ひずみ速度依存塑性

カテゴリ: 構造解析 | 統合版 2026-04-06
CAE visualization for rate dependent plasticity theory - technical simulation diagram
ひずみ速度依存塑性

理論と物理

ひずみ速度依存塑性

🧑‍🎓

先生、ひずみ速度で降伏応力が変わるんですか?


🎓

金属は高速で変形すると降伏応力が上昇する。衝突($\dot{\varepsilon} = 10 \sim 1000$ /s)では静的な降伏応力の1.2〜1.5倍。


代表的なモデル

🎓
モデル用途
Cowper-Symonds$\sigma_Y(1+(\dot{\varepsilon}/C)^{1/p})$LS-DYNA MAT_24。最も一般的
Johnson-Cook$\sigma(1+C\ln\dot{\varepsilon}^*)$高速変形+温度
Perzyna$\dot{\varepsilon}^p = \gamma(f/\sigma_0)^n$過応力モデル
🧑‍🎓

Cowper-Symondsが最も広く使われますか?


🎓

自動車衝突のLS-DYNA MAT_24ではCowper-Symondsが標準。鋼(軟鋼)の代表パラメータ:$C = 40$ /s, $p = 5$。


まとめ

🎓
  • 高速変形で降伏応力が上昇 — 衝突で1.2〜1.5倍
  • Cowper-Symonds — LS-DYNAの標準。$C, p$ の2パラメータ
  • Johnson-Cook — 温度効果も含む。5パラメータ
  • 衝突・衝撃解析で必須 — 静的な降伏応力では過小評価

  • Coffee Break よもやま話

    粘塑性の基礎:Perzyna則

    Piotr Perzynaは1963年にポーランド科学アカデミーで、塑性ひずみ速度がoverstress(現在応力と静的降伏応力の差)の関数となる粘塑性モデルを定式化した。ε̇ₚ=γ⟨f(σ,κ)/k⟩ⁿという関係式で、クリープと動的塑性を統一的に扱える。この「Perzyna粘塑性」は高速変形解析の理論的出発点となっている。

    各項の物理的意味
    • 慣性項(質量項):$\rho \ddot{u}$、つまり「質量×加速度」。急ブレーキで体が前に投げ出された経験はありませんか? あの「持っていかれる感じ」がまさに慣性力です。重い物体ほど動き出しにくく、動き出したら止まりにくい。地震で建物が揺れるのも、地面が急に動いたのに建物の質量が「置いていかれる」から。静解析ではこの項をゼロにしますが、それは「ゆっくり力をかけるから加速度は無視できる」という仮定です。衝撃荷重や振動問題では絶対に省略できません。
    • 剛性項(弾性復元力):$Ku$ や $\nabla \cdot \sigma$。ばねを引っ張ると「戻ろうとする力」を感じますよね? あれがフックの法則 $F=kx$ であり、剛性項の本質です。では質問——鉄の棒とゴム紐、同じ力で引っ張るとどちらが伸びるでしょうか? 当然ゴムです。この「伸びにくさ」がヤング率 $E$ であり、剛性を決めます。よくある勘違い:「剛性が高い=強い」ではありません。剛性は「変形しにくさ」、強度は「壊れにくさ」で、別の概念です。
    • 外力項(荷重項):体積力 $f_b$(重力など)と表面力 $f_s$(圧力、接触力など)。こう考えてみてください——橋の上のトラックの重さは「中身全体にかかる力」(体積力)、タイヤが路面を押す力は「表面だけにかかる力」(表面力)。風圧、水圧、ボルトの締付力…すべて外力です。ここでありがちな失敗:荷重の方向を間違える。「引張」のつもりが「圧縮」になっていた——笑い話に聞こえますが、3D空間で座標系が回転していると実際に起こります。
    • 減衰項:レイリー減衰 $C\dot{u} = (\alpha M + \beta K)\dot{u}$。ギターの弦を弾いてみてください。音は鳴り続けますか? いいえ、徐々に小さくなりますよね。振動エネルギーが空気抵抗や弦の内部摩擦で熱に変わるからです。車のショックアブソーバーも同じ原理——わざと振動エネルギーを吸収して乗り心地を良くしています。もし減衰がゼロだったら? 建物は地震の後いつまでも揺れ続けることになります。実際にはそうならないので、適切な減衰の設定が重要です。
    仮定条件と適用限界
    • 連続体仮定:材料を連続的な媒質として扱い、ミクロな不均質性を無視する
    • 微小変形仮定(線形解析の場合):変形が初期寸法に比べて十分小さく、応力-歪み関係が線形
    • 等方性材料(特に指定がない場合):材料特性が方向に依存しない(異方性材料では別途テンソル定義が必要)
    • 準静的仮定(静解析の場合):慣性力・減衰力を無視し、外力と内力の釣り合いのみを考慮
    • 適用外ケース:大変形・大回転問題では幾何学的非線形性が必要。塑性・クリープ等の非線形材料挙動では構成則の拡張が必要
    次元解析と単位系
    変数SI単位注意点・換算メモ
    変位 $u$m(メートル)mm入力時は荷重・弾性率もMPa/N系に統一すること
    応力 $\sigma$Pa(パスカル)= N/m²MPa = 10⁶ Pa。降伏応力との比較時に単位系の不一致に注意
    歪み $\varepsilon$無次元(m/m)工学歪みと対数歪みの区別に注意(大変形時)
    弾性率 $E$Pa鋼: 約210 GPa、アルミ: 約70 GPa。温度依存性に注意
    密度 $\rho$kg/m³mm系ではtonne/mm³(= 10⁻⁹ tonne/mm³ for 鋼)
    力 $F$N(ニュートン)mm系ではN、m系ではNで統一

