熱プルーム解析

カテゴリ: 連成解析・熱流体 | 2026-10-01 改稿
CAE visualization for thermal plume theory - technical simulation diagram
熱プルーム解析

理論:上昇しながら空気を巻き込む流れ

概要

🙋

火災の煙が天井に広がる様子をCFDで解きたいんですが、まず何を押さえればいいですか?

🎓

熱源の上にできる上昇流、熱プルームの性質だ。プルームは上るにつれて周りの空気を巻き込むので、流量はどんどん増え、温度は急に下がる。天井にぶつかると横に広がる天井流になり、これが感知器やスプリンクラーを動かす。こうした流れには実験に基づく相関式がそろっていて、CFDの結果を確かめる物差しになる。100 kWの火源を例に、プルームと天井流の値、それに格子の目安まで計算してみよう。

プルームの中心温度と速度(Heskestad)

$$ \Delta T_0 = 9.1\left(\frac{T_\infty}{g c_p^2 \rho_\infty^2}\right)^{1/3}\frac{\dot Q_c^{2/3}}{(z-z_0)^{5/3}},\qquad u_0 = 3.4\left(\frac{g}{c_p \rho_\infty T_\infty}\right)^{1/3}\frac{\dot Q_c^{1/3}}{(z-z_0)^{1/3}} $$

$\dot Q_c$ は発熱のうち対流で運ばれる分(全体の約7割)、$z_0$ は仮想原点。温度は高さの−5/3乗で急に下がり、速度は−1/3乗でゆっくり下がる。火炎より上で使う式だ。

天井流(Alpert)

$$ \Delta T = \frac{16.9\,\dot Q^{2/3}}{H^{5/3}}\ \left(\frac{r}{H}\le 0.18\right),\qquad \Delta T = \frac{5.38\,(\dot Q/r)^{2/3}}{H}\ \left(\frac{r}{H} > 0.18\right) $$

$H$ は火源から天井までの高さ、$r$ はプルーム軸からの水平距離。天井のすぐ下を流れる高温の層の温度で、感知器やスプリンクラーの作動時間の計算に使う。

火源の代表径

$$ D^* = \left(\frac{\dot Q}{\rho_\infty c_p T_\infty \sqrt{g}}\right)^{2/5} $$

火災のCFDで格子の細かさを決める目安。$D^*$ を格子幅で割った値が大きいほど、プルームがよく解像される。

Coffee Break よもやま話

巻き込みの仮説

1956年、イギリスのモートン、テイラー、ターナーは、プルームが周りの流体を巻き込む速さは、プルームの上昇速度に比例するという簡単な仮説を立てた。この『巻き込み仮説』から、点熱源のプルームで温度が高さの−5/3乗、速度が−1/3乗で変わることが導かれる。のちに火災工学ではヘスケスタッドやズコスキーらが実験でこれを確かめ、火源の大きさを考えた式に発展させた。60年以上前の仮説が、今も煙の制御設計の土台になっている。

計算例

例1:100 kWの火源(直径0.5 m)

周囲20℃。火炎の高さは0.97 m、仮想原点はほぼ床面(0.01 m)。

高さ中心温度上昇中心速度プルームの流量
1.5 m219 K3.72 m/s0.70 kg/s
2 m135 K3.38 m/s1.05 kg/s
3 m69 K2.95 m/s1.94 kg/s
5 m29 K2.49 m/s4.39 kg/s
8 m13 K2.13 m/s9.47 kg/s

高さが2 mから8 mになると、温度上昇は10分の1になるが、流量は9倍に増える。煙の量は火の大きさよりも、煙が天井まで上る距離で大きく変わる。

例2:天井流の温度

条件直上1 m離れる3 m離れる5 m離れる
天井3 m・100 kW58 K39 K19 K13 K
天井3 m・500 kW171 K113 K54 K39 K
天井6 m・100 kW18 K18 K9 K7 K
天井6 m・500 kW54 K54 K27 K19 K
🙋

天井が6 mになると、100 kWの火でも直上で18 Kしか上がらないんですね。感知器が動くのが遅れそうです。

🎓

そのとおり。天井が高いと、プルームは天井に届くまでに多くの空気を巻き込んで薄まる。温度は高さの−5/3乗で下がるから、天井を2倍にすると温度上昇は約3分の1になる。多くの熱感知器は周囲より数十K高くならないと作動しないので、高い天井のアトリウムや倉庫では、煙感知器や炎感知器を使ったり、感知器の間隔を狭めたりする。さらに、室内の上部が暖かい温度成層があると、プルームが天井まで届かずに途中で止まることもある。

例3:CFDの格子の目安

発熱D*D*/δx = 4D*/δx = 10D*/δx = 16
100 kW0.38 m9.6 cm3.8 cm2.4 cm
500 kW0.73 m18 cm7.3 cm4.6 cm
2 MW1.27 m32 cm13 cm7.9 cm

小さな熱源では、人体(100 W)の2 m上で温度上昇1.4 K・速度0.34 m/s、1 kWの暖房機で6.7 K・0.74 m/sとなる。室内の換気計算では、こうした弱いプルームも空気の動きを決める。

解析のポイント

  1. まず相関式でプルームと天井流の値を出し、CFDの結果と比べる。
  2. 格子はD*/δxで決め、2段階以上の格子で結果が変わらないことを確かめる。
  3. プルームの巻き込みを解くには、LESなど非定常の乱流モデルが向いている。
  4. 天井や壁への熱の逃げ(伝導と放射)を入れる。天井流の温度が下がる。
  5. 開口部や換気の条件でプルームが傾くので、境界条件を現実に合わせる。
Coffee Break よもやま話

「アトリウムで煙が途中で止まった」

高さ30 mのガラス張りのアトリウムで火災の煙の実験をしたところ、夏の昼には煙が天井まで上がらず、途中の高さで横に広がって止まった。日射でアトリウムの上部が暖まり、温度成層ができていたため、途中で煙の温度が周りと同じになり、浮力を失ったのだ。天井の感知器は作動しなかった。そこで、途中の高さにも感知器を置き、排煙の方法を見直した。プルームの計算では、周囲の温度分布まで入れないと、こうした現象を見逃す。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
格子が粗すぎる巻き込みを誤るD*/δxで決める
発熱の全量を対流に温度を過大評価対流分は約7割
火炎内で相関式を使う温度を誤る火炎高さを確認
周囲の温度成層を無視煙の到達を誤る温度分布を入れる
壁への熱損失を無視天井流を過大評価伝導と放射を入れる
🙋

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