Mohr-Coulomb破壊基準

カテゴリ: 構造解析 | 統合版 2026-04-06
CAE visualization for mohr coulomb theory - technical simulation diagram
Mohr-Coulomb破壊基準

理論と物理

Mohr-Coulomb基準とは

🧑‍🎓

先生、Mohr-Coulomb破壊基準は地盤力学の基本ですよね。


🎓

Mohr-Coulomb(MC)基準土や岩盤のせん断破壊を記述する最も古典的な基準。1773年にCoulombが提案。


$$ \tau = c + \sigma_n \tan\phi $$

  • $\tau$ — せん断応力(破壊面上)
  • $c$ — 粘着力(cohesion)
  • $\sigma_n$ — 法線応力(圧縮が正)
  • $\phi$ — 内部摩擦角

🧑‍🎓

von Misesとの違いは?


🎓

von Misesは静水圧(平均応力)に依存しない。MC基準は静水圧に依存する(法線応力 $\sigma_n$ が含まれる)。土は拘束圧が大きいほどせん断強度が増す。これがMC基準の本質。


主応力表示

🎓
$$ \sigma_1 - \sigma_3 = 2c\cos\phi + (\sigma_1 + \sigma_3)\sin\phi $$

偏差応力空間では不規則な六角形(von Misesの円筒とは異なる)。


FEMでの設定

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  • Abaqus: *MOHR COULOMB($\phi, c, \psi$)。$\psi$ はダイラタンシー角
  • Ansys: TB, DP or TB, MC
  • Plaxis: 組み込み(GUI設定)

  • まとめ

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    要点:


    • $\tau = c + \sigma_n \tan\phi$ — せん断強度が法線応力に依存
    • $c$(粘着力)と $\phi$(摩擦角)の2パラメータ
    • 静水圧依存 — von Misesとの根本的な違い
    • 土、岩盤、コンクリートの破壊基準 — 地盤工学の基本

    Coffee Break よもやま話

    Coulomb摩擦則の起源

    Charles-Augustin de Coulombは1776年に土砂崩壊の実験データを整理し、せん断強度がτ=c+σtanφで表されることを示した。その後1900年にOtto Mohrが主応力空間での幾何学的解釈(Mohr円)と組み合わせ、Mohr-Coulomb破壊基準として体系化。岩盤・地盤工学で250年近く使われ続けている。