    数値解法と実装

    FEM設定

    🎓

    LS-DYNA MAT_24:

    ```

    *MAT_PIECEWISE_LINEAR_PLASTICITY

    $ ..., C, p

    , , , , , , 40., 5.

    ```


    Abaqus:

    ```

    *RATE DEPENDENT, TYPE=POWER LAW

    D, p $ Cowper-Symonds

    ```

    または:

    ```

    *RATE DEPENDENT, TYPE=JOHNSON COOK

    C, eps0

    ```


    まとめ

    🎓
    • LS-DYNA MAT_24 — Cowper-Symonds組み込み
    • Abaqus *RATE DEPENDENT — POWER LAW or JOHNSON COOK

    • Coffee Break よもやま話

      Cowper-Symonds式の同定

      Cowper-Symonds式σy=σ₀[1+(ε̇/D)^(1/q)]はひずみ速度依存降伏応力の代表的近似式。軟鋼のD=40.4 s⁻¹、q=5が広く引用されるJones(1989年)の値。Split Hopkinson Bar試験(SHPB)で10²〜10⁴/sのデータを取得し、log-logプロットで傾き1/qとD^(1/q)を最小二乗回帰で求める手順が標準的だ。

      線形要素(1次要素)

      節点間を線形補間。計算コストは低いが、応力の精度が低い。せん断ロッキングに注意(低減積分やB-bar法で緩和)。

      2次要素(中間節点付き)

      曲線的な変形を表現可能。応力精度が大幅に向上するが、自由度は約2〜3倍に増加。推奨:応力評価が重要な場合。

      完全積分 vs 低減積分

      完全積分:過剰拘束(ロッキング)のリスク。低減積分:アワーグラスモード(零エネルギーモード)のリスク。適材適所で選択。

      アダプティブメッシュ

      誤差指標(ZZ推定量等)に基づく自動細分化。応力集中部の精度を効率的に向上。h法(要素分割)とp法(次数増加)がある。

      ニュートン・ラフソン法

      非線形解析の標準的手法。接線剛性マトリクスを毎反復更新。収束半径内で2次収束するが、計算コストが高い。

      修正ニュートン・ラフソン法

      接線剛性マトリクスを初期値または数反復毎に更新。各反復のコストは低いが、収束速度は線形的。

      収束判定基準

      力の残差ノルム: $||R|| / ||F_{ext}|| < \epsilon$(一般に $\epsilon = 10^{-3}$〜$10^{-6}$)。変位増分ノルム: $||\Delta u|| / ||u|| < \epsilon$。エネルギーノルム: $\Delta u \cdot R < \epsilon$

