熱と温度の基礎 — 比熱・熱容量・フーリエ則からCAE熱解析まで
関連トピック
1. 熱と温度 — 混同しやすい2つの概念
CPUのヒートシンク設計って、比熱と熱伝導率のどっちを重視するんですか?
用途と状況による。連続運転中の定常冷却なら熱伝導率が高いほど有利で、アルミや銅のヒートシンクで熱を素早く逃がす。でも短時間の高負荷パルス(例えばAI推論の1フレーム処理)には熱容量が効いてくる。熱容量が大きいと温度上昇が緩やかになる「熱バッファー」として働く。実際のCPUクーラー設計ではCAEで両方を組み合わせて解析するよ。
温度(Temperature)は熱平衡の状態量で、分子の平均運動エネルギーを表します(単位:K または °C)。一方、熱(Heat)は温度差を駆動力として移動するエネルギーの量(単位:J)です。「熱い鉄は熱を大量に持っている」は誤りで、正しくは「鉄が高温なのは、温度差がある相手に熱を伝えられる状態にある」です。
2. 比熱と熱容量
物体の温度を $\Delta T$ だけ変化させるのに必要な熱量 $Q$:
ここで $c$ は比熱(J/(kg·K))、$m$ は質量(kg)。熱容量 $C = mc$(J/K)は「その物体の温度を1K上げるのに必要な熱量」です。
| 材料 | 比熱 $c$ (J/(kg·K)) | 備考 |
|---|---|---|
| 水(液体) | 4186 | 最大級の比熱。冷却液として最適 |
| 氷(0℃) | 2090 | 融解潜熱 334 kJ/kg も大きい |
| アルミニウム | 900 | ヒートシンク材料として広く使用 |
| 鉄・鋼 | 449〜490 | 構造材として最も多く使われる |
| 銅 | 385 | 熱伝導率が高く電子部品に使用 |
| コンクリート | 880 | 建物の蓄熱材として機能 |
| 空気 | 1005(定圧) | 密度が低いため熱容量は小さい |
3. 熱伝導(フーリエの法則)
温度勾配が存在する材料中を熱が伝わる現象(フーリエの法則、1822年):
ここで $\dot{Q}$ は熱流量(W)、$k$ は熱伝導率(W/(m·K))、$A$ は断面積(m²)、$dT/dx$ は温度勾配です。
| 材料 | 熱伝導率 $k$ (W/(m·K)) |
|---|---|
| ダイヤモンド | ~2000 |
| 銀 | 429 |
| 銅 | 385 |
| アルミニウム | 237 |
| 鋼(炭素鋼) | 46〜54 |
| コンクリート | 0.8〜1.4 |
| ガラス | 0.8〜1.0 |
| 木材 | 0.1〜0.2 |
| 断熱材(グラスウール) | 0.03〜0.04 |
| 空気(静止) | 0.026 |
熱抵抗 $R_{th}$ とオームの法則アナロジー
熱伝導を電気回路で考えると:温度差 = 電圧差、熱流量 = 電流、熱抵抗 = 電気抵抗
4. 対流熱伝達
流体の流れによる熱移動(ニュートンの冷却法則):
ここで $h$ は熱伝達係数(W/(m²·K))、$T_s$ は表面温度、$T_\infty$ は流体の遠方温度です。
| 対流の種類 | 典型的な $h$ 値 (W/(m²·K)) |
|---|---|
| 空気の自然対流 | 2〜25 |
| 空気の強制対流(ファン) | 25〜250 |
| 水の強制対流 | 250〜15{,}000 |
| 水の沸騰 | 2{,}500〜35{,}000 |
| 水蒸気の凝縮 | 5{,}000〜100{,}000 |
無次元数による整理:$Nu = hL/k$(ヌセルト数)= $f(Re, Pr)$。強制対流では $Re$(レイノルズ数)と $Pr$(プラントル数)が支配パラメータです。
5. 輻射熱伝達
電磁波による熱移動(Stefan-Boltzmann則):
$\varepsilon$ は放射率(0〜1)、$T$ は絶対温度(K)。放射熱伝達の特徴:
- 真空中でも伝達可能(宇宙への放熱)
- $T^4$ に比例するため高温(>600℃)で支配的
