ダルシー流れ
理論:流速は圧力の勾配に比例する
概要
工場の敷地で油が漏れたとき、地下水に乗って100 m先の井戸まで何日で届くか見積もりたいと言われました。何から始めればいいですか?
まずダルシー則だね。砂や土のすき間を水がゆっくり流れるとき、流速は水位の勾配(どれだけ傾いているか)に比例する。比例の係数は土の水の通しやすさ(透水係数)で決まる。ただし注意が2つある。ダルシー則の流速は断面全体で平均した見かけの値で、実際に粒のすき間を進む速さはそれを空隙率で割った値になること。それと、透水係数は土の種類で何桁も変わることだ。
ダルシー則
$K$ は透過率(m²、多孔質だけで決まる値)、$\mu$ は粘度、$k_h$ は水の場合の透水係数(m/s)、$i$ は水位の勾配(動水勾配)。地下水の分野では透水係数、油・ガスや工学では透過率がよく使われる。透過率は流体の種類によらないので、水と油で比べるときに便利だ。
透過率の見積もり(Kozeny–Carman)
$d$ は粒径、$\varepsilon$ は空隙率。粒がそろった球の充填層を想定した式で、透過率は粒径の2乗に比例し、空隙率にも強く左右される。細かい粒が混じった実際の土では、この式より小さくなることが多い。
実際の流速と適用範囲
$v$ は粒のすき間を実際に進む速さ(実流速)。粒径基準のレイノルズ数 $Re_d$ がおよそ1〜10を超えると、慣性による抵抗が加わってダルシー則は成り立たなくなる。
噴水の水道を設計した技師
ダルシーは19世紀のフランスの技師で、故郷ディジョンの町に泉から水を引く上水道をつくり、町中に噴水を設けた。1856年、その報告書の付録に、砂を詰めた縦の管に水を流して、流量が水位の差に比例し砂の厚さに反比例することを示す実験を載せた。これがダルシー則の始まりで、単位「ダルシー」(約10⁻¹² m²)にも名前が残っている。町の水道づくりの記録の付録が、地下水、石油、化学工学に共通する基本法則になったわけだ。
計算例
例1:土の種類と透水係数
空隙率0.35、20 ℃の水として、Kozeny–Carmanの式で求めた。
| 材料 | 粒径 | 透過率 | 透水係数 |
|---|---|---|---|
| 細砂 | 0.2 mm | 2.3×10⁻¹¹ m² | 2.2×10⁻⁴ m/s(19 m/日) |
| 粗砂 | 1 mm | 5.6×10⁻¹⁰ m² | 5.5×10⁻³ m/s(477 m/日) |
| 礫 | 5 mm | 1.4×10⁻⁸ m² | 0.14 m/s |
例2:100 m進むのにかかる日数
| 材料 | 動水勾配 | ダルシー流速 | 実流速 | 100 mの日数 | Re_d |
|---|---|---|---|---|---|
| 細砂 | 0.01 | 2.2×10⁻⁶ m/s | 6.3×10⁻⁶ m/s | 183日 | 0.0004 |
| 粗砂 | 0.01 | 5.5×10⁻⁵ m/s | 1.6×10⁻⁴ m/s | 7.3日 | 0.06 |
| 礫 | 0.01 | 1.4×10⁻³ m/s | 3.9×10⁻³ m/s | 0.29日 | 6.9 |
| 礫 | 1.0 | 0.14 m/s | 0.39 m/s | — | 689 |
同じ勾配でも、細砂なら半年、礫なら半日もかからないんですね。
粒径が25倍で透過率は625倍になるからね。それと、実流速はダルシー流速の約3倍(空隙率0.35の逆数)だから、到達時間をダルシー流速で計算すると3倍も長く見積もってしまう。漏れた物質がいつ届くかを考えるときは、必ず実流速を使うこと。また、礫で勾配が大きいとレイノルズ数が689にもなって、ダルシー則の前提が崩れる。こういうときはForchheimer方程式を使う。
例3:空隙率の誤差の影響
粗砂(1 mm)で、空隙率0.35を基準にすると、0.30では透過率が0.54倍、0.40では1.75倍になる。空隙率の0.05の違いで透過率は2倍近く変わるので、式による見積もりは桁の見当をつけるものと考え、設計には透水試験の値を使う。断面0.5 m²・厚さ1 mの粗砂のろ過層に1 mの水位差をかけると、流量は約166 L/minになる。
解析の進め方
CFD・地下水解析での注意点
- 多孔質領域の設定:多くのCFDソフトでは、多孔質を抵抗の係数(透過率の逆数)で与える。単位と、見かけの流速を使う設定かどうかを確かめる。
- 層の違い:地盤は層ごとに透水係数が何桁も違う。平均値を1つ使うと、流れやすい層を通る近道を見落とす。
- 方向による違い:水平方向と鉛直方向で透水係数が10倍以上違うことも多い。
- 適用範囲の確認:結果の流速から粒径基準のレイノルズ数を計算し、1〜10を超える所がないか確かめる。
「井戸の水位が予想より下がらない」
工事で掘った穴に地下水が入らないよう、周りの井戸からくみ上げて水位を下げる計画を立てたのに、実際には水位が思うほど下がらなかった——地盤の調査で見落とした礫の薄い層が原因だった、という話はよくある。厚さ数十cmの礫層でも、透水係数が砂の数百倍あれば、全体の水の通りやすさを支配してしまう。ダルシー則の計算は単純だが、入力の透水係数の分布が結果のほとんどを決める。ボーリングの記録を丁寧に読んで、薄い層まで解析に入れることが大切だ。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| ダルシー流速で到達時間を計算 | 約3倍遅く見積もる | 空隙率で割った実流速を使う |
| 透過率と透水係数の混同 | 値が約10⁷倍ずれる | 単位(m²とm/s)を確認 |
| 式の透過率をそのまま設計に | 2倍以上の誤差 | 透水試験で確認 |
| 薄い礫層を省略 | 流れの近道を見落とす | ボーリング記録を反映 |
| 高速流にダルシー則 | 圧力損失を過小評価 | Re_d を確認しForchheimer |
透過率や流速を自分でも計算してみたいです。
透過率とダルシー則のツールで透過率とダルシー則、ダルシーとファニングの摩擦係数で管の摩擦と比べられるよ。壁の影響はBrinkman方程式、応用は充填層と地下水の流れの記事で詳しく扱っている。
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