ワイヤレス充電の電磁-熱解析
理論:損失の行き先と本体の熱のつり合い
概要
ワイヤレス充電の熱を考えるとき、まず何を押さえればいいですか?
損失がどこで出て、どちら側にたまるかだ。コンセントから電池までの間に、送電側のインバーター、送電コイルとコイル間の結合、受電コイルと整流回路、充電用のICと、いくつもの段がある。それぞれの段の損失はその場所で熱になるが、充電台の中で出る熱と、スマートフォンの中で出る熱では意味が違う。本体の中の熱は電池を温め、電池は温度が高いほど劣化が速いので、本体の温度が上がると充電の電力を絞らざるを得ない。だから、電磁界の解析でコイルや部品の損失を求め、それを熱の解析に渡して本体と電池の温度を求める、という連成が必要になる。
効率の連鎖と本体の発熱
この例では電池への電力 P_bat = 10 W(3.85 V、2.60 A)、充電ICの効率0.92、受電コイルと整流0.93、コイル間の結合と送電コイル0.90、インバーター0.95、電池の内部抵抗0.06 Ω(いずれも例示)。
本体の温度
A は上面の面積(150×70 mm)、h は対流と放射を合わせた熱伝達率(10 W/m²K)、C は本体の熱容量(200 g×900 J/kgK)。充電台に接する裏面からの放熱は、台も温まるので無視した。
置くだけ充電の共通規格
電磁誘導で電気を送る考え自体は19世紀からあるが、スマートフォンを置くだけで充電できるようになったのは、2010年に業界団体がQiという共通の規格を出してからだ。メーカーが違っても同じ充電台で充電できることが普及を後押しした。その後、送れる電力は少しずつ引き上げられたが、同時に本体の発熱をどう抑えるかが設計の大きな課題になった。
計算例
例1:電池に10 Wを入れるときの損失の内訳
| 項目 | 位置合わせ良好 | 位置ずれ | 有線 |
|---|---|---|---|
| コンセントからの電力 | 13.67 W | 16.40 W | — |
| 全体の効率 | 73% | 61% | — |
| 充電ICの損失 | 0.87 W | 0.87 W | 0.87 W |
| 受電コイル・整流の損失 | 0.82 W | 0.82 W+1.30 W | — |
| 電池の中の発熱 | 0.40 W | 0.40 W | 0.40 W |
| 本体の発熱 | 2.09 W | 3.39 W | 1.27 W |
| 充電台の発熱 | 1.98 W | 3.42 W | — |
| 本体の温度上昇 | 19.9 K | 32.3 K | 12.1 K |
位置ずれでは、送電と受電の間の効率を0.90から0.75に下げ、増えた損失の半分が本体側の受電コイルで出るとした。
例2:温まる速さと許される電力
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 時定数 | 1,714秒(約29分) |
| 最終温度の90%に達するまで | 約66分 |
| 温度上昇15 Kに抑える電池への電力 | 7.9 W(本体の発熱1.57 W) |
損失の内訳を見ると、受電コイルより充電ICのほうが損失が大きいんですね。コイルの解析だけでは足りないということですか?
そのとおりで、熱の問題は全体の熱のつり合いで決まる。コイルの電磁界の解析は、位置ずれや異物があるときの損失を求めるのに欠かせないが、本体の温度を決めるのは、コイル、整流回路、充電IC、電池のすべての発熱と、それが本体の中をどう広がって外へ逃げるかだ。しかも発熱する部品が近くに集まると、平均の温度上昇は20 Kでも局所はもっと熱くなる。電池は特に温度に敏感で、高い温度で満充電に近い状態が続くと劣化が速まる。だから実際の設計では、受電コイルと電池の間に熱を広げるシートを入れたり、充電の後半で電力を下げたりする。解析では、電磁界から求めた損失の分布を熱のモデルに渡し、部品ごとの温度と充電の制御を合わせて時間を追って計算する。
モデリングの進め方
- コイルとまわりの金属・磁性シートの電磁界を解き、位置ごとの損失を求める。
- 整流回路・充電IC・電池の損失を電力と温度の関数で与える。
- 本体と充電台の熱のモデルで、部品ごとの温度を時間を追って解く。
- 温度に応じて充電の電力を下げる制御を入れる。
- 充電にかかる時間と最高温度を、配置や放熱の案ごとに比べる。
「ケースを付けると遅くなる充電」
ある機種で、厚いケースを付けたまま充電すると、充電の完了が大幅に遅れるという声があった。解析すると、ケースの分だけコイルの距離が開いて結合が弱まり、損失が増えていたうえ、ケースが断熱材になって本体から熱が逃げにくくなっていた。2つが重なって温度が早く上限に達し、充電の電力が下げられていた。受電コイルの形を見直して距離が開いたときの結合を改善し、本体の熱を広げるシートを大きくすると、ケースを付けたままでも充電時間の延びは小さくなった。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| コイルの損失だけを見る | 本体の温度を過小評価 | 全段の損失を入れる |
| 位置合わせ良好だけで評価 | 最悪の発熱を見逃す | ずれと距離を振る |
| 定常だけを計算 | 充電の途中の制御を見逃す | 時間を追って解く |
| 裏面の放熱を大きく取る | 温度を過小評価 | 充電台の温度も解く |
| ケースや置き方を無視 | 実使用で遅くなる | 条件を広く想定 |
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