- エンジン排気系・炉・宇宙機の熱解析で必須
6. 熱抵抗ネットワーク(回路アナロジー)
複数の熱移動経路は電気回路と同様に扱えます:
直列熱抵抗(同一の熱流量を共有)
並列熱抵抗(同一の温度差を共有)
電子部品の接合部温度計算
ICチップの接合部温度 $T_j$(絶対に超えてはならない最高温度):
$R_{JA}$(接合部-周囲熱抵抗)はパッケージのデータシートに記載。たとえば $P=5\,\text{W}$、$R_{JA}=25\,\text{°C/W}$、$T_a=40\,\text{°C}$ の場合:$T_j = 40 + 5 \times 25 = 165\,\text{°C}$。
7. 集中容量法(Lumped Capacitance)
物体内部の温度勾配が無視できる場合(Biot数 $Bi \ll 1$)に使える簡易モデル:
$Bi < 0.1$ のとき集中容量法が適用可能です。このとき物体の温度変化は:
$\tau$ は時定数(s)。$t = \tau$ のとき、温度差が初期値の $e^{-1} \approx 36.8\%$ に低下します。
焼き入れ冷却の時定数計算例
鋼球($d=20\,\text{mm}$, $k=46\,\text{W/(m·K)}$)を水中($h=500\,\text{W/(m}^2\text{·K)}$)で冷却する場合:
8. CAE熱解析(過渡・定常)
FEM熱解析の支配方程式は構造解析と類似した行列形式で表されます:
ここで $[C_T]$ は熱容量行列、$[K_T]$ は熱伝導行列、$\{Q\}$ は熱負荷ベクトルです。
定常解析($\dot{T}=0$):
Ansysで熱解析するとき、境界条件はどう設定するんですか? 種類が多くてよくわかりません。
基本は3種類だ。(1)温度固定(Dirichlet): 境界面の温度を指定。例えば「冷却水温度=25℃」。(2)熱流束指定(Neumann): 境界面に入ってくる熱量を指定。例えば「抵抗発熱=10 W/cm²」。(3)対流境界(Robin): $-k\partial T/\partial n = h(T_s - T_\infty)$ で表す条件。電子基板なら発熱量はW単位で入れて、ファン冷却は対流境界条件 $h$ と流体温度 $T_\infty$ を設定する。輻射も境界条件として加えられるが、高温でないと無視して構わない。
熱-構造連成解析(熱応力)
温度分布が得られたら、それを構造解析の温度荷重として入力することで熱応力が計算できます:
$\alpha$ は線膨張係数(1/K)。異種材料の接合部(半導体パッケージの銅リードとシリコンチップなど)では膨張差による熱応力が疲労破壊の原因になります。
9. 実践:電気自動車バッテリーパックの熱管理
EVバッテリーパック(リチウムイオン電池)の最適温度範囲は 15〜35℃(充電時)、-20〜55℃(放電時)。この範囲を外れると性能低下・劣化加速・最悪の場合は熱暴走が起きます。
発熱源:ジュール発熱
電流 $I=100\,\text{A}$、内部抵抗 $R_{cell}=2\,\text{mΩ}$ のセルの発熱:$P = 100^2 \times 0.002 = 20\,\text{W}$。パック全体で数十〜数百Wに達します。
液冷システムの熱解析
バッテリーセル間に冷却プレートを設け、エチレングリコール-水混合液を循環させます。FEM解析では:
- 各セルの発熱量(SOC・電流・温度の関数)を設定
- 冷却プレートの流路形状と流量から熱伝達係数 $h$ を計算(CFD または Nusselt数式)
- 定常/過渡熱解析でセル温度分布を計算
- 最高温度 $T_{max}$ と温度差 $\Delta T$ が設計基準以内か確認
目標:$T_{max} \leq 45\,\text{°C}$、セル間温度差 $\Delta T \leq 5\,\text{K}$。均一な温度分布が電池寿命の均一化に直結します。CAEではこの均一性を最大化する冷却流路のトポロジー最適化も行われます。