ワイヤレス充電の電磁-熱解析

カテゴリ: 連成解析・電磁熱 | 2026-10-01 改稿

理論:損失の行き先と本体の熱のつり合い

概要

🙋

ワイヤレス充電の熱を考えるとき、まず何を押さえればいいですか?

🎓

損失がどこで出て、どちら側にたまるかだ。コンセントから電池までの間に、送電側のインバーター、送電コイルとコイル間の結合、受電コイルと整流回路、充電用のICと、いくつもの段がある。それぞれの段の損失はその場所で熱になるが、充電台の中で出る熱と、スマートフォンの中で出る熱では意味が違う。本体の中の熱は電池を温め、電池は温度が高いほど劣化が速いので、本体の温度が上がると充電の電力を絞らざるを得ない。だから、電磁界の解析でコイルや部品の損失を求め、それを熱の解析に渡して本体と電池の温度を求める、という連成が必要になる。

効率の連鎖と本体の発熱

$$ P_{wall} = \frac{P_{bat}}{\eta_{chg}\,\eta_{rx}\,\eta_{cp}\,\eta_{inv}},\qquad Q_{phone} = P_{bat}\!\left(\frac{1}{\eta_{chg}\eta_{rx}} - 1\right) + I_{bat}^2 R_{bat} $$

この例では電池への電力 P_bat = 10 W(3.85 V、2.60 A)、充電ICの効率0.92、受電コイルと整流0.93、コイル間の結合と送電コイル0.90、インバーター0.95、電池の内部抵抗0.06 Ω(いずれも例示)。

本体の温度

$$ C\,\frac{d\Delta T}{dt} = Q_{phone} - hA\,\Delta T,\qquad \Delta T_\infty = \frac{Q_{phone}}{hA},\qquad \tau = \frac{C}{hA} $$

A は上面の面積(150×70 mm)、h は対流と放射を合わせた熱伝達率(10 W/m²K)、C は本体の熱容量(200 g×900 J/kgK)。充電台に接する裏面からの放熱は、台も温まるので無視した。

Coffee Break よもやま話

置くだけ充電の共通規格

電磁誘導で電気を送る考え自体は19世紀からあるが、スマートフォンを置くだけで充電できるようになったのは、2010年に業界団体がQiという共通の規格を出してからだ。メーカーが違っても同じ充電台で充電できることが普及を後押しした。その後、送れる電力は少しずつ引き上げられたが、同時に本体の発熱をどう抑えるかが設計の大きな課題になった。

計算例

例1:電池に10 Wを入れるときの損失の内訳

項目位置合わせ良好位置ずれ有線
コンセントからの電力13.67 W16.40 W—
全体の効率73%61%—
充電ICの損失0.87 W0.87 W0.87 W
受電コイル・整流の損失0.82 W0.82 W+1.30 W—
電池の中の発熱0.40 W0.40 W0.40 W
本体の発熱2.09 W3.39 W1.27 W
充電台の発熱1.98 W3.42 W—
本体の温度上昇19.9 K32.3 K12.1 K

位置ずれでは、送電と受電の間の効率を0.90から0.75に下げ、増えた損失の半分が本体側の受電コイルで出るとした。

例2:温まる速さと許される電力

項目値
時定数1,714秒(約29分)
最終温度の90%に達するまで約66分
温度上昇15 Kに抑える電池への電力7.9 W(本体の発熱1.57 W)
🙋

損失の内訳を見ると、受電コイルより充電ICのほうが損失が大きいんですね。コイルの解析だけでは足りないということですか?

🎓

そのとおりで、熱の問題は全体の熱のつり合いで決まる。コイルの電磁界の解析は、位置ずれや異物があるときの損失を求めるのに欠かせないが、本体の温度を決めるのは、コイル、整流回路、充電IC、電池のすべての発熱と、それが本体の中をどう広がって外へ逃げるかだ。しかも発熱する部品が近くに集まると、平均の温度上昇は20 Kでも局所はもっと熱くなる。電池は特に温度に敏感で、高い温度で満充電に近い状態が続くと劣化が速まる。だから実際の設計では、受電コイルと電池の間に熱を広げるシートを入れたり、充電の後半で電力を下げたりする。解析では、電磁界から求めた損失の分布を熱のモデルに渡し、部品ごとの温度と充電の制御を合わせて時間を追って計算する。

モデリングの進め方

  1. コイルとまわりの金属・磁性シートの電磁界を解き、位置ごとの損失を求める。
  2. 整流回路・充電IC・電池の損失を電力と温度の関数で与える。
  3. 本体と充電台の熱のモデルで、部品ごとの温度を時間を追って解く。
  4. 温度に応じて充電の電力を下げる制御を入れる。
  5. 充電にかかる時間と最高温度を、配置や放熱の案ごとに比べる。
Coffee Break よもやま話

「ケースを付けると遅くなる充電」

ある機種で、厚いケースを付けたまま充電すると、充電の完了が大幅に遅れるという声があった。解析すると、ケースの分だけコイルの距離が開いて結合が弱まり、損失が増えていたうえ、ケースが断熱材になって本体から熱が逃げにくくなっていた。2つが重なって温度が早く上限に達し、充電の電力が下げられていた。受電コイルの形を見直して距離が開いたときの結合を改善し、本体の熱を広げるシートを大きくすると、ケースを付けたままでも充電時間の延びは小さくなった。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
コイルの損失だけを見る本体の温度を過小評価全段の損失を入れる
位置合わせ良好だけで評価最悪の発熱を見逃すずれと距離を振る
定常だけを計算充電の途中の制御を見逃す時間を追って解く
裏面の放熱を大きく取る温度を過小評価充電台の温度も解く
ケースや置き方を無視実使用で遅くなる条件を広く想定
🙋

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