ゲートドライバ回路設計
理論:ゲートは容量、電荷で考える
概要
SiC MOSFETに替えたら、ゲート抵抗をどう決めればいいかわからなくなりました。
MOSFETのゲートはコンデンサなので、オンとオフの切り替えは、ゲートに決まった量の電荷を出し入れすることだ。ゲート抵抗はその電流の大きさを決め、切り替えの速さを左右する。速いほどスイッチング損失は減るが、SiCは電圧の変化が非常に速く(数十V/ns)、その変化が素子の容量を通って、反対側の素子のゲートに電流を流し込む。ゲート抵抗が大きいとその電流でゲート電圧が持ち上がり、オフのはずの素子がオンしてしまう。だからオンとオフで抵抗を分けたり、オフのときに負の電圧をかけたりする。数値で確かめてみよう。
駆動電力・ピーク電流・ミラー期間
想定した素子:ゲート電荷 Qg 60 nC、ミラー電荷 Qgd 20 nC、入力容量 Ciss 2 nF、帰還容量 Crss 10 pF、ミラー電圧7 V、しきい値2.5 V(150℃で約1.8 V)、内部ゲート抵抗3 Ω。
dv/dt によるゲート電圧の持ち上がり
オフ側の素子に、帰還容量を通って Crss·dv/dt の電流が流れ込み、ゲート抵抗で電圧になる。ゲート容量で平滑化される効果を時定数 τ で近似した。ゲート配線のインダクタンスは無視した。
速すぎるスイッチの悩み
シリコンIGBTの時代には、スイッチングの速さは数V/ns程度で、ゲートを0 Vでオフにする設計も多かった。2010年代にSiCやGaNのMOSFETが実用化されると、電圧の変化は数十V/nsに達し、損失は大きく減ったが、誤点弧やノイズの問題が目立つようになった。SiC MOSFETはしきい値が低めで、温度が上がるとさらに下がるため、負バイアスやミラークランプといったゲート駆動の工夫が標準になった。
計算例
例1:外付けゲート抵抗と駆動の速さ
| 外付け抵抗 | 合計 | ピーク電流(22 V) | ターンオンのミラー期間 | ターンオフ(−4 V) | ターンオフ(0 V) |
|---|---|---|---|---|---|
| 2 Ω | 5 Ω | 4.40 A | 9.1 ns | 9.1 ns | 14.3 ns |
| 5 Ω | 8 Ω | 2.75 A | 14.5 ns | 14.5 ns | 22.9 ns |
| 10 Ω | 13 Ω | 1.69 A | 23.6 ns | 23.6 ns | 37.1 ns |
駆動電力は200 kHzで、+18/0 V なら216 mW、+18/−4 V なら264 mW(50 kHzでは54 mWと66 mW)。
例2:800 Vを切り替えるときのゲート電圧の持ち上がり
| dv/dt | オフ側外付け抵抗 | 持ち上がり | 0 Vオフの最大値 | −4 Vオフの最大値 |
|---|---|---|---|---|
| 20 V/ns | 2 Ω | 0.98 V | 0.98 V | −3.02 V |
| 20 V/ns | 10 Ω | 2.04 V | 2.04 V | −1.96 V |
| 50 V/ns | 0.5 Ω | 1.57 V | 1.57 V | −2.43 V |
| 50 V/ns | 5 Ω | 2.53 V | 2.53 V | −1.47 V |
| 50 V/ns | 10 Ω | 2.99 V | 2.99 V | −1.01 V |
50 V/nsだと、外付け抵抗を0.5 Ωまで下げても、0 Vオフでは1.57 Vまで上がって、しきい値に近いんですね。
素子の中にある3 Ωの内部ゲート抵抗は外から小さくできないので、外付けを下げても限界がある。高温ではしきい値が1.8 V程度まで下がり、実際にはゲート配線のインダクタンスで振動も加わるので、0 Vオフでは余裕がほとんどない。そこで−4 V程度の負バイアスでオフにすると、持ち上がっても−1.5 Vにとどまる。もう一つの方法がミラークランプで、オフ中はゲートを低いインピーダンスでソースにつなぎ、流れ込む電流を逃がす。ただしSiCのゲートは負の電圧に弱く、許される負電圧はデータシートで−5 V前後に制限されていることが多いので、深くしすぎないことも大切だ。また、オンとオフで抵抗を分けると、ターンオンの速さを保ちながら誤点弧を抑えられる。
設計の進め方
- データシートから Qg、Qgd、Crss、しきい値の温度特性、許容ゲート電圧を読む。
- 駆動電力とピーク電流から、ドライバICと絶縁電源を選ぶ。
- 最大 dv/dt で誤点弧の余裕を計算し、負バイアスやミラークランプを決める。
- ゲートループを小さくし、ケルビンソース接続を使う。
- ダブルパルス試験で波形を測り、計算と比べる。
「高温でだけ壊れたインバータ」
あるSiCインバータが、室温の試験では問題なく動いたのに、高温の耐久試験の途中で上下の素子が同時にオンして壊れた。ゲートは0 Vでオフにしていた。室温ではしきい値が2.5 V程度あり、dv/dtによる持ち上がりに耐えていたが、150℃ではしきい値が1.8 V程度に下がり、持ち上がりがそれを超えていた。−4 Vの負バイアスに変更し、オフ側のゲート抵抗を小さくして、高温でも誤点弧しなくなった。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 室温のしきい値で設計 | 高温で誤点弧 | 高温の値で確認 |
| オン・オフを同じ抵抗に | 速さと誤点弧の両立不可 | 抵抗を分ける |
| 負バイアスを深くしすぎ | ゲート劣化 | 定格内に |
| ゲートループが大きい | 振動・誤点弧 | ケルビン接続 |
| 内部ゲート抵抗を忘れる | 速さを過大評価 | 合計で計算 |
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