Johnson-Cook構成則
理論と物理
Johnson-Cook構成則とは
先生、Johnson-Cook構成則って何ですか?
Johnson-Cook(JC)モデル(1983年)はひずみ速度と温度に依存する弾塑性+延性破壊モデル。衝撃・衝突の金属変形と破壊に最も広く使われる。
構成式
流れ応力:
- $A$ — 降伏応力
- $B, n$ — ひずみ硬化係数と指数
- $C$ — ひずみ速度感度
- $m$ — 温度軟化指数
- $\dot{\varepsilon}^* = \dot{\varepsilon}/\dot{\varepsilon}_0$ — 無次元ひずみ速度
- $T^* = (T-T_{room})/(T_{melt}-T_{room})$ — 無次元温度
3つの因子(硬化×速度×温度)の掛け算!
シンプルだが実用的。5つのパラメータ($A, B, n, C, m$)で金属の高速変形を広い範囲で記述できる。多くの金属のJCパラメータが文献で報告されている。
JC破壊基準
延性破壊の等価塑性ひずみ:
$\eta = \sigma_m / \sigma_{vm}$ は応力三軸度。$D_1 \sim D_5$ が破壊パラメータ。
応力三軸度 $\eta$ で破壊ひずみが変わる。引張($\eta > 0$)では脆性的、せん断($\eta \approx 0$)では延性的。
まとめ
要点:
- $\sigma = (A+B\varepsilon^n)(1+C\ln\dot{\varepsilon}^)(1-T^{m})$ — 硬化×速度×温度
- 5つの材料定数 — 多くの金属で文献値あり
- JC破壊基準 — 応力三軸度依存の延性破壊
- 衝撃・衝突解析の標準モデル — LS-DYNA MAT_15, Abaqus PLASTIC+DAMAGE
JCモデルの提案年
Gordon JohnsonとWilliam Cookが1983年に発表したこのモデルは、応力を塑性ひずみ・ひずみ速度・温度の積形式で表現する。元々は米陸軍の弾道貫通試験データを整理するために開発され、論文発表から2年以内に高速変形解析の標準材料モデルとして採用が広がった。
各項の物理的意味
- 慣性項(質量項):$\rho \ddot{u}$、つまり「質量×加速度」。急ブレーキで体が前に投げ出された経験はありませんか? あの「持っていかれる感じ」がまさに慣性力です。重い物体ほど動き出しにくく、動き出したら止まりにくい。地震で建物が揺れるのも、地面が急に動いたのに建物の質量が「置いていかれる」から。静解析ではこの項をゼロにしますが、それは「ゆっくり力をかけるから加速度は無視できる」という仮定です。衝撃荷重や振動問題では絶対に省略できません。
- 剛性項(弾性復元力):$Ku$ や $\nabla \cdot \sigma$。ばねを引っ張ると「戻ろうとする力」を感じますよね? あれがフックの法則 $F=kx$ であり、剛性項の本質です。では質問——鉄の棒とゴム紐、同じ力で引っ張るとどちらが伸びるでしょうか? 当然ゴムです。この「伸びにくさ」がヤング率 $E$ であり、剛性を決めます。よくある勘違い:「剛性が高い=強い」ではありません。剛性は「変形しにくさ」、強度は「壊れにくさ」で、別の概念です。
- 外力項(荷重項):体積力 $f_b$(重力など)と表面力 $f_s$(圧力、接触力など)。こう考えてみてください——橋の上のトラックの重さは「中身全体にかかる力」(体積力)、タイヤが路面を押す力は「表面だけにかかる力」(表面力)。風圧、水圧、ボルトの締付力…すべて外力です。ここでありがちな失敗:荷重の方向を間違える。「引張」のつもりが「圧縮」になっていた——笑い話に聞こえますが、3D空間で座標系が回転していると実際に起こります。
- 減衰項:レイリー減衰 $C\dot{u} = (\alpha M + \beta K)\dot{u}$。ギターの弦を弾いてみてください。音は鳴り続けますか? いいえ、徐々に小さくなりますよね。振動エネルギーが空気抵抗や弦の内部摩擦で熱に変わるからです。車のショックアブソーバーも同じ原理——わざと振動エネルギーを吸収して乗り心地を良くしています。もし減衰がゼロだったら? 建物は地震の後いつまでも揺れ続けることになります。実際にはそうならないので、適切な減衰の設定が重要です。
仮定条件と適用限界
次元解析と単位系
| 変数 | SI単位 | 注意点・換算メモ |
|---|---|---|
| 変位 $u$ | m(メートル) | mm入力時は荷重・弾性率もMPa/N系に統一すること |
