・モードで扱う
季節変化を無視夏に通じなくなる季節ごとに計算
海底を完全反射にする損失を過小評価海底の地質を入れる
🙋

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