壁面モデルLES(WMLES)

カテゴリ: 乱流・LES | 2026-10-01 改稿
CAE visualization for wmles theory - technical simulation diagram
壁面モデルLES(WMLES)

理論:壁の近くをモデルに任せる

概要

🙋

自動車の空力をLESで解きたいのですが、壁の近くの格子が細かすぎて計算が終わりません。

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壁の近くの乱れの渦は、粘性で決まる非常に小さな大きさを持っていて、しかもレイノルズ数が上がるほど小さくなる。それを格子で直接解くLES(壁解像LES)は、高いレイノルズ数では格子数が爆発してしまう。そこで、壁の近くの薄い層は解かずに、そこでの速度の分布を対数則などの壁面モデルで表し、壁のせん断応力をLESに返すのが壁面モデルLESだ。格子は境界層の厚さを基準に作ればよくなるから、格子数が桁違いに減るんだよ。

対数則の壁面モデル

$$ \frac{u}{u_\tau} = \frac{1}{\kappa}\ln\frac{y\,u_\tau}{\nu} + B, \qquad \kappa = 0.41,\ B = 5.0, \qquad \tau_w = \rho u_\tau^2 $$

壁から高さ $y$ のLESの速度 $u$ を受け取り、この式を摩擦速度 $u_\tau$ について解いて、壁のせん断応力 $\tau_w$ を返す。$y$ は境界層の厚さの1割程度、$y^+$ で数十〜数百の位置に取ることが多い。

境界層の目安

$$ C_f = 0.0592\,Re_x^{-0.2}, \qquad \delta = 0.37\,x\,Re_x^{-0.2}, \qquad y^+ = \frac{y\,u_\tau}{\nu} $$
Coffee Break よもやま話

壁の問題はLESの最初からの課題

1970年、ディアドルフは大気の境界層やチャネル流れのLESで、すでに壁の近くを対数則で扱っていた。壁を直接解くには計算機が足りなかったからだ。その後、壁の近くまで解くLESやDNSが進んだが、1979年にチャップマンが、翼の流れを壁まで解くと格子数がレイノルズ数とともに急に増えることを見積もり、高いレイノルズ数では壁面モデルが欠かせないと指摘した。2010年代にはチョイとモインらがこの見積もりを見直し、航空機の設計に壁面モデルLESを使う研究が大きく進んだ。

計算例

例1:格子数の見積もり

空気の平板の境界層(前縁から0.5 m)で、壁1 m²あたり、境界層の中に必要な格子数を見積もった。壁解像LESは流れ方向50、横方向15(壁単位)、壁の第1格子 y+ = 1から比1.1で境界層の厚さまで。壁面モデルLESは境界層の厚さの1/10の格子で、厚さ方向に20個。

流速Re_xy+ = 1の高さ境界層の厚さ壁解像LES壁面モデルLES比
10 m/s3.3×10⁵31 µm14.5 mm5.7×10⁷9.5×10⁶6
50 m/s1.7×10⁶7.3 µm10.5 mm1.3×10⁹1.8×10⁷74
250 m/s8.3×10⁶1.7 µm7.6 mm2.9×10¹⁰3.4×10⁷858

単位は壁1 m²あたりの格子数(250 m/sは圧縮性を無視した目安)。

🙋

流速が5倍になると、比が6倍から74倍、858倍と一気に広がるんですね。

🎓

壁を解像するには、格子の大きさを粘性で決まる長さ(y+ = 1の高さ)に合わせないといけない。これが流速とともに31 µmから1.7 µmへと小さくなる。一方、壁面モデルLESの格子は境界層の厚さで決まり、厚さはむしろ少し薄くなる程度だ。だから高いレイノルズ数ほど差が大きくなる。自動車や航空機の実機のレイノルズ数では、壁を解像するLESは現実的でなくなり、壁面モデルLESか、壁の近くをRANSで解くDESの仲間を選ぶことになる。

例2:壁面モデルの感度

壁から1 mmの位置のLESの速度が40 m/sのとき、対数則から摩擦速度2.31 m/s、壁のせん断応力6.42 Pa(受け渡し点のy+は154)。LESの速度が10%小さいと壁のせん断応力は−17%、10%大きいと+18%になる。壁面モデルLESでは、受け渡し点の速度の精度が壁の摩擦にほぼ2倍に拡大されて効く。

解析の進め方

  1. レイノルズ数から壁解像LESの格子数を見積もり、壁面モデルが必要かを判断する。
  2. 境界層の厚さの1/10〜1/20を目安に格子を作る。
  3. 受け渡し点を壁から数セル離し、格子の数値誤差の影響を避ける。
  4. はく離や逆圧力勾配が強い場所では、平衡を仮定しない壁面モデルを検討する。
  5. 摩擦係数や表面の圧力分布を、実験やDNSのデータと比べる。
Coffee Break よもやま話

「摩擦が2割大きく出る」

壁面モデルLESで平板の摩擦係数を検証したら、実験より2割ほど大きく出た——という例がある。受け渡し点を壁の第1セルに取っていたため、そこでの速度がLESの格子の数値誤差(最初のセルは解像が不十分)を含んでいた。対数則の感度から、速度の1割の誤差が摩擦の2割の誤差になる。受け渡し点を壁から3〜4セル離れた位置に変えると、実験とよく合った。壁面モデルLESでは、どこの速度を渡すかが精度を左右する。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
受け渡し点を第1セルに摩擦がずれる数セル離す
はく離で対数則はく離位置を誤る非平衡の壁面モデル
格子を境界層に対して粗く外層の渦を解けない厚さの1/10以下
低いレイノルズ数でWMLES利点が小さい壁解像も検討
流入の乱れを与えない遷移が遅れる乱れの生成方法を使う
🙋

関連する内容も知りたいです。

🎓

乱流境界層の計算と乱流モデルのシミュレーターで境界層を確かめられるよ。関連する手法はLESの基礎、DES、DDES、DNSの基礎、σモデルが参考になる。

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