MRI用超電導磁石設計

カテゴリ: 電磁気・超電導 | 2026-10-01 改稿
CAE visualization for mri magnet design theory - technical simulation diagram
MRI用超電導磁石設計

理論:均一な磁場をどう作るか

概要

🙋

MRIの磁石は長いソレノイドだと思っていました。単純に長くすれば均一になるのでは?

🎓

長くすれば確かに均一に近づくけれど、MRIが求める均一度は桁違いなんだ。直径40〜50 cmの球の中で、磁場のばらつきを数ppmから十数ppm、つまり100万分の数に抑える必要がある。1.5 Tなら1 ppmは1.5 µTだ。単純なソレノイドでこれを満たそうとすると、患者が入れないほど長くなってしまう。そこで実際の磁石は、長さの限られた中に複数のコイルを並べ、それぞれの位置と巻数を調整して、中心から離れたときに磁場が変わる成分を順番に打ち消している。

軸上の磁場

$$ B_z(0,z) = \frac{\mu_0 n I}{2}\left[\frac{L/2 - z}{\sqrt{a^2 + (L/2 - z)^2}} + \frac{L/2 + z}{\sqrt{a^2 + (L/2 + z)^2}}\right] $$

半径 $a$、長さ $L$、単位長さあたりの巻数 $n$、電流 $I$ のソレノイドの中心軸上の磁場。

$$ B_z(0,z) = B_0\left(1 + c_2 z^2 + c_4 z^4 + c_6 z^6 + \cdots\right), \qquad \text{ppm} = \frac{B_{max} - B_{min}}{B_0}\times 10^6 $$

中心の近くの磁場を $z$ のべき級数で表すと、左右対称な配置では偶数次の項だけが残る。コイルの位置と電流を選んで $c_2$、$c_4$、$c_6$ … を順に0にしていくのが、均一な磁石の設計の基本だ。軸上の係数が決まれば、球の中の磁場も決まる。

Coffee Break よもやま話

超電導が病院に来た日

MRIの原理である核磁気共鳴は1946年に見つかり、人体の画像に応用する研究が1970年代に進んだ。最初期の装置は常電導の磁石で磁場も弱かったが、1980年代にニオブ・チタンの超電導線を液体ヘリウムで冷やす磁石が実用化され、1.5 Tの装置が病院に広がった。超電導のコイルは抵抗が0なので、一度電流を流せば電源を切っても何年も流れ続け、極めて安定した磁場を保てる。MRIは、超電導技術が最も大規模に実用化された例の一つになった。

計算例:均一度をコイル配置で作る

例1:単純なソレノイド

半径0.5 mのソレノイドで、中心から軸方向に±0.2 mの範囲の磁場のばらつきを求めた。

長さ±0.2 mでのばらつき
1.0 m60,800 ppm
1.5 m23,582 ppm
2.0 m9,939 ppm
3.0 m2,454 ppm

例2:コイルを対に分ける

同じ半径0.5 mの細いコイルを左右対称に並べ、最初の対の電流を1として、残りの対の電流を $c_2$ から順に打ち消すように決めた。

配置打ち消した項電流の比±0.2 mでのばらつき
3対(±0.15, 0.45, 0.75 m)z², z⁴1 : 0.40 : 2.801,591 ppm
4対(±0.1, 0.3, 0.55, 0.8 m)z², z⁴, z⁶1 : 0.96 : 2.02 : 0.9777 ppm
🙋

4対で77 ppmまで下がるんですね。両端の電流が大きいのはなぜですか?

🎓

コイルの端では磁場が弱まるから、外側のコイルを強くして補っているんだ。長いソレノイドの端に巻数を多くするのと同じ考え方だよ。打ち消す項を1つ増やすごとに、ばらつきは1桁ほど下がる。実際の磁石は6対以上のコイルで数ppmまで設計し、製作誤差で出るずれは、据え付け後に磁場を測って、鉄片を貼る(パッシブシム)か補正コイルに電流を流して(アクティブシム)追い込む。

例3:起磁力と漏れ磁場

項目値
1.5 Tに必要な起磁力(半径0.5 m・長さ1.5 m)2.15 MA・ターン(無限長の近似では1.79)
1.5 Tの磁場のエネルギー密度0.895 MJ/m³
遮へいなしで0.5 mTになる距離(1.5 T、軸上)8.8 m
同(3 T)11.1 m

設計の進め方

  1. 中心の磁場、均一度(球の直径とppm)、漏れ磁場の範囲、装置の長さと内径を決める。
  2. 軸上の展開係数を順に打ち消すように、コイルの位置と巻数を最適化する。
  3. 外側に逆向きのコイルを置いて漏れ磁場を抑える(能動遮へい)。
  4. コイルが受ける電磁力と、線材の最大磁場・臨界電流に対する余裕を確かめる。
  5. クエンチ(超電導が壊れる現象)が起きたときの温度と電圧を解析し、保護回路を設計する。
Coffee Break よもやま話

「設計は5 ppmなのに据え付けたら300 ppm」

工場で均一度を確かめたMRI磁石を病院に据え付けたら、ばらつきが大きく増えていた——ということは珍しくない。原因は、床の鉄筋、近くの鉄骨の柱、隣の部屋の機器など、周りの磁性体が磁場を乱すことだ。そのため据え付け後に球面上の数百点で磁場を測り、鉄片の配置を計算で決めるシミングを行う。設計段階で部屋の鉄骨の影響を解析に入れておくと、シムで補正しきれない大きなずれを避けられる。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
長いソレノイドで均一化装置が長すぎる複数コイルで項を打ち消す
周囲の磁性体を無視据え付け後に均一度が悪化部屋の鉄骨を解析に入れる
中心の磁場だけで線材を選ぶコイル上の最大磁場で臨界を超えるコイル上の最大磁場で確認
電磁力を無視コイルの動きでクエンチ支持構造を解析
漏れ磁場を軸上だけで評価横方向の範囲を誤る全周の等磁場線を求める
🙋

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