分離解法とモノリシック解法

カテゴリ: マルチフィジックス | 2026-10-01 改稿
CAE visualization for partitioned vs monolithic theory - technical simulation diagram
分離解法とモノリシック解法

理論:2つの解き方

概要

🙋

流体と構造の連成解析で、分離解法とモノリシック解法のどちらを選べばいいか迷っています。

🎓

分離解法は、流体と構造を別々のソルバーで解いて、境界で力と変位を受け渡しながら繰り返す方法。使い慣れたソルバーをそのまま組み合わせられるのが大きな利点だ。モノリシック解法は、両方の式を1つの連立方程式にまとめて同時に解く。強く連成していても安定だけど、専用のソルバーが要る。どちらを選ぶかは、連成の強さで決まることが多い。その強さを測る代表的な目安が、流体の『付加質量』と構造の質量の比なんだ。

付加質量の模型

$$ m_s\,\ddot x + k\,x = -m_a\,\ddot x \quad\Rightarrow\quad \ddot x^{(i+1)} = \frac{-k x - m_a\,\ddot x^{(i)}}{m_s}, \qquad \text{error factor} = -\frac{m_a}{m_s} $$

非圧縮の流体中でばね $k$ に支えられた質量 $m_s$ が動くと、流体は $-m_a \ddot x$ の力で押し返す。分離解法で流体の力を1つ前の加速度から求めると、誤差は1回の受け渡しごとに $-m_a/m_s$ 倍になる。比が1を超えると誤差は増え続ける。

$$ \ddot x \leftarrow \ddot x^{(i)} + \omega\left(\tilde{\ddot x}^{(i+1)} - \ddot x^{(i)}\right), \qquad \omega_{opt} = \frac{1}{1 + m_a/m_s} $$

緩和係数 $\omega$ で更新量を割り引くと、誤差の倍率は $1 - \omega(1 + m_a/m_s)$ になり、比が大きくても小さな $\omega$ で収束させられる。Aitken緩和は、直前2回の差から $\omega$ を自動で決める。

Coffee Break よもやま話

血管の計算で知られるようになった不安定性

付加質量の不安定性が広く知られるようになったのは、2000年代に血流と血管壁の連成解析が盛んになってからだ。航空機の翼と空気のように、構造が流体よりずっと重い組み合わせでは分離解法が問題なく動いていた。ところが、血管壁は血液と密度がほぼ同じで、しかも薄い。付加質量が構造の質量を上回り、時間刻みを小さくするほどかえって不安定になる例まで報告された。この問題をきっかけに、緩和、準ニュートン法、境界条件を工夫したロビン型の連成など、分離解法を安定させる方法が大きく発達した。

計算例:付加質量比を変える

質量1 kg・ばね100 N/mの模型で、1ステップに1回だけ力を受け渡す弱連成と、モノリシック解法の時間応答を比べた(初期変位0.01 m、400ステップ)。

付加質量比弱連成 Δt = 0.01 s弱連成 Δt = 0.001 sモノリシック
0.5安定安定安定
0.9安定安定安定
1.1発散発散安定
1.5発散発散安定
🙋

時間刻みを1/10にしても発散するんですか?

🎓

そう、ここが普通の数値不安定と違うところだ。誤差の倍率は $m_a/m_s$ だけで決まり、時間刻みが入っていない。だから刻みを小さくしても治らない。非圧縮の流体は、構造が加速した瞬間に全体が反応するから、力が遅れて届くこと自体が問題なんだ。付加質量比が1を超えそうなら、弱連成はそもそも使えないと考えて、サブ反復かモノリシック解法を選ぶ。

例2:サブ反復の回数

1つの時間ステップの中で受け渡しを繰り返したとき、誤差が10⁻⁸になるまでの反復回数を比べた。

付加質量比緩和なし緩和係数0.5Aitken緩和
0.18242
0.527142
0.917572
1.5発散142
10発散発散2

この模型は未知数が1つなので、Aitken緩和は2回で正確な緩和係数を見つける。実際の連成解析では境界の未知数が多く、付加質量も1つの値ではないので、回数はもっと増える。それでも、固定の緩和より少ない回数で収束することが多い。一方、比が0.1のように小さいと、固定の緩和0.5はかえって遅くなる。

選び方の目安

  1. 流体と構造の密度比・厚さから、付加質量比のおおよその大きさを見積もる(重い構造と気体なら小さく、薄い構造と液体なら大きい)。
  2. 比が十分小さければ弱連成で済む。1に近いか超えるならサブ反復+緩和(Aitken・準ニュートン法)。
  3. サブ反復の回数が多すぎて計算時間が問題になるなら、モノリシック解法を検討する。
  4. 境界のデータ転送(メッシュが一致しない場合)で力の総和が保存されるか確かめる。
  5. 収束の判定値と、各ステップの反復回数の履歴を記録する。
Coffee Break よもやま話

「空気では動いたのに水で落ちる」

薄い金属板の振動を、空気中で弱連成の流体構造連成解析で問題なく解けたので、同じ設定で水中の計算をしたら、数ステップで発散した——という例がある。時間刻みを1/10にしても結果は同じだった。空気の付加質量は板の質量の数%でも、水では密度が約800倍になるので、薄い板では付加質量が板の質量を大きく上回る。サブ反復にAitken緩和を入れたところ安定して解けた。媒体を変えるときは、付加質量比を見積もり直すことが大事だ。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
時間刻みを小さくして直そうとする付加質量の不安定は治らないサブ反復・緩和
液体中で弱連成数ステップで発散付加質量比を見積もる
固定の緩和を大きな比に発散Aitken・準ニュートン法
反復の収束判定が緩いエネルギーが増えていく残差の履歴を確認
境界の力の転送が保存しない力の総和がずれる保存型の転送
🙋

関連する内容も知りたいです。

🎓

付加質量係数の計算で形状ごとの付加質量を確かめられるよ。考え方は強連成と弱連成、スタガード連成、連成解析の収束、実装はコシミュレーションと異なるメッシュ間のデータ転送が参考になる。

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