モータ熱マネジメント
理論:損失と温度が互いに増やし合う
概要
モータの連続出力は、何で決まるんですか?
多くの場合、巻線の温度だ。巻線の絶縁には耐えられる温度の上限があり(たとえばH種で180℃)、それを超えると寿命が急に縮む。巻線の発熱の多くは銅損で、電流の2乗と抵抗に比例する。ところが銅の抵抗は温度で増えるので、温まるほど発熱が増え、さらに温まる。この効果を入れないと、高い電流ほど温度を大きく低く見積もってしまう。また、短時間なら巻線の熱容量が温度上昇を遅らせるので、連続電流より大きな電流を流せる。どれくらいの時間流せるかも、電流と温度を連成させて求める。
定常の巻線温度
R₂₀ は20℃での1相の抵抗(20 mΩ)、α は銅の抵抗の温度係数(0.00393 /K)、R_th は巻線から冷却水までの熱抵抗(0.025 K/W)、T_c は冷却水の温度(65℃)、I は相電流の実効値。分母が0になる電流では、釣り合いの温度がなくなる。
短時間の過負荷
C は巻線の熱容量(銅5 kg×385 J/kgK = 1,925 J/K)。時定数は48秒。
絶縁の種類と寿命
モータや変圧器の巻線の絶縁は、耐えられる温度で種類が分けられている(A種105℃、B種130℃、F種155℃、H種180℃など)。絶縁材料の寿命は温度が上がると急に縮み、10℃上がるごとにおよそ半分になるという経験則が古くから使われてきた。電気自動車のモータは小さく大きな出力を求められるので、絶縁の上限ぎりぎりで使われることが多く、冷却と温度の予測の精度が性能を左右している。
計算例
例1:電流と定常の巻線温度
| 相電流(実効値) | 連成した温度 | 抵抗一定の見積もり | 銅損 |
|---|---|---|---|
| 100 A | 83.8 ℃ | 80.0 ℃ | 750 W |
| 150 A | 110.8 ℃ | 98.8 ℃ | 1,832 W |
| 200 A | 157.4 ℃ | 125.0 ℃ | 3,696 W |
| 250 A | 239.7 ℃ | 158.8 ℃ | 6,988 W |
H種の上限180℃に収まる連続電流は217 A。412 Aを超えると釣り合いの温度がなくなる(熱暴走)。
例2:短時間の過負荷
| 条件 | 値 |
|---|---|
| 150 Aでの定常温度 | 110.8 ℃ |
| 400 Aに上げて180℃に達するまで | 12.0 秒 |
| 巻線の時定数 | 48 秒 |
250 Aだと、抵抗を一定とした見積もりより80 Kも高くなるんですね。
電流が大きいほど、温度の上昇が抵抗を増やし、それがまた損失を増やすという効果が強く効く。250 Aでは抵抗が20℃のときの約1.86倍になり、損失も同じだけ増えている。一定の抵抗で見積もると159℃で上限に余裕があるように見えるが、実際には240℃で絶縁はもたない。だから、モータの解析では巻線の抵抗を温度の関数として電磁の計算に入れ、熱の計算と繰り返して釣り合いを求める。さらに巻線の中でも、スロットの奥や端のコイルなど熱の逃げにくいところが最も熱くなるので、平均温度ではなく最高温度で評価する。磁石の温度も上がると減磁のおそれがあるので、ロータの温度も同時に確かめる。
解析の進め方
- 電磁界解析で、運転点ごとの銅損・鉄損・磁石損失を求める。
- 巻線・鉄心・磁石・冷却の熱回路網か3次元の熱解析を作る。
- 抵抗と磁石の特性を温度の関数にして、電磁と熱を繰り返し解く。
- 走行パターン(加速・巡航・登坂)で温度の時間変化を計算する。
- 巻線の熱電対やロータの温度の実測と比べて、熱抵抗を校正する。
「試験では余裕があったのに」
あるモータの設計で、抵抗を一定とした熱解析では連続定格で巻線は140℃と、上限に40 Kの余裕があった。ところが実機の試験では、同じ条件で巻線の最も熱い部分が175℃に達した。抵抗の温度変化を入れて連成させると、平均の温度が約20 K上がり、さらにスロットの奥と端のコイルで平均より15 Kほど高くなっていた。冷却水の流路を見直し、端のコイルの放熱を改善して、連続定格での最高温度を155℃に下げた。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 抵抗を一定にする | 温度を過小評価 | 温度の関数で連成 |
| 平均温度で評価 | 局所の過熱を見逃す | 最高温度で評価 |
| 定常だけで出力を決める | ピーク出力を過小評価 | 過渡で計算 |
| 磁石温度を無視 | 減磁 | ロータも解析 |
| 高調波損失を省く | 損失を過小評価 | インバータ波形で計算 |
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