渦電流損失加熱
理論:望まない渦電流がつくる熱
概要
誘導加熱では渦電流で温めるのに、変圧器ではなぜ渦電流を嫌うのですか?
仕組みは同じで、目的が逆だからだ。変化する磁束が導体を通ると、磁束をとり囲むように渦電流が流れ、抵抗で熱になる。誘導加熱ではそれが目的だが、変圧器やモーターの鉄心では、磁束を通すことだけが役目なので、渦電流の熱はそのまま損失になり、効率を下げ、温度を上げる。そこで鉄心は薄い鋼板を絶縁して重ね、渦電流の通り道を狭くする。一方、鉄心の外に漏れた磁束は、タンクの壁や金具などの厚い鋼材に当たり、表面に渦電流を集めて局所的な高温を作る。どちらも、電磁界から損失の分布を求め、熱の解析に渡して温度を調べる連成の問題である。
積層鋼板の渦電流損と浸透深さ
f は周波数、B_p は磁束密度の最大値(1.5 T)、d は板厚、ρ は抵抗率(けい素鋼で0.5 μΩm)、μ は透磁率(比透磁率3000)。この式は板厚が浸透深さ δ より十分小さいときに成り立つ。
厚い鋼材の表面損失
H_p は表面に沿った磁界の最大値。磁気飽和を考えると実際の損失はこれより大きくなることが多いので、この式は下限の目安として使う。
鉄にけい素を混ぜる
1900年ごろ、英国のハドフィールドは、鉄にけい素を数パーセント混ぜると電気抵抗が数倍に上がり、しかも磁気の性質がよいままであることを見いだした。抵抗が上がれば渦電流は流れにくくなる。このけい素鋼を薄い板にして重ねる鉄心は、その後の変圧器とモーターの標準になった。いまも鉄心の材料の改良は、抵抗を上げ、板を薄くし、磁束を通しやすくする方向で続いている。
計算例
例1:板厚と周波数による渦電流損(1.5 T)
| 板厚 | 50 Hz | 50 Hzでの板厚/浸透深さ | 400 Hz | 400 Hzでの板厚/浸透深さ |
|---|---|---|---|---|
| 0.20 mm | 0.097 W/kg | 0.22 | 6.19 W/kg | 0.62 |
| 0.35 mm | 0.296 W/kg | 0.38 | 19.0 W/kg(目安) | 1.08 |
| 0.50 mm | 0.605 W/kg | 0.54 | 38.7 W/kg(目安) | 1.54 |
| 1.0 mm | 2.42 W/kg(目安) | 1.09 | 155 W/kg(目安) | 3.08 |
浸透深さは50 Hzで0.92 mm、400 Hzで0.32 mm。板厚/浸透深さが1に近いか超える欄は簡単な式の適用範囲外で、実際の損失はこれより小さくなる(磁束が板の中まで入らないため)。また、実際の鋼板の損失にはヒステリシス損などが加わる。
例2:漏れ磁束が当たる壁(ピーク5 kA/m、50 Hz)
| 材料 | 浸透深さ | 表面の損失 | 温度上昇(油中、h = 50 W/m²K) |
|---|---|---|---|
| 軟鋼(0.15 μΩm、比透磁率500) | 1.23 mm | 1,521 W/m² | 30.4 K |
| アルミ(0.028 μΩm)の遮へい | 11.9 mm | 29 W/m² | 0.6 K |
アルミは鋼より電気をよく通すのに、損失が50分の1になるのはなぜですか?
磁性がないからだ。鋼は比透磁率が数百と大きいので、磁束が表面の1 mmほどに押し込められ、そこに電流が集中する。電流が流れる層が薄いほど抵抗が大きく、損失が増える。アルミは磁性がないので、電流の層は12 mmほどに広がり、しかも抵抗率が低い。式で見ると、損失は ρ/δ に比例し、鋼の0.15 μΩm/1.23 mmに対してアルミは0.028 μΩm/11.9 mmで、約50分の1になる。そのため変圧器では、タンクの内側にアルミや銅の板を張って漏れ磁束を跳ね返したり、逆に積層した鋼板(磁気シャント)を置いて漏れ磁束を吸い込み、損失の小さい経路に導いたりする。どちらが有効かは漏れ磁束の向きと量で決まるので、3次元の電磁界解析で損失の分布を求め、熱の解析でホットスポットの温度を確かめる。
モデリングの進め方
- 鋼板の損失を、周波数と磁束密度ごとの実測データで与える。
- 鉄心と巻線、まわりの構造物を含めて電磁界を解く。
- 厚い鋼材は浸透深さより細かいメッシュか表面の境界条件で扱う。
- 損失の分布を熱の解析に渡し、冷却を入れて温度を求める。
- 温度で抵抗率が変わる場合は、電磁界を解き直して収束させる。
「塗装が焼けたタンクのボルト」
ある大型変圧器の定期点検で、タンクのふたを留めるボルトのまわりだけ塗装が変色していた。3次元の電磁界解析をすると、大電流が通るブッシングの近くで、ふたの鋼板とボルトを通る閉じた回路ができ、そこに漏れ磁束で誘導された電流が流れていた。ふたの一部を非磁性のステンレスに替えて回路を切ると、熱の解析で予測した温度は下がり、次の点検では変色が見られなかった。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 簡単な式を高周波に使う | 損失を過大評価 | 浸透深さを確認 |
| 渦電流損だけで鉄損とする | 鉄損を過小評価 | 実測の鉄損データ |
| 厚い鋼材のメッシュが粗い | 表面損失を誤る | 浸透深さより細かく |
| 構造物を省略 | 局所のホットスポットを見逃す | 金具・ボルトまで入れる |
| 磁気飽和を無視 | 表面損失を過小評価 | 非線形の磁化特性 |
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