      荷重増分法

      全荷重を一度に負荷せず、小刻みに増加させる。弧長法(Riks法)は荷重-変位関係の極値点を越えて追跡可能。

      直接法 vs 反復法のたとえ

      直接法は「連立方程式を筆算で正確に解く」方法——確実だが大規模問題では時間がかかりすぎる。反復法は「当て推量を繰り返して正解に近づく」方法——最初は大雑把な答えだが、反復するたびに精度が上がる。辞書で言葉を探すとき、最初のページから順番に探す(直接法)より、見当をつけて開き、前後に調整する(反復法)方が効率的なのと同じ原理。

      メッシュの次数と精度の関係

      1次要素は「定規で曲線を近似する」——直線の折れ線で表現するため精度に限界がある。2次要素は「フレキシブルカーブ」——曲線的な変化を表現でき、同じメッシュ密度でも格段に精度が向上する。ただし、1要素あたりの計算コストは増えるため、トータルのコスト対効果で判断する。

      実践ガイド

      実務チェックリスト

      🎓
      • [ ] ひずみ速度依存性が設定されているか(衝突/衝撃問題)
      • [ ] $C, p$ が材料試験(高速引張、SHPB)に基づいているか
      • [ ] 使用ひずみ速度範囲がパラメータのフィッティング範囲内か
      • [ ] 温度上昇(断熱加工発熱)を考慮しているか(高速変形の場合)

      • Coffee Break よもやま話

        爆発物防護設計への応用

        IED(即席爆発装置)防護解析では装甲鋼RHA(Rolled Homogeneous Armour)のひずみ速度依存性が設計品質に直結する。LS-DYNAのMAT_024でCowper-Symonds係数を設定し、爆発後1ms以内の変形挙動を予測。NATO STANAG 4569レベル別の防護性能シミュレーションで2010年代から実用精度が検証されている。

        解析フローのたとえ

        解析の流れは、実は料理とそっくりです。まず材料を買い出し(CADモデルの準備)、下ごしらえをして(メッシュ生成)、火にかけて(ソルバー実行)、最後に盛り付ける(後処理で可視化)。ここで大事な問いかけ——料理で一番失敗しやすい工程はどこでしょう? 実は「下ごしらえ」なんです。メッシュの品質が悪いと、どんなに優秀なソルバーを使っても結果はめちゃくちゃになります。

        初心者が陥りやすい落とし穴

        あなたはメッシュ収束性を確認していますか? 「計算が回った=結果が正しい」と思っていませんか? これ、実はCAE初心者が最も陥りやすい罠です。ソルバーは与えられたメッシュで「それなりの答え」を必ず返します。でもメッシュが粗すぎれば、その答えは現実から大きくずれている。最低3段階のメッシュ密度で結果が安定することを確認する——これを怠ると「コンピュータが出した答えだから正しいはず」という危険な思い込みに陥ります。

        境界条件の考え方

        境界条件の設定は、試験の「問題文を書く」のと同じです。問題文が間違っていたら? どんなに正確に計算しても答えは間違いますよね。「この面は本当に完全固定なのか」「この荷重は本当に一様分布なのか」——現実の拘束条件を正しくモデル化することが、実は解析全体で最も重要なステップだったりします。

        ソフトウェア比較

        ツール

        🎓
        • LS-DYNA MAT_24 — Cowper-Symonds。衝突の業界標準
        • Abaqus *RATE DEPENDENT — 多種類の速度依存モデル
        • 全ソルバーで対応 — 衝撃解析の基本

