Mohr-Coulomb破壊基準
理論と物理
Mohr-Coulomb基準とは
先生、Mohr-Coulomb破壊基準は地盤力学の基本ですよね。
Mohr-Coulomb(MC)基準は土や岩盤のせん断破壊を記述する最も古典的な基準。1773年にCoulombが提案。
- $\tau$ — せん断応力(破壊面上)
- $c$ — 粘着力(cohesion)
- $\sigma_n$ — 法線応力(圧縮が正)
- $\phi$ — 内部摩擦角
von Misesとの違いは?
von Misesは静水圧(平均応力)に依存しない。MC基準は静水圧に依存する(法線応力 $\sigma_n$ が含まれる)。土は拘束圧が大きいほどせん断強度が増す。これがMC基準の本質。
主応力表示
偏差応力空間では不規則な六角形(von Misesの円筒とは異なる)。
FEMでの設定
まとめ
要点:
- $\tau = c + \sigma_n \tan\phi$ — せん断強度が法線応力に依存
- $c$(粘着力)と $\phi$(摩擦角)の2パラメータ
- 静水圧依存 — von Misesとの根本的な違い
- 土、岩盤、コンクリートの破壊基準 — 地盤工学の基本
Coulomb摩擦則の起源
Charles-Augustin de Coulombは1776年に土砂崩壊の実験データを整理し、せん断強度がτ=c+σtanφで表されることを示した。その後1900年にOtto Mohrが主応力空間での幾何学的解釈(Mohr円)と組み合わせ、Mohr-Coulomb破壊基準として体系化。岩盤・地盤工学で250年近く使われ続けている。
各項の物理的意味
- 慣性項(質量項):$\rho \ddot{u}$、つまり「質量×加速度」。急ブレーキで体が前に投げ出された経験はありませんか? あの「持っていかれる感じ」がまさに慣性力です。重い物体ほど動き出しにくく、動き出したら止まりにくい。地震で建物が揺れるのも、地面が急に動いたのに建物の質量が「置いていかれる」から。静解析ではこの項をゼロにしますが、それは「ゆっくり力をかけるから加速度は無視できる」という仮定です。衝撃荷重や振動問題では絶対に省略できません。
- 剛性項(弾性復元力):$Ku$ や $\nabla \cdot \sigma$。ばねを引っ張ると「戻ろうとする力」を感じますよね? あれがフックの法則 $F=kx$ であり、剛性項の本質です。では質問——鉄の棒とゴム紐、同じ力で引っ張るとどちらが伸びるでしょうか? 当然ゴムです。この「伸びにくさ」がヤング率 $E$ であり、剛性を決めます。よくある勘違い:「剛性が高い=強い」ではありません。剛性は「変形しにくさ」、強度は「壊れにくさ」で、別の概念です。
- 外力項(荷重項):体積力 $f_b$(重力など)と表面力 $f_s$(圧力、接触力など)。こう考えてみてください——橋の上のトラックの重さは「中身全体にかかる力」(体積力)、タイヤが路面を押す力は「表面だけにかかる力」(表面力)。風圧、水圧、ボルトの締付力…すべて外力です。ここでありがちな失敗:荷重の方向を間違える。「引張」のつもりが「圧縮」になっていた——笑い話に聞こえますが、3D空間で座標系が回転していると実際に起こります。
- 減衰項:レイリー減衰 $C\dot{u} = (\alpha M + \beta K)\dot{u}$。ギターの弦を弾いてみてください。音は鳴り続けますか? いいえ、徐々に小さくなりますよね。振動エネルギーが空気抵抗や弦の内部摩擦で熱に変わるからです。車のショックアブソーバーも同じ原理——わざと振動エネルギーを吸収して乗り心地を良くしています。もし減衰がゼロだったら? 建物は地震の後いつまでも揺れ続けることになります。実際にはそうならないので、適切な減衰の設定が重要です。
仮定条件と適用限界
次元解析と単位系
| 変数 | SI単位 | 注意点・換算メモ |
|---|---|---|
| 変位 $u$ | m(メートル) | mm入力時は荷重・弾性率もMPa/N系に統一すること |
| 応力 $\sigma$ | Pa(パスカル)= N/m² | MPa = 10⁶ Pa。降伏応力との比較時に単位系の不一致に注意 |
| 歪み $\varepsilon$ | 無次元(m/m) | 工学歪みと対数歪みの区別に注意(大変形時) |
| 弾性率 $E$ | Pa | 鋼: 約210 GPa、アルミ: 約70 GPa。温度依存性に注意 |
| 密度 $\rho$ | kg/m³ | mm系ではtonne/mm³(= 10⁻⁹ tonne/mm³ for 鋼) |
| 力 $F$ | N(ニュートン) | mm系ではN、m系ではNで統一 |
数値解法と実装
MC基準のFEM処理
MC基準の降伏面は角(コーナー)を持つ。角での応力戻し(Return Mapping)が数値的に難しい。
対策:
- Drucker-Prager(DP)基準で近似 — 円錐面(角なし)で近似。収束が良い
- MC基準の厳密処理 — コーナーでの特殊処理。Abaqusは厳密MC対応
- Plaxis — MC基準に完全対応。地盤専用ソフトの強み
ダイラタンシー角 $\psi$
塑性流れの方向を決めるダイラタンシー角 $\psi$。$\psi = \phi$(associated flow)だと体積膨張が過大。通常 $\psi < \phi$(non-associated flow)。
associated vs. non-associated?
