連成問題の収束性
理論:反復の収束は連成の強さで決まる
概要
電気と熱の連成解析で、反復がなかなか収束しません。設定の問題ですか?
設定より、問題そのものの性質であることが多い。電流を流すと発熱で温度が上がり、温度が上がると抵抗が増えて発熱がさらに増える。電気と熱を交互に解くと、この影響が往復するたびに誤差が一定の割合(q)で残る。q が小さければすぐ収束するが、1に近いと何百回もかかり、1を超えると発散する。そして q が1を超えるのは、計算の失敗ではなく、物理的に釣り合いの温度が存在しない(熱暴走)場合もある。だから収束しないときは、まず連成の強さを見積もり、数値の問題か、物理の問題かを見分けることが大事だ。単純な電熱線のモデルで確かめてみよう。
電熱線の釣り合い
G は冷却の熱コンダクタンス(0.05 W/K)、R₀ は20℃での抵抗(0.1 Ω)、α は抵抗の温度係数(銅で0.0039 /K)、T₀ = 20℃。熱暴走の電流は約11.3 A。
ピカール法とニュートン法
電球のフィラメントと熱暴走
抵抗が温度で上がる金属の発熱体は、電圧を一定にして使えば、温度が上がると電流が減って自然に安定する。白熱電球が安定に光るのはこのためだ。ところが電流を一定にして流すと、温度が上がるほど発熱が増え、冷却を上回ると止まらなくなる。半導体の素子では、温度が上がると電流が増える性質を持つものがあり、並列につないだ素子の1つに電流が集中して壊れる熱暴走が昔から知られている。連成解析は、こうした安定と不安定の境目を見つけるのにも使われる。
計算例
例:電流と収束の速さ(20℃から開始、温度の変化が10⁻⁶ Kで収束)
| 電流 | 連成の強さ q | 釣り合いの温度 | ピカール法 | ニュートン法 |
|---|---|---|---|---|
| 5 A | 0.195 | 82 ℃ | 12 回 | 2 回 |
| 8 A | 0.499 | 276 ℃ | 28 回 | 2 回 |
| 10 A | 0.780 | 929 ℃ | 78 回 | 2 回 |
| 11 A | 0.944 | 4,326 ℃ | 335 回 | 2 回 |
| 11.5 A | 1.032 | 解なし(熱暴走) | 発散 | −8,364 ℃(非物理的) |
10 A以上の温度は実際には線が溶ける温度で、抵抗の温度係数も一定ではないが、ここでは収束の性質を見るために同じ式を使った。緩和係数0.5のピカール法では、10 Aで160回、11 Aで654回と、かえって遅くなった。
ニュートン法は2回で収束したのに、熱暴走の条件でも答えを出してしまうんですね。
この例の方程式は温度について1次なので、ニュートン法は1回で厳密な解に着く(2回目は確認)。ところが11.5 Aでは、方程式の数学的な解が負の温度になる。式としては正しいが、物理的には存在しない。ニュートン法は『収束した』と報告するので、温度の範囲などの物理的なチェックがないと、この答えをそのまま使ってしまう。一方、ピカール法の発散は、問題の性質(解がない)を正直に表している。また、緩和係数を小さくすると収束が遅くなったのは、この例では誤差が同じ向きに減っていく(q が正)ので、緩和がブレーキにしかならないからだ。誤差が振動する場合には緩和が効く。どの方法でも、結果が物理的に妥当か、解が存在する条件かを確かめる習慣が大切だ。
収束させるための進め方
- 連成の強さ(1往復で誤差が何倍になるか)を見積もる。
- 弱い連成は交互の反復、強い連成はニュートン法や一体型の解法を選ぶ。
- 収束判定は、変化量と残差の両方で行う。
- 温度や圧力の範囲など、物理的に妥当かのチェックを入れる。
- 収束しないときは、解が存在する条件か(熱暴走や座屈など)を疑う。
「収束した解析結果が実験と合わない」
ある電源基板の配線の発熱解析で、大電流の条件でも計算は問題なく収束し、配線の温度は許容範囲内と出た。しかし試験では、その電流で配線が焼損した。調べると、解析ではニュートン法の途中で温度が材料のデータの範囲を超え、抵抗が外挿されて小さくなっていた。結果として不自然に低い温度で『収束』していた。材料のデータを高温まで用意し、温度の上限を超えたら計算を止める確認を入れると、その電流では釣り合いの温度がないこと(熱暴走)が分かった。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 収束したので正しいとする | 非物理的な解を使う | 物理的なチェック |
| 発散を数値の問題と決めつける | 熱暴走を見逃す | 解の存在を確認 |
| どんな場合も緩和を強める | 収束が遅くなる | 誤差の振る舞いを見る |
| 材料データの範囲外で外挿 | 抵抗や熱物性を誤る | 高温までのデータ |
| 変化量だけで収束判定 | 遅い収束を収束と誤認 | 残差も確認 |
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