パワーモジュール実装解析
理論:層を重ねた熱の通り道
概要
パワーモジュールのチップ温度を見積もるには、どこから考えればいいですか?
チップで生まれた熱は、何枚もの層を順に通って放熱器へ逃げる。チップの下のはんだ、銅の配線、電気を絶縁するセラミック、もう一層の銅、基板を留めるはんだ、厚い銅のベース板、そして放熱器との間の放熱グリースだ。それぞれが熱抵抗を持ち、それを足し合わせたものに発熱量をかければ温度上昇になる。熱は層を下るにつれて横に広がるので、下の層ほど熱が通る面積が大きくなり抵抗は小さくなる。まずこの1次元の積み上げで、どの層が効いているかをつかみ、詳しくは3次元の熱解析で確かめる。
熱の広がりを考えた層ごとの熱抵抗
a は熱が通る正方形の一辺の長さで、チップの10 mmから始まり、層を通るごとに45°で広がるとした(ベース板の60 mmが上限)。各層の面積は入口と出口の幾何平均。層の構成:SiCチップ0.35 mm(370 W/mK)、はんだ0.1 mm(50)、銅0.3 mm(390)、セラミック、銅0.3 mm、はんだ0.1 mm、銅ベース板3 mm(390)、放熱グリース0.1 mm(3)。
熱膨張の差
ワイヤボンドの破断から
パワーモジュールの寿命を決める代表的な壊れ方は、チップの上につないだアルミのワイヤが温度の上下で根元からはがれることと、チップや基板の下のはんだにき裂が進むことだ。どちらも、材料の熱膨張率の違いによって、温度が変わるたびにひずみが繰り返されることで起きる。1990年代から鉄道や産業用で信頼性が詳しく調べられ、電気自動車の普及とSiCの高温動作で、焼結銀による接合や、ワイヤを使わない構造が広がっている。
計算例
例1:セラミックの種類と熱抵抗(チップ10 mm角、200 W)
| 層 | アルミナ 0.32 mm | 窒化アルミ 0.635 mm | 窒化ケイ素 0.32 mm |
|---|---|---|---|
| SiCチップ | 0.009 | 0.009 | 0.009 |
| チップ下はんだ | 0.017 | 0.017 | 0.017 |
| セラミック | 0.096 | 0.025 | 0.025 |
| 銅ベース板 | 0.031 | 0.029 | 0.031 |
| 放熱グリース | 0.092 | 0.086 | 0.092 |
| 接合部〜ケース | 0.176 | 0.102 | 0.106 |
| 接合部〜放熱器 | 0.268 | 0.188 | 0.198 |
| 200 Wでの温度上昇 | 54 K | 38 K | 40 K |
単位は K/W(最後の行を除く)。銅2層と基板下はんだは合計で0.02 K/W程度で、表では省略した。
例2:銅とセラミックの熱膨張の差(温度差100 K)
| セラミック | 熱膨張率 | 銅との差 | ひずみの差 |
|---|---|---|---|
| アルミナ | 7 ppm/K | 10 ppm/K | 0.10% |
| 窒化アルミ | 4.5 ppm/K | 12.5 ppm/K | 0.12% |
| 窒化ケイ素 | 3 ppm/K | 14 ppm/K | 0.14% |
窒化ケイ素は銅との熱膨張の差が一番大きいのに、熱サイクルに強いと言われるのはなぜですか?
熱膨張の差が生むひずみの大きさだけでなく、セラミックがそれに耐えられるかが問題だからだ。熱サイクルでは、銅とセラミックの境界の端に大きな応力が集まり、セラミックが割れたり銅がはがれたりする。窒化ケイ素は破壊靱性がアルミナや窒化アルミの約2倍あり、割れにくいので、厚い銅を貼っても耐えられる。厚い銅は熱を横に広げるので、熱抵抗もさらに下がる。窒化アルミは熱伝導率は高いが割れやすく、厚さ0.635 mm程度が必要になる。表のように、薄い窒化ケイ素は厚い窒化アルミとほぼ同じ熱抵抗になる。もう一つ大事なのは、ここで一番大きい放熱グリースの層だ。基板やチップを良くしても、グリースが厚く塗られていれば温度は下がらないので、ベース板の反りやグリースの厚さの管理も含めて設計する。
解析の進め方
- 1次元の積み上げで各層の熱抵抗を見積もり、支配的な層を見つける。
- 3次元の熱解析で、複数チップの熱の干渉と広がりを確かめる。
- 運転の電流波形から損失を求め、過渡の熱インピーダンスでチップ温度の変動を計算する。
- 温度の振れ幅から、はんだやワイヤの寿命を寿命式で見積もる。
- 熱電対や赤外線の測定、熱過渡試験で計算と比べる。
「同じモジュールで温度が10 K違った」
ある装置で、同じ型番のパワーモジュールを並べて使ったところ、チップ温度が個体によって最大10 Kほど違った。調べると、放熱グリースの塗り厚が手作業でばらつき、厚いところでは0.2 mmを超えていた。グリースの層は熱抵抗の3割以上を占めるので、厚さが倍になると温度上昇も大きく増える。スクリーン印刷で厚さをそろえ、ベース板の反りを考えて締め付け順序も決めたところ、ばらつきは2 K程度に収まった。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 熱の広がりを無視 | 下の層の抵抗を過大評価 | 広がりを考慮 |
| グリース層を省略 | 温度を過小評価 | 厚さのばらつきも入れる |
| 定常だけで評価 | 温度変動を見逃す | 過渡熱インピーダンス |
| 熱伝導率だけで基板を選ぶ | 熱サイクルで割れる | 靱性も考慮 |
| チップ間の干渉を無視 | 中央のチップが過熱 | 3次元で解析 |
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