associatedは降伏面と塑性ポテンシャルが同じ($\psi = \phi$)。non-associatedは別($\psi < \phi$)。土の場合は $\psi = 0 \sim \phi/3$ が実務的。
まとめ
c・φの三軸試験同定
粘着力c(コヒージョン)と内部摩擦角φは三軸圧縮試験(CU試験またはCD試験)から同定する。拘束圧σ₃を3段階以上変えてτ-σ平面にプロットし、Mohr円の共通接線の傾き(tanφ)と切片(c)を最小二乗法で求める。砂質土のφは28〜40°、粘土のcは0〜100kPaが一般的な範囲だ。
線形要素(1次要素)
節点間を線形補間。計算コストは低いが、応力の精度が低い。せん断ロッキングに注意(低減積分やB-bar法で緩和)。
2次要素(中間節点付き)
曲線的な変形を表現可能。応力精度が大幅に向上するが、自由度は約2〜3倍に増加。推奨:応力評価が重要な場合。
完全積分 vs 低減積分
完全積分:過剰拘束(ロッキング)のリスク。低減積分:アワーグラスモード(零エネルギーモード)のリスク。適材適所で選択。
アダプティブメッシュ
誤差指標(ZZ推定量等)に基づく自動細分化。応力集中部の精度を効率的に向上。h法(要素分割)とp法(次数増加)がある。
ニュートン・ラフソン法
非線形解析の標準的手法。接線剛性マトリクスを毎反復更新。収束半径内で2次収束するが、計算コストが高い。
修正ニュートン・ラフソン法
接線剛性マトリクスを初期値または数反復毎に更新。各反復のコストは低いが、収束速度は線形的。
収束判定基準
力の残差ノルム: $||R|| / ||F_{ext}|| < \epsilon$(一般に $\epsilon = 10^{-3}$〜$10^{-6}$)。変位増分ノルム: $||\Delta u|| / ||u|| < \epsilon$。エネルギーノルム: $\Delta u \cdot R < \epsilon$
荷重増分法
全荷重を一度に負荷せず、小刻みに増加させる。弧長法(Riks法)は荷重-変位関係の極値点を越えて追跡可能。
直接法 vs 反復法のたとえ
直接法は「連立方程式を筆算で正確に解く」方法——確実だが大規模問題では時間がかかりすぎる。反復法は「当て推量を繰り返して正解に近づく」方法——最初は大雑把な答えだが、反復するたびに精度が上がる。辞書で言葉を探すとき、最初のページから順番に探す(直接法)より、見当をつけて開き、前後に調整する(反復法)方が効率的なのと同じ原理。
メッシュの次数と精度の関係
1次要素は「定規で曲線を近似する」——直線の折れ線で表現するため精度に限界がある。2次要素は「フレキシブルカーブ」——曲線的な変化を表現でき、同じメッシュ密度でも格段に精度が向上する。ただし、1要素あたりの計算コストは増えるため、トータルのコスト対効果で判断する。
実践ガイド
MC基準の実務
掘削、斜面安定、擁壁、トンネル、ダム基礎の地盤解析で使用。
地盤パラメータの典型値
| 地盤 | $c$ (kPa) | $\phi$ (°) |
|---|---|---|
| 軟弱粘土 | 10〜25 | 0〜5 |
| 中程度の粘土 | 25〜50 | 15〜25 |
| 砂(緩い) | 0〜5 | 28〜32 |
| 砂(密な) | 0〜5 | 35〜42 |
| 岩盤(弱い) | 100〜500 | 25〜35 |
| 岩盤(硬い) | 1000〜5000 | 35〜55 |
実務チェックリスト
トンネル掘削解析の実績
2016年に完成したゴッタルドベーストンネル(スイス、全長57km)の掘削支保工設計では、花崗岩岩盤のMohr-CoulombパラメータφとcをPhase2(現Rocscience RS2)で解析した。高い拘束圧下でのせん断破壊ゾーン予測精度が現場計測と±10%以内で一致したと報告されている。
解析フローのたとえ
