ワイヤレス電力伝送
理論:結合係数とQ値
概要
電気自動車のワイヤレス充電は、コイルが10 cm以上離れていても効率90%以上と聞きます。どうして可能なんですか?
コイルが離れると、送電コイルの磁束のうち受電コイルを通る割合、つまり結合係数 k はかなり小さくなる。普通の変圧器なら k は0.99以上なので、それに比べるとずっと弱い結合だ。それでも効率が出るのは、両方のコイルをコンデンサで共振させ、損失の少ない(Q値の高い)コイルを使うからだ。最大効率は k と Q の積で決まり、k が小さくても Q が大きければ補える。設計では、コイルの形と間隔から k を電磁界解析で求め、巻線とフェライトの損失から Q を見積もる。
最大効率
両側を共振させ、負荷を最適な値 R_L = R₂√(1 + k²Q₁Q₂) にしたときの効率。M は相互インダクタンス、R はコイルの抵抗(損失)。
同軸の円形コイルの相互インダクタンス
a はコイルの半径、d は間隔、K と E は第1種・第2種の完全楕円積分。自己インダクタンスは L ≈ N²μ₀a(ln(8a/r) − 2)(r は導線の半径1.5 mm)で、半径0.15 m・10巻きでは88.3 μH。
テスラの夢からWiTricityへ
電線を使わずに電力を送るアイデアは、19世紀末のテスラの実験までさかのぼる。近距離の誘導による給電は電動歯ブラシなどで使われてきたが、2007年にMITのクルスらが、共振させた2つのコイルで約2 m離れた60 Wの電球を点灯させ、磁界共振の可能性を示した。その後、電気自動車の充電向けにSAE J2954で85 kHz帯が標準とされ、数kWから数十kWの実用化が進んでいる。
計算例
例1:コイル間隔と結合係数・最大効率(半径0.15 m、10巻き)
| 間隔 | 間隔/半径 | 結合係数 k | 効率(Q = 100) | 効率(Q = 300) |
|---|---|---|---|---|
| 5 cm | 0.33 | 0.264 | 92.7% | 97.5% |
| 10 cm | 0.67 | 0.141 | 86.8% | 95.4% |
| 15 cm | 1.00 | 0.084 | 78.8% | 92.4% |
| 20 cm | 1.33 | 0.053 | 68.8% | 88.2% |
| 30 cm | 2.00 | 0.024 | 44.6% | 75.9% |
| 45 cm | 3.00 | 0.009 | 15.5% | 49.7% |
例2:必要な kQ と共振条件
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 効率90%に必要な kQ | 19.0 |
| 効率95%に必要な kQ | 39.0 |
| 85 kHzで共振するコンデンサ | 39.7 nF |
| Q = 300 のときのコイル抵抗 | 0.157 Ω |
| Q = 100 のときのコイル抵抗 | 0.472 Ω |
間隔15 cmで効率を92%から79%に下げないためには、コイルの抵抗を0.16 Ω程度に抑える必要があるんですね。
そうだ。85 kHzでは表皮効果で電流が導線の表面に集まり、太い単線では抵抗が直流の何倍にもなる。そのため細い絶縁線をより合わせたリッツ線を使う。さらにフェライトの板をコイルの背面に置くと、磁束が集まって k が上がり、車体の金属に漏れる磁束も減る。ただしフェライトにも損失があり、車体の鋼板に渦電流が流れれば Q が下がる。こうした効果は、表の簡単な式には入っていないので、実際の形状で電磁界解析を行い、k と各部の損失を求める。位置ずれへの強さも重要で、横に数cmずれただけで k が大きく変わる形のコイルは使いにくい。
設計と解析の進め方
- 必要な電力・間隔・位置ずれの範囲から、目標とする kQ を決める。
- コイル形状とフェライト配置を変えて、電磁界解析で k を求める。
- リッツ線の交流抵抗、フェライト損失、周囲金属の渦電流損失から Q を求める。
- 回路シミュレーションで共振コンデンサと負荷の整合を確認する。
- 漏れ磁界が人体ばく露の基準内にあるかを確認する。
「車に載せたら効率が落ちた」
ある受電コイルは、試験台では間隔15 cmで効率93%を出していたが、車体に取り付けると88%に下がり、コイル周辺が熱くなった。原因は車体の床の鋼板で、コイルの磁束の一部が鋼板に入り込んで渦電流が流れ、Q が下がっていた。電磁界解析で鋼板を含めて計算すると、損失の増加と効率の低下が再現できた。フェライト板を広げ、さらにアルミの遮へい板を追加して磁束が鋼板に届かないようにすると、効率は92%まで戻った。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 直流抵抗でQを計算 | 効率を過大評価 | 交流抵抗を使う |
| 周囲の金属を省略 | 渦電流損を見逃す | 車体を含めて解析 |
| 位置ずれを考えない | 実用時に効率低下 | ずれた状態で k を計算 |
| 負荷の整合を無視 | 最大効率が出ない | 最適負荷に合わせる |
| 漏れ磁界を評価しない | 基準超過 | 周囲の磁界を計算 |
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