COMSOLマルチフィジックスアプローチ
理論:すべてを一度に解くか、交互に解くか
概要
COMSOLのような汎用ツールで連成問題を解くとき、ソルバーの設定で何を選べばいいですか?
大きく分けて、全連成(一体型)と分離(セグリゲート)の2つの解き方がある。全連成は、電位・温度・変位などすべての未知数をまとめて1つの方程式にし、それぞれが互いにどう影響するかまで含めてニュートン法で解く。収束は速く安定だが、行列が大きくなり、メモリと1回あたりの計算時間が増える。分離解法は、物理ごとに順番に解いて繰り返すので、1回は軽いが、物理どうしの結びつきが強いと繰り返しの回数が増え、場合によっては収束しない。どちらを選ぶかは、連成の強さと問題の大きさで決まる。ここでは、温まると電気が流れやすくなる素子という、結びつきの強い例で両者を比べる。
例題:サーミスターの電気-熱連成
長さ10 mmの棒の両端に電圧 U をかけ、両端の温度は300 Kに保つ。σ₀ = 1 S/m、B = 3000 K、熱伝導率 k = 2 W/mK、41点に分割。温度が上がるほど電気伝導率が上がる(抵抗が下がる)。
全連成のニュートン法
右上と左下の項が、温度が電気に与える影響と、電気が温度に与える影響。分離解法はこの2つの項を使わずに、片方ずつ解いて繰り返す。
ニュートンとラフソン
方程式の根を、接線を使って繰り返し近づける方法は、ニュートンが1669年ごろの原稿に書いたが、出版されたのは1711年だった。その間の1690年に、ラフソンがより使いやすい形で発表した。そのため今も「ニュートン・ラフソン法」と呼ばれる。300年以上前の方法が、いま何百万もの未知数をもつ連成問題を解く中心にある。
計算例
例1:電圧と収束までの繰り返し回数(許容差10⁻⁸ K)
| 電圧 | 最高温度 | 分離解法 | 全連成 |
|---|---|---|---|
| 10 V | 307.0 K | 11回 | 4回 |
| 15 V | 318.7 K | 18回 | 5回 |
| 20 V | 347.5 K | 38回 | 6回 |
| 22 V | 377.4 K | 69回 | 8回 |
| 23 V | 415.6 K | 166回 | 9回 |
| 23.5 V | — | 発散 | 収束せず |
例2:解が存在する範囲(連続法)
電圧を0.1 Vずつ上げ、前の解を初期値にしてニュートン法で解き続けると、23.2 V(最高温度443.3 K)までは解が得られ、23.3 Vで解がなくなった。この先は定常状態がなく、温度は上がり続ける。
23.5 Vで両方とも収束しなかったのは、解法の設定が悪いのではなく、解がないからなんですね。
そのとおり。連成の計算が収束しないとき、多くの人はまず緩和係数を変えたり、時間刻みを細かくしたりするが、このように物理として定常の解がない場合は、どんな設定でも収束しない。むしろ、無理に収束させた答えのほうが危ない。見分けるには、条件を少しずつ厳しくして解を追いかけ(連続法)、最高温度が急に立ち上がって途切れるかを見る。この例では、22 Vから23 Vの1 Vで最高温度が38 K上がり、その先0.3 Vで途切れた。こういう形なら、設計としてはその手前で十分な余裕をとるべきだ。分離解法の繰り返しが急に増えるのも、境目に近づいているという合図になる。全連成が有利なのは、境目のぎりぎりまで少ない回数で解を追えることで、限界の位置を正しく見積もれる点にある。
モデリングの進め方
- まず弱い条件(低い電圧・負荷)で解き、収束を確かめる。
- 問題が小さく連成が強ければ全連成、大きく連成が弱ければ分離解法を選ぶ。
- 条件を少しずつ上げ、前の解を初期値にして解き進める。
- 繰り返し回数や最高値が急に増えたら、解の存在の境目を疑う。
- 収束しない条件では、過渡の計算で実際に何が起きるかを確かめる。
「緩和係数を下げても収束しなかった解析」
ある電源の部品の電気-熱連成解析で、定格の1.3倍の負荷だけがどうしても収束しなかった。担当者は分離解法の緩和係数を何度も下げ、繰り返しの上限を増やしたが結果は変わらなかった。全連成に切り替え、負荷を少しずつ上げて解を追うと、定格の1.25倍あたりで最高温度が急に立ち上がり、その先に解がないことがわかった。部品の材料が温度で抵抗の下がる性質を持ち、熱暴走の境目にあったのだ。設計は放熱を強化する方向に変わった。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| いきなり最終条件で解く | 初期値が遠く収束しない | 条件を段階的に上げる |
| 収束しない原因を設定だけに求める | 熱暴走を見逃す | 解の存在を調べる |
| 強い連成に分離解法 | 繰り返しが増え発散 | 全連成を使う |
| 大きな問題に全連成 | メモリ不足 | 分離+前処理 |
| 許容差を緩めて収束扱い | 誤った答え | 残差と物理量で確認 |
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