    各項の物理的意味
    • 慣性項(質量項):$\rho \ddot{u}$、つまり「質量×加速度」。急ブレーキで体が前に投げ出された経験はありませんか? あの「持っていかれる感じ」がまさに慣性力です。重い物体ほど動き出しにくく、動き出したら止まりにくい。地震で建物が揺れるのも、地面が急に動いたのに建物の質量が「置いていかれる」から。静解析ではこの項をゼロにしますが、それは「ゆっくり力をかけるから加速度は無視できる」という仮定です。衝撃荷重や振動問題では絶対に省略できません。
    • 剛性項(弾性復元力):$Ku$ や $\nabla \cdot \sigma$。ばねを引っ張ると「戻ろうとする力」を感じますよね? あれがフックの法則 $F=kx$ であり、剛性項の本質です。では質問——鉄の棒とゴム紐、同じ力で引っ張るとどちらが伸びるでしょうか? 当然ゴムです。この「伸びにくさ」がヤング率 $E$ であり、剛性を決めます。よくある勘違い:「剛性が高い=強い」ではありません。剛性は「変形しにくさ」、強度は「壊れにくさ」で、別の概念です。
    • 外力項(荷重項):体積力 $f_b$(重力など)と表面力 $f_s$(圧力、接触力など)。こう考えてみてください——橋の上のトラックの重さは「中身全体にかかる力」(体積力)、タイヤが路面を押す力は「表面だけにかかる力」(表面力)。風圧、水圧、ボルトの締付力…すべて外力です。ここでありがちな失敗:荷重の方向を間違える。「引張」のつもりが「圧縮」になっていた——笑い話に聞こえますが、3D空間で座標系が回転していると実際に起こります。
    • 減衰項:レイリー減衰 $C\dot{u} = (\alpha M + \beta K)\dot{u}$。ギターの弦を弾いてみてください。音は鳴り続けますか? いいえ、徐々に小さくなりますよね。振動エネルギーが空気抵抗や弦の内部摩擦で熱に変わるからです。車のショックアブソーバーも同じ原理——わざと振動エネルギーを吸収して乗り心地を良くしています。もし減衰がゼロだったら? 建物は地震の後いつまでも揺れ続けることになります。実際にはそうならないので、適切な減衰の設定が重要です。
    仮定条件と適用限界
    • 連続体仮定:材料を連続的な媒質として扱い、ミクロな不均質性を無視する
    • 微小変形仮定(線形解析の場合):変形が初期寸法に比べて十分小さく、応力-歪み関係が線形
    • 等方性材料(特に指定がない場合):材料特性が方向に依存しない(異方性材料では別途テンソル定義が必要)
    • 準静的仮定(静解析の場合):慣性力・減衰力を無視し、外力と内力の釣り合いのみを考慮
    • 適用外ケース:大変形・大回転問題では幾何学的非線形性が必要。塑性・クリープ等の非線形材料挙動では構成則の拡張が必要
    次元解析と単位系
    変数SI単位注意点・換算メモ
    変位 $u$m(メートル)mm入力時は荷重・弾性率もMPa/N系に統一すること
    応力 $\sigma$Pa(パスカル)= N/m²MPa = 10⁶ Pa。降伏応力との比較時に単位系の不一致に注意
    歪み $\varepsilon$無次元(m/m)工学歪みと対数歪みの区別に注意(大変形時)
    弾性率 $E$Pa鋼: 約210 GPa、アルミ: 約70 GPa。温度依存性に注意
    密度 $\rho$kg/m³mm系ではtonne/mm³(= 10⁻⁹ tonne/mm³ for 鋼)
    力 $F$N(ニュートン)mm系ではN、m系ではNで統一

    数値解法と実装

    MC基準のFEM処理

    🎓

    MC基準の降伏面は角(コーナー)を持つ。角での応力戻し(Return Mapping)が数値的に難しい。


    🎓

    対策:

    • Drucker-Prager(DP)基準で近似 — 円錐面(角なし)で近似。収束が良い
    • MC基準の厳密処理 — コーナーでの特殊処理。Abaqusは厳密MC対応
    • Plaxis — MC基準に完全対応。地盤専用ソフトの強み

    ダイラタンシー角 $\psi$

    🎓

    塑性流れの方向を決めるダイラタンシー角 $\psi$。$\psi = \phi$(associated flow)だと体積膨張が過大。通常 $\psi < \phi$(non-associated flow)。


    🧑‍🎓

    associated vs. non-associated?


    🎓

    associatedは降伏面と塑性ポテンシャルが同じ($\psi = \phi$)。non-associatedは別($\psi < \phi$)。土の場合は $\psi = 0 \sim \phi/3$ が実務的。


    まとめ

    🎓
    • MC基準は角を持つ — Return Mappingが数値的に難しい
    • DP基準で近似 — 収束が良い
    • ダイラタンシー角 $\psi$ — $\psi < \phi$(non-associated flow)が標準

    • Coffee Break よもやま話

      c・φの三軸試験同定

      粘着力c(コヒージョン)と内部摩擦角φは三軸圧縮試験(CU試験またはCD試験)から同定する。拘束圧σ₃を3段階以上変えてτ-σ平面にプロットし、Mohr円の共通接線の傾き(tanφ)と切片(c)を最小二乗法で求める。砂質土のφは28〜40°、粘土のcは0〜100kPaが一般的な範囲だ。

      線形要素(1次要素)

      節点間を線形補間。計算コストは低いが、応力の精度が低い。せん断ロッキングに注意(低減積分やB-bar法で緩和)。

      2次要素(中間節点付き)