| 応力 $\sigma$ | Pa(パスカル)= N/m² | MPa = 10⁶ Pa。降伏応力との比較時に単位系の不一致に注意 |
| 歪み $\varepsilon$ | 無次元(m/m) | 工学歪みと対数歪みの区別に注意(大変形時) |
| 弾性率 $E$ | Pa | 鋼: 約210 GPa、アルミ: 約70 GPa。温度依存性に注意 |
| 密度 $\rho$ | kg/m³ | mm系ではtonne/mm³(= 10⁻⁹ tonne/mm³ for 鋼) |
| 力 $F$ | N(ニュートン) | mm系ではN、m系ではNで統一 |
数値解法と実装
LS-DYNA
```
*MAT_JOHNSON_COOK
$ A, B, n, C, m, Tmelt, Troom, eps0
350., 275., 0.36, 0.022, 1.0, 1793., 293., 1.0
```
Abaqus
```
*PLASTIC, HARDENING=JOHNSON COOK
A, B, n, m, Tmelt, Troom
*RATE DEPENDENT, TYPE=JOHNSON COOK
C, eps0
*DAMAGE INITIATION, CRITERION=JOHNSON COOK
D1, D2, D3, D4, D5, Tmelt, Troom
*DAMAGE EVOLUTION, TYPE=DISPLACEMENT
u_f
```
Abaqusでは塑性+速度依存+破壊を3つの定義で設定するんですね。
LS-DYNAは1つの*MATカードで全て。Abaqusは個別に定義するため柔軟だが設定が多い。
まとめ
5パラメータの同定実験
Johnson-Cookの5定数(A・B・n・C・m)は段階的に同定する。まず準静的試験でA・B・nを確定し、次にSplit Hopkinson Bar試験(ひずみ速度10²〜10⁴/s)でCを、加熱試験でmを求める。Al6061-T6の代表値はA=276MPa、B=406MPa、n=0.51、C=0.00519、m=1.0が広く引用されている。
線形要素(1次要素)
節点間を線形補間。計算コストは低いが、応力の精度が低い。せん断ロッキングに注意(低減積分やB-bar法で緩和)。
2次要素(中間節点付き)
曲線的な変形を表現可能。応力精度が大幅に向上するが、自由度は約2〜3倍に増加。推奨:応力評価が重要な場合。
完全積分 vs 低減積分
完全積分:過剰拘束(ロッキング)のリスク。低減積分:アワーグラスモード(零エネルギーモード)のリスク。適材適所で選択。
アダプティブメッシュ
誤差指標(ZZ推定量等)に基づく自動細分化。応力集中部の精度を効率的に向上。h法(要素分割)とp法(次数増加)がある。
ニュートン・ラフソン法
非線形解析の標準的手法。接線剛性マトリクスを毎反復更新。収束半径内で2次収束するが、計算コストが高い。
修正ニュートン・ラフソン法
接線剛性マトリクスを初期値または数反復毎に更新。各反復のコストは低いが、収束速度は線形的。
収束判定基準
力の残差ノルム: $||R|| / ||F_{ext}|| < \epsilon$(一般に $\epsilon = 10^{-3}$〜$10^{-6}$)。変位増分ノルム: $||\Delta u|| / ||u|| < \epsilon$。エネルギーノルム: $\Delta u \cdot R < \epsilon$
荷重増分法
全荷重を一度に負荷せず、小刻みに増加させる。弧長法(Riks法)は荷重-変位関係の極値点を越えて追跡可能。
直接法 vs 反復法のたとえ
直接法は「連立方程式を筆算で正確に解く」方法——確実だが大規模問題では時間がかかりすぎる。反復法は「当て推量を繰り返して正解に近づく」方法——最初は大雑把な答えだが、反復するたびに精度が上がる。辞書で言葉を探すとき、最初のページから順番に探す(直接法)より、見当をつけて開き、前後に調整する(反復法)方が効率的なのと同じ原理。
メッシュの次数と精度の関係
1次要素は「定規で曲線を近似する」——直線の折れ線で表現するため精度に限界がある。2次要素は「フレキシブルカーブ」——曲線的な変化を表現でき、同じメッシュ密度でも格段に精度が向上する。ただし、1要素あたりの計算コストは増えるため、トータルのコスト対効果で判断する。
実践ガイド
JCの実務
弾道衝撃(防弾板の貫通)、金属の高速切削、衝突安全の金属破壊で使用。
JCパラメータの代表値
| 材料 | A (MPa) | B (MPa) | n | C | m |
|---|---|---|---|---|---|
| 軟鋼(AISI 1018) | 220 | 750 | 0.40 | 0.022 | 1.0 |
