モータ熱マネジメント解析 — 電磁-熱連成の理論と実務

カテゴリ: 電磁界解析 | 2026-09-30 改稿
Motor electromagnetic-thermal coupled analysis showing temperature distribution in stator winding and rotor magnets
モータ熱マネジメント解析 — 電磁損失と温度分布の連成可視化

理論:損失が熱になり、熱が損失を変える

概要

🙋

EV用モータで『最大トルクは30秒まで』とカタログにありますが、その時間はどう決めているんですか?

🎓

巻線の温度で決まるんだ。モータの損失の多くは巻線の電流による銅損で、電流の2乗、つまりトルクのほぼ2乗に比例する。大きなトルクを出すと発熱は一気に増えるけど、巻線には熱容量があるので、温度はすぐには上がらない。巻線の絶縁が耐えられる温度(たとえば155 ℃)に達するまでの時間が、その過負荷の許容時間になる。これを見積もるのに便利なのが熱回路網で、電磁界で求めた損失を与えて温度の時間変化を計算するんだ。

2点の熱回路網

$$ C_w\frac{dT_w}{dt} = P_{cu}(T_w) - \frac{T_w - T_h}{R_{wh}}, \qquad C_h\frac{dT_h}{dt} = \frac{T_w - T_h}{R_{wh}} + P_{fe} - \frac{T_h - T_c}{R_{hc}} $$

$T_w, T_h$ は巻線とハウジングの温度、$C_w, C_h$ は熱容量、$R_{wh}$ は巻線からハウジングへの熱抵抗(絶縁紙や含浸樹脂を含む)、$R_{hc}$ はハウジングから冷却水への熱抵抗、$P_{fe}$ は鉄損。実際のモータではステータの歯やヨーク、ロータ、磁石、軸受なども節点にして、数十点の回路網にすることが多い。

銅損の温度依存

$$ P_{cu} = P_0\,k^2\,\frac{1 + \alpha\,(T_w - 20)}{1 + \alpha\,(T_{ref} - 20)} $$

$k$ は定格に対するトルクの比(電流に比例すると仮定)、$P_0$ は定格・基準温度 $T_{ref}$ での銅損。銅の抵抗は1 Kあたり約0.39%増えるので、温度が上がるほど同じ電流でも発熱が増える。

Coffee Break よもやま話

絶縁の耐熱クラスと「10℃半減則」

モータや変圧器の絶縁材料は、耐えられる温度でA種(105 ℃)、E種、B種(130 ℃)、F種(155 ℃)、H種(180 ℃)などに分けられている。この分類の背景には、絶縁の寿命は温度が約10 K上がるごとにおよそ半分になるという経験則(化学反応の速さのアレニウス則に基づく)がある。モータを155 ℃の上限で使い続けるのと、145 ℃に抑えるのとでは、絶縁の寿命が2倍近く違うことになる。熱解析で最高温度を数Kでも正確に見積もる価値はここにある。

計算例:仮想の水冷モータ

条件

項目値
定格の銅損(120 ℃基準)400 W
鉄損200 W
巻線の熱容量(銅5 kg)1,925 J/K
ハウジングの熱容量(アルミ15 kg)13,500 J/K
巻線→ハウジングの熱抵抗0.08 K/W
ハウジング→冷却水の熱抵抗0.04 K/W
冷却水の温度65 ℃

例1:定格と連続トルク

定格では巻線121 ℃、ハウジング89 ℃。巻線の上限を155 ℃(F種)とすると、連続で出せるトルクは定格の約1.25倍になる。トルクを25%上げると銅損は56%以上増え、さらに温度とともに抵抗が増えるので、余裕は思ったより小さい。

例2:過負荷の許容時間

トルク(定格比)155 ℃に達するまで
1.5約200秒
2.0約61秒
3.0約21秒
🙋

2倍のトルクで1分くらい、3倍だと20秒くらいなんですね。

🎓

定格で温まった状態からの値だね。巻線の時定数(熱容量×熱抵抗)が約150秒だから、それより短い時間なら、ハウジングはほとんど温まらず巻線だけが熱をため込む。カタログの『30秒』のような値は、こういう計算に安全の余裕を足して決めている。冷えた状態から始めればもっと長く出せるけど、実際の走行では坂道の途中で追い越しをする、といった最悪の順番を考えるので、温まった状態を基準にするのが普通だ。それと、この回路網は仮想の値なので、実機では試験で熱抵抗を合わせ込む必要がある。

解析の進め方

手順

  1. 電磁界解析で、運転点ごとの銅損・鉄損・磁石の渦電流損を求める(効率マップの計算と同じ)。
  2. 熱回路網を作り、主要な熱抵抗(巻線と鉄心の間、ハウジングと冷却の間)を試験や詳細な熱解析で合わせる。
  3. 走行パターンなど時間とともに変わる運転で温度を計算する。
  4. 温度で損失(銅の抵抗、磁石の性質)を更新し、繰り返す。磁石の温度は減磁の判定にも使う。

注意点

  • 巻線内の温度分布:スロットの中央とコイルエンドは温度が高くなりやすい。回路網でも節点を分ける。
  • 接触熱抵抗:ステータとハウジングのはめあいのすき間は大きな熱抵抗になる。
  • ロータの冷却:ロータと磁石は冷えにくく、高速運転では磁石の渦電流損で温度が上がる。
Coffee Break よもやま話

「ベンチでは合格、坂道で出力制限」

台上試験では定格も最大トルクも問題なかったのに、実際の車で長い坂を登ると途中で出力が制限された——こんな例がある。台上では1回ずつ冷えた状態から試験していたが、実際の坂では大きなトルクが何分も続き、その前の高速走行で磁石と巻線がすでに温まっていた。熱回路網で走行パターン全体を通して計算していれば、坂の手前の温度を見積もれた。過負荷の許容時間は、どの温度から始めるかで大きく変わるんだ。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
銅損を温度一定で計算高温側を過小評価抵抗の温度依存を入れる
冷えた状態からの過負荷だけ評価実際の運転で温度超過走行パターン全体で計算
巻線を1点で代表最高温度を見落とすスロット・コイルエンドを分ける
はめあいの接触抵抗を無視温度を過小評価試験で合わせ込む
磁石の温度を見ない減磁の危険を見落とすロータの節点を入れる
🙋

モータの設計や熱の計算を自分でも試したいです。

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