金属積層造形の熱解析
理論:動く熱源がつくる温度場
概要
金属3Dプリンタで造った部品が反ったり割れたりします。熱解析で何がわかるんでしょうか?
レーザー粉末床溶融(LPBF)では、0.1 mmほどの小さな溶融池が1秒に1 mほどの速さで動き、溶けてはすぐ固まることを何百万回も繰り返す。温度の変化がとても急なので、固まった部分が縮もうとして残留応力が生まれ、反りや割れになる。熱解析で知りたいのは、溶融池がどのくらいの大きさか(層どうしがきちんと溶け合うか)、どのくらいの速さで冷えるか(組織と応力)、部品全体にどう熱がたまるか、の3つだよ。
移動点熱源の解(ローゼンタールの式)
$P$ はレーザー出力、$A$ は吸収率、$k$ は熱伝導率、$\alpha$ は温度拡散率、$v$ は走査速度、$\xi$ は熱源から見た走査方向の位置(後ろが負)、$R$ は熱源からの距離。十分に厚い材料の上を点熱源が一定速度で動くときの、熱源と一緒に動く座標から見た定常の温度分布を表す。溶融潜熱、溶融池内の流れ、深い穴になるキーホール溶融は入っていないが、溶融池の大きさと冷却速度の見当をつけるには十分使える。
冷却速度とエネルギー密度
冷却速度は走査速度に比例し、熱源の強さに反比例する。$E_v$ は体積エネルギー密度で、$h$ は走査線の間隔、$t$ は層の厚さ。造形条件を比べる目安としてよく使われるが、同じ $E_v$ でも出力と速度の組み合わせで溶融池の形は変わる。
溶接の式が3Dプリンタで生き返った
この式は1930〜40年代に、溶接部の温度を見積もるために導かれた。コンピュータのない時代に、アーク溶接の熱影響部の幅や冷却速度を手計算で予測できる便利な道具で、溶接の教科書に長く載り続けてきた。金属の積層造形は、言ってみれば細いレーザー溶接のビードを何百万本も並べて部品を作る技術だ。そのため、半世紀以上前の溶接の式が、造形条件を探す最初の見積もりにそのまま使われている。
計算例
例1:材料と走査速度による溶融池の違い
出力200 W、造形台25 ℃で、ローゼンタールの式から溶融池の大きさと固まる瞬間の冷却速度を求めた(吸収率はTi-6Al-4V・316Lで0.4、AlSi10Mgで0.3と仮定)。
| 材料 | 走査速度 | 幅 | 長さ | 深さ | 冷却速度 |
|---|---|---|---|---|---|
| Ti-6Al-4V | 0.5 m/s | 165 μm | 348 μm | 82 μm | 2.6×10⁶ K/s |
| Ti-6Al-4V | 1.0 m/s | 120 μm | 334 μm | 60 μm | 5.2×10⁶ K/s |
| Ti-6Al-4V | 1.5 m/s | 99 μm | 328 μm | 49 μm | 7.8×10⁶ K/s |
| 316L | 1.0 m/s | 105 μm | 386 μm | 53 μm | 3.7×10⁶ K/s |
| AlSi10Mg | 1.0 m/s | 156 μm | 200 μm | 78 μm | 3.8×10⁶ K/s |
速度を3倍にしても、長さはほとんど変わらないんですね。
速く動くと熱が横と下へ広がる時間がなくなるから、幅と深さは速度とともに小さくなる。でも長さは、ほぼ出力÷(2π×熱伝導率×融点までの温度差)で決まって、速度にはあまりよらない。Ti-6Al-4Vなら80 W÷(2π×25×1630)で約310 μm。深さは層の厚さ(ここでは30 μm)の2倍くらいは欲しいので、1.5 m/sの49 μmは余裕が少なめ。前の層とよく溶け合わないと、溶け残りの空隙(融合不良)ができる。
例2:予熱の効果
| 造形台の温度 | 溶融池の幅 | 冷却速度 |
|---|---|---|
| 25 ℃ | 120 μm | 5.2×10⁶ K/s |
| 200 ℃ | 127 μm | 4.2×10⁶ K/s |
| 500 ℃ | 143 μm | 2.6×10⁶ K/s |
Ti-6Al-4V、200 W、1 m/sの場合。冷却速度は融点との温度差の2乗に比例するので、500 ℃に予熱すると約半分になる。温度差が小さくなるぶん熱収縮も減り、残留応力と割れを抑える効果がある。
例3:エネルギー密度
走査線の間隔100 μm、層の厚さ30 μmで、200 W・1 m/sは67 J/mm³、200 W・0.5 m/sは133 J/mm³、300 W・1 m/sは100 J/mm³。低すぎると融合不良、高すぎると深い穴状に溶けるキーホールでガスを巻き込んだ気孔ができる。適正範囲は材料と装置で違うので、試験片で確かめる。
解析の進め方
3つのスケール
| スケール | 対象 | 主な手法 |
|---|---|---|
| 溶融池(0.1 mm) | 溶け込み深さ・気孔・組織 | 移動熱源の熱伝導、流れを含むCFD |
| 数層(1 mm) | 層間の再加熱・熱の蓄積 | 走査経路を追う熱解析 |
| 部品(100 mm) | 変形・残留応力・サポート | 層をまとめた熱–構造解析、固有ひずみ法 |
高さ100 mmの部品を30 μmの層で造ると約3,300層になり、1層ごとに何メートルもの走査線がある。レーザーの動きをそのまま追えるのは数層まで。部品全体では、たとえば数十層を1つの解析層にまとめて一度に熱を加える。まとめる層数を変えて結果が変わらないことを確かめるのが、メッシュの収束確認と同じ役割になる。
注意点
- 粉末の熱伝導率:粉末はバルクの1/100程度しか熱を通さない。粉末の上に張り出した部分は熱がこもり、過熱や変形の原因になる。
- 温度で変わる物性:熱伝導率と比熱は溶ける前後で大きく変わる。固まる温度域の潜熱も入れる。
- 吸収率:粉末と溶けた金属で違い、キーホールになると大きく上がる。溶融池の断面写真で合わせるのが確実。
「小さい部品ほど焼ける」
同じ条件で造っても、細い柱や小さな部品だけ表面が荒れて、色が変わっていることがある。1層を走査する時間が短いので、前の層が冷めきらないうちに次の層が来て、熱がたまっていくからだ。大きな部品と並べて造ると、レーザーがほかの部品を走査しているあいだに冷える時間ができて改善する。層ごとの待ち時間は溶融池の解析には出てこないが、部品全体の熱解析ではっきり見える。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| エネルギー密度だけで条件を決める | 同じ値でも溶融池の形が違う | 出力と速度を別々に確認 |
| 粉末をバルクの物性で扱う | 張り出し部の過熱を見落とす | 粉末の低い熱伝導率を使う |
| 吸収率を一定と仮定 | 溶け込み深さを誤る | 断面写真で校正 |
| 層をまとめる数を確認しない | 変形の予測がずれる | まとめ方を変えて収束確認 |
| 層間の待ち時間を無視 | 小さい部品の熱の蓄積を見落とす | 実際の造形順で解析 |
溶融池の大きさを自分で計算してみたいです。
溶融池シミュレーターとローゼンタール移動熱源ツールで溶融池と温度分布、溶接冷却速度の計算で冷却速度、積層造形の熱変形ツールで熱変形を試せるよ。応力と変形は積層造形の残留応力、元になった溶接の考え方は溶接の熱解析の記事で詳しく扱っている。
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