| Al 6061-T6 | 324 | 114 | 0.42 | 0.002 | 1.34 |
| Ti-6Al-4V | 1098 | 1092 | 0.93 | 0.014 | 1.1 |
実務チェックリスト
鳥衝突解析への適用
航空機エンジンファンブレードへの鳥衝突(Bird Strike)解析では、Ti-6Al-4VのJohnson-Cookパラメータが必須。FAR 33.76認証試験に先立つFEA検証でLS-DYNAとAbaqus Explicitが主に使われ、衝突速度200m/s時のブレード先端変形量を±5mm精度で予測した事例が航空宇宙学会誌に複数報告されている。
解析フローのたとえ
解析の流れは、実は料理とそっくりです。まず材料を買い出し(CADモデルの準備)、下ごしらえをして(メッシュ生成)、火にかけて(ソルバー実行)、最後に盛り付ける(後処理で可視化)。ここで大事な問いかけ——料理で一番失敗しやすい工程はどこでしょう? 実は「下ごしらえ」なんです。メッシュの品質が悪いと、どんなに優秀なソルバーを使っても結果はめちゃくちゃになります。
初心者が陥りやすい落とし穴
あなたはメッシュ収束性を確認していますか? 「計算が回った=結果が正しい」と思っていませんか? これ、実はCAE初心者が最も陥りやすい罠です。ソルバーは与えられたメッシュで「それなりの答え」を必ず返します。でもメッシュが粗すぎれば、その答えは現実から大きくずれている。最低3段階のメッシュ密度で結果が安定することを確認する——これを怠ると「コンピュータが出した答えだから正しいはず」という危険な思い込みに陥ります。
境界条件の考え方
境界条件の設定は、試験の「問題文を書く」のと同じです。問題文が間違っていたら? どんなに正確に計算しても答えは間違いますよね。「この面は本当に完全固定なのか」「この荷重は本当に一様分布なのか」——現実の拘束条件を正しくモデル化することが、実は解析全体で最も重要なステップだったりします。
ソフトウェア比較
JCのツール
選定ガイド
LS-DYNAのMAT_015
LS-DYNAではJohnson-CookモデルをMAT_015(JOHNSON_COOK)で実装する。EOS_GRUNEISEN(状態方程式)と組み合わせることで爆発・衝撃波問題にも対応可能。1990年代の砲身侵徹解析から2020年代の宇宙デブリ衝突まで幅広く使われており、LS-DYNA材料カードの中で最も引用論文数が多い一つとされる。
選定で最も重要な3つの問い
- 「何を解くか」:Johnson-Cook構成則に必要な物理モデル・要素タイプが対応しているか。例えば、流体ではLES対応の有無、構造では接触・大変形の対応能力が差になる。
- 「誰が使うか」:初心者チームならGUIが充実したツール、経験者ならスクリプト駆動の柔軟なツールが適する。自動車のAT車(GUI)とMT車(スクリプト)の違いに似ている。
- 「どこまで拡張するか」:将来の解析規模拡大(HPC対応)、他部門への展開、他ツールとの連携を見据えた選択が長期的なコスト削減につながる。
先端技術
JCの先端研究
Johnson-Cook破壊モデル
JCには変形モデルと独立した破壊モデルも存在し、D1〜D5の5パラメータで破断ひずみを応力三軸度・速度・温度の関数として表現する。1985年の続報論文で定式化され、装甲板の弾丸貫通解析でNRL(米海軍研究所)が検証。現在Abaqus Explicit・LS-DYNAで標準実装されている。
トラブルシューティング
JCのトラブル
断熱温度上昇の過大評価
高速解析でJCの温度項を用いる際、断熱仮定でΔT=β·σ·dεₚ/(ρ·Cₚ)を使うとTaylor-Quinney係数βの設定ミスで温度が過大評価される。鋼材でβ=0.9が標準だが0.5〜0.9の幅がある。β=1.0(全塑性仕事が熱)を誤って設定すると流動応力が10〜20%低下し、破断予測が早まる典型的な誤りだ。
「解析が合わない」と思ったら
- まず深呼吸——焦って設定をランダムに変えると、問題がさらに複雑になる
- 最小再現ケースを作る——Johnson-Cook構成則の問題を最も単純な形で再現する。「引き算のデバッグ」が最も効率的
- 1つだけ変えて再実行——複数の変更を同時に行うと、何が効いたか分からなくなる。科学実験と同じ「対照実験」の原則
- 物理に立ち返る——計算結果が「重力に逆らって物が浮く」ような非物理的な結果なら、入力データの根本的な間違いを疑う
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