      曲線的な変形を表現可能。応力精度が大幅に向上するが、自由度は約2〜3倍に増加。推奨:応力評価が重要な場合。

      完全積分 vs 低減積分

      完全積分:過剰拘束(ロッキング)のリスク。低減積分:アワーグラスモード(零エネルギーモード)のリスク。適材適所で選択。

      アダプティブメッシュ

      誤差指標(ZZ推定量等)に基づく自動細分化。応力集中部の精度を効率的に向上。h法(要素分割)とp法(次数増加)がある。

      ニュートン・ラフソン法

      非線形解析の標準的手法。接線剛性マトリクスを毎反復更新。収束半径内で2次収束するが、計算コストが高い。

      修正ニュートン・ラフソン法

      接線剛性マトリクスを初期値または数反復毎に更新。各反復のコストは低いが、収束速度は線形的。

      収束判定基準

      力の残差ノルム: $||R|| / ||F_{ext}|| < \epsilon$(一般に $\epsilon = 10^{-3}$〜$10^{-6}$)。変位増分ノルム: $||\Delta u|| / ||u|| < \epsilon$。エネルギーノルム: $\Delta u \cdot R < \epsilon$

      荷重増分法

      全荷重を一度に負荷せず、小刻みに増加させる。弧長法(Riks法)は荷重-変位関係の極値点を越えて追跡可能。

      直接法 vs 反復法のたとえ

      直接法は「連立方程式を筆算で正確に解く」方法——確実だが大規模問題では時間がかかりすぎる。反復法は「当て推量を繰り返して正解に近づく」方法——最初は大雑把な答えだが、反復するたびに精度が上がる。辞書で言葉を探すとき、最初のページから順番に探す(直接法)より、見当をつけて開き、前後に調整する(反復法)方が効率的なのと同じ原理。

      メッシュの次数と精度の関係

      1次要素は「定規で曲線を近似する」——直線の折れ線で表現するため精度に限界がある。2次要素は「フレキシブルカーブ」——曲線的な変化を表現でき、同じメッシュ密度でも格段に精度が向上する。ただし、1要素あたりの計算コストは増えるため、トータルのコスト対効果で判断する。

      実践ガイド

      MC基準の実務

      🎓

      掘削、斜面安定、擁壁、トンネル、ダム基礎の地盤解析で使用。


      地盤パラメータの典型値

      🎓
      地盤$c$ (kPa)$\phi$ (°)
      軟弱粘土10〜250〜5
      中程度の粘土25〜5015〜25
      砂(緩い)0〜528〜32
      砂(密な)0〜535〜42
      岩盤(弱い)100〜50025〜35
      岩盤(硬い)1000〜500035〜55

      実務チェックリスト

      🎓
      • [ ] $c$ と $\phi$ が地盤調査(三軸試験)に基づいているか
      • [ ] ダイラタンシー角 $\psi$ が適切か($\psi \leq \phi$)
      • [ ] 排水/非排水条件が正しいか
      • [ ] 初期地圧($K_0$法)が設定されているか

      • Coffee Break よもやま話

        トンネル掘削解析の実績

        2016年に完成したゴッタルドベーストンネル(スイス、全長57km)の掘削支保工設計では、花崗岩岩盤のMohr-CoulombパラメータφとcをPhase2(現Rocscience RS2)で解析した。高い拘束圧下でのせん断破壊ゾーン予測精度が現場計測と±10%以内で一致したと報告されている。

        解析フローのたとえ

        解析の流れは、実は料理とそっくりです。まず材料を買い出し(CADモデルの準備)、下ごしらえをして(メッシュ生成)、火にかけて(ソルバー実行)、最後に盛り付ける(後処理で可視化)。ここで大事な問いかけ——料理で一番失敗しやすい工程はどこでしょう? 実は「下ごしらえ」なんです。メッシュの品質が悪いと、どんなに優秀なソルバーを使っても結果はめちゃくちゃになります。

        初心者が陥りやすい落とし穴

        あなたはメッシュ収束性を確認していますか? 「計算が回った=結果が正しい」と思っていませんか? これ、実はCAE初心者が最も陥りやすい罠です。ソルバーは与えられたメッシュで「それなりの答え」を必ず返します。でもメッシュが粗すぎれば、その答えは現実から大きくずれている。最低3段階のメッシュ密度で結果が安定することを確認する——これを怠ると「コンピュータが出した答えだから正しいはず」という危険な思い込みに陥ります。

