地下水流れ

カテゴリ: 流体解析・多孔質媒体 | 2026-10-01 改稿
CAE visualization for groundwater theory - technical simulation diagram
地下水流れ

理論:井戸へ向かう地下水の流れ

概要

🙋

井戸から地下水をくみ上げると、まわりの地下水位が下がりますよね。どこまで、どれくらい下がるのか計算できるんですか?

🎓

できる。地層の水の通しやすさ(透水量係数)と、水位が下がったときにどれだけ水を出すか(貯留係数)が分かれば、タイスの式で水位の低下を時間と距離の関数として求められる。くみ上げを続けると、井戸のまわりにすり鉢状の水位低下(コーン)ができ、時間とともに深く、広くなっていく。さらに地下水の実際の流速が分かると、汚れた水が井戸に届くまでの時間も見積もれる。具体的な帯水層で計算してみよう。

タイスの式

$$ s(r,t) = \frac{Q}{4\pi T}\,W(u),\qquad u = \frac{r^2 S}{4Tt},\qquad W(u) = \int_u^\infty \frac{e^{-x}}{x}dx \approx -0.5772 - \ln u\ (u < 0.01) $$

$s$ は水位低下、$Q$ は揚水量、$T$ は透水量係数(透水係数×層の厚さ)、$S$ は貯留係数。$u$ が小さい(井戸の近く、長い時間)ときは対数の近似式(ヤコブの式)が使え、水位低下は時間の対数に比例して増える。

流速・移動時間・影響範囲

$$ v = \frac{Q}{2\pi r\,b\,n},\qquad t_{travel} = \frac{\pi\,b\,n\,r_0^2}{Q},\qquad R \approx 1.5\sqrt{\frac{Tt}{S}} $$
Coffee Break よもやま話

熱伝導の解を借りた地下水の式

1935年、アメリカの地質調査所のタイスは、井戸のまわりの水位低下が時間とともにどう変わるかを表す式を発表した。彼は、地下水の流れの方程式が熱伝導の方程式と同じ形をしていることに気づき、数学者ルービンの助けを借りて、熱伝導で知られていた解を地下水に当てはめた。この式によって、揚水試験の記録から帯水層の性質を逆に求められるようになり、地下水の調査の標準的な方法になった。

計算例:被圧帯水層の揚水

透水係数5×10⁻⁵ m/s、層の厚さ20 m(透水量係数1×10⁻³ m²/s)、貯留係数1×10⁻⁴、揚水量10 L/s(毎時36 m³)。

水位低下

経過時間井戸から1 m10 m100 m1,000 m影響範囲の目安
1 時間8.99 m5.33 m1.72 m0.00 m285 m
1 日11.52 m7.86 m4.19 m0.74 m1.4 km
10 日13.35 m9.69 m6.03 m2.38 m4.4 km

ヤコブの近似式は、u < 0.01 の範囲(ほとんどの点)でタイス解と1%以内で一致した。1日後の1,000 m地点(u = 0.29)では29%の誤差が出た。

地下水の流速と移動時間(空隙率0.25)

項目値
流速(井戸から10 m)2.75 m/日
流速(井戸から100 m)0.28 m/日
50 m先から井戸まで45 日
100 m先から井戸まで182 日
200 m先から井戸まで727 日
🙋

水位の低下は1日で1 km以上先まで届くのに、水そのものは100 m進むのに半年もかかるんですね。

🎓

水位の低下は『圧力』の変化として伝わるので、速く広がる。被圧帯水層では、水と地層がわずかに縮むことで水が出てくるので、貯留係数が小さく、圧力の変化が遠くまで素早く伝わる。一方、水の粒そのものは、すき間の中をゆっくりとしか動かない。だから、近くの井戸の水位への影響はすぐに出るが、汚染物質が井戸に届くまでには長い時間がかかる。移動時間は距離の2乗に比例するので、井戸から2倍離れると4倍の時間がかかる。水源を守るための保護区域は、この移動時間をもとに決められることが多い。

解析のポイント

  1. 揚水試験の水位記録をタイス解やヤコブ法に合わせ、透水量係数と貯留係数を求める。
  2. 被圧か不圧かを確認する(不圧では水位の低下で層の厚さが変わる)。
  3. 近くの川や境界は、像(イメージ)井戸の重ね合わせで表せる。
  4. 複数の井戸や不均質な地層は、数値解析(有限差分・有限要素)で解く。
  5. 汚染の移動では、分散と吸着を入れて到達時間を評価する。
Coffee Break よもやま話

「隣の井戸が枯れた」

ある地域で工場が新しい深井戸から大量にくみ上げを始めたところ、数百m離れた農家の浅い井戸の水位が下がり、夏には水が出なくなった。工場側は距離が十分あると考えていたが、被圧帯水層では圧力の低下が速く遠くまで伝わる。タイス解で水位低下を見積もり直すと、農家の井戸の位置でも数mの低下が予想された。揚水量を季節で調整し、観測井で水位を監視する取り決めが結ばれた。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
ダルシー流束を流速とする到達時間を過大評価空隙率で割る
u が大きいのにヤコブ式遠方で大きな誤差u < 0.01を確認
定常(ティーム)で評価時間変化を見逃すタイスで非定常
境界を無視水位を誤る像井戸で表す
被圧・不圧の取り違え貯留係数が桁違い地層を確認
🙋

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