MRI用超電導磁石設計
理論:均一な磁場をどう作るか
概要
MRIの磁石は長いソレノイドだと思っていました。単純に長くすれば均一になるのでは?
長くすれば確かに均一に近づくけれど、MRIが求める均一度は桁違いなんだ。直径40〜50 cmの球の中で、磁場のばらつきを数ppmから十数ppm、つまり100万分の数に抑える必要がある。1.5 Tなら1 ppmは1.5 µTだ。単純なソレノイドでこれを満たそうとすると、患者が入れないほど長くなってしまう。そこで実際の磁石は、長さの限られた中に複数のコイルを並べ、それぞれの位置と巻数を調整して、中心から離れたときに磁場が変わる成分を順番に打ち消している。
軸上の磁場
半径 $a$、長さ $L$、単位長さあたりの巻数 $n$、電流 $I$ のソレノイドの中心軸上の磁場。
中心の近くの磁場を $z$ のべき級数で表すと、左右対称な配置では偶数次の項だけが残る。コイルの位置と電流を選んで $c_2$、$c_4$、$c_6$ … を順に0にしていくのが、均一な磁石の設計の基本だ。軸上の係数が決まれば、球の中の磁場も決まる。
超電導が病院に来た日
MRIの原理である核磁気共鳴は1946年に見つかり、人体の画像に応用する研究が1970年代に進んだ。最初期の装置は常電導の磁石で磁場も弱かったが、1980年代にニオブ・チタンの超電導線を液体ヘリウムで冷やす磁石が実用化され、1.5 Tの装置が病院に広がった。超電導のコイルは抵抗が0なので、一度電流を流せば電源を切っても何年も流れ続け、極めて安定した磁場を保てる。MRIは、超電導技術が最も大規模に実用化された例の一つになった。
計算例:均一度をコイル配置で作る
例1:単純なソレノイド
半径0.5 mのソレノイドで、中心から軸方向に±0.2 mの範囲の磁場のばらつきを求めた。
| 長さ | ±0.2 mでのばらつき |
|---|---|
| 1.0 m | 60,800 ppm |
| 1.5 m | 23,582 ppm |
| 2.0 m | 9,939 ppm |
| 3.0 m | 2,454 ppm |
例2:コイルを対に分ける
同じ半径0.5 mの細いコイルを左右対称に並べ、最初の対の電流を1として、残りの対の電流を $c_2$ から順に打ち消すように決めた。
| 配置 | 打ち消した項 | 電流の比 | ±0.2 mでのばらつき |
|---|---|---|---|
| 3対(±0.15, 0.45, 0.75 m) | z², z⁴ | 1 : 0.40 : 2.80 | 1,591 ppm |
| 4対(±0.1, 0.3, 0.55, 0.8 m) | z², z⁴, z⁶ | 1 : 0.96 : 2.02 : 0.97 | 77 ppm |
4対で77 ppmまで下がるんですね。両端の電流が大きいのはなぜですか?
コイルの端では磁場が弱まるから、外側のコイルを強くして補っているんだ。長いソレノイドの端に巻数を多くするのと同じ考え方だよ。打ち消す項を1つ増やすごとに、ばらつきは1桁ほど下がる。実際の磁石は6対以上のコイルで数ppmまで設計し、製作誤差で出るずれは、据え付け後に磁場を測って、鉄片を貼る(パッシブシム)か補正コイルに電流を流して(アクティブシム)追い込む。
例3:起磁力と漏れ磁場
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 1.5 Tに必要な起磁力(半径0.5 m・長さ1.5 m) | 2.15 MA・ターン(無限長の近似では1.79) |
| 1.5 Tの磁場のエネルギー密度 | 0.895 MJ/m³ |
| 遮へいなしで0.5 mTになる距離(1.5 T、軸上) | 8.8 m |
| 同(3 T) | 11.1 m |
設計の進め方
- 中心の磁場、均一度(球の直径とppm)、漏れ磁場の範囲、装置の長さと内径を決める。
- 軸上の展開係数を順に打ち消すように、コイルの位置と巻数を最適化する。
- 外側に逆向きのコイルを置いて漏れ磁場を抑える(能動遮へい)。
- コイルが受ける電磁力と、線材の最大磁場・臨界電流に対する余裕を確かめる。
- クエンチ(超電導が壊れる現象)が起きたときの温度と電圧を解析し、保護回路を設計する。
「設計は5 ppmなのに据え付けたら300 ppm」
工場で均一度を確かめたMRI磁石を病院に据え付けたら、ばらつきが大きく増えていた——ということは珍しくない。原因は、床の鉄筋、近くの鉄骨の柱、隣の部屋の機器など、周りの磁性体が磁場を乱すことだ。そのため据え付け後に球面上の数百点で磁場を測り、鉄片の配置を計算で決めるシミングを行う。設計段階で部屋の鉄骨の影響を解析に入れておくと、シムで補正しきれない大きなずれを避けられる。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 長いソレノイドで均一化 | 装置が長すぎる | 複数コイルで項を打ち消す |
| 周囲の磁性体を無視 | 据え付け後に均一度が悪化 | 部屋の鉄骨を解析に入れる |
| 中心の磁場だけで線材を選ぶ | コイル上の最大磁場で臨界を超える | コイル上の最大磁場で確認 |
| 電磁力を無視 | コイルの動きでクエンチ | 支持構造を解析 |
| 漏れ磁場を軸上だけで評価 | 横方向の範囲を誤る | 全周の等磁場線を求める |
関連する計算を試したいです。
ソレノイドの磁場の計算、ビオ–サバールの法則のシミュレーターでコイルの磁場、MRIのSNRとコイルで画像のSNRを確かめられるよ。超電導の側はクエンチ解析、永久電流モード、臨界電流密度、高温超電導と低温超電導が参考になる。
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