        境界条件の考え方

        境界条件の設定は、試験の「問題文を書く」のと同じです。問題文が間違っていたら? どんなに正確に計算しても答えは間違いますよね。「この面は本当に完全固定なのか」「この荷重は本当に一様分布なのか」——現実の拘束条件を正しくモデル化することが、実は解析全体で最も重要なステップだったりします。

        ソフトウェア比較

        MC基準のツール

        🎓
        • Plaxis — MC基準のGUI設定が最も直感的。地盤専用
        • Abaqus *MOHR COULOMB — 厳密MC。汎用FEM
        • Ansys — Drucker-Prager近似が主
        • FLAC — 有限差分法。岩盤力学

        • 選定ガイド

          🎓
          • 地盤の掘削/斜面 → Plaxis(地盤専用。最も手軽)
          • 汎用FEMでの地盤Abaqus *MOHR COULOMB
          • 岩盤力学 → FLAC or RS2

          • Coffee Break よもやま話

            地盤専用ソルバーの実装

            Plaxis(現Bentley PLAXIS 3D)はMohr-Coulombを最も基本的な土・岩盤モデルとして実装し、1987年のデルフト工科大学での開発以来世界100か国以上で使用されている。標準版では硬化土(Hardening Soil)モデルも用意されており、Mohr-CoulombはInitial analysisの最初の一手として位置付けられている。

            選定で最も重要な3つの問い

            • 「何を解くか」:Mohr-Coulomb破壊基準に必要な物理モデル・要素タイプが対応しているか。例えば、流体ではLES対応の有無、構造では接触・大変形の対応能力が差になる。
            • 「誰が使うか」:初心者チームならGUIが充実したツール、経験者ならスクリプト駆動の柔軟なツールが適する。自動車のAT車(GUI)とMT車(スクリプト)の違いに似ている。
            • 「どこまで拡張するか」:将来の解析規模拡大(HPC対応)、他部門への展開、他ツールとの連携を見据えた選択が長期的なコスト削減につながる。

            先端技術

            MC基準の先端

            🎓
            • Hoek-Brown基準 — 岩盤の非線形破壊基準。MCの代替
            • Hardening Soil(HS)モデル — MCを拡張。応力依存の剛性
            • Soft Soil Creep — 軟弱粘土のクリープを含むMC拡張
            • 不飽和土のMC — サクション(吸引力)の影響を含むMC拡張

            • Coffee Break よもやま話

              Drucker-Prager近似との差異

              Mohr-Coulombは主応力空間で六角錐、Drucker-Prager(1952年)は円錐として降伏面を定義する。外接・内接・一致の3種の近似が可能で、内接の場合φDPはφMCより最大15%小さくなる。FEMでは角部を持つMohr-Coulomb面が収束困難を招くため、Drucker-Pragerで近似する手法が1970年代から広く使われる。

              トラブルシューティング

              MC基準のトラブル

              🎓
              • 収束困難(コーナー問題) → Drucker-Prager近似に切り替え or Abaqusの厳密MC
              • 体積膨張が過大 → $\psi$が大きすぎる。$\psi = 0 \sim \phi/3$ に
              • 引張破壊が出ない → 引張カットオフ(tension cutoff)を設定
              • 初期地圧で破壊する → $K_0$と$c, \phi$の整合を確認

              • Coffee Break よもやま話

                引張カットオフの設定忘れ

                Mohr-Coulombモデルは引張側の強度制限を持たないため、設定を省略すると岩盤や土が非現実的な引張応力を負担し続ける。Abaqusの*TENSION CUTOFFオプション(デフォルトは無効)を必ず指定することが推奨される。花崗岩の引張強度は圧縮強度の約1/10(典型値5〜15MPa)を目安にカットオフ値を設定する。

                「解析が合わない」と思ったら

                1. まず深呼吸——焦って設定をランダムに変えると、問題がさらに複雑になる
                2. 最小再現ケースを作る——Mohr-Coulomb破壊基準の問題を最も単純な形で再現する。「引き算のデバッグ」が最も効率的
                3. 1つだけ変えて再実行——複数の変更を同時に行うと、何が効いたか分からなくなる。科学実験と同じ「対照実験」の原則
                4. 物理に立ち返る——計算結果が「重力に逆らって物が浮く」ような非物理的な結果なら、入力データの根本的な間違いを疑う
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