        • Coffee Break よもやま話

          LS-DYNAのひずみ速度オプション

          LS-DYNAでは材料カードのSR(ひずみ速度効果)オプションが多彩。MAT_024のVP(粘塑性フラグ)=0では相当塑性ひずみ速度、VP=1では体積ひずみ速度を使う。MAT_019(STRAIN_RATE_DEPENDENT_PLASTICITY)はPerzyna則を直接実装し、高精度衝撃解析向けに使われる。2023年のR14から効果の表示診断機能が追加された。

          選定で最も重要な3つの問い

          • 「何を解くか」:ひずみ速度依存塑性に必要な物理モデル・要素タイプが対応しているか。例えば、流体ではLES対応の有無、構造では接触・大変形の対応能力が差になる。
          • 「誰が使うか」:初心者チームならGUIが充実したツール、経験者ならスクリプト駆動の柔軟なツールが適する。自動車のAT車(GUI)とMT車(スクリプト)の違いに似ている。
          • 「どこまで拡張するか」:将来の解析規模拡大(HPC対応)、他部門への展開、他ツールとの連携を見据えた選択が長期的なコスト削減につながる。

          先端技術

          先端

          🎓
          • 物理ベースモデル(Zerilli-Armstrong, MTS) — 転位理論に基づく速度依存性
          • 超高速($10^6$ /s以上) — レーザーショック、超高速衝撃での材料応答
          • アルミ合金の負のひずみ速度感度 — 一部のAl合金で速度が上がると強度が下がる現象

          • Coffee Break よもやま話

            結晶塑性とひずみ速度

            結晶塑性理論(Crystal Plasticity)ではすべり系ごとにγ̇ᵅ=γ̇₀|τᵅ/gᵅ|^(1/m) sign(τᵅ)でひずみ速度を表現する。速度感度指数mが小さいほど速度非感依存(m→0で理想塑性)に近づく。アルミニウム単結晶のmは10⁻³〜10⁻²程度で、1990年代にPierceらがABAQUS UMATとして実装したのが普及の出発点だ。

            トラブルシューティング

            トラブル

            🎓
            • ひずみ速度効果が出ない → 速度依存パラメータ($C, p$)が設定されているか。静的解析では速度ゼロ→効果なし
            • 応力が過大 → $C$ が小さすぎる or $p$ が大きすぎる。文献値と比較
            • 衝突解析で結果が静的と同じ → *RATE DEPENDENT が定義されていない

            • Coffee Break よもやま話

              時間増分と速度依存の相互作用

              陰解法でひずみ速度依存塑性を解く際、時間増分Δtが大きいとoverstress推定が不正確になり振動収束になる。特に高速衝撃(ε̇>10³/s)では安定限界Δt

              「解析が合わない」と思ったら

              1. まず深呼吸——焦って設定をランダムに変えると、問題がさらに複雑になる
              2. 最小再現ケースを作る——ひずみ速度依存塑性の問題を最も単純な形で再現する。「引き算のデバッグ」が最も効率的
              3. 1つだけ変えて再実行——複数の変更を同時に行うと、何が効いたか分からなくなる。科学実験と同じ「対照実験」の原則
              4. 物理に立ち返る——計算結果が「重力に逆らって物が浮く」ような非物理的な結果なら、入力データの根本的な間違いを疑う
              関連シミュレーター

              この分野のインタラクティブシミュレーターで理論を体感しよう

              シミュレーター一覧

              関連する分野

              熱解析製造プロセス解析V&V・品質保証
              この記事の評価
              ご回答ありがとうございます!
              参考に
              なった
              もっと
              詳しく
              誤りを
              報告
              参考になった
              0
              もっと詳しく
              0
              誤りを報告
              0
              Written by NovaSolver Contributors
              Anonymous Engineers & AI — サイトマップ
              プロフィールを見る