高電圧絶縁設計

カテゴリ: 電磁界解析・パワーエレクトロニクス | 2026-10-01 改稿
CAE visualization for high voltage insulation theory - technical simulation diagram
高電圧絶縁設計

理論:気体の放電と空洞の電界

概要

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絶縁物の耐電圧は十分なはずなのに、何年か使ううちに絶縁が壊れることがあるのはなぜですか?

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固体の絶縁物そのものは強くても、中に小さな空洞(ボイド)やはく離があると、そこには空気が入っている。空気は固体より誘電率が低いので電界が集まりやすく、しかも空気の絶縁耐力は固体の何分の1しかない。だから全体としては余裕があっても、ボイドの中だけが放電する。これが部分放電だ。1回1回は小さな放電でも、周りの絶縁物を少しずつ侵食し、樹枝状の劣化(トリー)が伸びて、最後には全体が破壊する。設計では、気体の放電電圧をパッシェンの法則で見積もり、ボイドにかかる電圧と比べる。

パッシェンの法則

$$ V_b = \frac{B\,pd}{\ln(A\,pd) - \ln\!\left[\ln\!\left(1 + \dfrac{1}{\gamma}\right)\right]},\qquad A = 15\ \mathrm{cm^{-1}Torr^{-1}},\ B = 365\ \mathrm{V\,cm^{-1}Torr^{-1}},\ \gamma = 0.01 $$

p は気圧(Torr)、d は隙間(cm)、γ は二次電子放出係数。この簡単な係数では、1気圧・10 mmの平等電界で3.55 kV/mmとなり、実測の約3 kV/mmよりやや高めに出る。

ボイドにかかる電圧

$$ V_{void} = V\,\frac{t\,\varepsilon_r}{t\,\varepsilon_r + d - t},\qquad V_{PDIV} = \frac{V_b(p\,t)}{t\varepsilon_r/(t\varepsilon_r + d - t)} $$

電界に垂直な平らなボイド(厚さ t)を、ボイドと固体(厚さ d − t、比誘電率 ε_r)の直列コンデンサとみなした。V_PDIV は部分放電開始電圧。

Coffee Break よもやま話

パッシェンの1889年の実験

1889年、パッシェンは空気や二酸化炭素などの気体で、圧力と電極の間隔を変えて放電の始まる電圧を測り、それが圧力と間隔の積だけで決まることを示した。のちにタウンゼントが、電子が気体の分子にぶつかって次々と電子を増やす「電子なだれ」の理論でこの関係を説明した。最小の放電電圧があるという性質は、真空装置や航空機、宇宙機の電気設計で今も重要だ。

計算例

例1:空気の隙間の破壊電圧

隙間1気圧1気圧(電界)標高3,000 m標高3,000 m(電界)
0.1 mm0.87 kV8.65 kV/mm0.68 kV6.75 kV/mm
1 mm5.03 kV5.03 kV/mm3.73 kV3.73 kV/mm
10 mm35.5 kV3.55 kV/mm25.8 kV2.57 kV/mm

パッシェン曲線の最小値は pd = 0.84 Torr·cm で約305 V。1気圧なら隙間約11 μmに相当する。

例2:エポキシ(厚さ2 mm、比誘電率4)中のボイドの部分放電開始電圧

ボイドの厚さボイドにかかる割合ボイドの破壊電圧部分放電開始電圧平均電界
0.05 mm9.3%552 V5.93 kV2.97 kV/mm
0.1 mm17.4%865 V4.97 kV2.49 kV/mm
0.2 mm30.8%1,423 V4.62 kV2.31 kV/mm
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エポキシ自体は何十kV/mmも耐えるのに、平均2.5 kV/mm程度で放電が始まるんですね。

🎓

固体の絶縁破壊の強さと、部分放電の始まる電界はまったく別物だ。ボイドは誘電率が低いので、ボイドの中の電界は周りの約4倍になり、しかもそこにある空気は8 kV/mm程度で放電してしまう。ボイドが大きいほど開始電圧は下がる。だから高電圧の部品では、樹脂を真空で注型して気泡をなくしたり、界面のはく離を防いだりして、ボイドそのものを作らないことが一番の対策になる。また、インバータで駆動するモーターでは、急な電圧の立ち上がりで巻線の端に電圧が集中し、巻線の絶縁の小さな隙間で部分放電が起きることがある。部分放電の開始電圧は、製品の検査で測って確かめるのが基本だ。

絶縁設計の進め方

  1. 最大電圧、過電圧、使用する気圧(標高)を決める。
  2. 電界解析で、電極の角や三重点(導体・固体・空気の接点)の電界集中を調べる。
  3. 空間距離と沿面距離をパッシェンの法則と規格で確認する。
  4. ボイドを想定して部分放電開始電圧を見積もり、運転電圧に対する余裕を確保する。
  5. 製品で部分放電を測定し、開始電圧と消滅電圧を確認する。
Coffee Break よもやま話

「高地でだけ放電した電源」

ある電源装置が、平地の試験では問題なかったのに、標高の高い地域に設置したものだけで放電の跡が見つかった。基板の高電圧部の空間距離は平地の気圧で設計されていた。標高3,000 m付近では気圧が約7割になり、計算すると隙間1 mmの破壊電圧は約26%下がる。電極の角の電界集中も重なり、そこで放電していた。空間距離を広げ、角に丸みをつけて電界を下げることで解決した。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
固体の破壊強さだけで判断部分放電で劣化部分放電開始電圧で評価
平地の気圧で設計高地で放電使用気圧で計算
電極の角を尖らせたまま局所的な電界集中丸みと電界緩和
注型時の気泡を放置ボイドで放電真空注型
三重点を見落とす沿面放電電界解析で確認
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