Brinkman方程式
理論:ダルシー則に粘性の項を足す
概要
発泡金属を詰めた冷却流路の圧力損失を、ダルシー則で計算したら実験より流量が多く出ました。何が足りないんでしょう?
たぶん壁の影響だね。ダルシー則は『圧力の勾配と速度が比例する』という式で、速度はどこでも同じ平らな分布になる。壁で速度がゼロになることを表せないんだ。発泡金属のように透過率が大きい材料だと、壁の近くで流れが遅くなる層が無視できない厚さになる。Brinkman方程式は、ダルシー則に通常の流れと同じ粘性の項を足して、この壁の層を表せるようにした式だよ。
ダルシー則とBrinkman方程式
$K$ は透過率(m²)、$\mu$ は流体の粘度、$\mu_{eff}$ は有効粘度、$\mathbf{u}$ は見かけの流速(断面全体で平均した流速)。右辺2項目が加わったことで、壁で速度ゼロの条件を課せるようになる。$\sqrt{K}$ が長さの次元を持ち、壁の影響が及ぶ厚さの目安になる。
平行平板流路の解析解
多孔質を詰めた幅 $2h$ の流路に圧力勾配 $G$ をかけ、有効粘度を流体の粘度と同じとした場合の解。$h/\sqrt{K}$ が大きければダルシー則の平らな分布に、小さければ多孔質のない放物線のポアズイユ流れに近づく。
噴水の研究から地下水へ、そして粒子の群れへ
ダルシー則は1856年、フランスのディジョンで噴水の水道を設計していた技師ダルシーが、砂の層を通る水の量を測って見つけた。一方Brinkmanは1947年、たくさんの粒子が集まった中を流体が流れるときの抵抗を計算するために、ダルシー則に粘性の項を足した。粒子のまわりの流れと、多孔質全体としての流れを1つの式でつなごうとしたわけだ。今では発泡金属の熱交換器、燃料電池の電極、生体組織の中の流れなど、壁や境界の影響が大きい場面で広く使われている。
計算例
例1:透過率と流量のずれ
幅10 mm($h$ = 5 mm)の流路に多孔質を詰めた場合の、ダルシー則との流量比とポアズイユ流れとの流量比。
| 透過率 K | √K | ダルシー数 K/h² | ダルシー則との比 | ポアズイユとの比 |
|---|---|---|---|---|
| 10⁻¹⁰ m² | 0.01 mm | 4×10⁻⁶ | 0.998 | 0.00003 |
| 10⁻⁸ m² | 0.10 mm | 4×10⁻⁴ | 0.980 | 0.0012 |
| 10⁻⁷ m² | 0.32 mm | 4×10⁻³ | 0.937 | 0.011 |
| 10⁻⁶ m² | 1.0 mm | 0.04 | 0.800 | 0.096 |
| 10⁻⁵ m² | 3.2 mm | 0.4 | 0.419 | 0.50 |
| 10⁻⁴ m² | 10 mm | 4 | 0.076 | 0.91 |
透過率が大きくなるほど、ダルシー則は流量を多く見積もりすぎるんですね。
そう。砂や土(10⁻¹⁰ m²程度)なら壁の層は0.01 mmで、ダルシー則で十分。発泡金属や粗い充填層(10⁻⁶ m²以上)になると、流量を20%以上多く見積もってしまう。逆に10⁻⁴ m²では、多孔質の抵抗がほとんど効かず、流れはほぼ空の流路のポアズイユ流れになる。ダルシー則だけだとこの場合は13倍も多く見積もるから、Brinkman方程式は2つの極端のあいだをなめらかにつないでくれる式なんだ。
例2:壁の層の厚さ
K = 10⁻⁸ m²(√K = 0.1 mm)のとき、速度はダルシー則の値の90%に壁から0.23 mm、99%に0.46 mmで達する。壁の層は √K の数倍の厚さしかないので、CFDではこの厚さに数個以上のセルを入れないと、壁での抵抗を正しく表せない。
例3:有効粘度の影響
| 有効粘度 / 流体の粘度 | 壁の層の厚さの目安 | ダルシー則との流量比 |
|---|---|---|
| 1 | 1.00 mm | 0.800 |
| 2 | 1.41 mm | 0.718 |
| 5 | 2.24 mm | 0.563 |
K = 10⁻⁶ m²、幅10 mmの場合。有効粘度は測りにくい値で、1とおくことが多いが、2倍にすると流量が約10%減る。壁の影響が大きい設計では、有効粘度の仮定が結果を左右することを報告しておく。
解析の進め方
式の選び方
| 状況 | 使う式 |
|---|---|
| √K が流路幅の1/100以下、流速が遅い | ダルシー則 |
| √K が無視できない、壁や自由流体との境界がある | Brinkman方程式 |
| 流速が速く、慣性の抵抗が効く | Forchheimer項を追加 |
CFDでの注意点
- 見かけの流速と実際の流速:式の $\mathbf{u}$ は断面平均の流速。空隙の中の実際の流速は空隙率で割った値になる。
- 多孔質と空隙の境界:流速がなめらかにつながる条件と、境界で滑りを許す条件(Beavers–Joseph)があり、結果が変わる。
- 透過率の方向性:繊維や積層材では方向によって透過率が何倍も違うので、テンソルで与える。
「壁ぎわを流れが抜ける」
球を詰めた充填層では、壁の近くだけ空隙率が高くなり、流れが壁ぎわを抜けやすい。球が壁に沿って並ぶため、壁から球の直径の半分ほどのところで隙間が大きくなるからだ。管の直径が球の直径の10倍程度より小さいと、この壁ぎわの流れが全体の流量や熱の伝わり方に目立って効いてくる。Brinkman方程式に、壁からの距離で変わる空隙率を組み合わせると、この効果を表せる。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 透過率の大きい材料にダルシー則 | 流量を過大評価 | √K と流路幅を比べて選ぶ |
| 壁の層を粗いメッシュで | 壁の抵抗を誤る | √K 程度に数セル |
| 見かけと実際の流速の混同 | 熱伝達や滞留時間を誤る | 空隙率で換算 |
| 有効粘度を検討しない | 流量に10%以上の差 | 感度を確認して報告 |
| 高速流で慣性を無視 | 圧力損失を過小評価 | Forchheimer項を追加 |
透過率や摩擦の計算を自分でも試したいです。
透過率とダルシー則のツールで透過率とダルシー則、ダルシーとファニングの摩擦係数で管摩擦を試せるよ。関連する式と応用はダルシー流れ、Forchheimer方程式、充填層、地下水の流れの記事で詳しく扱っている。
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