解析の流れは、実は料理とそっくりです。まず材料を買い出し(CADモデルの準備)、下ごしらえをして(メッシュ生成)、火にかけて(ソルバー実行)、最後に盛り付ける(後処理で可視化)。ここで大事な問いかけ——料理で一番失敗しやすい工程はどこでしょう? 実は「下ごしらえ」なんです。メッシュの品質が悪いと、どんなに優秀なソルバーを使っても結果はめちゃくちゃになります。
初心者が陥りやすい落とし穴
あなたはメッシュ収束性を確認していますか? 「計算が回った=結果が正しい」と思っていませんか? これ、実はCAE初心者が最も陥りやすい罠です。ソルバーは与えられたメッシュで「それなりの答え」を必ず返します。でもメッシュが粗すぎれば、その答えは現実から大きくずれている。最低3段階のメッシュ密度で結果が安定することを確認する——これを怠ると「コンピュータが出した答えだから正しいはず」という危険な思い込みに陥ります。
境界条件の考え方
境界条件の設定は、試験の「問題文を書く」のと同じです。問題文が間違っていたら? どんなに正確に計算しても答えは間違いますよね。「この面は本当に完全固定なのか」「この荷重は本当に一様分布なのか」——現実の拘束条件を正しくモデル化することが、実は解析全体で最も重要なステップだったりします。
ソフトウェア比較
MC基準のツール
選定ガイド
地盤専用ソルバーの実装
Plaxis(現Bentley PLAXIS 3D)はMohr-Coulombを最も基本的な土・岩盤モデルとして実装し、1987年のデルフト工科大学での開発以来世界100か国以上で使用されている。標準版では硬化土(Hardening Soil)モデルも用意されており、Mohr-CoulombはInitial analysisの最初の一手として位置付けられている。
選定で最も重要な3つの問い
- 「何を解くか」:Mohr-Coulomb破壊基準に必要な物理モデル・要素タイプが対応しているか。例えば、流体ではLES対応の有無、構造では接触・大変形の対応能力が差になる。
- 「誰が使うか」:初心者チームならGUIが充実したツール、経験者ならスクリプト駆動の柔軟なツールが適する。自動車のAT車(GUI)とMT車(スクリプト)の違いに似ている。
- 「どこまで拡張するか」:将来の解析規模拡大(HPC対応)、他部門への展開、他ツールとの連携を見据えた選択が長期的なコスト削減につながる。
先端技術
MC基準の先端
Drucker-Prager近似との差異
Mohr-Coulombは主応力空間で六角錐、Drucker-Prager(1952年)は円錐として降伏面を定義する。外接・内接・一致の3種の近似が可能で、内接の場合φDPはφMCより最大15%小さくなる。FEMでは角部を持つMohr-Coulomb面が収束困難を招くため、Drucker-Pragerで近似する手法が1970年代から広く使われる。
トラブルシューティング
MC基準のトラブル
引張カットオフの設定忘れ
Mohr-Coulombモデルは引張側の強度制限を持たないため、設定を省略すると岩盤や土が非現実的な引張応力を負担し続ける。Abaqusの*TENSION CUTOFFオプション(デフォルトは無効)を必ず指定することが推奨される。花崗岩の引張強度は圧縮強度の約1/10(典型値5〜15MPa)を目安にカットオフ値を設定する。
「解析が合わない」と思ったら
- まず深呼吸——焦って設定をランダムに変えると、問題がさらに複雑になる
- 最小再現ケースを作る——Mohr-Coulomb破壊基準の問題を最も単純な形で再現する。「引き算のデバッグ」が最も効率的
- 1つだけ変えて再実行——複数の変更を同時に行うと、何が効いたか分からなくなる。科学実験と同じ「対照実験」の原則
- 物理に立ち返る——計算結果が「重力に逆らって物が浮く」ような非物理的な結果なら、入力データの根本的な間違いを疑う
関連トピック
なった
詳しく
報告